支払督促の流れ|債務者目線での注意点や対処法を紹介
支払督促とは、借金を回収するための簡易的な法的手続きです。借金の返済を求めるための裁判とは別の手続きですので覚えておきましょう。
手続きが短期間で済むことや、費用を安く抑えられるなどの理由から、裁判を起こす前に、一度支払督促の手続きをするのが一般的です。
ここでは、支払督促の概要や、手続きの流れ、債務者からみた支払督促の注意点などを紹介します。現在支払督促を受けている人は、2週間以内に対応する必要があるため、この記事を読んで速やかに対応してください。
支払督促とは
支払督促とは、裁判所を通じて債務者に対して支払いを促す簡易的な手続きです。
通常の裁判とは異なり、双方の出廷を必要としないため迅速に結果が出ます。債権者(貸した側)からの申立てのみに基づいて進められるため、お金の貸し借りの証拠などがなくても手続きできるのも特徴です。
支払督促は金銭の支払い請求が対象で、家賃の滞納、消費者ローン、商品の未払い代金など、さまざまな債権の回収に利用されます。
裁判のように第三者が強制的に決着をつける手続きではないため、債務者(借りた側)が異議申し立てをすると、その効力を失います。
支払督促の流れ
支払督促は通常の裁判よりも迅速かつ簡便な手続きで進むため、債権者にとっては有用な債権回収手段です。
一方、債務者にとっては異議を申し立てるタイミングを逃すと支払い義務が確定し、強制執行につながるリスクがあります。
ここでは、支払督促がどのように進行するのか、手続きの流れを解説します。
債権者が裁判所に申し立てる
支払督促は、債権者が債務者に支払いを促すため、まず簡易裁判所に申立てを行うことでスタートします。
この手続きは、支払いが滞っている家賃、消費者ローン、代金などの金銭債権が対象です。債権者は支払督促申立書に以下の情報を記載して提出します。
- 債権者と債務者の氏名および住所
- 請求する金額と遅延損害金
- 債務が発生した根拠(契約内容など)
- 返済期限
この申立ては、債権額が140万円以下であれば簡易裁判所で行い、それ以上の金額の場合は地方裁判所が管轄となります。
支払督促の手続き自体はあくまで書面で完結するため、弁護士に依頼したりなどせずとも手続きが可能です。
債務者に支払督促が通知される
申立てを受理した裁判所は、内容を確認した後、支払督促を発行し、債務者に対して郵送で通知を行います。
支払督促は特別送達という形式で送られ、本人に必ず届くようになっています。この段階で債務者は以下のいずれかを選択することになります。
- 異議申し立てをする
- 借金を認めて速やかに支払いをする
通知を受け取った日から2週間以内に異議を申し立てない場合、支払督促がそのまま確定し、債務が法的に認められた状態になります。
支払督促を受けた場合、2週間以内に異議申し立てをすることが非常に大切です。無視をしたりするのは債務者にとってメリットがありませんので、絶対にやめましょう。
債権者が仮執行宣言の申立てをする
支払督促が発行され、2週間が経過しても債務者が異議を申し立てない場合、債権者は裁判所に対して、仮執行宣言の申立てを行います。
仮執行宣言とは、異議申し立てがあったとしても、強制執行を先に進められるようにする裁判所の許可です。
この宣言があると、債務者の異議が提出されても、債権者は借金を回収するための行動を取ることができます。
仮執行宣言付支払督促を債務者に送る
裁判所が仮執行宣言を認めると、宣言が付された支払督促が再度債務者に送付されます。
仮執行宣言が付与された場合、債権者は債務者の給与や預金の差押え、さらには不動産の競売など、強制執行の準備を進めることができます。
異議申し立てがあれば裁判へ
債務者が支払督促を受け取った後、2週間以内に異議を申し立てた場合、通常の裁判手続きに移行します。
この裁判では、債権者が債務の存在を立証する責任を負います。債務者としても、異議申し立ての際に「契約は無効である」や「債務はすでに返済済みである」など、反論に必要な証拠を準備することが求められます。
とはいえ、貸金業者や銀行が相手の場合、契約書があったり、入出金の履歴があったりで、借金があったことが明らかになるため、債務者側が勝訴するのは難しいでしょう。
