自己破産時の退去費用|賃貸を追い出される?対処法や注意点
通常、賃貸物件を引っ越すとなれば、退去費用を支払わなければなりません。
しかし、借金が多い人は、退去費用を捻出するのが難しいでしょう。
自己破産で退去費用の支払いが免除されるかどうかは、引っ越しをしたのが、自己破産手続き開始決定より前か、後かによって決まります。
また、自己破産の手続きの際、すでに家賃を滞納している場合、家を追い出されてしまう可能性もあります。
ここでは、自己破産と引っ越し、退去費用や、賃貸物件から追い出されるかなどについて説明します。
目次
自己破産すると賃貸の退去費用はどうなる?
引っ越しに伴う退去費用や、原状回復費用の支払いは、自己破産によって免除されるのか?
これは、退去費用の発生が破産手続きより前か、後かで決定します。
自己破産手続き開始決定より前に発生した退去費用は、支払いが免除されます。
自己破産手続き開始決定後に引っ越すなどし、退去費用が発生した場合には、支払いは免除されません。
退去費用に関わらず、破産手続き開始後に発生した債務(支払い義務)については、支払いは免除されませんので注意しましょう。
家賃滞納者が自己破産をしたらどうなる?
次に、家賃を滞納している人が自己破産をしたらどうなるか、について説明します。
破産手続き開始前に滞納した家賃は免責に
家賃を滞納していた場合、自己破産の許可が下りれば支払いは免除されます。
支払いが免除されるのは、破産手続き開始決定の時点で滞納していた家賃のみになります。
- 弁護士に自己破産を依頼する
- 弁護士が地方裁判所に自己破産の申立てをする
- 裁判所が自己破産の手続き開始を決定する
③の時点で正式に自己破産の手続きが開始されます。
その後、正式に免責許可が下りることで、③以前に抱えていた債務の支払いが免除されるイメージです。
過去の家賃滞納分や退去費用も免責に
現在住んでいる家だけでなく、過去の家の家賃滞納分や、未払い退去費用も、自己破産で支払いが免除されます。
以前住んでいた家を、家賃滞納などで追い出されてしまった人などにとっては朗報でしょう。
免責分は保証会社や保証人が支払うことに
賃貸借契約を結ぶ際の条件は、保証会社、もしくは保証人がつくことが必須であることが多いです。
破産者本人が支払えなかった家賃については、保証会社、もしくは保証人が返済していくことになります。
通常、保証人には求償権(本人の代わりに支払った分の返済を求める権利)がありますが、自己破産の場合には、この権利を行使できません。
ただし、破産後に自分の意思で保証人に返済していくことはできますので、自己破産の際は事前に話し合いをしておくのがおすすめです。
破産手続き開始後は家賃を支払う
自己破産手続き開始決定後に発生した債務については、自己破産の許可が下りたあとも、免責されることはありません。
ですので、破産手続き開始決定後は、油断することなく、毎月家賃を支払っていきましょう。
上記図の③以降で発生した支払い義務については、④で破産手続きが完了しても免責されませんので、注意が必要です。
滞納家賃・退去費用以外の取扱い
次に、退去費用以外で、引っ越しや生活にまつわる債務がどうなるか、説明していきます。
敷金
敷金は、未払い家賃の充当に使われる可能性が高いでしょう。
一般的な賃貸借契約では、敷金は1~2ヶ月であることが多いため、過去に家賃を滞納し、それを返済できていない場合には、もう敷金は残っていないかもしれません。
また、敷金が残っている状態で自己破産をしても、それが必ずしも差し押さえの対象になるとは限りません。
通常の自己破産では、破産者が所有している一定の財産(破産財団)は売却、換金され、債権者に配当されます。
敷金が破産財団に該当し、差し押さえの対象になるかというと、そうではない可能性が高いです。
一般的に、敷金が契約者の手元に戻ってくるまでの流れは以下の通りです。
- 賃貸借契約を解除する
- 敷金を使って大家が現状回復を行う
- 余った費用を契約者に返還する
つまり、裁判所(および破産管財人)が自己破産の手続きを進める際、敷金を破産財団と見なし、差し押さえてしまうことは、賃貸借契約が終了することを意味します。
そうなると、破産者は住む場所を失い、路頭に迷ってしまいます。
そのため、東京地裁では、賃貸借契約が継続するよう、敷金を差し押さえないことになっています。
違約金
賃貸借契約の内容によっては、違約金が発生することがあります。
契約から1年以内に引っ越し(契約解除)をした場合、違約金として家賃一か月分を支払う、などが一般的な例でしょう。
違約金の支払いが免除されるかどうかは、他の債務と同じく、発生したのが破産手続き開始の前か後かによって決まります。
破産手続き開始決定前に発生した違約金のみが、支払いを免除されます。
水道・光熱費
水道、光熱費に関しても、破産手続き開始決定前に発生した分については支払いが免除されます。
ただし、水道代は、上水道料金のみが免除され、下水道料金は対象外となるため注意しましょう。
また、自己破産をする=過去の光熱費を支払えなかった、となりますが、それを理由に供給がストップすることはありません。
破産手続きの開始が決定している者に対して、電気やガス、水道などの供給を停止することは、破産法で禁じられているからです。
ただし、破産手続き後に発生した請求には支払い義務がありますので、滞納すると電気やガスが止まることになりかねませんので注意しましょう。
自己破産したら賃貸から追い出される?
