ストーカー規制法とは?改正点を中心に徹底解説
ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)は、平成12年に制定されて以降、インターネット技術の進歩によるストーカー行為の変化等に伴い、何度か改正がおこなわれています。近年の事案の実情を踏まえ、令和3年5月26日にも一部を改正する法律が公布されました。どのような行為がストーカー規制法に違反するようになったのか、具体的な例を含めて解説していきます。
ストーカー規制法とは?
ストーカー規制法の正式名称はストーカー行為等の規制に関する法律(以下「ストーカー規制法」あるいは単に「法」といいます。)といいます。ストーカーと呼ばれる行為等を規制するための法律です。以下、詳しく解説します。
ストーカー規制法の概要
ストーカー規制法とは、つきまとい等を繰り返すストーカー加害者に警告を与えたり、悪質な場合には逮捕したりすることで、被害者を守るための法律です。
ストーカー規制法の条文の内容、誕生したきっかけ
ストーカー規制法の条文の内容と、この法律が誕生したきっかけについて解説します。
ストーカー規制法の条文について
ストーカー規制法には、以下のことが定められています。
- 「つきまとい等」の行為についての定義
- つきまとい等の行為をした場合に取られる対策
- つきまとい等の行為をした場合の罰則
ストーカー規制法が誕生したきかっけ
ストーカー規制法が成立する以前は、つきまとい等のストーカー被害に遭った被害者を救うための法律が無く、警察に相談しても警察が動くことができませんでした。
ストーカー規制法が誕生したきっかけは、つきまとい行為を受けていた被害女性が殺害されるという事件、いわゆる平成11年に発生した「桶川ストーカー殺人事件」です。この事件がきっかけとなり、ようやく法律が制定されました。
ストーカー規制法の対象となる行為
ストーカー規制法第2条には規制の対象となる行為について記載されています。この法律による規制の対象となるのは以下2つです。
- つきまとい等(同法第2条第1項)
- ストーカー行為(同法第2条第4項)
この法律では、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者又はその家族等に対して行う「つきまとい等」8つのパターンを規制しています。具体的にどのような行為が規制の対象となるか簡単に解説します。
つきまとい、待ち伏せ、押しかけ、見張り、うろつき
例えば尾行、待ち伏せ、立ちふさがり、学校や職場、自宅近辺で見張り、うろつく等の行為です。
監視していると告げる行為
例えば帰宅した途端に「おかえり」などの電話がくる、実際には会っていないはずなのに「今日の洋服は〇〇で似合っていたよ」などと具体的に感想を伝えてくるなど、どこかで監視していることがわかるなどの行為です。
面会・交際などの要求
例えば家などにプレゼントを持って押しかけ、受け取りに出てこいと伝えるなどの行為です。
乱暴な言動
例えば家まで押しかけてきて玄関の前等で大声で「バカヤロー」等と言ったり、車のクラクションを鳴らし続けるなどの行為です。
無言電話、連続した電話、メール、SNSのメッセージ、文書等
例えば拒否しているにもかかわらず電話を何度もかけてきたり、メール等を多数送り付けたりするなどの行為です。
汚物などの送付
例えば汚物や動物・虫の死骸などの不快感や嫌悪感を与えるものを送りつけるなどの行為です。
名誉を傷つける
被害者の名誉を傷つけるような文章をインターネット上に掲載したり、文書を送りつけたりするなどの行為です。
性的羞恥心の侵害
わいせつな写真や画像を送りつけたり、電話で卑猥な言葉を発したりして辱めようとするなどの行為です。
つきまとい等を繰り返して行うストーカー行為
同一の者に対し、恋愛感情やその他の好意の感情またはその感情が満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的でつきまとい等を繰り返して行うことにより、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような行為がストーカー行為となります。
ストーカー規制法違反の罰則
ストーカー規制法に違反した場合の罰則は、以下3種類があります。
- ストーカー行為をした場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
- 禁止命令などに違反してストーカー行為をした場合には、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金
- その他禁止命令等に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
ストーカー規制法第18条 ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
同法第19条 禁止命令等(第5条第1項第1号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。
同法第20条 前条に規定するもののほか、禁止命令等に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
ストーカー規制法違反の時効
ストーカー規制法違反の行為の時効は刑事訴訟法第250条により、3年です。
刑事訴訟法第250条第2項 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
6 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
引用:e-GOV法令検索
ストーカー規制法の改正について
ストーカー規制法は、平成12年に制定されてから、その後の社会情勢の変化やIT技術の著しい進歩等により、数回改正が行われています。どのような改正が行われたか解説します。
ストーカー規制法の改正の概要
ストーカー規制法が成立した平成12年にはまだEメールはそこまで一般的ではありませんでした。そのため成立時のつきまとい行為の中にEメールの送信は含まれていませんでした。
