任意整理のデメリットとよくある誤解|正しい理解で適切な判断を
任意整理とは、毎月の返済負担を軽減することを目的とし、債権者と債務者の合意により返済方法を変更する手続きです。
他の債務整理と比べて簡易な手続きで費用も安く済むため、借金問題を抱えた多くの方が、解決手段として任意整理を選んでいます。
ただし、任意整理にもいくつかのデメリットがあります。
この記事では、任意整理のデメリットや注意点について解説します。
デメリットや注意点を正しく理解して、借金問題の解決手段として任意整理を選択するかどうかを検討しましょう。
目次
任意整理の最大のデメリット|事故情報の登録による生活への影響
ここでは、任意整理の最大のデメリットについて解説します。
任意整理をすると、信用情報機関に事故情報が登録されます。
信用情報機関とは、個人の経済的信用力に関する情報を登録・共有するための機関です。
任意整理により事故情報が登録されると、完済から約5年間消えません。
事故情報が登録された人は、金融機関等から返済能力に問題があると判断されるため、以下のような制限を受けます。
- 新規借入・クレジットカードの作成ができない
- 賃貸借契約の審査に通らない可能性がある
- 他人の保証人になれない
- 携帯電話やスマホを分割購入できない
新規借入・クレジットカードの作成ができない
事故情報の登録期間中は、新規借入やクレジットカードの発行が難しくなります。
ローンやクレジットカードの利用審査では、金融機関やカード会社等が信用情報を照会します。事故情報が登録されていると、審査に落ちてしまう可能性が極めて高くなります。
賃貸借契約の審査に通らない可能性がある
事故情報の登録期間中は、信販系保証会社の利用を義務付けている賃貸物件は借りられない可能性が高いです。信販系の保証会社は、入居審査に際して申込者の信用情報を確認するからです。
家賃の支払いをクレジットカード決済に指定している物件も契約できなくなります。
ただし、事故情報が登録されたからといって、賃貸物件を一切借りられないわけではありません。以下のような物件であれば、契約できる可能性があります。
- 信販系保証会社の利用を義務付けていない
- 連帯保証人による保証が可能
- 民間系保証会社の利用が可能
- 家賃の支払方法がクレジットカード決済に指定されていない
他人の保証人になれない
事故情報の登録期間中は、他者の債務を保証できなくなります。
保証契約の審査時にも、金融機関等が保証人になろうとする人の信用情報を確認するからです。
一般のローンだけでなく、奨学金や教育ローンなどの保証人にもなれなくなります。
携帯電話やスマホを分割購入できない
事故情報の登録期間中は、携帯電話やスマートフォンを分割払いで購入できなくなります。
機種代金の割賦審査時も、申込者の信用情報が確認されるからです。
事故情報が抹消されるまで、携帯電話やスマートフォンは、現金一括払いが原則となります。
任意整理のその他のデメリットや注意点
ここでは、任意整理のその他のデメリットや注意点を解説します。
手続きに強制力がない
任意整理は、裁判外の手続きであるため、自己破産や個人再生のような強制力がありません。
任意整理に応じるかどうかは債権者の自由であり、必ず交渉に応じなければならない義務はありません。
債権者が合意してくれなければ、任意整理による解決を諦めなければならないこともあり得ます。
原則として元本は減額されない
任意整理では、一括返済を提案する場合や過払金が発生する場合を除き、原則として元本は減額されません。
分割払いの場合は、将来利息や遅延損害金の免除により借金の減額を図りますが、自己破産や個人再生よりも借金の減額効果は低いのも事実です。

任意整理できない借金もある
奨学金の実施団体の多くは、任意整理に応じてくれません。
特に、日本学生支援機構は利息・延滞金のカットには一切応じない厳しい姿勢を示しています。
奨学金以外に借金がなく、実施団体の救済制度を利用しても返済が困難な場合は、他の債務整理を検討せざるを得ないこともあります。
返済を続ける意思・能力が必要
任意整理は、返済を前提とする手続きであるため、完済する意思や返済能力がなければ利用できません。
以下のいずれにも該当しない場合は、任意整理での解決を諦めなければならないこともあります。
- 給与や年金等の安定した収入がある
- 家族からの援助で返済原資を毎月確実に確保できる
- 現在は無職だが、近い将来安定した収入を得られる見込みがある
なお、生活保護受給者は、原則として任意整理を利用できません。
