窃盗罪の再犯とは?|刑罰の流れや罰則について解説
窃盗罪は他の犯罪と比べ再犯率の高い犯罪です。近年は窃盗罪再犯者のうち、高齢者の占める割合の増加が問題となっています。この記事では窃盗罪の再犯をしてしまった場合にどのような刑事手続きの流れになるのか、刑罰はどうなるのか等を解説します。
目次
窃盗罪の再犯率|窃盗罪総数では48%
平成26年版犯罪白書で窃盗事犯者と再犯の特集が組まれました。同特集では、窃盗罪を侵入窃盗、非侵入窃盗、乗り物盗に分類しています。この記事では同白書およびそれ以降の白書のデータ等をもとに再犯について解説します。
平成26年版犯罪白書によると窃盗罪総数の再犯率は48%ですが、侵入窃盗は67.4%、非侵入窃盗は47.9%、乗り物盗は39.1%です。侵入窃盗の再犯率の高さが窺えます。
備考 再犯の定義について
刑法第56条に再犯とはどのようなものか規定されています。
刑法第56条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
引用:e-GOV法令検索
これによると、刑法上の再犯の要件は以下3つです。
- 懲役に処せられた者
- 刑の執行を終わった日または刑の執行の免除を得た日から5年以内であること
- 更に罪を犯した
一方、犯罪白書では、再犯とは、刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者とされています。
この記事は、前科(罰金を含む)がある人が再び犯行をしてしまった場合、どう対応するのかを伝える目的で執筆さしています。そのため、記事内での再犯の定義を「以前罰金を含む何らかの罪で検挙されたことがあり再び検挙された者」とします。
刑法での再犯の定義(懲役に処せられた者が更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するとき、再犯とする)とは意味が異なる点をご了承ください。
再犯者に対する刑の加重(刑法第57条)
刑法では再犯者に対しては刑を加重できると規定しています。
刑法第57条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする。
引用:e-GOV法令検索
再犯加重は、最低は法定刑のままで、最高は法定刑の2倍以下とすると規定されています。
窃盗罪は10年以下の懲役が最高限のため、再犯は20年以下の懲役の範囲内で刑罰を科すことができます。
刑法第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
引用:e-GOV法令検索
窃盗罪の起訴人員の中の有前科者率は53.5%
令和元年に起訴された者のうち、有前科者(前に罰金以上の有罪の確定裁判を受けた者に限る)の割合は、窃盗罪では53.5%です。
窃盗罪再犯の罰則
窃盗罪再犯の罰則は上述のとおり、20年以下の懲役又は50万円以下の罰金となり、裁判所がその範囲内で罰則を言い渡します。
窃盗罪再犯の時期による違い
窃盗罪再犯の罰則は、いつ再犯を行ったかにより変わります。以下、解説します。
執行猶予中の窃盗罪再犯
前の罪の執行猶予期間中に更に窃盗罪を犯した場合について解説します。
執行猶予期間中の窃盗罪に、再び執行猶予がつくこともありますが、その要件は厳しいです。
具体的には以下3つの要件を満たさなければなりません。
- 言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であること
- 特に酌量すべき情状があること
- 前科について保護観察がつけられ、その期間中の再犯ではないこと
上記要件を満たさない場合には、執行猶予が付かず、実刑判決が言い渡されます。一般的に、執行猶予中の再犯の場合には厳しい判決が予想されます。窃盗罪についての実刑判決が言い渡されると前の罪の執行猶予が取り消され、前の刑罰と合わせた期間刑務所に収容されます。
窃盗の中でも軽微な万引きや、被害額が小さい場合、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から5年以内の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了すると、刑務所に入ることなく事件が終了します。前の罪に関しては終了していますが、執行猶予期間終了後すぐの再犯の場合には、正式裁判になる可能性が高くなります。
再犯で実刑判決が言い渡された場合、前の罪の刑罰は終了しているので、再犯で言い渡された期間だけ刑務所に収容されます。軽微な万引きや、被害額が小さい場合、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から数年~10年後の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了してから数年以上経過した後の再犯の場合には、前の罪についてあまり考慮されません。場合によっては窃盗罪再犯も罰金刑で終了する可能性があります。
実刑判決を受け、その執行を終わった日から5年以内の窃盗罪再犯
前の罪で実刑判決を言い渡された場合、刑の執行の終了とともに前の罪も終了します。再犯で実刑判決を言い渡されると、言い渡された期間だけ再度刑務所に収容されます。軽微な万引きや、被害額が小さい場合、被害者との間で示談が成立した場合等では、執行猶予が付けられる可能性もありますが、再犯の罪の内容が重い場合にはより重い刑罰を言い渡される可能性が高いです。
略式命令後5年以内の再犯
略式命令も有罪であるため前科となります。略式命令で科される刑は罰金刑のみです。略式命令は罰金を納めるとその場で終了となります。略式命令後の再犯の場合も、前の刑終了後の再犯となるため、窃盗の中でも軽微な万引きの場合や、被害額が小さい場合、被害者との間で示談が成立した場合等では、執行猶予が付けられる可能性もあります。再犯の程度が重い場合には、実刑判決を言い渡される可能性もあります。
窃盗罪再犯で在宅事件になる?
ポイント 窃盗罪再犯で在宅事件になるかどうかのポイントは、身柄拘束の必要性の有無です。 |


