亡くなった親の借金は時効を迎える?援用手続きや注意点を紹介
亡くなった親の借金を相続した場合、相続人は借金を返済しなくてはなりません。そのかわり、普通の借金と同様に、時効が成立すれば返済義務はなくなります。
時効を迎えるためには、時効が更新されないように注意したり、時効援用の手続きを行う必要があります。
ここでは、亡くなった親の借金の時効に関する基本的な知識、時効の援用手続き、注意すべき点を詳しく紹介します。
目次
借金の時効とは
まず時効について説明します。借金の時効とは、一定期間が経過することで法律上の請求権が消滅し、債務者が借金を返済する義務がなくなることを指します。
債権者からすると、借金の返済を求める権利が消滅するため、消滅時効と呼ばれます。
自分で借りたお金であろうと、亡くなった親の借金であろうと、時効を迎えれば返済をしなくてよくなります。
借金に時効がある理由は以下の通りです。
- 借金が放置されたまま長期間経つと、証拠がなくなるなどして、事実関係を立証するのが難しくなるから
- お互いに、返済せず・返済を求めずの状態が続いているのであれば、その状態を保護すべきだと考えられているから
- 借金の返済を求めることができるのにしないのであれば、その者の権利を保護する必要はないと考えられているから
時効は、時間が経てば勝手に成立するものではなく、借りた側が手続きをする必要があります。
亡くなった親から相続した借金は5年で時効
借金は基本的に5年で時効を迎えます。具体的には、民法で以下のように定められています。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
【引用:民法 – e-gov】
貸金業者や銀行などの業者から借りている借金は①の5年が該当します。個人間の借金でも、通常は①の5年が採用されます。
②の10年は、お金を貸している側がそれを知らなかったなどの、限られたケースのみ該当します。
亡くなった親の借金はどうなる?
それでは、亡くなった親の借金がどうなるのか、返済しなければいけないかなどを具体的に説明します。
相続した場合返済義務がある
親が亡くなったとき、遺産にはお金や財産だけでなく、借金も含まれます。
借金については、相続が始まると自動的に各相続人が自分の法定相続分に応じて受け継ぐことになるため、遺産分割の対象にはなりません。
つまり、遺産を相続すると借金も一緒に受け継ぐことになり、返済の義務が生じるのです。
例外として、相続人全員が合意し、かつ債権者の了承がある場合には、特定の相続人だけが借金を引き受ける形で遺産分割をすることも可能です。
相続していない場合返済義務はない
相続放棄をした場合や、他の親族が相続したことで自分は借金を相続しなかった場合には、親の借金の返済義務はありません。
相続放棄をするのであれば、親の死亡を知った日から3か月以内に手続きをしなければいけないため、注意が必要です。
亡くなった親の借金を時効援用する方法
亡くなった親の借金を相続し、返済義務が発生したとしても、時効援用を行うことで法的に返済義務を免除されることがあります。
具体的な方法を理解し、適切に手続きを進めることが大切です。ここでは、時効援用を行うための手続きを解説します。
最後の返済約束日から5年経過するのを待つ
時効援用をするためには、まず借金の最終的な返済約束日や最後の返済が行われた日を確認し、その日から5年が経過していることが条件です。
時効期間は法律によって定められたもので、一般的に親から相続した借金は5年で消滅時効を迎えます。
時効の起算日について具体的に説明します。以下の例をご覧ください。
- 親が最後に返済した日:2025年1月25日
- 親が亡くなった日:2025年2月1日
- 次回の返済日:2025年2月25日
このようなケースの場合、2025年2月26日~2030年2月26日の5年で時効を迎えます。
債務者には、支払期日までは返済しなくてもいい権利があります。よって、債権者は2月25日までは返済を求めることができませんが、2月26日からは返済を求めることができます。
2025年2月26日からの5年間、債権者が、返済を求める権利があるのにそれを行使しなかった場合に、時効が成立するイメージです。
