自己破産すると退職金はどうなる?処分対象となる退職金の割合は?
自己破産すると、退職金はどうなるのでしょうか。
退職金は退職後の生活を補填する資産でもあり、できるだけ手元に残したいと考える方がほとんどでしょう。
この記事では、自己破産における退職金の扱いについて、次のとおり解説します。
- 自己破産における退職金の扱い|処分対象になる退職金の割合
- 退職金はどうやって処分される?そもそも退職しないといけないの?
- 退職金の4分の1または8分の1を払えない場合は?積立して支払える?
- 自己破産すると共済から支払われる退職金や確定拠出年金も処分対象となる?
- 退職金見込額証明書の発行を依頼すると勤務先に自己破産することがバレる?
- 退職金がなければ退職金証明は不要?
退職金の扱いが気になり自己破産を躊躇している方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
自己破産における退職金の扱い|処分対象になる退職金の割合
自己破産では、原則として一定の価値のある財産が処分されます。
しかし、すべての財産が処分されるわけではありません。自己破産しても手元に残せる財産があります。法律上、退職金の4分の3に相当する金額は、差し押さえが禁止されています(民事執行法152条2項)。
ここでは、自己破産で処分対象になる退職金の割合を、次のとおり退職金の受領のタイミング別に解説します。
- 既に退職金を受領している場合
- 退職金を受領する予定がある場合
- 退職する予定がない場合
ひとつずつ確認しましょう。
既に退職金を受領している場合
破産手続開始時点で既に退職金を受領している場合は、次のとおり現金または預貯金として取り扱われます。
- 退職金を現金で保管している場合:現金
- 預貯金口座に預け入れている場合・預貯金
退職金としてカウントされて処分割合が決められるのではなく、現金または預貯金として処分すべきか否かが決められます。
東京地方裁判所の運用では、処分対象となる基準を次のとおり定めています。
- 現金が99万円以上の場合:超過金額が処分対象となる
- 預貯金残高が20万円を超える預貯金:当該預貯金全額が処分対象となる
- 複数の預貯金残高の合計が20万円を超える場合:全ての預貯金が処分対象となる
処分対象となる基準は、裁判所により異なります。
退職金を受領する予定がある場合
以下のいずれかのケースで退職金を受領する予定がある場合は、退職金見込額の4分の1が処分対象となります。
- 退職したが退職金をまだ受けとっていない
- 破産手続中に退職する予定がある
この場合の退職金の額は、仮に破産手続開始時点で退職した場合に貰える見込額が基準となります。
退職金見込額の4分の1に相当する金額が20万円未満の場合は、処分の対象となりません。
退職する予定がない場合
退職する予定がない場合は、退職金見込額の8分の1を破産財団に組み入れる必要があります。その理由は、破産者を退職させてまで退職金を破産財団に組み入れることをしない代わりに、法律上破産財団に組み入れられるべき退職金の半額を破産財団に組み入れることで調整しようとしているからです。
この場合も、退職金見込額の8分の1に相当する金額が20万円未満の場合は、処分の対象となりません。
退職金があっても同時廃止になるケースは?
同時廃止となるのは、債務者の財産が少なくて、それをお金に換えても破産手続費用を賄えないことが明らかな場合です。したがって、退職金見込額の4分の1または8分の1と他の財産を併せても、その評価額が20万円未満の場合は、同時廃止になる可能性があります。
裁判所の運用によっては、他の財産と併せて20万円を超える場合にも按分弁済(超過した額を積立て債権者に公平に分配する)を行った上で同時廃止として処理されることもあります。
もっとも、財産が少なくても免責不許可事由があれば、管財事件となる可能性が高まります。
退職金はどうやって処分される?そもそも退職しないといけないの?
処分対象となる退職金は、破産手続きにおいて実際にどのように処分されるのでしょうか。
ここでは、破産手続きにおける退職金の換価処分方法を解説します。
処分割合に相当するお金を管財人に支払う
換価処分の方法は、以下のとおり退職金の受領の有無によって異なります。
退職金を受領している場合
退職金を既に受領している場合は、現金または預貯金として取り扱われます。
したがって、受領済みの退職金は次の方法で換価処分されます(東京地方裁判所の場合)。
- 99万円を超える現金がある場合は、超えた部分を破産管財人に引き継ぐ
- 残高が20万円を超える預貯金がある場合は、破産管財人が当該口座を解約する
- 複数口座の残高の合計が20万円を超える場合は、破産管財人が全ての口座を解約する
換価処分の範囲や方法は、裁判所によって異なります。
退職金を受領していない場合
退職金を受領していない場合は、退職金見込額の4分の1または8分の1に相当する金銭を破産管財人に支払います。
退職を求められることはない
退職金を換価処分するために退職を余儀なくされることはありません。雇用契約は破産者の一身上の法律関係であり、破産管財人において解除できないからです。
退職金の4分の1または8分の1を払えない場合は?積立して支払える?