身柄拘束の必要性
身柄を拘束するためには身柄拘束の必要性、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれという要件が必要です。これらの要件が無い場合には身柄を拘束できないため、在宅事件となります。
刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の1にあたるときは、これを勾留することができる。
1 被告人が定まった住居を有しないとき。
2 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
3 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
引用:e-GOV法令検索
犯行態様および被害額
在宅事件になるか否かの判断には、犯行態様や被害額も影響を与えます。犯行態様がひどい侵入盗などの場合には逮捕勾留される可能性が高く、犯行態様がそれほどひどくない万引き等で、しかも被害額が少額の場合には在宅事件となる可能性が高くなります。
窃盗罪再犯で起訴される?
ポイント 窃盗罪再犯で起訴されるかどうかは、被害者との間の示談成立の有無がポイントです。 |


被害者と示談する
窃盗罪には被害者がいます。起訴を回避するためには被害者との示談成立の有無がポイントです。
被害者が加害者の知り合いである場合には、加害者本人による示談交渉も可能ですが、以下の可能性がありおすすめはできません。
- 加害者本人の不用意な発言で被害者感情を悪化させる
- 示談書に記載する文言に不備があり後日トラブルになる
- 高額な示談金を請求される など
加害者が被害者の連絡先を知らない場合には、示談交渉はできません。弁護士に依頼して示談交渉をしてもらいましょう。
被害者が示談の話し合いに応じてくれる場合には、弁護士から捜査機関を通して被害者の連絡先を教えてもらえます。示談交渉では加害者からの謝罪を伝えて被害者の赦しを得る必要があります。被害者が加害者の謝罪を受け入れ示談交渉に応じ、示談が成立すれば不起訴で終わる可能性が高くなります。
窃盗罪再犯で実刑になる?
ポイント 窃盗罪再犯で実刑になるかどうかのポイントは、示談の成立および犯行態様の悪質性等です。 |


窃盗罪の再犯で起訴された場合には、20年以下の懲役の範囲内で刑が科されます。実刑か否かは、以下の諸事情を考慮し、裁判官が決めます。
- 犯行態様
- 被害額
- 示談が成立しているか
- 被害弁償ができているか
- 被告人が反省しているか など
再犯であることも量刑判断に影響を及ぼします。初犯であれば執行猶予が付いた可能性がある事件でも、再犯であるために実刑判決がくだされることもあります。
窃盗罪再犯で執行猶予は得られる?
ポイント 窃盗罪再犯で執行猶予が得られるかどうかは、情状によるところが大きいです。 |


