【刑事事件】示談の流れ・タイミングについて解説
刑事事件を起こしたからといって、必ずしも逮捕されたり裁判にかけられたりする訳ではありません。多くの場合、被害者が被害届を出すことによって警察に事件が発覚し、捜査が始まります。
被害者が被害届を出す前に被害者との間で示談が成立すれば、警察に事件が知られずに終わることもあります。
被害者がいる事件では、できる限り早期に示談を成立させることが重要です。この記事では示談成立の流れや示談のタイミングについて解説します。
刑事事件の示談交渉の流れ
刑事事件においては示談交渉を加害者本人がすることは困難です。弁護士に依頼して交渉してもらいましょう。
被害者の連絡先を捜査機関に確認する
被害者の連絡先が不明の場合には、捜査機関に確認します。加害者本人からの問い合わせには基本的に回答してくれませんが、加害者から依頼を受けた弁護士からの問い合わせに対しては連絡先を教えてくれる可能性が高いです。
弁護士が被害者の連絡先について捜査機関に問い合わせると、捜査機関は被害者に連絡先を教えてよいか、確認を取ります。被害者の承諾が得られれば被害者の連絡先を開示してもらえます。
謝罪の申し入れ
被害者の連絡先を教えてもらったら、最初に謝罪の申し入れをします。加害者の真摯な謝罪もなく、いきなり示談に応じてくださいと言われても、被害者からすれば到底応じられないでしょう。
加害者が真摯に反省し謝罪していることを伝え、示談交渉に応じてもらえるようお願いすることから始めます。
示談の申し入れ
示談交渉に応じることに同意してもらえたら、示談を申し入れます。示談の申し入れの主要項目は以下3つです。
示談金の金額を提示する
被害者が被った損害を金銭に換算して被害の回復を図ります。刑事事件における示談金の金額には明確な基準はありません。物的損害であれば、その物の価格を賠償するのが一般的ですが、精神的損害や肉体的損害は金銭に換算しにくいです。
被害者の被害感情が大きいほど、被害者が求める金額は上がります。犯罪の種類や被害の程度、被害者の精神的苦痛の度合いや処罰感情の強さ、加害者の経済的能力などを考慮しながら交渉し、金額を決定します。
示談金の支払い方法を確認する
示談金の金額が決まったら、支払い方法等について確認します。
振込の場合には金融機関名・支店名・口座番号・口座名義人等の情報を教えてもらう必要があります。
自宅等へ持参して欲しいと言われる場合もあります。その場合には示談金を持参しますが、先に示談書に署名押印していただきます。示談書に署名押印していただき示談成立後、示談金をお支払いします。
示談金は一括払いが原則です。加害者が一括で支払えない金額の場合には、親族等から借り入れる等して支払います。
ただし、以下の場合には分割払いを認めてくれることもあります。
- 刑事裁判終了までに支払い終わる見込みが高い場合
- 毎月一定の収入があり支払いの見込みが高い場合
- 3か月~半年間の分割のように支払い期間が短い場合 など
その他の条件を詰める
示談では以下の2点を示談書に記載するのが望ましいです。
- 示談金を受領したら被害届や告訴状を取り下げる
- 被害者を許す文言(宥恕文言)
しかし、これらは被害者の被害感情や処罰感情が大きいと入れられません。
事件について一切第三者に口外しない、SNS等に書き込みをしない等を条件に入れることが多いです。
その他、被害者に納得していただくための、各事件特有の条件を詰めます。
痴漢や盗撮の場合には今後被害者に同様の行為を行わないためにできる具体的な条件を、万引きの場合には、今後万引きをしないためにできる条件等を示談書に盛り込みます。
示談書を作成する
示談金および示談内容の合意ができたら弁護士が示談書を2通作成します。被害者および加害者の弁護士双方が署名・押印し、それぞれ1通ずつ保管します。
示談金を被害者に支払う
示談書に署名押印すれば示談が成立します。示談書の内容に従って被害者に示談金を支払います。
その後示談金領収証に署名してもらい、可能であれば被害届取下げ書等にも署名押印してもらいます。
被害感情や処罰感情が大きい場合、慰謝料は受領するけれど、被害届取下げ書には署名したくないという方もいます。その場合には被害弁償したことの証として示談金(慰謝料)領収証をいただきます。
示談書を検察・裁判所に提出
被害者との間で示談が成立したことを示すため、起訴前であれば検察に、起訴後であれば裁判所に示談書の写しを提出します。
示談書には通常、宥恕文言が記載されるため、示談が成立すると被害者が加害者を許した事を証明できます。
