嫌疑不十分とは|用語および弁護士の活動内容を解説

嫌疑不十分とは、捜査機関が捜査を尽くしたけれど、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分だったため不起訴となる理由の1つです。

この記事では、嫌疑不十分や不起訴処分とはどのようなものか、不起訴処分を勝ち取るための弁護士の活動について等を紹介します。

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嫌疑不十分とは

嫌疑不十分とは、検事が不起訴を決定する理由の1つです。以下、詳しく説明します。

嫌疑不十分の概要

嫌疑不十分とは、被疑者が罪を犯した嫌疑が無いわけではないけれど、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なときに行われる不起訴処分の1つです。

検察官は、被疑者が罪を犯したことが証拠上明白であり、訴追が必要であると判断する場合に、裁判所に起訴状を提出して起訴します。証拠が十分でない場合には嫌疑不十分となります。

嫌疑不十分で不起訴処分となった場合には再逮捕されることはありません。嫌疑不十分のため処分保留で一旦釈放すると言われた場合、新たに証拠が出てくると再逮捕・起訴される可能性があります。

嫌疑不十分と嫌疑なしの違い

嫌疑不十分は、犯罪行為の事実を認定すべき証拠が不十分であるために不起訴処分と判断されただけで、犯人である可能性が無いわけではありません。

被疑者が犯人でないことが明らかであるときは、嫌疑なしとして不起訴になります。

嫌疑不十分と起訴猶予の違い

被疑者が罪を犯したことが証拠上明白であっても、主に以下を考慮し訴追を必要としないと検察官が判断した場合に、起訴を猶予されるのが起訴猶予です。

  • 被疑者の性格、年齢や境遇
  • 犯罪の程度や情状
  • 犯行後の状況 など

起訴猶予は被疑者が犯人であることは明らかであるのに対し、嫌疑不十分は被疑者が犯人であるかどうかは明らかではありません。

嫌疑不十分以外の不起訴の種類

嫌疑不十分以外の不起訴の種類は大きく分けて以下4つがあります。それぞれ解説します。

罪とならず

やった行為が罪に該当しないことです。例えば、盛大な夫婦喧嘩をし、近隣の方が大変だと思い警察に電話したけれど実際には大したことが無かった場合や、包丁を持って襲い掛かられてびっくりして振り払ったら相手が倒れて怪我をした場合のように、明らかに正当防衛や緊急避難が成立する場合等です。

嫌疑なし

嫌疑なしとは、被疑者が犯人でないことが明らかであるとき、あるいは、犯罪を認定する証拠がないことが明らかであるときです。例えば誤認逮捕であったり、真犯人が見つかったりした場合には嫌疑なしです。

起訴猶予

起訴猶予とは、起訴を猶予することです。被疑者が罪を犯した事は証拠上明白であるが、検察官が裁量によって起訴を猶予します。

検察官が起訴しないとするための要件は以下の事情が考慮されます。

  • 被疑者の年齢や境遇
  • 犯罪の内容・軽重
  • 社会での更生可能性 など

比較的軽い犯罪で、被疑者も反省し被害者と示談が成立している場合は、不起訴になりやすいです。

親告罪の告訴取り下げ

親告罪は、被害者による告訴が無ければ犯人を起訴できない犯罪です。例えば、以下の犯罪が親告罪とされています。

  • 名誉棄損罪や侮辱罪(刑法第230条・231条)
  • 未成年者略取罪・未成年者誘拐罪(刑法第224条)
  • ストーカー規制法違反の罪(ストーカー規制法法13条)
  • リベンジポルノ被害防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)違反
  • 親書開封罪・秘密漏示罪(刑法第135条)
  • 親族間の窃盗罪・詐欺罪・恐喝罪・横領罪 など

親告罪の場合、被害者が刑事告訴を取り下げると、検察官は起訴できません。親告罪の告訴が取り下げられると、不起訴処分となります。

嫌疑不十分を得られる確率

日本の刑事裁判では、起訴されてしまうと約99%が有罪となります。そのため不起訴処分を目指すことが重要です。

不起訴が得られる確率

令和2年版犯罪白書によると、平成12年から令和元年にかけて起訴率は少しずつ減少し、令和元年の起訴率は約38%です。不起訴が得られる確率は約62%です。

不起訴理由のうち嫌疑不十分(嫌疑なしを含む)は20.7%

令和2年版犯罪白書によると、嫌疑不十分(嫌疑なしを含む)で不起訴とされた被疑者は20.7%です。

逮捕後はどう対応するべきか?