生活保護費は、最低限の生活を保障するために支給されるお金であるため、借金の返済にあてることを禁止されているからです。
差し押さえを止められない
任意整理は裁判外の手続きであるため、個人再生や自己破産のように法的に強制執行を中止・停止させる効果はありません。
すでに給与等が差し押さえられ、生活に支障をきたしている場合は、任意整理以外の方法での解決を検討せざるを得ないでしょう。
保証人つきの債務を対象にすると保証人に迷惑がかかる
保証人のいる借金を任意整理すると、債権者が保証人に対し残金を一括請求する可能性があります。保証人つきの借金を任意整理する場合は、あらかじめ保証人に連絡して一括請求の可能性があることを伝えましょう。
カーローンを手続きの対象にすると車が引き揚げられる
カーローンを任意整理の対象にすると、原則として債権者に車を没収されます。
カーローン契約には、通常、ローンの支払いが終わるまで車の所有権がローン会社に残る旨の特約(所有権留保特約)が付されているからです。
ただし、以下のような場合は、カーローンを任意整理しても車を手元に残せることがあります。
- 無担保のローンで車を購入した場合
- 車両の換価価値が著しく低い場合
手続きの対象とした銀行の口座が凍結される
借入れのある銀行に預金口座を開設している場合、その銀行を任意整理の対象にすると、口座が凍結されるおそれがあります。
借入れのある支店だけでなく、同一銀行の他支店の口座も凍結の対象となります。
任意整理のデメリットは工夫・努力次第で小さくできる!
ここでは、任意整理のデメリットを最小限に抑える方法を解説します。
クレジットカードの代替手段を活用する
事故情報登録期間中は現金払いが原則となるため、収入の範囲で生活できるよう収支を見直すこと、緊急の用のために貯金を心がけることが重要です。
キャッシュレス決済が普及している現代では、様々な場面で、クレジットカードがないと不便に感じることもあるでしょう。
クレジットカードの代替手段には、以下のようなカードがあります。
- デビットカード
- プリペイドカード
- デポジットカード
- ETCパーソナルカード
いずれも審査不要で、利用金額をあらかじめ入金したり預け入れたりして使用できるので、使い過ぎも防げます。
交渉する債権者を慎重に選ぶ
保証人や所有権留保がついている借金を手続きから除外すれば、保証人に迷惑をかけたり、車や家電製品などを没収されたりすることを防げます。
多重債務の場合は、利率の高い借金や残高が大きい借金を任意整理するだけでも、月々の負担を軽減できることもあります。
保証人も連名で任意整理する
保証人に一括返済できる資力がない場合、保証人も連名で任意整理すれば、一括請求を回避できます。和解成立後は、主債務者が和解条件に従って返済すれば、保証人に請求される心配もありません。
任意整理前の返済を怠らない・新たな借入れをしない
滞納期間が長期に及ぶ場合や任意整理の直前に新たな借入れをした場合などは、債権者の心証が悪く、交渉が難航するおそれがあります。
特に、借りてから一度も返済していない借金がある場合は、債権者が交渉に応じない可能性が高いです。
毎月期日を守り、返せない借金を作らないことも、任意整理を成功に導く鍵となります。
口座凍結に備える
口座を開設している銀行を任意整理の対象にする場合は、口座凍結によるリスクを軽減するために、以下のような対処を行いましょう。
- 預金残高がある場合:預金を全額出金し、残高をゼロにする
- 給与受給口座に指定している場合:口座を変更する・現金手渡しに変更する
- 光熱費等の振替口座に指定している場合:口座を変更する・納付書払いに変更する
税金や社会保険料は役所に相談を
税金や国民年金保険料・国民健康保険料の滞納分は借金ではありませんので、任意整理の対象になりません。
税金や社会保険料以外に借金がない場合は、弁護士に依頼しても解決できないので、税務署や役所に相談して分納または支払い猶予の合意を得ましょう。
任意整理のデメリットが家族に及ぶ可能性がある6つのケース
ここでは、任意整理のデメリットが家族に及ぶ可能性があるケースについて解説します。
家族が保証人になっている
家族が保証人になっている借金を任意整理すると、その家族に一括請求のリスクが及びます。家族に一括返済できる資力がない場合は、連名での任意整理を検討しましょう。
債務者の車を家族で利用している
カーローンを任意整理すると、債権者に車を引き揚げられる可能性があります。