自己破産したら賃貸物件から追い出されてしまうのか、これを心配している人が多いはずですので、解説します。
家賃滞納がなければ追い出されることはない
まず、家賃滞納がなければ追い出されることはありません。
大家には物件から追い出す権利もありませんし、物件契約者が自己破産をすることを知ることもできないからです。
自己破産の通知が行われるのは、債権者のみであり、大家は対象に入っていません。
家賃滞納がある場合
家賃滞納がある場合、状況によっては賃貸借契約が解除となり、物件から追い出されてしまう可能性があります。
3ヶ月以上の場合追い出されるリスクあり
旧民法621条では、物件の契約者が自己破産をした際、賃貸借契約を解除することが可能でした。
しかし、現在は破産法の改正により、単に自己破産をしただけでは賃貸借契約を解除することができなくなっています。
賃貸借契約は、当事者間の信頼関係が維持されていることが前提になります。
つまり、裁判所が当事者間の信頼関係がなくなった、と判断するまでは契約を解除することができないのです。
裁判所は、3ヶ月以上の家賃滞納があるケースで、当事者間の信頼関係がなくなったと判断する傾向にあります。
1ヶ月程度の家賃滞納で追い出される可能性は低いですが、滞納が数ヶ月に渡ると、追い出される可能性が高くなるので注意しましょう。
過度の家賃は追い出されるリスクあり
自己破産の手続きが開始したあと、破産管財人が破産者の収入やお金の使い道などを細かくチェックします(管財事件の場合)。
その際、収入と家賃が見合っていない、と判断された場合、破産管財人の判断で賃貸借契約が解除されることがあります。
具体的には、家賃が収入(手取り)の3分の1を超えている場合、契約解除のリスクが出てきます。
自己破産の目的は、破産者の生活を再生することです。
現在の家賃が高すぎることがその妨げになるようであれば、結果として引っ越しを余儀なくされる可能性があることを覚えておきましょう。
自己破産前に家賃だけを返済するのはNGな理由
「家賃滞納がある状態で自己破産をすると家を追い出される可能性がある、ならば、破産する前に家賃をすべて払いきってしまえばいいのでは?」と考える人もいるでしょう。
結論、この行為は原則NGです。その理由を説明します。
免責不許可事由に該当する可能性があるから
自己破産をする場合は、すべての債権者を平等に扱わなければいけません(債権者平等の原則)。
滞納している家賃など、特定の債権だけを優先して返済することは、偏波弁済(へんぱべんさい)となり、免責不許可事由に該当します(破産法第251条)。
免責不許可事由とは、該当すると自己破産が認められなくなる行為、のことをいいます。
つまり、滞納した家賃だけを優先して返済することは基本的にできませんが、対処法がないわけではありません。
詳しくは、次項で説明します。
家賃滞納を隠して自己破産するのもNG
自己破産の際、家賃滞納があることを隠して手続きを行うのもNGです。
破産の際、債権者名簿と呼ばれる、お金を借りている人のリストを裁判所に提出します。
大家(滞納家賃)のことを債権者名簿に記載せずに手続きを行えば、破産で支払いが免除されない代わりに、裏で家賃の支払いを続けることができます。
しかし、これも免責不許可事由に該当します。
- 大家だけを優遇して返済すること
- 虚偽の債権者名簿を提出すること
上記の行為は、他の債権者が適切な配当を受け取れなくなることにつながります。
自己破産の際、裁判所は本人に銀行口座の入出金の履歴を1~2年ほどさかのぼって調査します。
家賃を滞納していることはバレてしまう可能性が高いでしょう。
②の行為は免責不許可事由の中でも悪質性が高く、破産が認められなくなる可能性が高いため、やめておくべきです。
自己破産後も今の家に住み続ける方法
「自己破産前に滞納家賃だけを返済するのはダメ、裏でこっそり家賃を支払うのもダメ、じゃあどうしたらいいの?」と感じた人もいるでしょう。
実は、家を追い出されないようにしながら、自己破産をする方法もあるのです。
ここでは、家賃滞納がある人が、自己破産後も今の家に住み続ける方法を紹介します。
他の人に家賃を支払ってもらう(第三者弁済)
これまでも説明した通り、家賃だけを優先して返済する行為は免責不許可事由となり、破産が認められなくなる危険性があります。
しかし、これは借金を抱えている本人が特定の債権者だけに返済をした場合、に限ります。
本人以外の第三者に返済してもらう分には問題ありません。これを第三者弁済と呼びます。
第三者弁済は、同居している人以外にお願いしましょう。
同居人の場合、生計を共にしているため、本人による返済とみなされてしまう可能性があります。
弁護士に依頼し相談の上で家賃を返済する
おすすめの手段として、弁護士に相談の上、あえて家賃を返済してしまう、という方法があります。
