占有離脱物横領とは|遺失物横領との違いや刑事処分の傾向は?

占有離脱物横領罪とは、いわゆる置き引きなどをした際に該当する犯罪です。

道で落ちていた現金や放置自転車、ゴミ捨て場のゴミなどを持ち帰った経験がある人もいるかもしれません。

一見軽微な犯罪に見えても立派な犯罪であり、状況によっては重い処分が下される可能性もあるため注意が必要です。

この記事では、占有離脱物横領罪について以下の点をわかりやすく解説します。

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占有離脱物横領とは

占有離脱物横領(せんゆうりだつぶつおうりょう)とは、遺失物や漂流物など、他人の占有を離れた物を横領した場合に成立する犯罪です。

占有離脱物横領という言葉は難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば置き引きや拾得物を自分のものにしてしまう行為がこれにあたります。

ここでは、占有離脱物横領罪と関連する遺失物横領罪の違い、罰則、時効について詳しく解説します。

占有離脱物横領と遺失物横領の違い

遺失物等横領罪(いしつぶつとうおうりょうざい)という犯罪がありますが、これは占有離脱物横領罪の正式名称です。そのため、両者に違いはありません。

占有離脱物横領罪の罰則と時効

占有離脱物横領罪の罰則は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金、もしくは科料です。

(遺失物等横領)

第二百五十四条遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

引用:刑法第254条 – e-Gov

科料とは、1,000円以上1万円未満の罰金です。占有離脱物横領罪の時効は3年です。

占有離脱物横領罪の構成要件

占有離脱物横領罪が成立する条件は以下の通りです。

  1. 遺失物・漂流物など占有を離れた他人の物を
  2. 横領すること

それぞれどのような意味なのか解説します。

遺失物・漂流物など占有を離れた他人の物とは

占有離脱物横領罪が成立するのは、対象物が遺失物・漂流物など、占有を離れた他人の物である必要があります。

遺失物とは 占有者の意思によらずに手元を離れ、誰も占有していない状態の物

典型例は落とし物

漂流物とは 占有者の意思によらず手元を離れ、誰も占有していない物で、水中や水面上にある物のこと
その他占有を離れた他人の物とは 誤って占有した他人の物、他人の置き去った物など、偶然に占有者の占有を脱した物のこと

落とし物を探す場合は、警察の遺失物センターや遺失物係などに問い合わせることがあるため、知っている人もいるかもしれません。

その他占有を離れた他人の物とは、たとえば、飼い主の元から脱走したペットや、精算をした際に、レジで誤って多く渡されたお釣りなどが挙げられます。

横領とは

横領とは、不法領得の意思をもって、遺失物などを自分の支配下に置くことです。簡単に言えば、自分のものにしてしまう行為を指します。

不法領得の意思(ふほうりょうとくのいし)とは、他人のものを自分の所有物のように扱い、経済的に利用したり処分したりする意思のこととされています。

例えば、放置自転車を一時的に借りるだけのつもりでも、長時間使用した場合は、不法領得の意思があると判断される可能性があります。

一方、短時間だけ乗り、元の場所に返した場合は、不法領得の意思がないと判断されることが考えられます。

最初は警察に届けるつもりで拾った物でも、その後、自分のものにしようと考えて消費や処分を行った場合は、その時点で占有離脱物横領罪が成立します。

不法領得の意思の有無は、その時の状況や行動を総合的に判断して決まります。

占有離脱物横領罪とその他の犯罪との違い

占有離脱物横領罪とよく似た犯罪に、横領罪や窃盗罪があります。

場合によっては、業務上横領罪や窃盗罪に問われることもあり、罰則も異なるため注意が必要です。

ここでは、それぞれの犯罪の違いについて解説します。

横領罪との違い

横領罪は、他人から委託されている物を自分の物として利用・処分した際に成立します。

例えば、友人から借りたゲーム機をオークションなどで勝手に売却・換金する行為が挙げられます。

占有離脱物横領罪はこうした横領罪の一種です。横領罪には、以下の種類があります。

横領罪(単純横領罪) 他人から委託を受けているものを自分の物として利用・処分する
業務上横領罪 業務上自分が管理する他人のものを、自分のものとして利用・処分する
占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪) 遺失物など他人の占有から離れたものを、自分の物として利用・処分する

