検挙とは|検挙の意味と逮捕や摘発との違い
検挙とは、逮捕だけを指す言葉ではなく、任意での取調べや書類送検も含まれるなど、意味の範囲が広い用語です。
必ずしも逮捕・起訴されるわけではありませんが、検挙された場合の対応によっては、前科や実名報道など、人生に大きな影響を及ぼす可能性もあります。
この記事では、検挙に関する以下の内容を分かりやすく解説します。
- 検挙の意味と法律上の位置づけ
- 検挙と似た言葉(逮捕・摘発など)との違い
- 検挙後に考えられる流れと対処法


検挙とは
検挙とは、警察が犯罪に関与した疑いのある人物を特定し、捜査対象とすることです。法律で明確に定義された用語ではなく、警察や捜査関係者の間で使われる実務上の表現です。
一般的には、任意の事情聴取を行った段階から、逮捕・書類送検・検察への送致に至るまでの一連の手続きが検挙とされます。
そのため、身柄を拘束されていない在宅事件も検挙件数に含まれ、検挙=逮捕というわけではありません。
検挙と似た言葉の違い
検挙という言葉は、刑事事件に関するニュースなどで頻繁に使われますが、似たような表現に逮捕・摘発・認知・送致などがあります。
以下では、検挙と似た言葉の違いについて整理し、それぞれの用語がどのような意味で使われているのかをわかりやすく解説します。
検挙と逮捕の違い
逮捕とは、犯罪を行った疑いのある人物の身柄を拘束し、取り調べを行うための強制的な手続きです(刑事訴訟法第199条)。逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合に行われます。
一方の検挙は、こうした逮捕に限らず、任意の事情聴取や書類送検、検察への送致なども含む広い意味で使われる言葉です。
検挙されたからといって必ず逮捕されるわけではなく、身柄を拘束されずに捜査が進められる在宅事件として扱われる場合もあります。
検挙と逮捕の違いを正しく理解しておくことが、状況を冷静に把握し、適切に対応するための第一歩となります。
検挙と摘発の違い
摘発とは、犯罪や法令違反の事実を明らかにし、社会的に公表することをいいます。
法律上の明確な定義はなく、警察や行政機関が店舗や団体などの違反行為に対して使用する実務的な言葉です。
検挙は人物を捜査対象とするのに対し、摘発は行為や事実を明るみに出すことに重点が置かれています。
風俗営業や薬物事犯などで使われることが多く、報道によって社会的影響が広がることもあります。
検挙と認知の違い
認知とは、警察が犯罪の発生を把握することをいいます。
以下のようなきっかけで事件の存在を知り、犯罪が起きたと判断した時点で認知されたと扱われます。
- 被害届の提出
- 110番通報や相談電話の受付
- 警察官の職務質問や巡回中の発見
- 共犯者の申告や自首
- 告訴・告発の受理
- 医療機関や学校などからの通報
- SNSや報道などで明るみに出た事案
一方、検挙は、認知された事件について捜査を進め、関与した人物を特定して処理を行う段階です。認知は事件の出発点、検挙はその後の対応という関係になります。
たとえば、警視庁の令和5年統計によると、東京都内の刑法犯認知件数は約8万9,000件、検挙件数は約3万1,100件でした。
認知されたすべての事件が検挙に至るとは限らず、実際には約3割程度にとどまっています。
検挙と起訴の違い
検挙によって警察から事件の捜査結果が検察に引き継がれる(送致される)と、検察官が起訴・不起訴を判断します。
起訴とは、検察官が事件を刑事裁判にかけるべきと判断し、公判を開始する手続きのことです。
一方、不起訴とは、事件について裁判を行わず、処分を終えることを指します。証拠や情状などを踏まえて判断され、処分理由はさまざまです。
刑事裁判を起こす権限を持つのは検察官のみで、有罪を立証する役割も検察が担います。
検挙は被疑者を特定し、事件を処理する警察段階の対応であり、起訴はそれに続く検察官の判断です。
そのため、検挙されたからといって必ず起訴されるとは限りません。
検挙と検挙人員の違い
検挙とは、警察が犯罪の容疑者を特定し、事件として処理した件数を指します。一方、検挙人員とは、検挙された被疑者の人数のことです。
たとえば、1人の被疑者が複数の事件で検挙された場合、検挙件数は複数としてカウントされますが、検挙人員は1人として数えられます。
反対に、1つの事件で複数人が関与していた場合、検挙件数は1件でも、検挙人員は関与した人数分となります。
統計上もこの2つは別々に集計されており、混同しないことが重要です。
検挙率とは
検挙率は刑事事件の捜査状況を示す重要な指標であり、犯罪の種類によって数値に差があるのが一般的です。
ここでは、検挙率の定義や計算方法、犯罪別の傾向などを詳しく解説していきます。
認知された犯罪から被疑者を特定した割合
検挙率とは、警察が把握した犯罪(認知件数)のうち、被疑者を特定して事件として処理した件数(検挙件数)の割合を示す数値です。
一般的には、検挙件数を認知件数で割り、100を掛けて算出されます。