起訴前に示談が成立すると不起訴処分につながりやすく、起訴後であれば刑が軽くなる可能性が高くなります。
刑事事件で示談交渉をするタイミング
示談交渉をするタイミングはいつが良いか、解説します。
逮捕前|刑事事件にならない可能性あり
示談金を受け取ったら被害届や告訴状を提出しないことに同意してもらえれば、刑事事件にならない可能性があります。
被害届を提出する前に示談できれば、示談が成立した被害者からは捜査機関に事件が伝わらないため、逮捕される可能性が低くなります。逮捕前に示談すると前歴すら付かなくなる可能性があります。
被害届が出される前に示談をすべきか否かは迷うところだと思います。被害者が被害届を提出しない可能性、被害者が被害届を提出しようとしても警察が受理しない可能性も考えられます。
示談せずにそのまま放置しておいても、事件として扱われること無く終了する可能性があります。しかし、放置した結果逮捕され会社を辞めざるを得なくなったり、起訴されて前科が付いてしまったりすることも考えられます。
事件を起こした場合にはなるべく早く弁護士に相談し、示談すべきか否かの見通しを立ててもらうなどのアドバイスをしてもらうことをお勧めします。
起訴前|不起訴になる可能性あり
既に捜査機関が捜査している場合に、被害届や告訴状を取り下げるなどの条件に同意してもらえると、刑事罰を科す必要性が低くなったと判断され、不起訴処分で終わる可能性があります。不起訴で終われば前科は付きません。
逮捕・勾留されている場合には、身柄が解放される可能性もあります。早期に身柄を解放してもらえれば会社に逮捕事実を知られずにすむ可能性があります。
起訴後|執行猶予付き判決あるいは減刑の可能性あり
起訴されてしまった後の示談も、無駄にはなりません。被害弁償されたことが有利な事情として斟酌され、執行猶予付き判決の言い渡し、あるいは刑期や罰金額の軽減が期待できます。
事件によってはタイミングを見計らう必要がある
事件を起こしてしまった場合にはできるだけ早く示談を行うべきですが、捜査機関の動きを見てから示談の対応を考える方が良い場合もあります。
被害者が警察に被害届を提出しようとしても、警察が被害届を受理しないこともあります。民事的なトラブルの場合に相手方が警察に被害を訴えても、民事不介入として警察が動かない可能性もあります。
警察が被害届を受理しないことがはっきりした後に、民事事件として対応することで、高額な示談金を支払わずに済むこともあります。
刑事事件になるか民事事件で終わるかの見極めは難しいので、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
刑事事件では示談交渉が難しい場合もある
示談をして事件を早期に解決したいと思っても、それが難しい場合もあります。どのような場合に難しいか、解説します。
被害者の連絡先不明の場合
示談したいと思っても、被害者の連絡先が不明の場合があります。例えば以下のような場合です。
- 被害者が弁護士にも連絡先を教えてくれない
- 被害者が、自分が被害に遭った事に気が付かず立ち去ってしまった など
弁護士が被害者と示談したい旨を捜査機関に伝え、捜査機関が被害者に連絡先を伝えてよいか確認したときに、弁護士にも連絡先の開示を拒む被害者もいます。その場合には示談はできません。
被害者の被害感情が大きい場合
被害者の被害感情が大きく、そもそも謝罪すら受け入れてくれない場合もあります。その場合には被害者が示談交渉に応じてくれることもありません。
被害額が大きい場合
被害者が大勢いる場合などでは、被害額が大きくなります。このような場合に全ての被害者に対し被害弁償や、示談交渉を行ったり、示談金を支払ったりすることは困難です。
被害者が法人の場合
被害者がスーパーの場合、例えば万引き犯とは一切示談をしないと決めている会社もあり、この場合には、示談は不可能です。
示談交渉を進めるには弁護士にご相談を
示談交渉を弁護士に依頼したほうが良い理由は以下のとおりです。
- 被害者の被害感情を悪化させにくい
- 被害者が示談交渉に応じてくれやすい
- 捜査機関が被害者の連絡先を教えてくれる可能性が高い
- 適正な金額での示談が期待できる
- 法的に有効な示談書の作成により後々トラブルが起きない
- 示談成立によりその後の刑事事件の流れが良い方向に変わる可能性が大きい
まとめ
事件を起こしてしまった場合、被害者との示談を弁護士に依頼することにどのようなメリットがあるかを紹介しながら示談の流れを説明しました。
事件を起こしてしまった場合には示談を成立させることがその後の流れに大きく影響します。なるべく早く弁護士に相談することをお勧めします。