非親告罪とは|非親告罪との違い・非親告罪の一覧をわかりやすく解説
刑事事件では、警察が捜査した事件を、検察が刑事裁判として訴える(起訴)かどうかを判断します。
しかし、犯罪には被害者が刑事告訴をしなくても起訴できる非親告罪、犯罪には被害者の刑事告訴がないと起訴できない親告罪があります。
この記事では非親告罪について以下の点を解説します。
- 非親告罪と親告罪の違い
- 非親告罪に該当する犯罪一覧
- 親告罪から非親告罪になった犯罪
- 非親告罪の注意点
非親告罪とは
非親告罪は、被害者等からの刑事告訴がなくても起訴できる犯罪です。例えば、殺人罪や傷害罪がこれに該当します。
告訴がなされない場合や、告訴が取り消された場合でも、検察官は公訴を提起できます。
刑事告訴とは、被害者などの告訴権を持つ人が警察や検察に、加害者の処罰を求める意思表示を行うことです。
非親告罪と親告罪の違い
親告罪とは
非親告罪とよく似た言葉に親告罪があります。
親告罪とは、被害者などの刑事告訴がなければ検察が起訴できない犯罪のことです。
一部の犯罪に親告罪が定められている理由には、以下のものがあります。
- 起訴後に公開の裁判で審理されることで、被害者のプライバシーが侵害されたり、精神的苦痛を与えたりするおそれがあるから
- 軽微な犯罪であるため、被害者が希望しない以上、国が関与せずに当事者で話し合って解決した方がよいから
- 親族間で発生した事件の場合、国が介入せずに親族間で話し合って解決するのが望ましいから
例えば、名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪に該当します。
裁判で審理されると被害の内容が明るみに出て、被害者の名誉がさらに傷つく可能性があるためです。
親告罪では、被害者が刑事告訴を行わなければ検察が起訴できず、犯罪として処罰されません。
親告罪の種類
親告罪には2つの種類があります。
絶対的親告罪 | 被害者からの刑事告訴が起訴の条件となる親告罪のこと |
相対的親告罪 | 通常は親告罪ではないが、被害者と加害者が一定の親族関係にある場合のみ、適用される親告罪のこと |
絶対的親告罪と相対的親告罪の違いは、被害者と加害者が親族関係にあるかどうかです。
配偶者や直系血族(祖父母、両親、子、孫)、同居の親族間で生じた窃盗などの財産事件は、刑が免除されると定められています(親族相盗例・刑法第244条)。
そのため、近親者の犯罪を告訴することはできません。相対的親告罪が適用されるのは、親族相盗例に該当しない、いとこなどが被疑者の場合です。
親族間の犯罪は、国が介入するよりも家族間で解決した方が望ましいとされる考え方があるからです。
刑事告訴ができる人
刑事告訴できる権利がある人は以下のとおりです。
被害者が生存している場合 | 被害者
被害者の法定代理人(親権者、未成年後見人など) |
被害者が死亡している場合 | 配偶者、直系親族、兄弟姉妹
※被害者が死亡する前に告訴しない意思を明らかにしていない場合 |
被害者の法定代理人、配偶者などが被疑者の場合 | 被害者の親族 |
被害者の法定代理人には、被害者から委任された弁護士、司法書士、行政書士が行うことも可能です。
一方、刑事告発であれば、被害者や親族以外にも行うことができます。
非親告罪に該当する犯罪の一覧
以下に非親告罪に該当する犯罪、および加害者が親族の場合のみ親告罪となる犯罪を紹介します。
非親告罪となる犯罪
親告罪に該当しない犯罪はすべて非親告罪です。以下は代表例です。
- 殺人罪
- 傷害罪・傷害致死罪・過失致死罪
- 強盗罪・強盗致死傷罪
- 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪(後述)
- 住居侵入罪・建造物侵入罪・不退去罪
- 道路交通法違反
- 放火(現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪)
- 公務執行妨害罪
- 脅迫罪
- 保護責任者遺棄罪
- 薬物(覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反)
- 迷惑防止条例違反(痴漢、盗撮)
- その他性犯罪(児童ポルノ禁止法違反、撮影罪、公然わいせつ罪)
- 税法違反、出入国管理法違反 など
加害者が親族の場合のみ非親告罪となる犯罪
以下の犯罪は本来非親告罪です。しかし、いとこなど一定の親族による犯行の場合、刑事告訴が必要な親告罪として扱われます。
- 窃盗罪、詐欺罪
- 横領罪、業務上横領罪、背任罪
- 恐喝罪
- 不動産侵奪罪 など
親告罪から非親告罪になった犯罪
近年の法改正により、以下の犯罪が親告罪から非親告罪となり、被害者の刑事告訴が不要となりました。
- 強制わいせつ罪などの性犯罪
- 著作権法
- ストーカー規制法
詳しく解説します。
強制性交等罪などの性犯罪
暴行や脅迫を用いて性交やわいせつ行為を行った場合に適用される強姦罪や強制わいせつ罪は、犯罪の性質から、被害者のプライバシーを守るためにこれまで親告罪とされていました。
しかし、2017年7月13日に施行された改正刑法により、強姦罪は強制性交等罪となり、強制わいせつ罪も併せて非親告罪となりました。
非親告罪となった理由は、性犯罪の被害者が刑事告訴の判断を迫られることが精神的負担となっていたためです。