後述しますが、この5年間の間に借金を返済したりすると、時効が更新され、起算日がリセットされるので注意しましょう。
時効援用通知書を作成する
時効が成立したことを主張するためには、時効援用通知書を作成します。
これは、時効の援用を行う意思を正式に表明し、債権者に対して返済義務が消滅したという事実を通知する文書です。
通知書には、債務の概要や援用の意図を明確に記載し、誤解や法的問題を避けるために正確な内容を含めることが求められます。
通知書の作成に際しては、法的知識が求められるため、弁護士や専門家に相談することをおすすめします。
時効援用通知書を債権者に送付する
作成した時効援用通知書を債権者に送付する際は、内容証明郵便を用いるのが一般的です。内容証明郵便は、郵便が相手に届いたという事実や日時、文書の内容が郵便局に記録される郵便です。
これによって、後で「時効援用通知書を受け取っていない」などと主張されるリスクを防ぐことができます。
時効援用通知書を送らない限り、いくら時間が経過していても時効が成立することはありませんので注意してください。
債権者の対応を確認する
通知書を受け取った債権者は、その対応として借金の消滅を認める場合もあれば、異議を唱えてくることもあります。
もし債権者が時効援用を認め、返済義務が消滅した場合は、その借金は正式に法律上の請求権がなくなります。
ただし、債権者が異議を申し立てたり、裁判を起こしたりするケースもあるため、その際には弁護士へ相談し、適切な法的対応を取ることが大切です。
対応次第で、時効の援用が成立するかどうかが左右されるため、債権者からの返答には細心の注意を払って対応しましょう。
時効が更新・完成猶予するケース
時効は借金の消滅を法的に認めるもので、一定期間が経過すると債務が消滅します。
しかし、その時効が成立するまでには、さまざまな要因によって時効が更新または完成猶予(停止)されることがあります。
- 更新:時効のカウントがリセットされ、1日目から数えなおしになる
- 完成猶予:時効のカウントが一時的にストップする
どのようなケースで時効が更新・中断するのか、例を紹介します。
借金の存在を認める
債務者が借金の存在を認める行為をした場合、時効は更新されます。
たとえば、一部の返済を行ったり、口頭または書面で借金を認める意思を示したりするなどです。
これは、債務者が借金を正式に認めたと見なされ、過去の時効カウントが無効となるからです。
裁判を起こされる
債権者が裁判所を通じて借金の請求を行うと、時効は完成猶予されます。
裁判が進行している間、時効のカウントは一時的に停止し、判決が確定するとその時点で時効が更新されます。
裁判を起こされてしまうと、時効を完成させるのがかなり難しくなるでしょう。
差し押さえなどを受ける
債権者が差し押さえや仮差押え、仮処分を実施した場合、時効は完成猶予されます。
この強制執行が行われると、時効の進行はその間停止し、執行が終了または無効になると再び時効が進行します。
債務者にとって、これらの措置は新たな法的義務が発生するきっかけとなるため、注意が必要です。
催告を受ける
債権者からの催告(内容証明郵便など)を受けた場合も、時効は完成猶予されます。
ただし、この場合の猶予は一時的なものであり、催告後6か月以内に債権者が裁判を起こさなければ、再び時効のカウントが開始されます。
債権者が催告を通じて返済を求める意思を示した際は、対応を怠ると新たなトラブルに発展する可能性があるため、弁護士へ相談するのがおすすめです。
相続放棄でも亡くなった親の借金を返済しなくて済む
この記事の序盤でも軽く触れましたが、相続放棄をすることで、亡くなった親の借金を返済しなくて済むようになります。
しかし、相続放棄は、プラスの財産、マイナスの財産問わず、親が残した一切の財産を相続しないことになるので、デメリットも含めて慎重に判断する必要があります。
ここでは、相続放棄の概要や注意点、時効援用との違いについて説明します。
相続放棄とは親の遺産を相続しないこと
相続放棄は、法律に基づき、相続人が被相続人(亡くなった親)の財産を一切相続しないという意思を表明する手続きです。
