売春防止法違反とは|罰則や違反する行為や逮捕事例を解説
近年立ちんぼで逮捕者が出るなど、売春が話題になっています。
売春を取り締まる法律が、売春防止法です。
売春防止法では、売春の禁止はもちろん、次の行為に該当すると処罰対象となります。
- 売春の勧誘
- 売春の仲介
- 人に売春をさせる
- 売春場所などの提供 など
売春や買春をする過程で、売春に関する犯罪に関与している可能性もあるのです。
この記事では、次の点についてわかりやすく解説します。
- 売春防止法に違反する行為や処罰対象となる行為
- 売春防止法で男性が逮捕されるケースや実例
- 売春防止法で女性が逮捕されるケースや実例
目次
売春防止法違反とは
売春防止法で禁止されている行為をすると、売春防止法に違反して、場合によっては逮捕される可能性があります。
売春防止法は次の2点を目的として1957年に施行された法律です。
- 売春の横行により社会秩序が乱れないようにするため
- 貧困などを理由に女性が売春を強要されないため
参考:売春防止法(昭和31年法律第118号) – 内閣府男女共同参画局
この法律が制定された当時は、貧困などが原因であっせん業者に売春を強要される女性が多くいました。
売春防止法は、社会秩序の維持だけでなく、こうした売春せざるを得ない立場にいる女性を保護や更生させる目的があります。
そのため、売春をした女性、買春をした男性は処罰対象には含まれません。
売春防止法で処罰の対象となるのは、売春を助長させるあっせんなどの行為です。
売春防止法違反の要件
売春防止法では、次のとおり売春を禁止しています。
(売春の禁止)
第三条 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない
引用:売春防止法 – e-Gov
売春防止法の要件を満たす売春の定義は次のとおりです。
- 対価を受ける、または受ける約束をしている
- 不特定多数の人と
- 性交をすること
そのため、次のようなケースでは売春防止法に違反しません。
- 対価を受け渡ししていない、対価を受け渡す約束をしていない
- 相手が特定の人である
- 性交以外の性交類似行為をした など
売春や買春は、売春防止法で禁止されてはいますが、罰則は定められていません。
売春防止法違反に該当する行為
売春や買春をした人は処罰対象になりませんが、売買春をする本人が、勧誘などを行うと、処罰対象になります。
ここでは、売春防止法違反に該当する具体的な行為を紹介します。
売春目的で勧誘すること
売春目的で、公衆の目に触れるような方法で、売春の相手になるように勧誘を行うと、男女問わず売春勧誘罪となります。
同様に、次の行為も処罰対象となります。
- 売春目的の勧誘のために、道路など公共の場で、立ちふさがったり、つきまとったりする行為
- 公衆の目に触れるような方法で客を待ち、売春を広告掲示等をして客を募集すること
要するに、売春を目的として、キャッチのような勧誘をすることは禁止されています。
また、公衆の目の届く場所で売春を持ちかける行為も禁止されています。
この公衆の目の届く場所とは、公共の場だけでなく、ネット上で不特定多数に売春を持ちかける行為も該当します。
売春を仲介すること
売春を仲介すると、売春周旋罪が成立します(売春防止法第6条)。
例えば通行人に買春を持ち掛け、女性のいる部屋に案内するような行為が該当します。
買春の仲介に関しては、売春勧誘と同様に、公共の場でキャッチのような行為をすることや、公衆の目の届く場所で買春する人を募集するような行為も禁止されています。
2023年には、アプリで売春をあっせんした疑いがあるとして4人の男性が逮捕されました。
参考:アプリで売春あっせん疑い、4人逮捕 7千万円売り上げか – 産経新聞
人に売春をさせること
売春防止法では、次のような行為で人に売春させることを禁止しています。
- 相手を騙して売春をさせた
- 相手を困惑させて売春をさせた
- 親族などの影響力を利用して売春をさせた
- 脅迫や暴行をして売春をさせた
これらの行為は未遂であっても処罰の対象です。
売春防止法が施行された当時は、貧困女性を対象に、上記のような手段で売春を強要するケースが多くありました。