異議申し立てによって争われる内容は多岐にわたりますが、解決までには時間がかかるため、双方が裁判の途中で和解を模索することも少なくありません。
債務名義取得後に支払いがなければ強制執行
異議がないまま支払督促が確定する、もしくは裁判で勝訴した場合、債権者は債務名義を取得します。
債務名義とは、法的に債務者に対して支払いを強制する権利があることを示す文書です。この債務名義をもとに、債権者は強制執行手続きに進みます。
強制執行には、主に以下の3種類があります。
- 動産執行:債務者が持つ現金や車、貴金属など、お金になる財産を差し押さえる
- 不動産執行:債務者が持つ土地や不動産を差し押さえる
- 債権執行:債務者が持つ債権を差し押さえる(口座のお金、売掛金、毎月の給料など)
お金以外のものは差し押さえたあと、換金して債権者に配当されます。
給与差押えは債務者の生活に大きな影響を与えるため、支払督促が確定する前に適切な対応を取ることが大切です。
債務者からみた支払督促の注意点
支払督促は、債権者にとって低コストで効率的な回収手段である一方で、債務者にとっては対応を誤ると大きな不利益を被るリスクがあります。
特に、書面での手続きが中心であるため、通知を見逃したり対応が遅れたりすることで深刻な結果につながることもあります。
ここでは、債務者が支払督促を受けた際に注意すべき点について解説します。
申立てから発行までの期間が短い
支払督促は、債権者が裁判所に申立てを行ってから受理・発行までの期間が短いのが特徴です。
通常の裁判であれば双方が出廷し、一定の準備期間が与えられますが、支払督促では債務者の同意がなくても書面だけで進行できるからです。
つまり、借金を滞納している状態であれば、債権者がその気になればすぐに手続きが進行する点に注意が必要です。
費用が安いため債権者は使いやすい
支払督促の申立てにかかる手数料は、通常の裁判に比べて非常に安価です。
例えば、少額の未払い家賃やクレジットカードの滞納など、数万円から十数万円程度の請求でも支払督促を利用する債権者が多くいます。
そのため、債務者が一度でも返済を怠った場合、即座に支払督促を申し立てられるリスクがあると考えるべきです。
書面での手続きなので見落としやすい
支払督促は書面による通知で進むため、忙しい日常の中で郵便物を見落とすと、手続きが自動的に進んでしまいます。
支払督促の通知は特別送達で届けられるため、通常の郵便物とは異なりますが、受け取りを怠ると手続きがそのまま確定してしまいます。
2週間以内に異議申し立てをしないと確定する
支払督促の最大の特徴は、債務者が通知を受け取ってから2週間以内に異議申し立てを行わないと、請求が自動的に確定する点です。
この確定とは、法的に支払い義務が認められ、債務が正式なものとして記録されることを意味します。
もし債務者が支払督促の内容に異議を申し立てないまま放置すると、債権者は仮執行宣言を得て、強制執行の手続きを開始することができます。
2週間という短い期間はあっという間に過ぎてしまうため、届いた日付を確認し、期日内に異議を申し立てるか、返済計画を立てるかなどの判断が必要です。
確定後無視をすると強制執行を受ける
支払督促が確定しても債務者が支払いを行わない場合、債権者は強制執行を申請できます。強制執行では、債務者の財産や収入が差し押さえられます。具体的には、口座の預金や、給料、車、不動産などが主な対象です。
差し押さえを受けると、その後の生活が厳しくなることは間違いありません。ですので、支払督促を無視することは絶対にやめましょう。
支払督促にかかる費用
支払督促にかかる費用については以下の表を参考にしてください。
費用の内訳 | 金額 |
申立て手数料 | ・~25,000円
(借金額1,000万円以下の場合) |
支払督促正本送達費用(郵便切手代) | ・1,250円
(債務者一名の場合) |
支払督促発付通知費用(郵便切手代) | ・140円 |
申立書作成及び提出費用 | ・800円 |
送達結果通知費用 | ・85円 |
合計 | ・27,275円 |
(債権者から見て)貸している金額や、債務者の数によって費用が変動しますが、数万円ほどあれば支払督促ができます。郵便切手代や費用の内訳などは、申立てをする裁判所によって異なることを覚えておきましょう。
