詐欺事件の示談を成立させるポイントと示談金相場を解説
詐欺罪は、被害者をだまして財産的な損害を与える犯罪です。詐欺事件の法定刑は10年以下の懲役と定められており、下限に罰金刑の定めがなく重い罪です。そのため、被害者との間で示談を成立させることが重要です。
この記事では、詐欺事件の示談を成立させるポイントと示談金の相場について解説します。
刑法第246条 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
引用:e-Gov法令検索
示談を成立させるべき理由については以下記事でご紹介いたします。
詐欺事件の示談の傾向
詐欺罪は法定刑に罰金刑がないため、起訴されると懲役刑を求刑されます。有罪となった場合には執行猶予が付かない限り、刑務所に収監されます。
2020年犯罪白書では、2019年の詐欺罪の起訴率は57%で、窃盗罪の起訴率43.2%と比較するとかなり高いことがわかります。被害者を騙して財物を得ることは計画性があり、被害金額も高額になることが多いため、犯情が重いと評価されるために高い起訴率になっているようです。
不起訴率は43%ですが、詐欺罪には罰金刑が無いため、軽い処分にはなりません。被害者と示談を成立させることができれば、不起訴処分で終わる可能性が高くなります。
同白書によると、詐欺罪の勾留請求率は98.9%と高く、そのうち99%以上が認められています。詐欺罪で逮捕されると、その後長期間身柄拘束が続く可能性が高いです。
詐欺事件を起こした場合には、早期の身柄解放を目指し、実刑判決の言い渡しを避けるため、被害者と示談成立させることが重要です。
詐欺事件で和解を得るために重要なポイント
詐欺事件は被害者が判明していることが多いため、すぐに示談交渉の準備ができます。詐欺事件で和解を得て示談成立させるための重要なポイントを解説します。
被害者へ謝罪する
詐欺罪は加害者を信頼した被害者を騙して財産を奪う犯罪なので、被害者の被害感情は窃盗罪に比べて大きいです。
被害者は加害者を信頼したにも関わらず、その信頼を裏切られたことに対し、ショックを受けていることが多いです。示談交渉に入る前に被害者を騙したこと、財産を奪ったことを謝罪します。
信頼を裏切ってしまったことを心から謝罪することが被害者の被害感情を和らげるために必要となります。
被害弁償をする
詐欺罪の被害には、騙し取った財産および裏切った事に対する精神的苦痛がありますが、示談金は被害者から騙し取った金額がベースとなります。
被害金額に慰謝料を上乗せする
ベースとなる被害金額に、精神的苦痛に対する慰謝料を上乗せします。慰謝料に相場はありませんが、数十万円となることが多いです。
今後詐欺事件を起こさないという誓約をする
詐欺罪は信頼を裏切る行為を伴うため、今後人を裏切る行為をしないと誓約をすることもあります。
詐欺事件の示談が難しくなるケース
詐欺事件の示談が難しくなるケースを紹介します。
被害者が多数いる場合
被害者が多数いる場合には、全ての被害者との間で示談を成立させる必要がありますが、以下の理由から全ての被害者と示談を成立させることは難しいです。
- 被害感情は人によって異なるため、謝罪を受け入れてくれない人がいる
- 全ての被害者に示談金を支払わなければならない
- 被害者全員と示談交渉するためには、時間がかかる など
被害金額が高額な場合
被害金額が高額な場合には、被害の弁償が困難です。示談するためには騙し取った金額+慰謝料を支払うことが原則ですが、被害金額を弁償することが困難という理由で示談できないケースが多くあります。
被害者の精神的苦痛・被害感情が非常に大きい場合
詐欺罪は窃盗罪に比べて被害者の精神的苦痛や被害感情が大きくなります。精神的苦痛や被害感情が大きい場合には被害者の許しが得られず、示談交渉ができないこともあります。
加害者の支払い能力が不足している場合
