強盗致死傷罪とは|強盗殺人との違いや罰則・量刑相場は?
近年SNSなどを通じて闇バイトが募集され、犯罪組織による強盗事件が多発しています。
実際に闇バイトに応募し、6件の強盗致死罪などに問われた被告人には、2024年に無期懲役判決が下されています。
軽い気持ちで強盗を行い、被害者を死亡させた場合には、強盗致死罪が成立し、死刑や無期懲役が科される可能性があります。
この記事では、強盗致死傷罪について以下の点を解説します。
- 強盗致死傷罪の罰則と時効
- 強盗殺人罪や強盗傷人罪との違い・その他強盗行為で問われる罪
- 強盗致死傷罪の量刑や逮捕されるリスク
強盗致死傷罪とは
強盗致死傷罪とは、強盗の機会に人をケガさせたり、死亡させたりした場合に成立する犯罪です。
刑法第240条の前段に強盗致傷罪、後段に強盗致死罪が規定されています。
(強盗致死傷)
第二百四十条強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
強盗致死傷罪の罰則
強盗致死傷罪の罰則は、人を負傷させた時は無期懲役または6年以上の懲役、人を死亡させた時は死刑か無期懲役です。
懲役刑の上限は20年ですが、他の罪が加重されると最長30年となります。そのため、強盗致傷罪は無期懲役または6年から30年の懲役刑が科されます。
なお、殺人罪の罰則は、死刑または無期懲役、5年以上の有期懲役です。強盗致死罪や強盗殺人罪は、殺人罪よりも重い罰則が定められています。
これは、金銭の強奪を目的として人命を軽視する犯罪であるため、犯罪抑止の観点から、重い罰則を設けています。
強盗致死傷罪の時効
強盗致死傷罪の時効とは、公訴時効を指します。公訴時効とは、検挙した人を検察が刑事裁判で訴えられる期限のことです。
強盗致死傷罪の公訴時効は以下のとおりです。
罪名 | 公訴時効 |
強盗致死傷罪 | 15年 |
強盗致致死罪 | 時効なし |
2010年の刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律により、人を死亡させた罪で、法定刑の上限が死刑となる犯罪については、公訴時効が撤廃されました。
そのため、強盗行為で人を死亡させた場合、どれだけ時間が経過しても罪から逃れることはできません。
強盗致死傷罪の構成要件
強盗致死傷罪の構成要件(犯罪が成立する条件)は以下のとおりです。
- 強盗犯人であること
- 強盗の機会に人を死傷させたこと
詳しく解説します。
強盗犯人であること
強盗致死傷罪の構成要件の一つは、強盗の実行に着手した強盗犯人であることです。
金銭を奪う目的で、被害者に対して暴行や脅迫を行った時点で、犯罪の実行に着手したとして強盗犯人になります。
窃盗後に被害者を暴行や脅迫し、財産を奪った場合も、事後強盗罪として強盗犯人となります。
強盗の機会に人を死傷させたこと
強盗致死傷罪の構成要件のもう一つは、強盗の機会に人を死傷させたことです。
例えば、強盗現場で被害者を死傷させた場合は、強盗行為と被害者が死傷した行為の時間的、場所的に近い点、強盗行為の継続性などが認められ、強盗の機会だと言えるでしょう。
一方で、強盗を終えて逃走中の間に、警察官に暴行を加えたようなケースでは、強盗現場と暴行行為の時間や場所が遠く、強盗行為が終了後に逃走しているため、強盗行為が継続していないと考えられます。
強盗致死傷罪は、強盗犯人が被害者を死傷させる意識がなくても、結果的に被害者が死傷した場合に成立します。
強盗殺人罪や強盗傷人罪との違い
強盗致死傷罪と似た罪として、強盗殺人罪や強盗傷人罪があります。以下では、それぞれの違いについて解説します。
強盗殺人罪|殺意を持って被害者を殺害した
強盗殺人罪とは、強盗犯人が強盗の際に、殺意を持って被害者を死亡させた場合に成立します。
強盗致死傷罪との違いは、被害者を殺そうという殺意があったか否かです。