近年売春をさせる行為で問題になっているのが、ホストクラブの料金を支払わせるために、ホストが女性に売春をさせるケースです。
2024年1月には、滞納した飲食代を支払わせるために、客の女性に売春を指示した疑いがあるとして、ホストが逮捕されました。
参考:売掛金で女性客に売春強要容疑、歌舞伎町のホスト逮捕 GPSで監視 – 朝日新聞デジタル
また、次のような行為も処罰の対象となります。
- 困惑に乗じて売春させた対価を受ける行為
- 売春を目的とした前貸し行為
- 売春させることを目的とした契約をする行為
こうした行為は、人の意思に反して売春を強要させるだけでなく、組織売春を横行させることになるため、処罰の対象となります。
売春の場所や資金を提供すること
また、売春の場所や資金を提供する行為も、売春場所提供罪として罪に問われることになります。
- 売春目的と知り売春の資金や場所を提供すること
- 自分が管理する場所に居住させて売春させること など
例えば、マンションやホテルの一室を売春ができる状態にして引き渡すことです。
対価を受け取っていなくても、提供したと判断されます。
また、売春を目的とした場所に女性を住まわせて、売春をさせた場合は、管理売春罪に該当します。
売春防止法が施行された当時は、女性を住みこませ、監視して売春をさせるケースがありました。
売春防止法違反の罰則
先述した行為があった場合、売春防止法違反として刑事処分が科される可能性があります。
売春防止法違反の罰則は次のとおりです。
行為 | 罰則 |
売春を勧誘する | 6か月以下の懲役または1万円以下の罰金 |
売春を仲介する | 2年以下の懲役または5万円以下の罰金 |
困惑などに乗じて売春をさせて対価を得る | 5年以下の懲役と20万円以下の罰金 |
売春目的の前貸し | 3年以下の懲役または10万円以下の罰金 |
売春をさせる契約をする | |
売春目的と知って場所を提供する | |
継続する意思を持ち、売春の場所を提供する | 7年以下の懲役と30万円以下の罰金 |
管理する場所に住まわせて売春をさせる | 10年以下の懲役と30万円以下の罰金 |
また、人に売春をさせる行為と、場所を提供する行為は、内容によって罰則が異なります。
内容 | 罰則 |
相手を騙して売春をさせた | 3年以下の懲役または10万円以下の罰金 |
相手を困惑させて売春をさせた | |
親族などの影響力を利用して売春をさせた | |
脅迫や暴行をして売春をさせた | 3年以下の懲役と10万円以下の罰金 |
売春防止法違反の検挙件数
売春防止法違反の検挙件数の推移は次のとおりです。
やや古い統計ではありますが、売春防止法違反の検挙件数は、1959年の2万2,199件から2003年には2,411件と減少しています。
また、2018~2022年の統計は次のとおりです。
引用:訂正版 – 警視庁
売春の勧誘に関しては、2003年の230件から2022年の239件で、大きく違いはありません。
近年では、コロナの行動規制緩和後に、路上で立ちんぼをする女性がSNSで拡散されたことなどにより、立ちんぼや売春が話題になりました。
売春防止法の一部規定は廃止
売春防止法では、売春の勧誘で刑事処分を受けて、執行猶予がついた女性は、婦人補導院に収容されます。
婦人補導院とは、更生のために生活指導や職業訓練、医療等を行い、自立できる女性として復帰させることを目的とした国の施設です。
しかし、婦人補導院は、個室も狭く、鉄格子があるなどその様子は刑務所と変わりません。
また中には、知的障害を抱えた人や、性暴力の被害者なども多く、必要なのは更生よりも支援だとする声が多くありました。
こうした女性の更生や婦人補導院に関する部分を廃止し、売春防止法を根拠に2024年4月1日から施行されたのが、困難な問題を抱える女性支援法です。
困難な問題を抱える女性支援法では、実情に即し、懲罰的な婦人補導院ではなく、女性を保護できる施設の設置などが盛り込まれています。
参考:困難抱える女性の支援強化 新法成立 66年前の売春防止法から脱却 – 朝日新聞デジタル
売春防止法違反で男性が逮捕される事はある?