【検挙率の計算式】
検挙率(%)=(検挙件数 ÷ 認知件数)× 100
検挙率は、捜査機関による事件の解決状況を把握するための指標として使われており、犯罪の種類や地域によって数値に差が生じます。
あくまでも件数ベースで算出されるため、人数とは一致しない点にも注意が必要です。
犯罪別検挙率
2023年の統計によると、対象とする主要犯罪6種(殺人・暴行・詐欺・横領・窃盗・器物損壊)の合計で、認知件数は約63万3,566件、検挙件数は約21万8,692件、検挙率は全体で34.5%となっています。
以下の表は、犯罪別の検挙率とその背景をまとめたものです。
犯罪別検挙率(主要犯罪6種)
認知件数 | 検挙件数 | 検挙率(%) | |
殺人 | 912 | 872 | 95.6 |
暴行 | 30,196 | 24,869 | 82.4 |
詐欺 | 46,011 | 16,667 | 36.2 |
横領 | 15,795 | 10,802 | 68.4 |
窃盗 | 483,695 | 157,115 | 32.5 |
器物損壊 | 56,957 | 8,367 | 14.7 |
各犯罪で検挙率に差があるのは下記のような理由によるものです。
罪名 | 理由 |
殺人 | 検挙率が非常に高く、犯行後に現場が残ることや加害者と被害者の関係性から、早期に特定されやすい傾向がある |
暴行 | 目撃者や現行犯の確保が多く、証拠も残りやすいため比較的検挙率は高め |
詐欺 | 匿名性が高く、組織的な手口も多いため、証拠が残りにくく検挙は難航しやすい |
横領 | 内部告発や帳簿から発覚することが多い一方で、発覚までに時間がかかり証拠収集も複雑 |
窃盗 | 犯行が迅速に行われる上、防犯カメラなどの物的証拠がなければ特定が難しい傾向がある |
器物損壊 | 犯人の特定が困難で、被害届提出の時点で現場証拠が乏しいことが多く、検挙率は最も低くなっている |
検挙された後の流れ
検挙されたからといって、すぐに逮捕や起訴が決まるわけではありません。事件や被疑者の状況によって、警察や検察がどのような対応を取るかが変わります。
以下では、検挙された後に考えられる主な処理の流れについて、4つに分けて解説します。
微罪処分
微罪処分とは、警察が捜査した事件のうち、犯罪の内容が極めて軽微であり、かつ検察官が送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定したものについて、検察官に送致せずに警察限りで刑事手続を終了させる処分です。
この処分は、刑事訴訟法第246条の但し書きおよび犯罪捜査規範第198条に基づいて行われます。
以下のようなケースで微罪処分となることがあります。
- 窃盗・詐欺・横領・暴行などの軽微な犯罪である
- 被害額が少ない
- 被疑者に前科や前歴がない
- 再犯のおそれがない
- 被害者から告訴・告発がされていない
処分後は、被疑者に対して訓戒が行われ、必要に応じて身元引受人の指導が求められます。
被害者が告訴や告発を行った事件、現行犯逮捕など身柄が拘束された事件については、微罪処分の対象外です。前科はつきませんが、前歴として記録が残ります。
逮捕(身柄事件)
被疑者の特定から、逮捕が行われると、以下の流れで手続きが進められます。
逮捕後の流れ | 詳細 |
①逮捕 | 警察が被疑者を逮捕すると、身柄は警察署の留置場に収容される
逮捕後48時間以内に、警察は被疑者を検察に送致する |
②送致と勾留請求 | 検察は送致を受けてから24時間以内に、勾留請求、起訴、不起訴、または釈放のいずれかを決定する |
③勾留 | 勾留が請求されると、裁判官の判断により、最初は10日間の勾留が認められる
必要に応じて、さらに10日間の延長が可能で、最大20日間の勾留が認められる |
④起訴または不起訴の判断 | 勾留期間中に、検察は起訴するか、不起訴とするかを判断する。
不起訴となった場合、被疑者は釈放されるが、起訴された場合、被疑者は被告人となり、裁判手続きが開始される。 |
⑤起訴後の勾留と裁判準備 | 起訴後、被告人は原則として2か月間勾留され、1か月ごとに更新可能で、裁判が終了するまで継続されることがある
裁判の準備期間として、起訴から初公判まで通常1〜2か月程度。 |
⑥裁判と判決 | 裁判の進行状況や事件の内容によって、判決までの期間は異なる。
罪を認める自白事件では平均3.2か月、罪を認めない否認事件では平均11.4か月の審理期間がかかる |
このように、逮捕から刑事処分までの手続きには、各段階で一定の期間が設けられており、全体として数か月から1年以上かかることもあります。
在宅事件
在宅事件とは、被疑者が逮捕・勾留されることなく、通常の生活を送りながら捜査や刑事手続きが進む事件を指します。
以下のような条件に当てはまる場合に適用されることがあります。
- 逃亡や証拠隠滅のおそれが低い
- 被害者とのトラブルが落ち着いている
- 任意の出頭や取り調べに応じる姿勢がある