詐欺罪で示談が成立するためには、被害を全額弁償し、加えて慰謝料を支払うことが前提です。加害者が安定した職業に就いている場合には示談金の分割に応じてくれる被害者もいますが、加害者が安定した職業に就いておらず、資力が低い場合には被害の回復が困難です。被害回復ができる見込みがない場合には示談成立は難しくなります。
示談成立までにかかる期間
詐欺事件では、逮捕・勾留されるケースが多いため、加害者本人が示談交渉することはできません。
加害者やその家族等から依頼を受けた弁護士が謝罪を伝え、示談交渉に入りますが、騙されたことに対する被害感情が大きい場合には、示談成立までの時間は長くなります。
被害者数が多い時には全ての被害者と示談成立させるまでにかかる期間は長くなります。
詐欺事件の場合、検察が起訴する前に示談が成立すれば不起訴になる可能性が高くなるため、起訴前の示談成立が理想です。
起訴後に示談が成立した場合でも、示談は無駄になりません。起訴後の示談成立の場合には、執行猶予が付く可能性が高くなります。
逮捕後なるべく早期に、示談交渉を弁護士に依頼することが重要です。
詐欺事件の示談金について
詐欺事件の示談金について解説します。
詐欺罪の示談金相場
詐欺事件の場合、示談金は実損害+慰謝料となります。慰謝料は被害者の被害感情の大きさによって異なるため相場は無いといえますが、実際には、おおよそ数十万円となっています。
詐欺罪の示談金が高額になるケース
詐欺罪の示談金が高額になるケースを紹介します。
被害者が多数いる場合
被害者が多数いる場合には、各被害者の実損害もや慰謝料も高額になります。
被害金額が高額な場合
被害者が1人であったとしても、実損害が高額な場合には、示談金も高額になります。
被害者の被害感情が大きい場合
実損害がそれほど高額でない場合でも、被害者の加害者に対する信頼が非常に大きかった場合には、信頼を裏切られたことによる被害感情は大きくなり、慰謝料が高額になります。
詐欺事件の示談書に記入するべきポイント
詐欺事件の示談書に記入すべきポイントについて解説します。
謝罪条項
加害者がおかした犯罪事実を認めて深く謝罪する旨を記載します。
示談金の支払いに関する条項
示談金の金額、支払い方法、支払い期限等を記載します。示談金は一括支払いが原則ですが、金額が大きい場合には、分割を認めてもらえることもあります。その場合には、各支払い期限および各支払い金額を記載します。
宥恕文言
示談金を支払った場合、被害者は加害者が行った犯行を許すという文言を記載します。この文言が記載された示談書を捜査機関に提出することにより、不起訴で終わる可能性が高くなります。
被害届の取り下げ
示談金を受領した場合には、被害届や告訴状を取り下げるという文言を記載します。
今後詐欺事件を起こさないという誓約
今後は他人の信頼を裏切り、その財産を奪うという事件を起こさないという誓約をします。
清算条項
示談書に記載されている以外の請求は今後一切しないことを記載します。
秘密保持条項
示談書に定める内容に関して、第三者に口外しない、SNS等に書き込まないことを約束します。
具体的な示談書の書き方については以下記事をご参照ください。
詐欺罪の示談の流れ
詐欺罪における示談の流れを簡単に説明します。
被害者の連絡先を入手
被害者の連絡先がわからない場合には、加害者から依頼を受けた弁護士が捜査機関に確認します。捜査機関から被害者に確認のうえ、被害者が弁護士になら教えても良いと回答してくれた場合には連絡先を教えてもらえます。
謝罪と示談の申し入れ
被害者の連絡先が判明したら、加害者からの謝罪を伝えます。被害者が加害者の謝罪を受け入れてくれたら示談の申し入れをします。
示談金の金額の確定
被害者が示談に応じてくれたら示談金の交渉を行います。被害総額に加え、慰謝料を上乗せした金額を提示できれば示談に応じてもらいやすいですが、加害者の資力が低く、被害総額も支払えない場合があります。
加害者の資力が乏しく本来支払うべき示談金の支払いが難しい場合には、現在の資力で支払える精一杯の金額を提示して被害者に理解を求め、納得していただけるよう交渉します。