ここでは、売春防止法で男性が逮捕されるケースを紹介します。
「買春」行為自体に罰則はない
売春防止法では、男女問わず何人も売春や買春をしてはならないと、買春を禁止しています。
しかし、買春行為自体に罰則は設けられていないため、買春をしても処罰はされないのが現状です。
もっとも、処罰が定められていないだけで、買春は違法行為であることには変わりありません。
相手が未成年だと「児童買春法」に該当する
売春をしても処罰の対象にはなりませんが、買春した相手が未成年(18歳未満)だった場合、児童買春になります。
児童買春罪は、未成年者に対して対価を渡す、あるいは、その約束をして、児童に対して性交や性交類似行為をした場合に成立します。
児童買春をした場合の法定刑は、5年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
路上で立ちんぼをしてる女性の中には、未成年者がいることも考えられます。
相手が未成年だと知らなかった場合、児童買春は成立しませんが、警察や検察、裁判官にその言い分を信じてもらえない可能性があるでしょう。
売春防止法違反で女性が逮捕される事はある?
ここでは、売春防止法で女性が逮捕されるケースを紹介します。
「売春」行為にも罰則はない
先述したとおり、売春防止法は、売春をせざるを得ない女性の保護を目的としています。
そのため、女性が売春(対価を受け取る代わりに性交)を行っても罰則はありません。
客待ちの女性が現行犯逮捕されることもある
女性が売春を行っても処罰対象にはなりませんが、売春を勧誘すると売春防止法に違反して、逮捕される可能性があります。
例えば、売春相手を待って立ちんぼをしていて、客を装った私服警官に自分から売春を持ちかけて現行犯逮捕されるようなケースが考えられます。
もっとも、自分から売春を持ち掛けたわけでなく、私服警官が捜査の一環で買春をもちかけたようなケースであれば、違法なおとり捜査の可能性があります。
客待ちの女性が一斉に逮捕された事例
2023年には、東京の新宿で売春目的で客待ちをする女性が逮捕されました。
警視庁によると、2023年中に、売春防止法で現行犯逮捕された女性は140名です。
2022年に現行犯逮捕された51人の3倍まで増加したとのことです。
近年立ちんぼはSNSで拡散されて話題となりましたが、警察もこれを受けて取り締まりを強化しています。
また、女性が売春をする理由として、ホストの悪質な売掛金なども問題となっています。
参考:売春容疑で140人逮捕、4割「ホストやメン地下のため」 歌舞伎町 – 朝日新聞デジタル
売春防止法違反でよくある質問
ここでは、売春防止法違反でよくある質問に回答します。
パパ活は売春防止法違反になる?
パパ活は場合によっては売春防止法違反に該当します。
売春防止法では、対価の受け渡しやその約束の上に不特定多数と性交することを禁止しています。
そのため、対価の受け渡しの上でどこかに出かけるなどであれば違反しませんが、性交を行うと売春防止法に違反することになります。
また、ネットなど公衆の目の届く場所で、性交を含むパパ活を勧誘すると、男女問わず売春勧誘罪が成立する可能性があります。
売春防止法違反で実刑はあり得る?
売春防止法違反でも実刑が下される可能性はあり得ます。
実刑を回避するには、刑の執行を猶予されなければなりません。
執行猶予がつく条件は次のとおりです。
- 前に禁固以上の刑に処されたことがない
- 前に禁固以上の刑に処されたが、執行猶予や服役の期間から5年以上経過している
- 言い渡された量刑が3年以下の懲役や禁固、または50万円以下の罰金であるとき
- 前に禁固以上の刑を言い渡されその全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役、禁固刑を言い渡されたとき
例えば、以前も懲役などで服役していて、出所から5年経過していない場合や、管理売春罪などに問われ、言い渡された量刑が3年以上の懲役だった場合、執行猶予はつかないことになります。
売春防止法違反に時効はある?
売春防止法違反にも時効はあります。
この場合の時効とは、犯罪が成立しても、検察が刑事裁判にかけられなくなる公訴時効のことです。
売春防止法違反の公訴時効は次のとおりです。
行為 | 時効 |
売春を勧誘する | 3年 |
売春を仲介する | |
売春目的の前貸し | |
売春をさせる契約をする | |
売春目的と知って場所を提供する | |
困惑などに乗じて売春をさせて対価を得る | 5年 |
継続する意思を持ち、売春の場所を提供する | |
管理する場所に住まわせて売春をさせる | 7年 |
まとめ
この記事では売春防止法違反について解説しました。
売春や買春そのものをした人には罰則が設けられていませんが、勧誘する行為などは処罰対象となります。
知らずに犯罪行為をしている可能性がありますし、近年警察も取り締まりを強化していますので、売春や買春はやめましょう。
もし売春や買春で警察から連絡があったり、家族が逮捕されてしまったりした場合は弁護士に相談して適切な対処をしてください。