傷害事件で逮捕される場合は?逮捕後の流れと期間

傷害事件を起こした場合、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、逮捕される可能性があります。
たとえ逮捕されていなくても、定期的に検察に呼び出されて取調べを受けている場合は、在宅事件として捜査されていることが考えられます。
在宅事件の場合は、身柄拘束は行われませんが、そのまま刑事裁判で訴えられる(起訴)されることもあるため、放置するのは危険です。
この記事では、傷害事件の逮捕について、以下の点を解説します。
- 傷害事件で逮捕される割合や逮捕されるケース
- 傷害事件で逮捕された後の流れ・呼び出された後の流れ
- 傷害事件で逮捕された場合の対処法
目次
傷害罪では逮捕されない?
傷害事件を起こしても、逮捕されるケースと逮捕されないケースがあります。
以下では傷害事件の逮捕について、逮捕の割合や逮捕されるケース、警察や検察から呼び出された場合について解説します。
傷害罪で逮捕される割合
法務省によると、2022年に傷害罪で逮捕された人の割合は50.2%でした。傷害事件があった場合に、半数は逮捕されていることになります。
しかし、逮捕されないからといって、捜査が行われていないわけではありません。
前述したとおり、在宅事件として、身柄拘束が行われずに捜査が継続していて、最終的に処分が下されることもあります。
参考:令和5年版 犯罪白書 第2編 犯罪者の処遇 第2章 検察 第4節 被疑事件の処理 – 法務省
傷害事件の逮捕の種類
よく知られている逮捕の一つは、駆けつけた警官に取り押さえられる現行犯逮捕です。傷害事件で逮捕されるケースには、現行犯逮捕のほかに通常逮捕があります。
通常逮捕とは、裁判所が発布した逮捕状を提示して行う逮捕です。
警察が捜査を行い、後日自宅を尋ねて行う逮捕であり、後日逮捕と呼ばれることがあります。
罪を犯した人をその場で取り押さえる現行犯逮捕と比べ、後日行う逮捕は誤認逮捕のリスクがあります。
そのため、通常逮捕の要件は、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、裁判所の許可を得ることが厳格に定められています。
傷害罪で逮捕されるケース
傷害罪で通常逮捕されるケースは、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合です(刑事訴訟法第199条)。
例えば、以下のようなケースでは逮捕される可能性があります。
- 無職・住所不定
- 被害者が入院するなどの重傷を負った
- 被害者に暴行を加えた後に逃走している
- 共犯者がいる・複数人が関与している
- 明確な証拠があるにもかかわらず、事情聴取で容疑を否認している
一方で、以下のようなケースでは逮捕が行われないことが考えられます。
- 定職についている・家族がいる
- 被害者と示談が成立しており、被害者も許している
- 自分から自首した
- 取調べに適切に応じている
- 比較的軽微な罪で実刑判決となる可能性が低い
傷害事件で逮捕されるまでの期間
傷害事件で逮捕されるまでの期間は、明確に決まっておらず、警察の捜査次第です。
加害者と被害者の口論などで発生した傷害事件の場合は、事件からおおよそ1か月程度で通常逮捕されることがあります。
一方で、加害者が複数人いるような場合は、捜査から逮捕まで半年や1年ほどかかることがあります。
傷害事件で警察や検察から呼び出された場合
傷害事件で警察や検察から呼び出された場合、在宅事件として取調べが行われる可能性があります。呼び出しにしっかり応じていれば、逮捕されないことが多いです。
しかし、検察の呼び出しに応じなかったり、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されたりすれば、逮捕される可能性もあります。
傷害事件の逮捕後の流れ
傷害事件で逮捕された場合の大きな流れは以下のとおりです。
- 警察が捜査・取調べ
- 起訴の権限を持つ検察に事件を引き継ぐ(送致)
- 検察が起訴か不起訴かを判断
- 起訴されると裁判で処分が下される
ここでは、逮捕後の流れと各段階でのリスクについて詳しく解説します。
【逮捕から48時間以内】検察への送致
警察は逮捕後、取調べなどを行い、48時間以内に検察に送致します。
逮捕が行われる身柄事件では、無罪の可能性がある被疑者を長期間拘束すると、被疑者にとっての不利益が生じるため、身柄拘束の制限時間が厳格に定められています。
【逮捕から72時間以内】勾留の要否の判断
送致を受けた検察は、送致から24時間以内に勾留の要否を判断します。
逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、裁判所の許可のもと、警察の留置場に身柄を拘束されます。
前述の統計によると、傷害事件で逮捕から勾留された割合は、94.9%でした。