被疑者が容疑を否認している場合には、嫌疑なしあるいは嫌疑不十分を目指します。

被疑者が容疑を否認している場合には取り調べも過酷になります。取り調べにおいて、やってもいない容疑を認めてしまい自白調書を取られてしまうと、起訴されてしまい、自白調書があるため有罪判決になってしまう可能性があります。

そこで、逮捕後早期に弁護士に依頼し、取り調べにどのように対応すべきか相談する必要があります。

被疑者が容疑を認めている場合には、起訴猶予を目指します。被害者がいる事件では、被害者との間で示談が成立すると、起訴猶予になる可能性が高くなります。

被疑者が容疑を認めている場合であっても、その供述が任意ではなく取調官の脅迫などによってなされた場合で、他に被疑事実を証明する証拠が全くない場合には、嫌疑不十分も目指せます。

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嫌疑不十分だった場合、補償はあるのか?

裁判を受けて無罪になると、逮捕・勾留された日数によって法律上補償を受けられます。

刑事補償法第1条 刑事訴訟法による通常手続き又は再審若しくは非常上告の手続において無罪の裁判を受けた者が、同法、少年法又は経済調査庁法によって未決の抑留又は拘禁を受けた場合には、その者は、国に対して、抑留又は拘禁による補償を請求することができる。

引用:e-GOV法令検索

刑事補償法は、起訴されて裁判を受けて無罪になった場合に、抑留又は拘禁された人が対象になるため、被疑者段階で不起訴となった人は刑事補償法の対象外となります。

しかし、被疑者を補償する法律はありませんが、法務省訓令に被疑者補償規程があります。

被疑者補償規定(法務省訓令)第2条 検察官は、被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき、公訴を提起しない処分があった場合において、その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由があるときは、抑留又は拘禁による補償をするものとする。

引用:検察庁

嫌疑なしで不起訴となった場合には、無実であったにもかかわらず身柄を拘束されたため補償されますが、嫌疑不十分の場合には、明確な定めが無いこと、犯人でないことが明らかではないことから、補償を受けるのは難しいです。

民事訴訟を起こされる可能性

嫌疑不十分で不起訴処分となった場合には、刑事裁判には移行しませんが、民事訴訟を起こされる可能性はあります。

刑事手続きで犯罪を認定する証拠が十分ではなかったために不起訴処分となったとしても、民事訴訟では犯行の事実が認められる可能性があります。

例えば車の盗難を目撃した人が、車の盗難および犯人の逃走を止めるため助手席側のドアミラーをつかんでいたのを振り払って逃走し、ドアミラーをつかんでいた目撃者に怪我を負わせたケースを考えます。

助手席側のドアミラーをつかんでいたことを知らなかったと主張し、証拠が足りず傷害容疑で不起訴処分となった被疑者に対して、怪我をしたことに対する損害賠償請求訴訟を起こすことは可能です。民事訴訟で刑事事件とは異なる結論が出ると、損害賠償を支払わなければならなくなります。

強制起訴される可能性

起訴の権限は原則として、検察官のみが有しています(起訴独占主義)。検察官が被疑者に対する起訴または不起訴の処分を決定した場合、その処分内容を告訴人、告発人又は請求人に通知することになっています。

刑事訴訟法第260条 検察官は、告訴、告発又は請求のあった事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない。

引用:e-GOV法令検索

告訴人や告発人および被害者や被害者の遺族は、不起訴処分に対して不服があるときは、検察審査会に対してその処分の当否の審査を申立てできます。

検察審査会で、「この事件は起訴すべき」と考え、「起訴相当」の議決がでたとしても、検察官が不起訴相当であると判断した以上、よほど新たな証拠や事実が発見されない限り、再度不起訴処分とされる可能性はあります。2回目の不起訴処分は、必ず検察審査会の審査を受けることになっています。

2回目の不起訴処分に対しても検察審査会が「起訴議決」をした場合には、裁判所は弁護士の中から、検察官に代わってその役割を果たす「指定弁護士」を指定します。指定弁護士は起訴議決に従って起訴をしなければなりません。これを「強制起訴」と呼びます。

つまり、検察官が嫌疑不十分で不起訴処分と判断した場合であっても、被害者等の請求により、検察審査会で起訴議決がなされると、強制起訴される可能性があるということです。

令和2年版犯罪白書によると、平成27年から令和元年にかけて、起訴猶予あるいは嫌疑不十分による原不起訴処分が検察審査会後に起訴された率は、年により大きなばらつきがあり有意な変化は見られません。

嫌疑不十分と無罪・前歴の関係

嫌疑不十分となった場合には、不起訴で終了します。嫌疑不十分と無罪、前歴との関係について解説します。

嫌疑不十分と無罪の関係

嫌疑不十分は被疑者が犯人である可能性はあるけれども公判を維持するだけの証拠が無い場合に、不起訴処分となり、起訴される前に刑事手続きが終了します。もしも起訴されていたとすると(証拠不十分で)無罪の判決が出た可能性が高いです。本当は無実かもしれませんし、実際には罪を犯していたけれど起訴されれば無罪になったのかもしれません。