横領罪と占有離脱物横領罪は、所有者との間に委託信任関係(信頼関係のようなもの)が存在することが前提です。

一方、占有離脱物横領罪は、占有者の手元を離れ、誰が占有していたのかわからない物を占有する犯罪です。

横領罪の罰則は、5年以下の懲役です。

(横領)

第二百五十二条自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

引用:刑法第252条 – e-Gov

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業務上横領罪との違い

業務上横領罪は、業務をする上で自分の管理下にある他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。

一番わかりやすいのは、経理担当者が、会社のお金を着服するケースです。

業務上横領罪も、委託信任関係が前提となります。業務上横領罪の罰則は10年以下の懲役です。

(業務上横領)

第二百五十三条業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

引用:刑法第253条 – e-Gov

窃盗罪との違い

窃盗罪とは、他人の財物を盗んだ場合に成立する犯罪です。落とし物を持ち帰る行為は、窃盗罪ではないのかと疑問を持つ人もいるかもしれません。

窃盗罪と占有離脱物横領罪は、対象物が相手の占有下にあるかどうかの違いがあります。

例えば、公園や駅の椅子に置かれた財布を自分のものにした場合で考えます。

所有者が近くにいる場合 所有者がトイレなどへ行き、一時的にその場を離れていた場合は、その財布には所有者の占有が認められると判断され、窃盗罪が適用される可能性がある
所有者が気づかずに移動している場合 その財布は所有者の占有下にないとして、占有離脱物横領罪が成立する可能性がある

対象物が、所有者の占有下にあったかどうかは、以下の状況により判断が異なります。

  • 占有者とその物の場所的な距離
  • 占有者が置き忘れに気づくまでの時間
  • 所有者本人の意識 など

また、窃盗罪の罰則は10年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。

(窃盗)

第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用:刑法第235条 – e-Gov

状況により適用される罪が異なり、窃盗罪となった場合は、占有離脱物横領罪よりも重い処分となる可能性があります。

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占有離脱物横領罪に該当する行為

占有離脱物横領罪に該当する行為の具体例は以下の通りです。

  • 道で拾った財布や現金を自分のものにする
  • レジで誤ってお釣りを多く渡されたことに気づきながら持ち帰った
  • ご送金されたことを知りながら、振り込まれたお金を使用した
  • 放置自転車を持ち去った
  • ゴミ捨て場のゴミを拾って持ち帰った など

ゴミ捨て場のゴミは捨てられた物なので持ち帰っても問題ないと思う人もいるかもしれません。

しかし、ゴミ捨て場の物でも、占有者が気づかないうちに捨てられた遺失物だと判断される可能性があります。

また、ゴミ捨て場にある物は、そのゴミ捨て場を管理しているマンションなどの管理人や住人、ゴミ回収を行う自治体が占有していると判断される場合もあります。

他人の占有下にある物を持ち去ると窃盗罪が成立するおそれがあります。

占有離脱物横領罪に問われたらどうなる?

路上に現金が落ちていて、誰も見ていなければつい自分の懐に入れてしまう、そのような経験をしたことがある人もいるかもしれません。

しかし、軽い気持ちで行った行為でも、立派な犯罪となり、警察から事情を聞かれることもあります。

ここでは、占有離脱物横領罪に問われた場合にどうなるのかを解説します。

占有離脱物横領罪の検挙率は高い

法務省によると、2022年の占有離脱物横領罪の検挙率は71.7%でした。検挙とは、捜査機関が被疑者を特定し、刑事手続きを進めたことを意味します。

そのため、置き引きなどの行為をした人の7割が特定されていることになります。

ただし、犯罪行為があったからといって、そのすべてが逮捕されるとは限りません。

逮捕が行われるには、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるなどの要件が必要です。

占有離脱物横領罪の場合、比較的軽微な犯罪であり、被疑者に逃亡などのおそれが少ないため、逮捕されない可能性があります。

同統計によると、占有離脱物横領罪を含む横領罪で逮捕された人の割合は15.1%でした。

参考:令和5年版 犯罪白書 第1編 犯罪の動向 第1章 刑法犯 第1節 刑法犯 1 認知件数と発生率 – 法務省

微罪処分で釈放されることがある

占有離脱物横領罪は、微罪処分で事件が終了することがあります。

警察が捜査をして被疑者を特定した事件では、最終的に事件は検察に引き継がれ(送致)、刑事裁判にかけるかどうかを検察が判断します。

しかし、軽微な事件では、警察が検察に送致せずに事件が終了することもあります。

微罪処分となる条件は各検察庁によって定められていますが、対象となる犯罪は公表されていません。

しかし、比較的軽微な占有離脱物横領罪などで、被疑者が反省を示し、被害者も処罰を望まない場合などに微罪処分となる可能性があります。

微罪処分となれば、逮捕などの身柄拘束が行われず、事件も早期に解決し、前科がつかずに済みます。

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在宅事件として扱われる

逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば、逮捕は行われません。横領罪の逮捕率は15%なので、85%は逮捕されていないことになります。