- 犯行を認めている、または軽微な犯罪である
- 家庭や職場など社会的背景を考慮して身柄拘束が不要と判断された
在宅事件の流れと期間は下記のとおりです。
- 捜査の開始:警察が被疑者の関与を疑い、任意での取り調べ。
- 書類送検:警察が捜査結果をまとめ、被疑者を拘束せずに書類のみ検察へ送致される。
- 検察の判断:検察官が起訴するか否かを決定する。在宅事件には法定の期間制限がないため、起訴・不起訴の判断までに数ヶ月かかることもある。
- 起訴後の手続き
起訴の種類 | 内容 |
正式起訴 | 公開法廷での裁判。 |
略式起訴 | 被疑者が事実を認め、罰金刑が相当と判断された場合、書面審査のみ。 |
在宅事件は、被疑者が日常生活を送りながら手続きが進むため、社会的影響が比較的少ない一方で、捜査や裁判の期間が長期化する可能性があります。

交通違反の場合
交通違反で検挙された場合、その内容や重大性に応じて、対応の流れや処分は大きく異なります。
信号無視や軽度の速度超過などでは、交通反則告知書(いわゆる青切符)が交付され、反則金の納付で手続きが完了することがほとんどです。
一方で、酒気帯び運転や無免許運転、ひき逃げ、死亡事故など重大な違反では、赤切符が交付されたり、逮捕・送致されて刑事事件として扱われるケースもあります。
項目 | 青切符(行政処分) | 赤切符(刑事処分) |
対象例 | 一時不停止、軽度の速度超過
信号無視など |
酒気帯び運転、無免許運転
大幅な速度超過など |
処分内容 | 反則金の納付のみ | 出頭→任意の取調べ→略式起訴
罰金刑が課されることが多い |
前科の有無 | 付かない(刑事手続きなし) | 付く |
その他 | 違反点数が加算され、累積で免許停止
納付しない場合は刑事手続きに移行 |
状況により正式起訴・裁判に進む場合あり |
青切符は違反を認めること(是認)が前提の簡易な手続きですが、違反事実に納得できない場合は、否認することも可能です。
その場合は、検察への送致や裁判手続きへ進むなど、通常の刑事事件と同様の流れになります。結果として前科が付く可能性もあるため、今後の対応を慎重に検討する必要があります。
交通違反といってもその重さはさまざまで、反則金だけで済む軽微な違反から、逮捕・起訴される重大な事件まで、内容に応じて処理の流れが大きく異なります。
不安な点がある場合は、自己判断せずに早めに弁護士へ相談するのが安心です。
検挙されたらどうなる?
検挙されたあとは、たとえ逮捕や起訴に至らなかった場合でも、日常生活や人間関係、将来にまで影響が及ぶ可能性があります。
以下では、検挙によって生じるおそれのある主な不利益を3つに分けて解説します。
家族や会社に知られる可能性がある
検挙や逮捕されると、家族や勤務先にその事実が知られる可能性が高くなります。
身柄の引受や人定事項(氏名・住所など)の確認のため、警察から家族や職場に連絡を入れることがあるためです。
他にも、警察は原則として逮捕情報を報道機関に発表しており、報道されるかどうかは各社の判断に委ねられます。
在宅事件であっても、一定の基準を満たす場合には報道発表の対象となることがあります。
実名が報道されれば、本人だけでなく家族や職場にも影響が及ぶ可能性があり、家庭内の関係悪化や職場での信用の失墜、社会的信用に関わるリスクが生じる場合が考えられます。
逮捕されると長期間拘束のおそれがある
逮捕されると、以下のような流れで身柄拘束が続く可能性があります。
- 送致(逮捕から48時間以内):警察の取り調べ後、検察へ送致される。
- 勾留(最大10日間):逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合、裁判所の判断で勾留が決定される。
- 勾留延長(さらに最大10日間):検察の請求により、勾留が延長されることがある。
- 起訴後勾留:公判準備などを理由に、起訴後も勾留が続く可能性がある。
身柄拘束が長期化することもあり、以下のような生活への影響が生じるおそれがあります。
- 職場や学校に連絡が取れず、解雇・退学の可能性
- 家族や周囲に逮捕が知られ、人間関係が悪化するリスク
- 社会復帰が難しくなるケースもある
起訴されると有罪や前科のおそれがある
日本の刑事裁判における有罪率はおよそ99%と非常に高く、起訴された時点で高確率で有罪判決が下される可能性があります。
起訴された場合に考えられる主なリスクは次のとおりです。
- 略式起訴でも前科がつく:罰金刑で済んだ場合でも、正式な有罪判決であるため、前科として記録に残る。
- 執行猶予付き判決でも有罪扱い:懲役刑に執行猶予が付されても、前科のある身となる。
- 再犯時に刑が重くなる可能性:過去の前科があることで、次に同様の事件で処罰が重くなることがある。
起訴されるということは、将来にわたって大きな影響を及ぼすリスクを伴います。前科の有無は、就職や資格取得、社会生活にも深く関わります。
検挙されたらどうすべき?
