子どもを抱えて離婚する際、慎重に考えなければいけないのが養育費の問題です。

養育費とは、子どもが社会人として自立するまでに必要とされる費用を指しますが、離婚直後は生活のために何かとお金がいるため一括請求したいと考える人がいます。

この記事では、養育費が一括請求できるかどうか、できる場合のメリットとデメリットについて解説します。

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養育費は一括でもらう方法はある?

ここでは、養育費を一括でもらう方法があるのか、解説します。

養育費は基本的に月払い

養育費は基本的に月払いで支払うように取り決めます。

なぜなら、養育費は、子どもの日々の生活に必要となる費用なので、親は子どもに対して定期的に給付すべきと考えられているからです。

当事者同士の合意があれば一括払いも可能

養育費は原則月払いとなるものの、当事者同士の合意があれば、一括払いも可能です。

後述しますが、養育費の一括払いは、受け取る側にも支払う側にもそれぞれメリットとデメリットがあります。そうしたことを踏まえ、話し合いを行い合意したのであれば可能です。その際には、将来トラブルにならないように、合意書を作成しておきましょう。

調停や審判では養育費の一括請求は認められにくい

裁判所の手続きを利用して養育費を請求する場合、養育費を受け取る側(権利者)が一括払いを求めても、よほどの事情がなければ養育費の一括払いは認められない傾向にあります

調停は話し合いを前提とする手続きなので、当事者の合意により一括払いとすることは不可能ではありませんが、調停委員は月払いを原則と考えているため、一括払いで取り決めることに積極的にはなってくれません。

審判や裁判では、特別な事情がなければ一括払いを認めず、原則として月払いによるべきだとされています。

その理由として、判例は、次のように述べています(東京高決昭和31626日)。

  • 養育費は、成長段階に必要な監護養育のために必要なものであるから、毎月その月分を支給するのが本来の在り方であり、かつ、それで十分であること
  • 一回にまとめて支給してもその間の扶養義務者の扶養義務が終局的に打切となるものではないこと
  • 養育費は、生活環境の変化などで増減が生じる可能性があるから、遠い将来にわたる養育費を現在において予測計算することも甚だしく困難であること

上記判例は、特別な事情がないとして、一括払いを認めませんでしたが、例えば、長期にわたる確実な履行が期待できないような場合などには、一括払いをすることに特別の事情があるといえるでしょう。

実際に、家庭裁判所が例外的に養育費の一括払いを認めた事例もあります(長崎家審昭和55124日)。

この事例では、養育費は、定期的給付を原則とするとしつつも、以下のような事情を踏まえ、一括払いとすることに特別の事情があるとして、例外的に一括払いを認めました。

  • 義務者(養育費を支払う側)が外国籍で将来、母国に帰国して開業する予定であり、その時期が未確定であること
  • 義務者が(養育費の対象となる)子を自分の子と認めながら、自らが子を引き取らない限り入籍できないと拒否していること
  • 義務者が医師であり、経済的に養育費の一括払いができるだけの資力があること

上記のように、将来にわたり養育費の定期的給付義務の履行を期待し得る蓋然性が乏しいと推認される場合には、例外的に一括払いが認められることもあります。

養育費を一括で受け取るメリット

ここでは、養育費を一括で受け取るメリットについて解説します。

離婚直後の経済的な安定が得られる

養育費を一括で受け取れれば、離婚直後の経済的な安定が得られると考えられるでしょう。

離婚直後は、新しい生活環境を整えるために、何かとお金が必要になります。養育費を一括で受けとれれば、当面生活費の心配をする必要がありません

生活費の心配をしなくて済むのは、精神的負担がかなり軽減されます。離婚によって新しい土地に移った人や新しい仕事に就いた人にとって、精神的負担の軽減はかなり大きなポイントになります。

養育費未払いのリスクがなくなる

養育費が一括で受け取れれば、未払いのリスクがなくなります

養育費の未払いによって、困窮するひとり親家庭が増えているのは社会問題にもなっていますが、こうしたリスクが避けられるのはメリットといえます。

入金確認や督促の手間がなくなる

養育費の一括払いを受ければ、毎月の入金確認や支払いが遅れたときに督促する手間がなくなります

月払いの場合、入金が遅れると、都度、離婚した相手に連絡を取らなければなりません。督促をして入金されたとしても、その後も今月はきちんと入金されるだろうか…と不安を抱えて過ごすのは非常にストレスです。