しかし、逮捕されなくても、警察や検察の捜査は継続します。身柄拘束が行われずに、捜査が進む事件を在宅事件と言います。

在宅事件でも、通常通り捜査は行われ、在宅のまま起訴されれば、刑事裁判で裁かれることもあります。

在宅事件では、裁判になるまで国選弁護人が選任されないため、起訴される前に弁護士に相談して、適切なサポートを受けることが重要です。

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占有離脱物横領罪の起訴率は低い

前述の統計によると、占有離脱物横領罪を含む横領罪の起訴率は約21.5%で、不起訴率は78.5%です。

起訴されたうち、正式裁判になった人は73.8%、略式起訴で罰金刑になったのは26.1%でした。正式裁判は、公開の裁判で審理されます。

一方、比較的軽微な罪で、100万円以下の罰金刑が適用されるケースでは、略式起訴による罰金刑が科される場合があります。

略式起訴とは、公開の裁判が行わず、被疑者の同意のもと書面審理のみで進める簡易的な手続きです。

裁判への出席が不要で拘束を受けずに済み、罰金を納付すれば事件は終了しますが、前科がつく点には注意が必要です。

いずれの場合も、早期に被害者に謝罪し示談を行うことで、不起訴となる可能性が高まります。

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占有離脱物横領罪で弁護士に相談すべきケース

占有離脱物横領罪は、一見軽微な犯罪ですが、重い処分にならないだろうと思うのは危険です。

場合によっては重い処分が下されるリスクがあります。

ここでは、警察から連絡があった場合や逮捕された場合に、弁護士に相談すべきケースを解説します。

窃盗が疑われている場合

前述の通り、占有離脱物横領罪と窃盗罪は、対象物が持ち主の占有下にあったかどうかで適用される罪が異なります。

占有離脱物横領罪の罰則は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金、もしくは科料です。

しかし、窃盗罪の場合は10年以下の懲役または50万円以下の罰金と、遥かに重い処分となります。

実際に以下のケースでは、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪が適用されています。

  • バス停に置き忘れたカメラを持ち帰った事件
  • 公園のベンチに置き忘れたポシェットを持ち去った事件

これらの事件では、持ち主がその場を離れて4~5分、距離にして約20~30メートル離れていましたが、対象物が持ち主の占有下にあると判断され、窃盗罪が成立しました。

このように窃盗罪が疑われたり、争点となったりする事案であれば、専門的な知識が求められるため、弁護士に相談するべきです。

前科前歴があり被害額が高額な場合

占有離脱物横領罪は比較的軽微な犯罪ですが、初犯であっても、前科前歴がある場合や、被害額が高額な場合は、実刑となる可能性があります。

これまでの前科前歴や被害額が高額な場合も、弁護士に相談し、適切な対応策を講じることが重要です。

不起訴や執行猶予を得たい場合

不起訴や執行猶予を得たい場合も、弁護士に相談するのが一番です。特に、被害者との示談が成立すれば、処分の軽減が期待できます。

ただし、加害者側が被害者と直接接触して示談を行うのは難しいケースも多く見られます。

被害者と面識がなければ、連絡先を知る手段がないため、謝罪や示談の申し入れも、弁護士を通じて行うのが一般的です。

なお、被害者と示談をする際には、横領したものはそのまま返却し、処分するのは避けましょう。

まとめ

占有離脱物横領罪は、人の占有下にない物、たとえば遺失物や漂流物などを横領した際に成立します。

しかし、不法領得の意思の有無や、横領した物が人の占有下にあったかどうかによって、適用される罪名は異なります。

さらに、窃盗罪に問われると、重い処分が科される可能性があります。

一見軽微な犯罪に思えますが、犯罪行為であることに変わりはありません。

多く渡されたお釣りや放置されている自転車、ゴミ捨て場のゴミなどを持ち帰ることは避けましょう。

万が一、占有離脱物横領罪で警察から連絡を受けた場合は、弁護士に相談しましょう。

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