示談書を作成
示談金の金額決定後、示談書に記載すべき内容を漏らさぬよう示談書を作成します。
被害者に示談書の内容を確認してもらい、内容に問題が無ければ正式な示談書を2通作成します。
被害者および加害者の弁護士が2通共署名押印し、被害者および加害者の弁護士が1通ずつ保管します。
示談金の支払い
示談書に署名・押印をいただけたら、示談書に記載された内容に従って示談金を支払います。
示談書の写し等ならびに被害届の取下げ書を捜査機関あるいは裁判所に提出
示談金を受領したら被害届を取り下げると示談書に盛り込めた場合には、被害者に記載してもらった取下げ書と示談書の写し、示談金領収証等を捜査機関あるいは裁判所に提出します。
詐欺罪の示談を弁護士に依頼した場合のサポート内容
詐欺罪で逮捕された場合には、早期に弁護士に依頼することが示談交渉をスムーズに進められ、事件の早期解決のカギとなります。詐欺罪の示談を弁護士に依頼した場合の、弁護士のサポート内容をお伝えします。
被害者の連絡先を捜査機関から入手
被害者の連絡先が不明の場合、加害者本人が直接捜査機関に聴いても答えてもらえません。加害者から依頼を受けた弁護士は被害者の連絡先を教えてもらえるか、捜査機関に確認します。
捜査機関は被害者に、加害者の弁護士に連絡先を教えて良いか確認し、弁護士になら連絡先を教えてもかまわないと回答をもらえれば、被害者の連絡先を入手できます。
弁護士が被害者に謝罪を伝え示談交渉する
弁護士は示談交渉を始める前に、加害者からの謝罪を被害者に伝えます。加害者が真摯に反省していることを、弁護士が間に入って伝えることにより、被害者も冷静に受け止められます。
被害者の被害感情が強い場合には、すぐに謝罪を受け入れてくれないこともありますが、弁護士は被害者が謝罪を受け入れてくれるまで何度も謝罪の意を伝えます。
被害者が加害者からの謝罪を受け入れてくれたら、示談交渉に応じてもらえるか確認します。
被害者が会社等の法人の場合には、示談交渉には応じないと拒否されることもありますが、示談に応じていただけるよう粘り強く交渉します。
加害者の資力により、支払える示談金には限りがあります。被害者の気持ちに寄り添いながら、加害者が実際に支払える金額で示談できるよう交渉します。
示談書を作成
被害者と示談内容の合意ができたら示談書を作成します。示談書には記載しなければならない事項がありますが、弁護士が作成することで、漏れの無い示談書の作成ができます。
示談書は2通作成します。出来上がった示談書は、2通共署名・押印し、1通は被害者が保管し。もう1通を加害者の弁護士が保管します。示談書には被害者の情報が記載されているため、加害者本人に見せたり渡したりすることはありません。
弁護士が入ることで被害者の情報が加害者に漏れることがないことも、被害者に安心してもらえる点です。
示談金を支払う
示談書に記載した内容に従い、示談金を支払います。被害者が示談金を受領したら、示談金領収証に署名押印していただきます。なお、示談金を受領したら被害届等を取り下げると示談書に盛り込むことができれば、示談金領収証とともに、被害届取下げ書等もいただきます。
示談書・示談金領収証等を捜査機関あるいは裁判所に提出
示談書の写し、示談金領収証、取下げ書等を捜査機関あるいは裁判所に提出します。被害者との間で示談が成立し被害届が取り下げられた場合には、不起訴で終わる可能性が高くなります。
示談成立が起訴後の場合には、裁判官の量刑判断に影響を与え、執行猶予が付いたり、より軽い刑を言い渡されたりする可能性が高くなります。
まとめ
詐欺事件は窃盗罪に比べて被害者の被害感情が大きいため、加害者本人が示談交渉するとかえってこじらせてしまうことが多く、加害者本人が示談交渉をしないほうが良い事件です。
弁護士に依頼することにより不起訴で終わる、執行猶予が付される、あるいはより軽い刑の言い渡しになる可能性が高くなります。
詐欺罪で逮捕された場合には早期に弁護士に相談することをお勧めします。