これまで、家賃だけを優先して返済する行為は免責不許可事由に当てはまり、自己破産が認められなくなる可能性があると説明しました。
しかし、免責不許可事由にあてはまるからといって、100%自己破産が認められなくなるのかというと、そうではありません。
裁判所が破産者の状況や反省などを総合判断して、破産を認めることがあります。これを裁量免責(さいりょうめんせき)といいます。
- 家賃を滞納したまま破産手続きを開始したら家を追い出されるかもしれない
- 破産手続き前に家賃を返済したら自己破産が認められなくなるかもしれない
これから破産する人にとって、明らかに厳しい状況です。
この状況で家賃だけを返済する行為は、住宅を確保するために行った仕方のない行為であり、裁判所もそれを理解してくれる可能性が高いです。
免責不許自由としての悪質度も低いため、結果として裁量免責が認められる可能性が高いでしょう。
事前に弁護士に相談し、裁量免責までの見通しを立てたうえで、あえて家賃だけを返済するという選択肢があることも覚えておくべきです。
大家と相談し破産後に家賃を返済する
自己破産することで支払いが免除された滞納家賃についてですが、その後、自分の意思で支払いをすることは禁止されていません。
正確には、支払い義務はないけれど、支払いをしたいならしてもいい、という状況です。
以下の内容を大家に伝え、今後も家に住まわせてもらえるよう、話し合いをしてみましょう。
- これから自己破産すること
- 滞納していた家賃は免責になるものの、責任を持って全額返済すること
- 反省していること、これからも家に住まわせて欲しいこと
大家にはこの交渉に応じる義務はありませんが、誠意が伝われば、これからも賃貸借契約を継続できる可能性があります。
自己破産後の引っ越しで注意すべきこと
最後に、自己破産後の引っ越しで注意すべきことを紹介します。
入居審査が厳しくなる
自己破産後は、ブラックリストに登録されるため、引っ越し時の入居審査がやや厳しくなります。
具体的には、保証会社の審査に落ちてしまう可能性が高くなります。
物件の保証会社が信販系(クレジットカード会社など)の場合、入居審査の段階で、過去に自己破産をしていることがバレてしまうからです。
過去に借金を返済できなかった人に対して、物件を貸すのはリスクが伴います。
自己破産後の物件選びは、以下のポイントに気をつけると成功しやすくなります。
- 保証会社が信販系でない物件を選ぶ
- 保証会社による入居審査がない物件を選ぶ
- 保証会社がつかない代わりに、保証人が必須の物件を選ぶ など
仲介業者を通じて物件を探す際は、過去に自己破産をしたことや、現在の支払い能力に問題がないことを伝えることをおすすめします。
入居審査に通りやすい物件を紹介してくれるはずです。
クレカでの家賃支払いが不可になる
今後引っ越す場合、クレジットカードを使って家賃を支払うのが困難になります。
自己破産を弁護士に依頼した時点で、借入のあったクレジットカードは強制解約されるからです。
破産時に借入がなかったカードも、更新などのタイミングで解約となってしまう可能性が高いでしょう。
新しい物件を選ぶ際は、銀行口座からの直接引き落としに対応しているか、デビットカードなどで代用可能かなど、確認する必要があるでしょう。
まとめ
自己破産と引っ越し、退去費用についてや、賃貸物件から追い出されるか、などについて説明をしました。
退去費用に関わらず、自己破産手続き開始決定前に発生した債務(借金)に関しては、基本的に支払いが免除されます。
逆に、自己破産手続き開始決定後に発生した債務については支払いを行わなくてはなりません。
家賃や光熱費などの支払いは、再開しないとトラブルになる可能性が高いので、注意しましょう。
自己破産をしたら賃貸物件から追い出されるか、については、裁判所(破産管財人)が判断します。
3ヶ月の以上の家賃滞納がある場合や、収入に見合わない家賃を支払っている場合には、賃貸借契約が解除になる可能性が高くなります。
家を追い出されないためにできることは、主に以下の3点です。
- 他の人に滞納家賃を支払ってもらう(第三者弁済)
- 弁護士に相談した上で、あえて家賃を支払う
- 自己破産後に滞納家賃を支払うことを大家と約束する
②のように、大家(滞納家賃)だけを優先して返済する行為は免責不許可事由にあたり、自己破産が認められなくなる可能性があります。
ですが、追い出されないようにするためには仕方のない行為であり、裁判所もそれを認めてくれます。
これを裁量免責と呼びますが、あえて家賃を支払う場合には裁量免責が認められることを見越した上で支払いを行う必要があるでしょう。
退去費用に限らず、自己破産や今後の引っ越しに関することなど、気になることがあったら弁護士に相談してみましょう。
あなたにとってベストなアドバイスをくれるはずです。