相続を放棄すると、親の遺産のうち借金や負債といったマイナスの財産だけでなく、プラスの財産も相続しないことになります。
相続放棄は、親が亡くなったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。
この期限内に適切に手続きを行わないと、自動的に相続を承認したとみなされ、親の借金を負担することになります。
時効の援用と相続放棄の違い
時効の援用と相続放棄は、どちらも借金を負担せずに済む方法ですが、意味合いと手続きが異なります。
時効の援用は、借金が法律で定められた時効期間を過ぎている場合に、その時効を主張して返済義務を免除される手続きです。
一方、相続放棄は、そもそも親の遺産を一切相続しない選択です。
時効の援用はすでに時効が完成していることが前提となりますが、相続放棄は親の死後3か月以内に手続きをすれば、借金が時効に達していなくても借金返済義務を回避できます。
相続放棄する際の注意点
相続放棄を行う際にはいくつかの注意点があります。
まず、相続放棄は一度行うと撤回ができず、後から親の資産が発見されても、相続する権利を失ったままとなります。そのため、親の財産調査は慎重に行う必要があります。
相続放棄をした場合、その人は初めから相続人でなかったことになりますが、他の相続人がその負債を引き継ぐ可能性があります。
結果として、相続放棄した相続人の子供などの次順位の相続人に負担が回ることもあるため、家族全体での話し合いが必要です。
相続放棄は早急に弁護士に相談すべき理由
相続放棄は期限が厳しく、適切な手続きが求められます。手続きが遅れたり、不備があったりすると、借金を相続してしまう可能性があるため、早急に専門家に相談することが重要です。
弁護士は、親の財産状況を調査し、相続放棄が適切かどうかの判断をサポートしてくれます。
加えて、家族間での意見の調整や手続き上のトラブルを避けるためにも、法律の専門家に頼ることは有効です。
弁護士の助けを借りれば、複雑な書類の作成や裁判所への提出もスムーズに進められるため、安心して手続きを行うことができます。
亡くなった親の借金の時効に関するよくある質問
亡くなった親の借金を放置したらどうなる?
相続手続きをしないまま親の借金を放置していると、単純承認となり、自動的に相続されてしまいます。
相続した後に親の借金を放置しているのは、自分が借りたお金を返さないのと同じですので、取り立ての連絡が来たり、法的措置を取られたりなど、様々なリスクがあります。
もちろん、債権者から連絡がないまま時効を迎える可能性もあります。
相続時に亡くなった親の借金を知らなかったら?
相続時に親の借金を知らなかった場合、借金が発覚した時点でその借金が時効にかかっていれば、時効援用を行うことができます。
もし時効がまだ成立していなければ、相続放棄をすることも可能です。
親の借金が見つかった際は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
時効の援用手続きは相続人全員でするもの?
時効の援用は、相続人全員が行う必要はありません。各相続人が個別に時効援用を主張できるため、全員で手続きをする必要はなく、時効援用を希望する相続人のみが手続きを行えばいいでしょう。
まとめ
亡くなった親の借金を相続したのであれば、それは自分がお金を借りたのと同じ状態です。
つまり、こちらが返済をせず、相手も返済を求めずの状態で一定期間が経過すれば借金が時効を迎える可能性があります。
時効は最後の返済約束日の翌日から5年経過すると迎えます。時効はただ5年経過しただけでなく、債権者に対してそれを通知することで初めて完成します。
この5年間の間に債権者と借金についてのやりとりをしたり、法的措置を取られたりしている場合には、時効がリセット(更新)されている可能性があるので注意しましょう。
時効を迎えていないのであれば、自己破産などの債務整理をすることもできますので、弁護士に相談しましょう。
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