書類送検とは|送検されるとどうなる?前科はつく?逮捕との違い
ニュース報道で、書類送検という言葉を見聞きしたことがある人は多いのではないでしょうか。
芸能人が事件を起こしたと疑われた場合も、書類送検されることがあります。
容疑者の身柄が送検される場合とはどう違うのでしょうか。
この記事では、よく見聞きする書類送検について、次の点をわかりやすく解説します。
- 書類送検とは?逮捕との違い
- 書類送検されると前科がつく?
- 書類送検されるまでと、書類送検された後の流れ
書類送検とは
捜査記録を警察から検察に引き継ぐこと
書類送検とは、警察が捜査記録を検察に引き継ぐことです。
警察は、捜査を行った報告書や証拠を検察に送検して、事件を引き継ぎます。
検挙した容疑者(被疑者)を刑事裁判で訴える権限は、検察にしかありません。
そのため、検察に起訴(刑事裁判で訴えること)か不起訴を判断してもらうために、事件を引き継ぎます。
第二百四十六条司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
書類送検されるケース
書類送検は、事件が引き継がれる送検のうち、被疑者が逮捕されていないものを指します。
法律上、被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば、逮捕は行われません。
逮捕が行われないと、自宅から警察や検察に出向き取り調べが行われる在宅事件として扱われます。
この在宅事件で、警察が検察に事件を引き継ぐのが書類送検です。

書類送検になる割合
法務省によると、2022年に書類送検となった割合は65.7%でした。約6~7割の人は、逮捕されず書類送検されていることがわかります。
これは、道路交通法違反者などを含まない数字です。道交法違反などを含めると、書類送検となる割合はさらに高くなると考えられます。
参考:令和5年版 犯罪白書 第2編 犯罪者の処遇 第2章 検察 第3節 被疑者の逮捕と勾留 – 法務省
書類送検とよく似た言葉の違い
ここでは、書類送検とよく似た言葉の違いを解説します。
逮捕との違い
逮捕とは、被疑者の逃亡や証拠隠滅を防止するために行われる身柄を拘束する強制処分のことです。
書類送検とは、身柄拘束の有無や手続きのタイミングが異なります。
逮捕された場合も、起訴か不起訴かを判断するために、事件が検察に送検されるのは書類送検と同じです。
ただし、被疑者の身柄も一緒に送検されます。
ニュースでよく聞く容疑者が送検された、あるいは、容疑者の身柄が送検されたという報道は、逮捕が行われた身柄事件のことです。
さらに、逮捕は送検前の手続きであるため、手続きのタイミングも書類送検と異なります。
書類送検 | 逮捕 | |
身柄拘束 | なし | あり |
手続きのタイミング | 被疑者が特定された後に行われる | 送検前 |
送検との違い
送検とは、警察が捜査した事件を検察に引き継ぐことです。送検には、書類送検と身柄送検が含まれ、広い意味で事件を引き継ぐことを指します。
なお、送検は報道用語であり、法律用語では送致や検察官送致といいます。
書類送検の場合は、逮捕が行われていないため、どこかに身柄を留置されることはありません。
一方、身柄送検となる場合は、逮捕されているため、検察庁で勾留の要否が判断されます。
裁判所が許可すれば、勾留が行われ、10~20日間は警察の留置場に拘束されます。
検察に身柄送検されても、取り調べなどが終われば、再び警察署に移送され、勾留満了までは警察署の留置場で過ごすことになります。
書類送致との違い
書類送致とは、警察が捜査記録を検察に引き継ぐことで、書類送検と同じ意味です。
書類送検が報道用語であるのに対して、書類送致は刑事手続きの実務上で使用されます。
書類送検をされると前科がつく?
書類送検後に裁判で有罪になれば前科がつく
書類送検をされただけでは前科はつきません。前科とは、刑事裁判で有罪判決が下された経歴のことです。
刑事事件では、逮捕や検挙が行われ、検察が起訴か不起訴かを判断するために送検されます。
書類送検をされると前科がつくのではないかと思う人もいるかもしれませんが、前科がつくのは、送検後に起訴されて裁判で有罪になったときです。
書類送検されると前歴が残る
書類送検されただけでは前科はつきませんが、前歴は残ることになります。
前歴とは、警察や検察の捜査対象となった履歴のことで、警察や検察のデータベースに記録が残ります。
前科のように海外渡航の制限を受けるなどのデメリットはありません。
しかし、再犯を行った際に不利な事情として考慮され、重い処分が下される可能性があります。
書類送検されたらどうなる?