債務者側は「借りている金額が少額だとしても、支払督促を受けるかもしれない」と心得ておくことが重要です。
支払督促を受けたときに債務者ができること
支払督促の通知を受けた際、債務者が適切な行動を取るかどうかで、その後の生活に大きな影響が及びます。
迅速に対応しなければ、支払いが確定し、強制執行に至る可能性があるため、状況に応じた選択肢を理解しておくことが重要です。
ここでは、支払督促を受けたときに債務者が取りえる具体的な行動を解説します。
借金を認めて速やかに返済する
支払督促の内容が事実であり、債務者自身も借金を認めている場合、速やかに返済を行うことが最もシンプルな解決策です。
2週間以内に債務を完済することで、支払督促の効力を停止させることができます。
「このまま差し押さえに遭うのも、大人しく支払いをするのも、同じことなのでは?」と考えてはいけません。
任意で支払う分には、口座から現金を引き出すのか、財産を売却してお金を作るかなどを自分で選択できます。
しかし、差し押さえの場合、何が差し押さえられるかは自分で選べないのです。
2週間以内に異議申し立てをする
支払督促を受け取った日から2週間以内に異議申し立てを行うことで、通常の裁判手続きに移行させることができます。
異議申し立てをする場合は、債務の不存在や金額の誤りなど、支払督促の内容に具体的な異議があることを示す必要があります。
この異議が認められれば、支払督促は無効になり、あらためて裁判で債権の有無を争うことになります。
異議申し立ての手続きは比較的簡単ですが、内容をしっかりと伝えるため、専門家に相談することを検討するのもよいでしょう。
弁護士や司法書士のアドバイスを受けることで、的確な異議を申し立てることができます。
支払督促の内容を踏まえて和解する
債権者と協議し、和解によって分割払いや一部免除の条件を取り決めることも有力な選択肢です。
和解が成立すれば、債権者は支払督促の手続きを取り下げる可能性があります。和解交渉では、誠実さを示すと同時に、無理のない返済計画を提案することが重要です。
一度和解が成立すると、その内容に基づいて支払いが進行しますが、約束を再度破ると強制執行の手続きを再開されるリスクがあるため、合意内容を確実に守るようにしましょう。
弁護士に相談して債務整理をする
支払督促を受けても、経済的な事情で支払いが困難な場合は、弁護士に相談して債務整理を検討することが有効です。
債務整理には任意整理・個人再生・自己破産などの方法があり、債務者の状況に応じた最適な解決策を選ぶことができます。弁護士が介入することで、支払督促の対応を一時停止し、債権者との交渉が円滑に進むこともあります。
また、支払督促の内容が不当な場合も、弁護士が債権者との交渉や裁判対応をサポートしてくれます。
多重債務に陥っている場合や、返済が困難な状況にある場合は、早めに専門家の力を借りることが望ましいでしょう。
支払督促に関するよくある質問
支払督促は自分でできる?
支払督促の申立ては、弁護士を通さず個人で行うことが可能です。ただし、法的手続きに不安がある場合は専門家の助けを借りることをおすすめします。
仮執行宣言とは?
仮執行宣言とは、異議申し立てがあっても即座に強制執行を行うための許可です。これにより、債権者は迅速に回収を進められます。
支払督促で強制執行されるとどうなる?
強制執行が行われると、現金、口座の預金、毎月入ってくる給料、車や不動産などの財産を差し押さえられる可能性があります。
差し押さえられた財産は、売却などしてお金に換えたうえで、債権者に配当されます。
まとめ
支払督促は、債権者が裁判所を通じて債務者に支払いを求める簡易手続きです。
通知を受け取った債務者は、2週間以内に異議申し立てをしなければ請求が確定し、その後強制執行が行われる可能性があります。
支払督促は書面のみで手続きが進むため、債務者にとって対応が遅れるリスクが大きいです。
適切な対応としては、速やかな返済、異議申し立て、和解交渉、または弁護士への相談が挙げられます。
支払督促を無視せず、早期に対策を講じることで、深刻な事態を回避することが大切です。