時効の中断とは?中断の要件や更新への改正点をわかりやすく解説
借金は、債務者が返済をせず、債権者が返済を求めずの状態で5年が経つと時効を迎えます。時効を迎えると返済義務がなくなります。時効が成立せず、債務者に返済の義務が残るのは、時効が中断されたからであることが多いです。
ここでは、借金の時効や、それを妨害する時効の中断について説明します。
目次
時効の中断とは
早速ですが、時効の中断について説明します。
借金の消滅時効とは
借金の消滅時効とは、一定期間債権者が請求行為を行わず、債務者が支払いを行わなかった場合に、その借金の返済義務が法的に消滅する制度です。
この制度は債務者にとって生活再建の手段となる一方で、債権者にとっては回収の機会を制限するものになります。
借金に時効があるのは、主に以下のような理由です。
- 時間が経過しすぎると貸し借りがあったかどうかがわかりにくくなるから
- 債権者が長期間借金の返済を求めないのであれば、法的に権利を保護する必要はないと考えられるから
- 長期間、お金のやりとりがないのであれば、その状態のままでよいと考えられるから
借金の時効は一般的に5年、債権者側が、お金を貸していたことを知らなかったなど、自分に返済を求める権利があることを知らなかった場合には、10年で時効を迎えます。
時効の中断とは
時効には起算日があります。貸金業者から借りたお金の場合、滞納がはじまってから5年で時効を迎えます。
例えば、毎月1日に返済をする契約をしていたとします。2020年1月1日に返済をしたら、次の返済日は2020年2月1日です。
2020年2月2日になったら、債務者は借金を滞納をしている状態となり、債権者は返済を求めることができます。
ですが、2月2日以降も債権者側が返済を求めなかったら、返済を求める権利があるのに、それを行使していない状態となります。
このまま返済を求めないまま2025年2月2日になったら、時効を迎えたことになります。
ですが、途中で債務者が返済をしたり、債権者が返済を求める行動をしたりした場合には、時効の起算日がリセットされ、1日目から数えなおしになります。
これを、時効の中断と呼びます。
借金の時効の成立要件
借金の時効が成立するのに必要な3つの要素を説明します。
【①時効期間を経過している】
お金の貸し借りが発生してから5年または10年が経過していることが必要です。
【②債権者が請求にかかわる行為をしていない】
債権者が債務者に対して請求にかかわる法的な行為をしていないこと。例えば、裁判や差し押さえなどをしていないことが条件です。
【③時効援用の手続きをすること】
消滅時効は自動的に成立するものではなく、債務者が「時効を援用する」と主張する必要があります。この援用が行われない場合、債権者は引き続き債務の請求を行うことが可能です。
これらの条件がすべて揃った場合にのみ、借金の消滅時効が成立します。一方で、時効の中断が発生すると、再び新しい時効期間が開始されるため、債務者は注意が必要です。
時効の中断から時効の更新への変更点
実は、時効の中断という言葉は現在使われていません。2020年4月の法改正により、時効の中断から時効の更新という表現に変更されました。
この変更は、時効の進行に関する法的な意味合いを明確化し、より分かりやすい運用を目指したものです。
ここでは、時効の更新についてや、新たに導入された「時効の完成猶予(停止)」という概念について説明します。
中断という表現を変更
以前は、時効の中断という言葉が使われていましたが、改正後は時効の更新という表現に変更されました。
中断という言葉は、一時的に停止しているようなイメージがあり、誤解を招きやすいです。
例えば、時効の起算日から100日後に中断した場合、リセットされて0日目に戻りますが、中断といわれると100日経過したところで一時停止し、やがて再開するような印象を受けます。
時効の更新を表現を変えることで、このような紛らわしさを解消しているのです。
時効の完成猶予(停止)との違い
新たに導入された時効の完成猶予(停止)は、時効の進行が一時的に停止する制度です。
これにより、訴訟などの手続き中に不確定な状況が生じた場合や特定の事由で進行が一時的に停止されます。
中断との違いは、停止後に時効の進行が再開する点で、終了時期の変更はありません。
時効が中断(更新)される3つのケース
時効の更新とは、一定の事由が発生した際に、時効期間がリセットされることを意味します。
時効が更新されることで、当事者は新たに時効期間が始まったものとして扱われ、これまでの期間は無効となります。
以下の3つのケースにおいて、時効が更新されることになります。
債務の承認
債務者が自ら債務を認め、承認することが時効の更新を引き起こす1つのケースです。
具体的には、債務者が借金や負債を認め、その返済意志を示すような行動を取った場合、時効は更新されます。
この承認には、債務者が直接的に返済を約束する場合や、残高確認書にサインする場合、あるいは支払いを一部でも行う場合などが含まれます。
承認行為が行われた瞬間に時効は更新され、改めて時効のカウントが始まります。
裁判上の請求
裁判を通じて請求が行われた場合、時効は更新されます。
裁判上の請求とは、債権者が裁判所に対して正式に請求を行うことを指します。
具体的には、債務不履行などに基づいて訴訟を起こしたり、仮執行宣言を求める手続きが行われたりする場合が該当します。
このような請求がなされると、時効はその時点から新たにスタートすることになり、債権者は訴訟が終結するまで時効の進行が停止するか、最終的に判決に基づいて時効期間が更新されます。