平成24年に神奈川県逗子市で起こったストーカー殺人事件では、加害者男性は何通もEメールを送信し、「刺し殺す」などのメールを送付したことを理由に脅迫罪で逮捕もされていました。その事件で執行猶予になった後も、1,000通以上もの嫌がらせメールを送信していましたが、「連続して電子メールの送信等をすること」は規制の対象外だったため、警察も動けませんでした。結果、被害者は刺殺されてしまいました。この事件発生により明らかとなった問題点等を踏まえ、電子メールを送信する行為を規制対象として追加し、禁止命令等をすることができる公安委員会等の拡大など、被害者の関与の強化措置が講じられました。
平成28年12月のストーカー規制法改正により、急に加害者の行為が激化して重大事件に発展するおそれがあるなどのストーカー事案の特徴を踏まえて、都道府県公安員会は、警告の存在を要件とせずに禁止命令等をすることなどが可能となりました。また、同改正では、以下の行為が「つきまとい等」に追加されるとともに、ストーカー行為罪の非親告罪化、ストーカー行為等についての法定刑の引上げがなされました。
- 住居等の付近をみだりにうろつく行為
- 拒まれたにもかかわらず連続してSNSのメッセージ機能を利用してメッセージを送信する行為
- ブログ等の個人ページにコメント等を書き込む行為 など
令和3年6月から、相手方が現に所在する場所の付近における見張り等や拒まれたにもかかわらず、連続して文書を送付する行為が「つきまとい等」に追加されました。
令和3年8月から、相手方の承諾なく、その所持する位置情報記録・送信装置(GPS機器等)に係る位置情報を取得する行為及び相手方の承諾なく、その所持する物にGPS機器等を取り付けるなどの行為が「位置情報無承諾取得等」として規制対象行為に加えられました。
主な改正の内容
令和3年の主な改正の内容について詳しく解説します。
実際にいる場所の付近における見張り等
令和3年6月15日から、実際にいる場所における見張り等の行為が規制の対象となりました。それまでの規制対象は、住居、勤務先、学校などの通常いる場所に限定されていましたが、相手が実際にいる場所が追加され実際にいる場所の付近において見張る、押しかける、みだりにうろつく行為が規制の対象となりました。
拒否されたのに何度も「文書」を送る行為
令和3年6月15日から、拒まれたにもかかわらず連続して文書を送る行為も規制の対象となりました。それまでの規制対象は電話、FAX、電子メール、SNSメッセージ等でしたが、それに加えて拒まれたにもかかわらず連続して文書を送る行為が新たに規制対象となりました。自宅や勤務先などに毎日手紙を送ったり、自宅の郵便受けに直接何度も手紙を投函したりするなどの行為が該当します。
GPS機器等を用いた位置情報の無承諾取得等
令和3年8月26日から、GPS機器等の機能を利用し、相手の承諾なしに位置情報を取得する行為が規制の対象となりました。持ち物や車等にGPSを無断で取り付ける行為、相手に伝えずにGPSが付いたものを渡して位置情報を取得する行為や、無断で位置情報が共有できるアプリをダウンロードして悪用する行為などです。これらに該当する行為は、警告・禁止命令等の対象です。
ストーカー規制法の警告、禁止命令とは
ストーカー規制法で規制されている行為を行うと、警告・禁止命令の対象となります。この警告、禁止命令について解説します。
警告とは
警察本部長等が、被害者からの警告を求める旨の申し出に応じて、つきまとい等の加害者に対して更に反復してつきまとい等を行ってはならない旨警告することです。(法第4条)
ストーカー規制法第4条 警視総監若しくは道府県警察本部長又は警察署晃(以下「警察本部長等」という。)は、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をされたとして当該つきまとい等又は位置情報無承諾取得等に係る警告を求める旨の申出を受けた場合において、当該申出に係る前条の規定に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、更に反復して当該行為をしてはならない旨を警告することができる。
引用:e-GOV法令検索
禁止命令とは
都道府県公安委員会が、加害者が更に反復してつきまとい等をするおそれがあると認めるときに、更に反復してつきまとい等をしてはならない旨の命令を発することです。(法第5条)
ストーカー規制法第5条 都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、第3条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、その相手方の申出により、又は職権で、当該行為をした者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項を命ずることができる。
1 更に反復して当該行為をしてはならないこと。
2 更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項
引用:e-GOV法令検索
警告を受けた場合の対応
ストーカー規制法の対象となる行為をしてしまい、警告や禁止命令を受けた場合にどのようにすべきか解説します。
つきまとい行為等をやめる
警告や禁止命令を受けた場合には、自分の行為がストーカー規制法で規制されている行為に該当することを自覚しましょう。つきまとい等の行為をする人は、自分の行為がストーカー規制法に該当することを自覚していないケースがあります。自分が行っている行為がつきまとい等の行為に該当すると自覚して、今後つきまとい等の行為をやめる必要があります。
被害者に直接連絡をしない
警告や禁止命令を受けた場合に、加害者は自分の行為がストーカー規制法で規制されているつきまとい等の行為には該当しないと、被害者に直接伝えて理解してもらおうとするケースがあります。加害者は自分が悪いことをしているという認識がないことも多く、被害者に自分は悪くないと説明すればわかってもらえると思っています。
警告や禁止命令を受けた場合には、自分の行為がつきまとい等の行為であることを自覚すること、被害者に連絡をしないことが重要です。
ストーカー規制法に違反すると逮捕される?