なお、この勾留が決定するまでは、被疑者は家族と面会することができません。国選弁護人が選任されるのも勾留決定後です。
【10~20日間】勾留
勾留期間は原則10日間ですが、必要に応じてさらに10日間延長される可能性があり、最大20日間も身柄拘束を受けるおそれがあります。
10~20日間も勾留されてしまうと、社会とは完全に隔絶され、学校や職場にも逮捕の事実を隠し通すのが難しくなります。
起訴・不起訴の判断
勾留期間が終了する前に、検察は起訴か不起訴かを判断します。起訴には通常起訴と略式起訴の2種類があり、それぞれ刑事手続きが異なります。
起訴の種類 | 内容 | 処分 |
通常起訴 | 検察官が裁判所に正式に起訴する手続き | 公開の刑事裁判が行われ、有罪となれば懲役刑・罰金刑などが科される |
略式起訴 | 軽微な犯罪で罰金刑が相当と判断された場合に、裁判所が書面審査のみで罰金刑を決定する手続き | 100万円以下の罰金刑のみ(懲役刑はなし) |
略式起訴の場合は、略式起訴の当日に裁判所から罰金が言い渡されるため、罰金を納付すれば釈放されます。
不起訴処分となった場合も、事件の捜査は終了し、身柄が釈放されます。
なお、通常起訴となった場合、裁判の有罪率は99%です。そのため、起訴されるまでに、弁護士に依頼して、被害者と示談を成立させるなどのサポートを受けることが重要です。
【2か月】起訴後の勾留
通常起訴された場合も、裁判所の判断により、裁判が行われるまで勾留が続く可能性があります(起訴後の勾留)。
起訴後の勾留は原則2か月ですが、継続の必要性があれば、1か月更新されます。
さらに、1年以上の懲役にあたる罪を犯した場合などは、更新に制限がありません(刑事訴訟法第60条、第89条)。
ただし、裁判所に保釈金を預けて、保釈が認められれば、一時的に身柄が釈放されます。
2022年の司法統計によると、傷害事件で起訴後に勾留された期間は、2か月以内が最多(25.6%)で、2~3か月程度が多い傾向にあります。1年を超えるケースは4.4%でした。
参考:第32表通常第一審事件の終局総人員―罪名別処遇(勾留、保釈関係)別―地方裁判所管内全地方裁判所・全簡易裁判所別 – 司法統計
刑事裁判
起訴されると、刑事裁判が開かれます。傷害事件では、罰金刑や執行猶予付きの判決、実刑判決などが下される可能性があります。
仮に罰金刑や執行猶予がついたとしても、有罪判決となった場合は前科がつくことになります。
傷害事件で警察から呼び出しを受けた後の流れ
傷害罪で逮捕されず、在宅事件として警察や検察から呼び出しを受けた後の流れは以下のとおりです。
- 警察による取調べ
- 検察へ事件を書類送致
- 検察による取調べ
- 在宅起訴
- 裁判
事件の内容にもよりますが、警察は3回程度呼び出しを行い、捜査から1~2か月程度で書類送致が行われます(書類のみ検察に引き継ぐ)。
事件が引き継がれた検察は1~2回ほど呼び出しを行い、1~2か月程度で起訴か不起訴かが判断されます。
通常の起訴をされた場合は、起訴から約1か月ほどで裁判が行われるので、自宅から出席して処分の言い渡しを受けます。
傷害罪の傾向|起訴される確率は?
傷害事件を起こしてしまった場合に逮捕・起訴される確率はどのくらいなのでしょうか。法務省の犯罪白書や司法統計をもとに紹介します。
傷害罪の検挙率と起訴率
2022年の傷害罪の検挙率と起訴率は以下のとおりです。
検挙率 | 81.2% |
起訴率 | 32% |
通常起訴 | 37.6% |
略式起訴 | 62.4% |
不起訴 | 68% |
傷害事件の検挙率は高く、8割で加害者が特定されています。傾向として、略式起訴が多いです。
被害者と示談を成立させるなど、適切なサポートを受けることで、不起訴処分を得られる可能性があります。
傷害罪初犯の処分の傾向
傷害罪の初犯の処分の傾向については、統計などのデータがありません。
初犯の事実は、刑事処に有利な事情として考慮されるため、重い処分が下されないと考える人もいるかもしれません。
傷害罪の量刑判断には、暴行の内容や凶器使用の有無、計画性、加害者の人数、そしてケガの程度、治療期間、被害弁済や反省の程度なども考慮されます。
被害者のケガの程度がどのくらいであれば、処分が重くなるのかといった明確な基準はありません。
しかし、治療期間が数か月に及ぶ重症であったり、後遺障害が発生したりする場合には、初犯であっても実刑判決が下される可能性があります。
傷害罪の懲役・罰金の相場
傷害事件で懲役刑や罰金刑が科された場合の相場は以下のとおりです。
懲役 | 人数 |
15年以下 | 10人 |
10年以下 | 18人 |
7年以下 | 33人 |
5年以下 | 67人 |
3年 | 20人(78人) |
2年以上 | 115人(281人) |
1年以上 | 216人(588人) |
1年以下 | 206人(164人) |
※()は執行猶予