これにより、債権者は時効が経過する前に権利を行使できるようになります。
強制執行などの行使
強制執行の手続きが始まると、時効が更新されることもあります。
強制執行とは、裁判所の命令によって、債務者の財産を強制的に差し押さえたり、給与の差し押さえを行ったりする手続きです。
これにより、債権者は債務者からの返済を強制的に実現しようとします。
強制執行やその他の実力行使が行われた場合、その時点で時効の進行が新たに始まり、再度時効がリセットされる形になります。
この措置は、債権者が実際に権利を行使するため、時効が途中で中断することになります。
時効の援用手続きが失敗に終わる主なケース
時効は、ただ期間が経過したからといって成立するものではありません。債務者側が援用手続きを行う必要があります。
しかし、時効援用が適切に行われなかった場合、その主張が認められず、失敗に終わることがあります。
ここでは、時効の援用手続きが失敗に終わる主なケースを紹介します。
時効をまだ迎えていなかった
一般的な失敗の一つは、時効がまだ到達していないにもかかわらず、援用手続きを行ってしまうことです。
時効には一定の期間が設けられており、その期間が満了して初めて時効援用が成立します。
例えば、借金の時効は通常5年ですが、その期間が経過していない場合、時効援用の手続きは無効となります。
したがって、時効援用を行う前に、まずその時効期間が満了しているかどうかを確認することが非常に重要です。
時効が更新されていた
記事内で何度か触れたように、時効は特定の事由によって更新されることがあります。例えば、数年前に債権者と電話で話し、借金を返す意思を伝えた場合など、債務者自身がそのことを忘れているだけで、実は時効が更新されていることがあるのです。
こうした場合、時効が更新されているため、古い時効を援用しても無効となります。
そのため、時効援用を行う際には、まず時効が更新されていないかを確認することが非常に重要です。
時効援用の手続きが適切でなかった
時効援用には、一定の手続きが必要です。例えば、時効を援用する意思を明確に示す書面を提出したり、裁判所に正式に申し立てを行ったりする必要があります。
この手続きが不十分であったり、正しい方法で行われなかった場合、援用が認められないことがあります。
具体的には、口頭で時効援用を主張しただけでは効果がなく、書面で正式に時効援用を宣言することが求められます。
手続きを確実に行うためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
時効の援用手続きにかかる期間は?
時効の援用手続きは、一般的には1か月程度で完了することが多いですが、状況によっては時間がかかることもあります。
以下に、時効の援用手続きにかかる期間とその流れ、時間がかかる場合について説明します。
手続きにかかるのは1か月程度
通常、時効の援用手続き自体は比較的短期間で終わります。時効を援用するためには、まずその意思を示すための書面を作成し、債権者に送付する必要があります。
この書面を郵送した後、債権者からの反応がなければ、1か月以内に援用手続きは完了することが多いです。
ただし、債権者がすぐに応じない場合や、異議を唱える場合は、手続きが長引くこともあります。
時効の援用手続きの流れ
時効援用の手続きを簡単に説明します。
- 時効が成立しているか確認する
- 時効援用の意思を示す書面を作成する
- 書面を債権者に内容証明郵便で送付する
- 債権者の反応を待つ
- 異議があった場合、交渉または法的手続き
手続きに時間がかかるケース
時効の援用手続きが長引く場合もあります。以下のようなケースでは、手続きに時間がかかることがあります。
【必要書類の準備に時間がかかる場合】
時効援用に必要な書類を揃えるのに時間がかかることがあります。特に過去の取引記録や証拠書類が揃っていない場合、準備に時間が必要となることがあります。
【債権者とのやり取りが長引く場合】
債権者が時効援用に異議を唱えると、話し合いや交渉が長引くことがあります。このような場合、双方で合意に至るまで時間がかかり、手続きが長引くことが予想されます。
【裁判などに発展した場合】
時効援用を行ったにもかかわらず、債権者が裁判を起こすなどして争いが長引く場合もあります。
裁判に発展すると、時効援用の手続きは1か月程度では完了せず、数ヶ月から1年以上かかることもあります。
時効の中断に関するよくある質問
時効の中断(更新)は何回でも行われる?
時効の中断に関して、回数の制限や限界はありません。時効が中断される事由が発生すれば、何度でも中断されるものだと考えてください。
時効の停止の要件は?
時効の停止は、例えば、債権者と債務者間で訴訟が行われる場合や、特定の法律的な障害がある場合に適用されます。
停止中は時効のカウントが進まず、一定の期間後に再開されます。
まとめ
借金の消滅時効とは、一定の期間が経過することで、借金の返済義務が免除される制度です。
時効の中断とは、時効の進行がリセットされ、再び新たな期間が始まることを意味します。現在は時効の中断という言葉は使われておらず、時効の更新に改正されています。
中断が発生するのは、例えば債務者が借金を認めたり、裁判が行われたりした場合です。
時効に関する手続きは複雑で、誤った対応を取ることで時効が中断されるなど、もったいないことになる可能性もあります。
そのため、弁護士に相談することで、正確な時効援用や更新手続きを行い、トラブルを防ぐようにしましょう。