つきまとい等やストーカー行為等のストーカー規制法違反行為をすると逮捕されてしまうのでしょうか?
ストーカー規制法違反で逮捕されるきっかけ
ストーカー規制法違反の行為をした場合に、警告や禁止命令を受けるときもありますが、被害者が被害にあったことの報告および、加害者を厳しく処罰して欲しいとの告発(告訴)があった場合には、このような過程を経ずに逮捕される場合もあります。
以前は被害者の告訴を必要としていましたが、平成29年1月に非親告罪に改正されました。そして、被害者に危険が及ぶと警察が判断すれば、「警告」の手続きを踏まずに「緊急禁止命令」を発令できるようになりました。
ストーカー行為は、加害者の身柄を拘束しないと被害者に危害を加える危険性があるため、逮捕される可能性があります。
ストーカー規制法違反の場合は、現につきまとい等の行為をしているときに現行犯逮捕される可能性があります。
被害者の自宅に大量の手紙やメール等が届いた等の証拠により後日逮捕される可能性もあります。
ストーカー規制法違反の行為をした場合には、実害が発生する前に警察が介入できるようになっています。
ストーカー規制法違反で逮捕された後の流れ
ストーカー規制法違反で逮捕された場合の流れは、通常の逮捕の流れと同じです。
- 逮捕後警察官による取り調べがおこなわれ、48時間以内に釈放されるか、検察官に送致されます。
- 検察官は事件を受け取ってから24時間以内に加害者を勾留するか釈放するか決定します。
- 勾留決定された場合、原則10日間、延長されると更に10日間、最大で合計20日間身柄拘束が続きます。
- 検察官は勾留期間満期前に、起訴するか不起訴にするか決めます。
- 不起訴になれば事件は終了しますが、起訴されると刑事裁判を受けます。
- 起訴されると公開の法廷で裁判官の審理を受けます。
- 無罪判決の場合には即時釈放されます。有罪の場合には量刑が言い渡されます。
逮捕後の最大72時間は原則として弁護人以外は面会(接見)できません。
日本の刑事裁判では起訴されると99.9%が有罪となるので、起訴された場合には前科がつく可能性が高いです。
ストーカー規制法違反で逮捕された場合の対応
ストーカー規制法違反で逮捕された場合、前科がつくことを避けるためには何をすれば良いのでしょうか?
ここでは、ストーカー規制法違反で逮捕された場合の対応について、解説します。
被害者と示談交渉をする
不起訴を得るためには、被害者との示談成立が重要です。つきまといやストーカー行為等を受けた被害者は強い恐怖心や処罰感情をもっていることが多く、被害者の処罰感情が強い場合には、起訴される可能性が高いです。
被害者との間で示談が成立すれば、被害者の処罰感情がなくなったとされ、不起訴で終わる可能性が高くなります。
刑事弁護を依頼する
逮捕されると取り調べ期間である最大72時間は、原則として弁護人以外の人と会えません。加害者本人による被害者との示談交渉もまず不可能です。被害者との間で示談できない場合には起訴され、公開の法廷で刑事裁判が開かれ有罪判決を言い渡される可能性が高いです。ストーカー規制法違反で逮捕された場合には早急に弁護士に依頼しましょう。
まとめ
ストーカー規制法に違反してしまい、警告や禁止命令を受けた場合には、早期に弁護士に相談しましょう。加害者は、自分の行為がつきまとい等の行為やストーカー行為に該当する行為であることを自覚していないケースがあります。
弁護士に相談し、自分の行為がストーカー規制法違反の行為であることを自覚し、逮捕に至る前につきまとい等の行為をやめ、被害者と示談が成立すれば後日逮捕される可能性が低くなります。
ストーカー規制法に違反する行為をしているかもしれない場合、警告や禁止命令を受けた場合、逮捕されてしまった場合には早期に弁護士に依頼することをお勧めします。