例えば、強盗の際に、被害者ともみあいになり、偶然刃物が刺さり、結果的に被害者を死亡させた場合は、強盗致死罪が成立すると考えられます。
一方、金銭を奪うために被害者が邪魔だから先に刃物で刺して金銭を奪えば、強盗殺人罪が成立する可能性があります。
殺意の有無は、使用した凶器や創傷の部位や個数、傷の程度、犯行時の加害者と被害者の言動や動機などから判断されます。
強盗殺人罪の罰則も、死刑または無期懲役で、公訴時効はありません。
強盗傷人罪|被害者をケガさせた
強盗傷人罪とは、強盗の際に、積極的に被害者に危害を加えてケガをさせた場合に成立します。
強盗致傷罪との違いは、人を負傷させる意識があるか否かです。
例えば、強盗の際に、被害者ともみあいになり、被害者が転倒したことでケガをさせた場合は、強盗致傷罪が成立すると考えられます。
一方で、金銭を奪う際に、被害者が邪魔だからと積極的に暴行を加えてケガをさせた場合は、強盗傷人罪が成立する可能性があります。
強盗傷人罪の罰則も、無期懲役または6年以上の懲役、公訴時効は15年です。
そのほか強盗行為で問われる罪
その他、強盗行為で問われる罪は以下のとおりです。
罪 | 内容 | 罰則 | 公訴時効 |
強盗罪(刑法第236条) | 暴行または脅迫を用いて他人の財物を奪った場合 | 5年以上の有期懲役 | 10年 |
利得強盗罪(刑法第236条2項) | 暴行または脅迫を用いて、財産上の不法な利益を自分や他人に得させた場合 | ||
強盗予備罪(刑法第237条) | 強盗を目的として計画を企てた場合 | 2年以下の懲役 | 3年 |
事後強盗罪(刑法第238条) | 窃盗行為の後、財物を取り戻されたり、逮捕されたりすることを免れるために、暴行または脅迫行為をした場合 | 5年以上の有期懲役 | 10年 |
昏睡強盗罪(刑法第239条) | 人を昏睡させて、財物を盗んだ場合 | ||
強盗・不同意性交等罪、強盗・不同意性交等致死罪(刑法第241条) | 強盗やその未遂犯が不同意性交等をした場合 | 不同意性交等:無期懲役または7年以上の有期懲役
被害者を死亡させた場合:死刑または無期懲役 |
不同意性交等:15年
※被害者が未成年の場合は成人してからカウントが開始になる 被害者を死亡させた場合:公訴時効なし |
このように、強盗行為は状況や行為の内容によって適用される罪名や罰則が異なります。
強盗致死傷罪の量刑
量刑とは、裁判で有罪判決が下された際に、裁判官が言い渡す刑期のことです。
ここでは、強盗致死傷罪の量刑の傾向や執行猶予について解説します。
強盗致死傷罪の量刑が決まる基準
強盗致傷罪の量刑は、以下の点と、過去の判例を総合的に考慮して決定されます。
- 犯行の内容:凶器使用の有無、単独犯か複数犯か、被害の結果が故意か過失か、犯行が悪質か、犯行後の言動
- 犯行の計画性:事前準備によるか、衝動的か
- 犯行の動機:私利私欲・身勝手なものか、やむを得ない事情があるか
- 結果の重大性:被害者のケガの程度、被害額の大小、社会的な影響
- 加害者の年齢、家庭環境、生い立ち
- 被害者の処罰感情、被害回復や示談の有無
- 反省の程度、更正への意欲、犯行動機となった原因の解消
- 常習性や前科前歴
- 社会の処罰感情、社会への影響、犯行により受けた社会的な制裁の程度
強盗致死傷罪の量刑の傾向
法務省による2022年の強盗致死傷罪の量刑の傾向は以下のとおりです。
刑罰 | 刑期 | 人数 | 割合 |
死刑 | – | – | – |
無期懲役 | – | 10 | 約6% |
懲役 | 30年以下 | 6 | 約4% |
25年以下 | 2 | 約1% | |
20年以下 | 2 | 約1% | |
15年以下 | 23 | 約15% | |
10年以下 | 30 | 約19% | |