無罪は、起訴されて刑事裁判が開かれたけれど有罪判決を言い渡すだけの立証ができなかったことにより、裁判官から言い渡される判決です。

嫌疑不十分と前歴の関係

前歴とは、捜査機関による捜査の対象となったことが、検察庁のデータベースに記録されることです。

嫌疑不十分の場合も、捜査機関の捜査対象となったため前歴が付きます。被疑者が死ぬまでデータベースに残り続けます。

嫌疑不十分を得るための弁護活動の内容

嫌疑不十分は被疑者が犯行を否認している場合と、被疑者が犯行を認めている場合とが考えられます。被疑者が犯行を否認している場合には、嫌疑なしか嫌疑不十分で不起訴処分を目指します。被疑者が犯行を認めている場合には、嫌疑不十分(立証できるほどの証拠が無い)で不起訴処分を目指します。そのために弁護士がする活動について解説します。

証拠の有無によって異なる

被疑事実についての証拠がどれくらいあるかによって、方針が変わってきます。

容疑を認めていない場合

容疑を認めていない場合には、嫌疑なしか嫌疑不十分での不起訴を目指します。一刻も早く弁護士を呼んで接見してもらいましょう。

接見に行き、取り調べに対してどのように対応するか、お伝えします。やっていないことを証明することは困難です。そのため、基本的には黙秘することをお勧めします。

被疑者が何もやっていない場合には、被疑者と犯罪を結びつける証拠は無いはずです。そのため取調官は、被疑者から自白調書を取ることに必死になります。あの手この手を使い被疑者に不利な供述を取ろうとしてきます。

完全黙秘するのか、あるいはどのような質問に対して黙秘するべきか、弁護士と相談しながら取り調べに対応することが重要です。

容疑は認めていないけれど、何らかの証拠となるかもしれない物を捜査機関が持っている可能性がある場合にも、自白調書をとられないようにすることが重要です。捜査官の取り調べに対しどのように対処すれば良いか、弁護士と相談しながら決めます。

自白調書が無く、他に証拠が無い場合には嫌疑なしが目指せます。自白調書は無いけれど、他に被疑事実に結び付くかもしれない証拠がある場合には、嫌疑不十分になる可能性がありますが、いずれにせよ、不起訴処分の獲得を目指して弁護活動をします。

容疑を認めている場合

容疑を認めている場合には、嫌疑不十分(場合によっては嫌疑なし)あるいは、起訴猶予での不起訴を目指します。弁護士を呼んで接見してもらいましょう。

容疑を認めているということは、自白調書がとられているはずです。弁護士は以下の事実の確認をします。

  • どのような状況下で自白したのか
  • 他に被疑事実に結び付く証拠がありうるか

刑事訴訟法には、自白についての規定があります。

刑事訴訟法第319条 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

2 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には。有罪とされない。

3 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。

引用:e-GOV法令検索

自白の証拠能力が否定されるような状況下でとられた場合には、捜査機関に対し証拠能力が無いと主張します。他に被疑事実に結び付く証拠が無い場合には嫌疑なし、他に被疑事実に結び付く証拠がありうるかもしれない場合には嫌疑不十分での不起訴を目指します。

取り調べの内容を確認する|被疑者ノートの差し入れ

取り調べ後に、何を聞かれたのか、どのような話がでたのかを確認します。それにより取調官が何を話してもらいたいと思っているかわかる時があります。

被疑者が自白しないため、取調官は自白を強要する言葉を吐いたり、脅したりすることもあります。その言葉を証拠として残しておくことが大事になります。

取り調べの内容を被疑者自身で記録をするために、弁護士は被疑者ノートの差し入れをします。

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嫌疑不十分を得るためには弁護士に相談しましょう

何の心当たりもなく、捜査機関から取り調べを受けた場合は、無実であることを主張します。捜査機関は被疑者が犯人であると思い、自白調書を取るために強引な取り調べをします。

取り調べを受けることになったらすぐに刑事事件に強い弁護士に相談し、取り調べへの対処方法について等のアドバイスをもらうことで、嫌疑なしあるいは嫌疑不十分により不起訴で事件が終了する可能性があります。

弁護士に相談する前に被疑事実を認めるような供述調書を取られてしまった場合であっても、他に証拠が無い場合には嫌疑不十分での不起訴を目指しますが、一旦被疑事実を認めるような供述調書を取られてしまうと、その供述の否定が困難です。捜査機関は更に詳細な供述を迫るため、いずれにしても弁護士によるサポートは欠かせません。

まとめ

嫌疑不十分とは何か、他の不起訴処分との違い等についての解説および、嫌疑不十分での不起訴を目指すために重要な事についてお伝えしました。

捜査機関から取り調べを受けることになった場合には、不利な供述をしてしまう前に早期に弁護士に相談することをお勧めします。

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