破産手続開始決定とは?条件や効果、期間について解説
破産手続きを開始するには、必要書類を裁判所に提出した後に破産手続開始決定を受けなければなりません。
この記事では、破産手続開始決定について以下の点を解説します。
- 破産手続開始決定とは
- 破産手続開始決定の条件
- 破産手続開始決定が認められる効果
破産手続開始決定が出されると、所有している財産を処分できなくなったり、居住地が制限されたりします。
破産手続開始決定の効果をあらかじめ把握しておき、スムーズに手続きを終えられるようにしましょう。
目次
破産手続開始決定とは
破産手続開始決定の全体像をご説明します。
破産手続開始決定の意味
破産手続開始決定とは、破産手続きを開始する裁判所の判断です。
裁判所に必要書類を提出しただけでは破産手続きは始まりません。提出された書類を裁判所がチェックして、破産手続きを開始するのが相当であると決定した時点から開始します。
破産手続開始決定までの期間
破産手続開始決定までには、やらなければならないことがいくつかあります。
破産手続開始決定が下されるまでは、2~3ヶ月ほど必要です。
財産を豊富に所有しており、債務者が多い場合は手続きに時間がかかり、半年から1年ほどの期間が必要です。
【破産手続きの流れ】
破産手続開始決定の条件
破産手続開始決定の条件について、どういったものがあるのか解説します。
破産手続開始の申し立てが適法であるか
破産手続開始決定をされるには、申し立てが適法である必要があります。
適法性を判断する基準は…
- 破産申立をした人が申立権者であること
- 破産しようとしている人に破産能力があること
申立権者とは、借金を抱えている債務者本人や債務者に対して債権を有する債権者が該当します。
破産能力とは、破産開始決定を受ける資格のことです。個人の場合、ほとんどのケースで破産能力を有していると認めらます。
債務者に破産手続開始原因があるか
破産手続き開始原因は次の2つの種類があります。
- 債務者が支払い不能な状態であること
- 債務者が債務超過の状態であること
支払不能とは、債務を返済できない状態に陥っていることです。
すべての債務を返済できない状態を指しており、一部の債権者にだけ返済できない場合は支払不能に該当しません。
債務超過の状態とは、所有している財産や資産よりも抱えている債務の金額が上回っている状態を指します。
法人ではなく個人の人が自己破産手続きを行う場合、支払不能状態のみが破産手続き開始原因に該当します。
債務者に破産障害事由がないか
破産障害事由とは、主に次の3つのケースがあります。
- 予納金を支払えない
- 自己破産手続きの申し立てが権利濫用に該当する
- 自己破産以外の倒産手続きが申し立てられている
それぞれ解説します。
予納金を支払えない
自己破産手続きを申し立てる場合、予納金というお金を裁判所に支払わなければなりません。予納金は自己破産手続きの種類によって金額が変わります。
管財事件になると、破産管財人に支払わなければならない費用が最低でも20万円必要です。
自己破産の申し立てが権利濫用に該当する
破産すべきでない人が、自己破産手続きを悪用する行為のことです。
例えば、債務者が破産手続きを行う意思がないにも関わらず申し立てを行った場合や、債権者が債務者に対して嫌がらせをする目的で申し立てを行った場合が該当します。
自己破産以外の倒産手続きが申し立てられている
借金を解決するための方法は、自己破産以外にもいくつか手段があります。
個人再生が既に申し立てられており、自己破産の申し立てが並行して行われると、債務の免除が一部しか行われない個人再生が優先されます。
破産手続開始決定の効果
ここでは破産開始手続き開始決定が行われたことにより、債権者や債務者にどのような効果が生じるのか解説します。
破産手続開始決定時に官報に名前が掲載される
破産手続開始決定がされた後は、裁判所は以下の事項を官報に掲載します。
- 破産手続開始決定の主文
- 破産管財人の氏名もしくは名称
- その手続きに要する期間又は期日
- 散々に属する財産の所持者及び破産者に対して債務を負担するもの(財産所有者等)は、破産者に財産を交付し弁済してはならないこと
- 簡易配当をすることについて異議のある破産債権者は、裁判所に対して定められた期間もしくは期日までに異議を述べる必要がある旨