ここでは、書類送検されるまでと、書類送検された後の流れを解説します。
警察の取り調べ
罪を犯すと警察が捜査を行い、被疑者を特定します。
前述のとおり、被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断された場合、逮捕は行われません。
その場合、警察から呼び出されて取り調べや事情聴取を受けた後、書類送検されます。
事件が比較的軽微で、被害者が加害者の処分を望んでいないなどの場合は、微罪処分として送検されないこともあります。
同様に、逮捕された後に身柄拘束が不要だと判断されれば、すぐに釈放されます。
その場合も書類送検が行われ、刑事処分が決まるまで、呼び出されて取り調べを受けます。
書類送検
事情聴取や取り調べが終わると、その後検察に書類送検されます。
被疑者が逮捕される身柄事件の場合は、逮捕から48時間以内に警察は検察に事件を送検しなければなりません。
被疑者の段階では無罪の可能性があり、長期間拘束するのは被疑者にとって大きな不利益となるため、拘束期間が定められています。
一方、身柄拘束が行われない書類送検の場合は、時間的制限がありません。そのため、取り調べから2~3か月後に書類送検されることが多いです。
被疑者が容疑を否認したり、捜査が難航したりすると、6か月以上かかることもあります。
なお、書類送検されたということは、起訴か不起訴が判断されるため、場合によっては刑事裁判となり有罪となる可能性があります。
検察から呼び出し・取り調べ
書類送検された後は、検察から定期的に呼び出されて、取り調べが行われます。
取り調べは、自宅に出頭要請の手紙が届いたり、電話がかかってきたりして呼び出されます。
検察庁は土日に閉庁しているため、基本的に平日午前10時か、午後2時頃に呼び出されるケースが多いです。
処分が決定するまでに呼び出される期間や回数は決まっていません。
被疑者が罪を認めていて、証拠が揃っている事件であれば、1回の呼び出しで処分が決定することが多いです。
被害者と示談が成立している場合は、一度も呼び出さずに不起訴処分となることもあります。
一方、犯行を否認していたり、被害者との言い分が食い違っていたり、証拠がないなど捜査が難航していると、2回以上取り調べを受けることがあります。
書類送検から呼び出されるまでの期間は、おおよそ1~2か月ほどかかります。
検察からの呼び出しは任意ですが、応じない場合は逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断され、逮捕される可能性があります。
起訴・不起訴の決定
取り調べが終わると、検察が起訴か不起訴か判断します。
不起訴処分となれば、捜査も終わり、事件も終了します。前歴は残りますが、前科はつきません。
検察がさまざまな事情を考慮して起訴しない起訴猶予のケースや、証拠が不十分で起訴しない嫌疑不十分のケースなどがあります。
一方、起訴される場合は、次のいずれかの方法で起訴されます。
正式起訴 | 公開の刑事裁判で裁かれる |
略式起訴 | 被疑者の同意のもと、正式な裁判を行わず、書面で審理が行われ、罰金刑が科される |
即決裁判手続 | 軽微な犯罪で、被疑者同意のもと行われる簡易的な裁判
処分も軽く、起訴から14日以内に裁判が行われ、その日のうちに判決が下される |
なお、書類送検から起訴されるまでの期間は、おおよそ2~4か月かかります。
起訴後は裁判に出席
正式起訴された場合は、裁判が行われます。書類送検の場合は、身柄拘束が行われていないため、自宅から裁判に出席することになります。
在宅事件で起訴された場合の流れは次のとおりです。
- 自宅に起訴状が届く
- 指定の期日に裁判に出席する
- 判決が言い渡される
裁判で実刑判決が下され、懲役や禁錮などが科されると、判決確定後に検察から呼び出され、その後刑務所に収容されます。
裁判や判決確定後の呼び出しに応じない場合は、裁判所の命令で身柄を拘束されることになります。
書類送検されるリスク
身柄拘束はないが捜査は行われる
書類送検は、身柄が拘束されないため、会社や学校に行けず、生活に影響するなどのリスクはありません。
しかし、捜査は継続するため、起訴される可能性があります。