なお、2023年7月13日以降、強制性交等罪および強制わいせつ罪は、それぞれ不同意性交等罪および不同意わいせつ罪に改正されましたが、同様に非親告罪として扱われます。
そのため、同意のない性交やわいせつ行為を行った場合、被害者の刑事告訴がなくても起訴される可能性があります。
著作権法
著作権とは、小説や美術、音楽、漫画などを創作した人の権利のことです。
著作権があるので、こうした作品を利用する際は、作者に許可を得るなどする必要があります。
著作権法違反についても、2019年の法改正で一部が非親告罪となりました。
例えば、販売中の漫画の海賊版を販売したり、海賊版映画をネットで配信したりする行為が該当します。
これらの行為は非親告罪となったため、著作者の刑事告訴がなくても、検察が起訴できます。
ストーカー規制法
ストーカー規制法は、恋愛感情や怨恨感情を動機としたつきまといや嫌がらせ行為を規制する法律です。
当初は親告罪でしたが、2016年の法改正により非親告罪となりました。
この変更の背景には、被害者が加害者を恐れて刑事告訴をためらうケースが多いことや、刑事告訴の判断を迫られることが被害者にとって負担となることが挙げられます。
そのため、ストーカー行為があった場合、被害者の刑事告訴の有無にかかわらず、検察が起訴できます。
参考:ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律 – 参議院法制局
非親告罪の注意点
告訴取り下げでも起訴される可能性がある
親告罪の場合は、示談を行い、被害者の許しを得て、刑事告訴を取り下げてもらうことで、捜査が終了したり、不起訴処分となったりすることがあります。
しかし、被害者の刑事告訴が不要な非親告罪の場合、検察の判断によっては起訴される可能性があります。
非親告罪でも被害者との示談が重視される
被害者との示談が成立して刑事告訴が取り下げられても、起訴される可能性はゼロではありません。
ただし、被害者と示談が成立することで、被害者の許しを得たことや、被害の回復がなされたと判断され、刑事処分が軽くなる可能性はあります。
非親告罪でも示談成立により、不起訴処分となったり、起訴されても罰金刑や執行猶予となったりすることはあります。
非親告罪でも弁護士に相談する
非親告罪でも被害者との示談の重要性は変わりません。むしろ、刑事告訴がなくても起訴される可能性がある以上、積極的に示談を申し入れるべきです。
被害者との示談交渉は、加害者が直接接触して行うことが難しい場合が多いです。
その理由として、被害者の連絡先を知らない、示談を拒否される可能性がある、または別のトラブルに発展するリスクが挙げられます。
そのため、刑事事件の経験が豊富な弁護士を通じて示談交渉を依頼することをお勧めします。
示談が成立した場合でも起訴される可能性があるため、示談以外に反省や更生を示す取り組みも重要です。
刑事事件を得意とする弁護士であれば、示談以外の対策や示談不成立時の対応も適切に行ってくれます。
非親告罪でよくある質問
非親告罪は刑事告訴されなければ重い罪にならない?
刑事事件で裁判官が刑を言い渡す際は、以下の要素を考慮して決定されます。
- 犯行の内容や悪質性、動機、計画性
- 犯行の結果の重大性や被害の程度
- 被告人の反省の程度、経歴、事情、前科前歴の有無、常習性、余罪
- 被害者の処罰感情、賠償の有無
- 社会的な影響
- 減刑事由の有無 など
刑事告訴は、被害者が加害者の処罰を求める意思表示であるため、被害者が厳しい処罰を望んでいると判断されます。
被害者の処罰感情は量刑判断において一定の影響を与えますが、犯罪の悪質性や反省の程度、賠償の有無なども重視されます。
したがって、悪質な犯罪で示談も行わず反省もしない場合は、初犯であっても実刑判決が下されることがあります。
非親告罪も示談すれば起訴されない?
非親告罪の場合、示談が成立しても、検察の判断で起訴される可能性があります。
これは、親告罪と異なり、被害者の刑事告訴が起訴の必要条件ではないためです。
ただし、示談が成立した場合、検察は量刑判断と同様に様々な要素を考慮し、起訴するかどうかを決定します。示談が成立したことで起訴されないこともあります。
窃盗罪は親告罪?
窃盗罪は基本的に非親告罪です。
ただし、配偶者や直系血族(祖父母、両親、子ども、孫)、同居親族が行った窃盗行為については、親族相盗例により例外的に刑が免除されます。
これは、家族間のトラブルは国が介入するよりも、家族内で解決する方がよいという考え方があるからです。
起訴後に家族間のトラブルが解決したとなると、警察の捜査などが無駄になるからという意見もあります。
同様に、いとこなど親族関係がある者による窃盗行為は親告罪に該当し、刑事告訴がなければ起訴されません。
親族間のトラブルについては、弁護士に相談し、刑事告訴が可能かどうか、または民事訴訟で損害賠償請求を行うべきか検討しましょう。
まとめ
親告罪以外の犯罪は基本的に非親告罪です。
そのため、犯罪行為を行えば、被害者が刑事告訴をしなくても警察が捜査し、逮捕や検察による起訴が行われる可能性があります。
親告罪では、被害者との示談を行い刑事告訴を取り下げてもらうことが重要ですが、非親告罪でもその重要性は変わりません。
むしろ、起訴されるリスクがあるため、被害者への謝罪や賠償を行い、反省や更生を示すことが重要です。
親告罪でも非親告罪でも、犯罪に関与してしまった場合は、早い段階で弁護士に相談し、適切なサポートを受けましょう。