参考:破産法32条1項
ちなみに官報とは、国が唯一発行している機関紙であり、主に法律や政令の制定・改正に関する情報、破産や相続に関する裁判内容の公告を行なっています。
自己破産を検討している人の中には、官報から自己破産したことがばれるのではと心配する人も多いです。
しかし官報から家族や友人に、自己破産をしたことがばれてしまう可能性はほとんどないので安心してください。
債権者は取り立て・催促ができなくなる
自己破産手続き弁護士に依頼した時点で、弁護士は債権者に対して自己破産の受任通知を送ります。
受任通知を送られた債権者は、それ以降の借金取り立て・催促の行為が貸金業法21条9項によって禁じられています。
債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
引用:貸金業法21条9項
受任通知の送付によって取り立てや催促におびえる必要がなくなります。
破産管財人に財産の管理処分権が専属する
自己破産手続きとは、債務者の財産・資産を全て処分して、それにより得たお金を債権者へ公平に分配する制度です。
破産手続き進行中に債務者が勝手に財産を処分すると、債権者への公平な分配ができません。
そこで破産法は、破産管財人という債務者の財産を管理する人を選任することにより、債務者による処分を防いでいます。
破産手続開始決定がされることにより、破産管財人が財産の管理処分権を得るため、以降は債務者による財産の処分は許されません。
もっとも自由財産として扱われているものに関してのみ、債務者も自由に利用・処分可能です。主に次のような財産が、自由財産に該当します。
- 新しく得た財産
- 差押禁止財産
- 99万円以下の現金
- 裁判所により自由財産の拡張が認められた財産
- 破産管財人により破産財団から放棄された財産
参考:破産法34条
居住地が制限される
管財事件に指定された場合のみ、債務者の居住地が制限されます。
管財事件に指定されるのは、債務者が債権者に対して配当できる資産を持っているか、債務者に関して免責不許可事由がある場合の2通りです。
具体的にどのように振り分けるのかは、各裁判所の運用によって異なりますが、東京地方裁判所では以下のような基準が定められています。
- 33万円以上の現金がある
- 20万円以上の価値がある財産を所有している
- 借金額が多い
- 免責不許可事由が疑われる場合
- 借金の理由がギャンブルなど浪費によるものが明らかである場合
居住地の制限は自己破産手続きの期間中のみであり、手続き終了後は制限がなくなります。
郵便物が制限される
自己破産手続開始決定がなされると、債務者宛の郵便物が制限されます。
破産者宛の郵便物は全て破産管財人へと転送されて、問題ないか確認を受けてから債務者本人へ渡ります。
一定の職業・資格が制限される
自己破産手続きの開始決定がなされると、一定の職業や資格が制限されます。制限される職業や資格は次のとおりです。
- 公認会計士(公認会計士法4条4号)
- 税理士(税理士法4条2号)
- 警備員(警備業法14条1項)
- 宅地建物取引士(宅地建物取引業法18条1項2号)
- 固定資産評価委員(地方税法407条1号)
- 交通事故相談員(交通安全活動推進センターに関する規則4条1項2号)
職業や資格の制限は自己破産手続き中のみであり、手続き終了後は再び該当する職業や資格で働けます。
同時廃止事件の場合、破産手続開始決定と同時に破産手続きが終了する
同時廃止事件とは、手続き開始決定と同時に破産手続きが終了する手続きです。
所有している財産や資産の調査・処分・分配の作業が必要ないため、他の手続きと比較しても早く自己破産手続きが終了します。
参考:破産の手続きについて|裁判所(盛岡地方裁判所第2民事部)
まとめ
破産手続開始決定がされただけでは、残念ながら抱えている借金がなくなるわけではありません。
あくまでも破産手続きの目的は、破産手続開始決定後の裁判所による免責許可です。
もっとも免責許可を受けるまでは複雑な手続きや裁判所とのやり取りが必要であるため、専門家である弁護士の力を借りる必要があります。
個人で手続きをすることもできますが、手続きや書類の作成などに時間がかかってしまい、借金に苦しむ時間が長引いてしまうでしょう。
破産手続きを検討されている方は、すぐにでも専門家である弁護士に相談してください。