執行猶予の条件
執行猶予については刑法第25条乃至第27条に定められています。執行猶予をつけるためには一定の条件が必要です。執行猶予には次の2つの種類があります。
- 最初の執行猶予
- 再度の執行猶予
最初の執行猶予
窃盗罪の再犯で、最初の執行猶予を得るためには、以下の条件が必要です。
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことが無い者、あるいは処せられたことがあってもその執行を終わった日またはその免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
- 再犯で言い渡される刑が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金であること
- 情状に酌量すべき点があること
上記3つの条件に当てはまれば執行猶予が付く可能性があります。
再度の執行猶予
判決時に執行猶予中である窃盗罪再犯者が再び判決で執行猶予を得るためには、以下の条件が必要です。
- 再犯で言い渡される刑が1年以下の懲役または禁錮であること
- 前刑の全部の執行猶予を受けたこと
- 情状に「特に」酌量すべき点があること
- 前の罪の執行猶予で保護観察に付されていなかったこと
再度の執行猶予を得るためのハードルは、最初の執行猶予を得る条件よりも高いです。
それぞれの条件については別記事で詳しく解説していますので、そちらをご確認ください。
窃盗罪再犯で懲役刑になる?
ポイント 窃盗罪の内容や行為の悪質性によって懲役刑になる場合もあります。 |


窃盗罪再犯の懲役刑
窃盗罪再犯の場合には20年以下の懲役の範囲内で刑が科されます。窃盗罪再犯で実刑を科すか否かの判断は、被害額や犯行の態様の悪質性などにより決まります。被害額が大きい場合や、綿密に計画を立てたうえで行われた等犯行の態様が悪質と考えられるような場合には懲役刑になる可能性もあります。
窃盗罪の再犯を防止するには
ポイント 窃盗罪は5年以内の再犯率が高く、窃盗を繰り返す傾向があります。窃盗事犯者の類型などに応じた対策が必要です。 |
専門のクリニックに通院する
生活に困っている訳ではないのに窃盗を繰り返す場合には、窃盗の原因が病気である可能性があります。この場合には専門のクリニックに通って治療を受けましょう。
周囲の人の理解・協力を得る
生活に困って窃盗罪の再犯をした場合等では、周囲の協力が不可欠です。親族等の協力が得られる場合には協力を依頼しましょう。親族等の協力が得られない場合には生活保護等の公的援助に関する情報を提供するなどの対策を取りましょう。
窃盗罪再犯の刑事弁護の方針とサポート内容
ポイント 窃盗罪再犯の場合には、まずは不起訴の獲得を目指します。起訴されてしまったら執行猶予付き判決を目指します。 |
示談交渉をする
窃盗罪は被害者がいる犯罪です。窃盗罪の再犯で不起訴を獲得することは初犯よりも困難です。再犯の場合には被害者との示談成立が初犯の時よりも重要です。被害者と示談をするためには、加害者の謝罪や反省が必須です。加害者が真摯に反省し、謝罪した結果被害者との間で示談が成立し、示談書に宥恕文言(加害者を許すという文言)を挿入できれば、不起訴になる可能性がでてきます。
被害者が示談に応じてくれない場合や示談が不成立に終わった場合等の時には、起訴される可能性が高くなります。起訴された場合には、執行猶予付き判決を目指します。例えば贖罪寄付をしたり、二度とやらないという誓約書を裁判所に提出したりすることにより犯行後の情状を改善できれば、執行猶予付き判決がくだされる可能性が高くなります。家族等の協力者がいる場合には家族等の協力を得て、再犯防止の為の具体的な対策を立て、その内容を裁判所に報告します。
再犯防止対策のアドバイスをする
起訴・不起訴断や量刑の判断をする際には、再犯のおそれが重視されます。窃盗罪再犯の場合には具体的な再犯防止対策を講じることが不起訴を、あるいは執行猶予を獲得するために必要不可欠です。弁護士は再犯防止対策を立てるアドバイスも行います。
まとめ
窃盗罪で再犯を犯した場合にどのような処分が考えられるかについて解説しました。窃盗罪再犯で逮捕された場合には早期に弁護士に依頼することでその後の手続きの流れが変わる可能性があります。窃盗罪再犯で逮捕された場合には一刻も早く弁護士にご相談ください。