捜査が長引くおそれがある
身柄送検では、身柄拘束できる期間が13~23日間と定められているため、この期間内で起訴か不起訴かが判断されます。
一方、書類送検では身柄拘束を受けていないため、起訴までの期限も定められていません。
検察は、期限が定められている身柄事件を優先して処理するため、在宅事件では、手続きが長期化することが多いです。
警察の取り調べから書類送検されるまでが2~3か月、書類送検から起訴までが2~4か月ほどかかります。
検察から呼び出しが来ないケースも多く、忘れた頃に起訴される可能性があります。
なかなか処分が決定しないため、長く不安な時期を過ごすことになります。
起訴されないと国選弁護人はつかない
身柄送検されて、警察の留置場に勾留された場合、弁護士がついていなければ、国選弁護人を選任してもらうことができます。
一方、書類送検された場合は、自分で弁護士に依頼するか、起訴されない限り弁護士がつきません。
身柄送検後に勾留されると、弁護士は起訴されるまでに被害者と示談を行うなど、迅速な対応を行います。
結果不起訴処分が得られるケースも多いです。
しかし、在宅事件となると身柄拘束などの不利益がなく、たまに検察に呼び出されるだけなので、危機感を覚えにくい傾向があります。
弁護士に依頼するタイミングも遅れてしまい、結果起訴されたり、重い処分が下されるおそれがあります。
なお、刑事事件の有罪率は99.8%(2023年統計)です。そのため、適切なサポートを受けて不起訴処分を得ることが非常に重要となります。
書類送検でも刑罰が科される
書類送検と聞くと、逮捕や勾留が行われないため、軽い事件だと誤解されがちです。
しかし、捜査は継続され、起訴されたり、有罪となり刑罰が科されたりする可能性は残されています。
法務省によると、2022年に刑事裁判で執行猶予がついた割合は64.2%でした(身柄・在宅含む)。
つまり、35.8%は実刑判決が下され、刑務所に収容されていることがわかります。
参考:令和5年版 犯罪白書 第2編 犯罪者の処遇 第3章 裁判 第3節 第一審 – 法務省
書類送検でよくある質問
書類送検されると起訴確実?
書類送検をされたからといって、起訴が確実だとは断定できません。ただし、身柄拘束が行われない書類送検でも、起訴される可能性があります。
法務省によると、2022年に起訴された割合は32.2%でした(身柄・在宅含む)。
参考:令和5年版 犯罪白書 第2編 犯罪者の処遇 第2章 検察 第4節 被疑事件の処理 – 法務省
書類送検は会社にバレる?
書類送検をされても、会社に連絡が行くことはないため、バレることはありません。
ただし、書類送検されたことが報道されると、会社に知られる可能性はあります。
書類送検されたことはどうやってわかる?
検察から出頭要請の連絡があれば、自分が書類送検されたことを確認できます。
場合によっては、警察から釈放される際に、検察から呼び出しの可能性があると告げられることもあります。
一方、事情聴取を受けて、身元引受人が来て警察で釈放され、その後出頭要請がなければ、微罪処分となったと考えられます。
検察からの呼び出しで都合が悪い時はどうしたらいい?
検察からの呼び出しは、平日昼間に行われます。中には仕事などで行けないということもあるでしょう。
検察からの呼び出しは、原則として日時を変更できないとされています。
しかし、どうしても都合が悪い場合は、検察から送られた呼び出し状に記載されている連絡先に相談することで、調整してもらえる可能性があります。
都合が悪くても出頭しないでいると、逮捕されるおそれがあるため、必ず連絡を入れるようにしましょう。
参考:三者即日処理手続に関するよくある質問と回答 – 検察庁
まとめ
書類送検とは、警察の捜査記録だけを検察に引き継ぐことです。
身柄拘束が行われないため、一見軽い処分が下るのだろうと誤解されがちですが、起訴や刑罰が科される可能性があります。
国選弁護人が選任されないという特徴もあるため、弁護士のサポートを受けるのが遅れるリスクもあります。
油断をしていると、気づいたら起訴されていたといった事態になりかねません。
ネクスパート法律事務所では、書類送検された事件に対応した実績があります。起訴されてしまう前にご相談ください。