債務者だけでなく家族が通勤や通学に車を利用している場合は、車が引き揚げられて困ることもあるでしょう。
手続き開始後に転居を予定している
事故情報の登録期間中は、賃貸物件選びに制限がかかります。
気に入った物件があっても、信販系保証会社の利用を義務付けている賃貸物件は借りられない可能性があります。
ただし、同居家族に安定した収入がある場合は、同居家族を借主として契約できる可能性があります。
奨学金を申し込む予定がある
奨学金の申込時には、保証人による保証契約を求められるのが一般的です。
事故情報の登録期間中は保証人になれないため、完済から5年以内に奨学金を申込む場合は、他の家族や親族に保証人になってもらえないか相談する必要が生じるでしょう。
マイホームを建てる予定がある
事故情報の登録期間中は、住宅ローンを組めません。
配偶者や家族に安定した収入がなければ、信用情報機関から事故情報が抹消されるまでマイホームを持つのは難しいでしょう。
携帯やスマホを家族で契約している
家族が使用している携帯やスマホを債務者名義で契約している場合、機種変更時に家族に影響を及ぼすことがあります。
事故情報の登録期間中は、機種代金を分割払いにできないため、以下のいずれかの対応が必要です。
- 現金で一括払いする
- 家族がそれぞれ自らの名義で割賦契約を締結する
任意整理のデメリットに関するよくある誤解
ここでは、任意整理のデメリットに関するよくある誤解について解説します。
戸籍やパスポートに記録が残ることはない
任意整理をしても、その事実が戸籍や住民票に載ることはありません。
任意整理は、裁判外の手続きであるため、官報に情報が掲載されることもありません。
任意整理は解雇理由にならない
任意整理をしたことを理由に、勤務先を解雇されることは原則ありません。
任意整理や借金の存在自体は、法律上の解雇事由にならないからです。
ただし、銀行など、他人のお金を扱う職場では、就業規則の定め等により解雇される可能性もあります。
年金が受給できなくなることはない
任意整理したことで、厚生年金や国民年金が受給できなくなることはありません。
選挙権が無くなることはない
任意整理をしても、選挙権や被選挙権が無くなることはありません。
子供の進学や就職、結婚に影響はない
親が任意整理したからといって、子供の進学や就職、結婚等に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。
ただし、事故情報の登録期間中は、奨学金の保証人になったり教育ローンを組んだりできないので、配偶者の収入・資力や親族等の協力の有無によっては、教育費の捻出に支障を及ぼす可能性はあります。
任意整理のデメリットを抑えたい方は弁護士に相談を
任意整理のデメリットを最小限に抑えたい方は、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
ここでは、任意整理を弁護士に依頼するメリットを解説します。
必要な対策を助言してもらえる
手続きの対象とする債権者の選定や事前の対策により、任意整理のデメリットは最小限に抑えられます。
弁護士に相談すれば、個々の事情を踏まえ、具体的にどのようなデメリットがあるか、リスクを軽減するためにはどのような対策が必要かを専門的な視点でアドバイスしてもらえます。
取り立てや督促が止まる
任意整理を弁護士に依頼すれば、受任通知の送付により、手続きの対象とした債権者からの取り立て・督促が止まります。
手続きが終了するまで返済も一旦ストップできるので、合意後の返済開始までに生活を立て直せます。
家族や会社にバレにくい
弁護士への依頼後は、手続きの対象とした債権者からの連絡や郵便はすべて弁護士宛てに届きます。
自宅や勤務先に電話や郵便が届くことによって家族や会社にバレるリスクを軽減できます。
まとめ
任意整理を検討中の方にとっては、ローンやクレジットカードを利用できなくなることが最も不安な要素でしょう。
過払金が発生して借金がゼロにならない限り、事故情報の登録は避けられませんが、借入れに頼らない生活は必ずしもマイナス面ばかりではありません。
返済に追われるストレスから解放され収入の範囲で生活することは、心理的に大きな安定をもたらします。
任意整理のデメリットや任意整理後の生活に不安がある方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所の無料相談をご利用ください。
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