一括で受け取れば、毎月の入金確認や督促の手間が省け、心理的負担も軽減されるでしょう。

養育費を一括請求するデメリット

ここでは、養育費を一括請求するデメリットについて解説します。

養育費一括払いの総額を月額換算すると相場より低くなることがある

養育費を一括払いで請求した場合、支払う側から、まとめて支払う代わりに養育費の総額の減額を求められたり、中間利息控除を主張されたりすることがあります

そのため、月額払いでもらう総額より、一括払いの額のほうが少なくなり、月額で換算すると養育費の相場より低くなる可能性があります。

養育費を増額すべき事情ができても応じてもらえない

養育費を一括で受け取ると、子どもが成長するにつれて増額すべき事情ができても、増額に応じてもらえない可能性があります

月払いの養育費は、双方の環境や事情に変更があれば増額が認められる場合があります。しかし、一括払いを受けた後に増額が認められるケースはあまりありません。

養育費1000万円を一括払いされたものの、子どもを小学校から私立の学校へ通わせたことや学習塾の費用がかかったため、追加で養育費を請求した事例があります(東京高決平成1046日)。

このケースで、裁判所は、以下の事情を理由に、養育費の追加請求を認めませんでした。

  • 小学校から私立の学校へ通わせ学習塾へ通うことで、中学卒業までにもらった1000万円は使い切ることは容易に判断できたこと
  • 自身の資力の範囲内で子どもに教育を受けさせるべきだったこと など

養育費を一括払いで受け取ったら、長期にわたってお金を管理する能力も必要です。

養育費を月払いにしておけば、子どもの教育についてその都度双方で話し合い、養育費の増額を請求できる可能性はありますが、一括払いの場合は、追加請求は認められにくいでしょう。

贈与税が課税される可能性がある

養育費を一括で受け取ると、贈与税が課税される可能性があります。

養育費は原則、贈与税の課税対象になりません。

扶養義務者相互間において、生活費または教育費にあてるためにした贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められる財産の価額は贈与税の課税価格には参入されないとされているからです。

しかし、養育費を一括で受け取ると、通常必要と認めるものを超えるとして、贈与税が課税される可能性があります。

養育費の一括払いについてよくある質問とその答え

ここでは、養育費の一括払いについてよくある質問とそれに対する答えを紹介します。

養育費を一括でもらっても贈与税が課税されない方法はある?

国税庁の個別通達によると、養育費の一括払いについて、下記のような内容で調停調書が作成された場合は、贈与税は課税されないとしています。

  • 養育費を子ども名義の口座に振り込む
  • 養育費の振込後、それを管理する親権者が信託銀行と子どもを委託者兼受益者にして養育費を預け、毎月子どもに対し信託銀行から一定額を支払う均等割給付金の金銭信託契約を締結する

つまり、信託銀行に養育費を預け、一方的に解約できないように配慮して、支払われる養育費の金額が、その年齢その他の事情を考慮して相当な範囲のものであれば、贈与税は課税されないと取り扱われています。

借金をしてでも養育費を一括で払ってもらいたいですが可能ですか?

借金をしてでも養育費を一括払いしてほしいと考える人がいらっしゃるかもしれません。しかし、養育費を一括払いすると高額になり、義務者(支払う側)が借金をしてまで一括払いに応じるケースは少ないです。

義務者が不貞行為を行った有責配偶者であり、なおかつ離婚を求めている場合などには、離婚に合意する代わりに養育費の一括払いを条件にすることも考えられますが、その条件で合意できるのはかなり稀なケースだと思われます。

当然のことながら、養育費の支払いのために、相手に借り入れを求める法的根拠もありません。

一括で支払った後、相手が再婚しましたが、払いすぎた養育費の返還を請求できますか?

養育費を一括で支払ったけれど、権利者(受け取った側)が再婚したので払い過ぎた分を返してほしい場合、これが認められる可能性は低いです。

なぜなら、養育費の一括払いに合意した時点で、将来起こる可能性がある出来事を承知していると認識されるからです。

養育費が月払いであれば、支払う側が再婚して再婚相手との間に子どもができた場合や、受け取る側が再婚して再婚相手が子と養子縁組した場合、養育費の減額を求める事由になり得ます。

養育費を一括請求したい方・一括請求されたが払えないとお悩みの方は弁護士に相談を

離婚直後の生活を考えて養育費を一括請求したい方や一括請求されたけれども払えないと悩んでいる場合は、弁護士に相談しましょう。
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あなたの状況を詳しくお聞きし、養育費の一括払いのメリットやデメリットの説明はもちろんのこと、最善の方法をご提案いたします。ぜひ一度ご相談ください。

まとめ

離婚をする際、大きな壁となるのが養育費に関することです。金額をどうするのか、どのように支払っていくのかは、のちのちトラブルのもとにならないように、しっかり話し合いをしなければいけません。

養育費を一括で受け取れれば、一時的に大きな金額が入り経済的に助かりますが、追加請求が認められにくい、贈与税が課税される可能性があるなどデメリットもありますので、慎重に考えましょう。

養育費を一括請求されたものの、払えないと悩んでいる人も、相手方に対して一括請求するデメリットを主張して、話し合いを進めていきましょう。

当事者で話し合いがまとまらない場合は、早めに弁護士にご相談ください。

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