検挙された際、対応を誤ると不利な扱いを受けるおそれがあります。以下では、検挙されたときに注意すべき行動や、取るべき対応を3つに分けて解説します。
- 警察の呼び出しには素直に応じる
- 供述調書に安易に署名しない
- 刑事事件が得意な弁護士に相談する
状況に応じた冷静な対応が、今後の処分に大きな影響を与える可能性があります。
警察の呼び出しには素直に応じる
検挙されたあと、逮捕には至らず在宅事件として捜査が進められる場合、後日、警察署への出頭を求められることがあります。
取調べの内容によっては、1回で終わらず複数回呼び出されることもありますが、このような呼び出しには、原則として素直に応じることが重要です。
正当な理由なく応じなかった場合、逃亡のおそれがあると判断され、逮捕される可能性もあります。
身柄拘束を避けるためにも、警察からの連絡には冷静に対応し、無断で欠席したり軽く受け止めたりしないようにしましょう。
供述調書に安易に署名しない
取調べで話した内容は、取調官が供述調書という書類に仕上げます。
この書類は裁判でも証拠として使われる非常に重要な書類であり、内容によっては被疑者にとって不利に働くこともあります。
警察官の質問に答えた内容をもとに調書が作成されますが、表現やニュアンスが実際の発言と異なる形で記載されることもあります。
内容に納得できないまま署名してしまうと、後で訂正が難しくなり、不利な証拠として扱われるおそれがあります。
署名や拇印を求められても、その内容が事実と異なる、あるいは誤解を招くと感じた場合は、署名を拒否する(署名押印拒否権)ことや、訂正や修正を申し出る(訂正申立権)ことも可能です。
調書は自分の言葉として残るものだからこそ、内容はよく確認し、慎重に対応することが重要です。

刑事事件が得意な弁護士に相談する
検挙された際は、早い段階で刑事事件を得意とする弁護士に相談することが重要です。
初動対応を誤ると、不利な供述調書が作成されたり、身柄の拘束が長引いたりするおそれがあるため、適切なアドバイスを受けながら進めることが大切です。
在宅事件で身柄が拘束されていない場合は、インターネットなどで刑事事件の実績がある弁護士を調べ、自分で相談を申し込むことができます。
一方、逮捕されてしまった場合は、家族や身近な人が代理で弁護士に依頼するケースが多くなります。
逮捕された本人が自ら希望すれば、当番弁護士と呼ばれる制度を利用して、1回目の接見(面会)に無料で対応してもらうことも可能です。
弁護士は取調べや供述調書への対応、釈放や不起訴に向けた交渉、家族への報告などを通じて、本人と周囲の不安を和らげる大きな支えとなります。
検挙された際に弁護士に依頼するメリット
検挙されたとき、早期に弁護士に依頼することで、手続きや処分の結果に大きな差が生まれることがあります。刑事事件に精通した弁護士は、以下のような多面的なサポートを行います。
- 家族や本人の不安の解消
- 実名報道を回避できる可能性がある
- 取調べや供述調書への対応に関する助言
- 被害者への謝罪や示談の対応/不起訴の獲得
- 身柄拘束の回避や早期釈放の働きかけ
- 起訴後は執行猶予付き判決の獲得に尽力
弁護士は単なる法律の専門家ではなく、事件の早期解決と依頼者の生活の再建を支える強力なパートナーです。
まとめ
検挙されたからといって、必ず逮捕・起訴されるとは限りませんが、対応を誤ると有罪・前科・長期拘束といった深刻な事態に発展する可能性があります。
不安や迷いがある場合は、できるだけ早く弁護士に相談し、今後の見通しを整理することが大切です。
ネクスパート法律事務所では、検挙直後の段階から身柄解放・不起訴の獲得・実名報道の回避まで、豊富な経験に基づくサポートを行っています。