7年以下 | 42 | 約27% | |
5年以下 | 24 | 約15% | |
3年以下 | 19(うち執行猶予15) | 約12% |
参考:令和5年版 犯罪白書 第2編 犯罪者の処遇 第3章 裁判 第3節 第一審 科刑状況 – 犯罪白書
上記は、強盗・不同意性交等も含む統計となっています。量刑で多いのは7年以下の懲役です。
強盗致死傷罪で執行猶予がつく割合
強盗致死傷罪で執行猶予がつく割合は、前述の統計によると9.4%です。執行猶予を得るには、言い渡される量刑が3年以下である必要があります。
しかし、強盗致死傷罪の罰則は、最低でも6年以上の懲役です。
心神耗弱や自ら犯罪を中止、自首したような場合に減軽されれば、執行猶予がつく可能性はあります。とはいえ、統計上90.6%は実刑判決が下されています。
強盗致死傷罪で逮捕されるリスク
実名報道される
強盗致傷罪で逮捕された場合、実名報道される可能性があります。
実名報道の明確な基準は公表されていませんが、殺人や強盗といった重大な事件では、実名報道される可能性が高いです。
一度実名報道をされ、ネットニュースとして拡散された場合、たとえ執行猶予がついても、逮捕の事実がネット上に残り続けることになります。

未成年者でも公開の裁判で裁かれる
20歳未満の少年は、少年法にもとづいて、刑事手続きが進められます。
通常、少年事件では、成人と異なり、非公開の審理で処遇が決定します。
未成熟な少年に関しては、刑罰よりも保護や矯正が必要だとされるため、基本的に刑事罰が科されることはありません。
しかし、以下の場合には、成人と同様に公開裁判で裁かれ、刑事罰が科されます(逆送)。
- 16歳以上の少年が故意に被害者を死亡させた場合
- 18~19歳の少年が死刑、無期懲役、1年以上の懲役刑に当たる事件を起こした場合
2022年4月施行の改正少年法により、18歳以上の少年が起訴された場合、実名報道の制限が解除されます。
死刑や無期懲役が科される可能性がある
強盗致死罪で起訴された場合、犯行内容や被害者数によっては、死刑や無期懲役の判決が下される可能性があります。
無期懲役は、生涯にわたり刑が執行される刑罰です。法律上は10年服役すれば、仮釈放が認められるとされています(刑法第28条)。
しかし、実務上は最低でも30年以上服役する必要があります。2022年に無期懲役で仮釈放により出所できた割合は15.8%に過ぎません。
仮釈放が認められた受刑者の平均服役期間は約45年とされています。
参考:無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について – 法務省
強盗致死傷罪でよくある質問
強盗罪の初犯は懲役になる?
強盗罪の罰則は5年以上の有期懲役です。執行猶予は言い渡される量刑が3年以下の場合にしか適用されません。
そのため、初犯であっても実刑判決が下されることは十分あり得ます。
被害額が500万円以上など高額の場合は、懲役5~10年ほどになる可能性があります。
一方で、強盗罪の初犯で、犯行内容が悪質でない、被害者と示談が成立している、被害額も少ないような場合であれば、減軽されて執行猶予がつくことも考えられます。
強盗殺人の量刑は?
強盗殺人罪の罰則も、死刑か無期懲役と非常に重い罪です。被害者が1名でも無期懲役、2名以上だと死刑判決が下される可能性があります。
まとめ
強盗致死傷罪は、強盗行為の際に被害者をケガさせたり、死亡させたりした場合に成立する非常に重い犯罪です。
未成年者であっても、状況によっては実名報道されたり公開裁判で裁かれたりする場合があります。判決内容によっては死刑や無期懲役が科されるリスクもあります。
冒頭の被告人は、闇バイトで強盗に加担したことを後悔していると述べました。
もし強盗行為を強要されたり、関与したりしてしまった場合は、すぐに警察や弁護士に相談してください。