ここでは、退職金の4分の1または8分の1相当額を払えない場合の対処法を解説します。
基本的には4分の1または8分の1相当額を積立が求められる
現金や預金が少なくすぐに支払えない場合は、退職金見込額の4分の1または8分の1相当額を積立てて支払います。
積立期間については、裁判所の運用、退職金見込額の多寡、他の換価業務の状況等にもよりますが、概ね1年間を目途とされています。
自由財産の拡張が認められることもある
退職金の4分の1または8分の1相当額の全額の積立てが困難な事情がある場合は、破産者が一定の範囲でのみ積立てを行ない、残額につき自由財産の範囲の拡張が認められることがあります。
退職金見込額の4分の1または8分の1相当額が20万円を超えていても、他の財産と併せて99万円の範囲内であれば、自由財産の拡張申立てにより、退職金を手元に残せることもあります。
自己破産すると共済から支払われる退職金や確定拠出年金も処分対象となる?
近年では、会社の退職金制度として、中小企業退職金共済制度や確定拠出年金制度を採用している会社もあります。自己破産すると、これらの退職金も処分されるのでしょうか。
ここでは、処分対象とならない退職金の種類を紹介します。
処分の対象とならない退職金の種類
以下の退職金は、当該退職金に関する法律において、差し押さえが禁止されているため、処分の対象となりません。
- 中小企業退職共済制度による退職金
- 小規模企業共済制度による退職金
- 確定拠出年金
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金
退職金見込額証明書の発行を依頼すると勤務先に自己破産することがバレる?
自己破産の申立て際して、退職金見込額を明らかにするため、勤務先から退職金見込額証明書を取り寄せなければなりません。証明書の発行を依頼することで、勤務先に自己破産することがバレるのを懸念する方も少なくありません。
ここでは、退職金見込額証明書の発行依頼時の注意点や証明書を取得できない場合の対処法を解説します。
勤務先から使途や理由を聞かれる可能性がある
退職金見込額証明書の発行を依頼した際、勤務先から使途や理由を聞かれる可能性があります。自己破産しても、勤務先にその事実を報告する法的義務はありません。
勤務先に知られたくない場合は、以下を例として、あらかじめ発行依頼理由を考えておきましょう。
- 教育ローン・住宅ローンの審査に必要
- ファイナンシャルプランナーに今後のライフプランを作成してもらうために必要
退職金規定で見込額が計算できれば証明書の取得が不要な場合もある
退職金見込額証明書を入手できない場合は、退職金規定をもとに自分で計算しましょう。
退職金規定のコピーと計算書を提出すれば、退職金見込額証明書の代替資料として裁判所が認めてくれることもあります。
退職金がなければ退職金証明は不要?
退職金がなければ、退職金証明書は不要なのでしょうか。
ここでは、退職金がない場合に裁判所に提出する資料を紹介します。
退職金がないことの証明書の提出が必要
勤務先に退職金制度がない場合は、退職金がないことがわかる書類を提出しなければなりません。
就業規則等で退職金がないことを確認できなければ、証明書を勤務先に作成してもらう必要があります。
就業規則等で退職金がないことを疎明できれば証明書は不要
就業規則や労働契約書等で退職金がないことを確認できる場合、それら資料のコピーを裁判所に提出することで、証明書の提出に代えられます。
まとめ
自己破産で処分対象となる退職金の割合をおさらいしましょう。
- 既に退職金を受領している場合:預金または現金として扱われる
- 退職金を受領する予定がある場合:退職金支給見込額の4分の1
- 退職する予定がない場合:退職金支給見込額の8分の1
退職金を没収されることを懸念して、自己破産を躊躇してしまう人も珍しくありません。
しかし、自己破産や退職の時期を見極めれば、退職金を全額失うことは回避できます。自己破産しても勤務先を退職する必要はありません。
ご不安な点や不明な点は、当事務所の無料相談をご活用いただき、お気軽にご相談ください。