執行猶予がついた割合は61.9%でした。ただし、執行猶予は言い渡される量刑が3年以下などの条件があります。
罰金刑 | 人数 |
100万円以上 | 1人(0.3%) |
50万円以上 | 16人(4.7%) |
30万円以上 | 108人(31.7%) |
20万円以上 | 109人(32%) |
10万円以上 | 98人(28.7%) |
10万円以下 | 9人(2.6%) |
罰金刑の場合は、20~30万円となるケースが多いようです。
傷害事件の示談金の相場
示談金には、以下のような費用が含まれ、ケガの程度に応じた治療によっても相場は異なります。
治療費・入通院費 | 入通院費・手術費などケガの治療にかかった費用 |
休業補償 | 被害者がケガで仕事を休んだ場合の損害補填 |
慰謝料 | ケガによる痛み・精神的苦痛に対する賠償金 |
傾向として、ケガの程度別の示談金の相場は以下のとおりです。
- 全治1週間の場合:10万円前後
- 全治2週間の場合:20万円~40万円前後
- 全治1か月の場合:50万円~100万円
ただし、ケガの程度や治療内容、入院の有無などによって異なるため、あくまでも目安となります。
傷害事件で逮捕された場合の対処法
傷害事件で逮捕された場合、長期間の身柄拘束や前科がつくリスクがあります。仮に逮捕されず在宅起訴された場合でも、刑事処分が下されるおそれがあるため、軽視するのは危険です。
ここでは、傷害事件で逮捕された場合の対処法を解説します。
弁護士に依頼する
傷害事件で逮捕や警察から呼び出しを受けた場合は、早急に弁護士への依頼をおすすめします。弁護士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
- 逮捕前に示談が成立すれば、事件が解決したと判断され、逮捕されないことがある
- 裁判でも証拠となる取調べについて、適切なアドバイスが得られる
- 不起訴の獲得で早期釈放が期待できる
- 不起訴処分となり前科を回避するためのサポートが受けられる
- 起訴されても執行猶予を目指して対応してもらえる
知らない人とトラブルになり傷害事件に発展した場合は、長期間の拘束により、会社や学校にも大きな影響を与えることになります。
公務員や医師などは一定の刑罰を受けることで、欠格事由となり失職するおそれもあるため、早急な対処が必要です。
国選弁護人の選任までは時間がかかってしまうため、起訴までに早期釈放を目指すなら弁護士に依頼することをおすすめします。

被害者に謝罪し示談交渉をする
傷害罪で逮捕された場合でも、被害者に謝罪を行い、示談が成立することで、勾留前の身柄釈放や不起訴となり、前科が避けられる可能性があります。
起訴後であっても、執行猶予がつくことがあり、刑務所に収容されずに済むことがあります。そのため、被害者がいる犯罪では、示談が非常に重要です。
示談するためには被害者と交渉をしなければなりません。
しかし、被害者が知り合いでない場合は、連絡先がわからず接触が困難です。仮に知人であったとしても、加害者からの連絡に対して、怒りや恐怖心から、加害者本人からの連絡を拒む傾向にあります。
弁護士に依頼することで、検察などから被害者の連絡先を聞き出し、示談を申し入れることが可能です。被害者も、弁護士であれば交渉に応じてくれる可能性があります。
そもそも加害者が逮捕や勾留されている場合は示談交渉ができません。こうした理由もあるため、示談交渉は弁護士に任せましょう。
傷害罪の逮捕に関するよくある質問
傷害罪ってどんな罪?
傷害罪とは人の身体に怪我等の傷害を負わせたときに成立する犯罪です。暴行の結果人を傷害するに至ったときに成立します(刑法第204条)。
傷害とは、人の身体の生理的機能を害することと解されており、骨折等怪我を負わせただけではなく、精神的に追い込み被害者がうつ病を発症した場合等も傷害罪になります。
なお、傷害罪の罰則は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
暴行罪との違いは?
暴行罪は、暴行の結果人を傷害するに至らなかったときに成立します(刑法第208条)。
暴行罪も傷害罪も人の身体に対して暴行を加えたという行為があり、その結果傷害に至らなかった場合には暴行罪となり、傷害に至ると傷害罪となります。
まとめ
傷害罪で有罪になると、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
被害者が負ったケガの程度や犯行態様によっては、初犯であっても実刑が下されることもあります。
刑事処分を軽くするには、被害者との示談成立が重要ですが、加害者本人がする示談交渉にはさまざまなリスクや困難があります。示談交渉は弁護士に任せることをおすすめします。
ネクスパート法律事務所では、傷害事件を解決した豊富な実績があります。
警察や検察から呼び出しを受けるなどして逮捕が不安な場合や、早急に被害者と示談したい場合は、お気軽にご相談ください。