横領事件で示談を成立させるには?やるべきことを弁護士が解説
横領事件の場合、示談が成立しているかどうかで、処罰は大きく変わります。
横領した金額が大きいと、逮捕され、初犯でも実刑判決が言い渡される可能性がありますが、事件が公になる前に示談が成立すれば、事件化されない可能性が高くなります。
逮捕された場合でも、示談が成立すれば被害届の取り下げや、検察の判断により不起訴処分になる場合があります。
この記事では、加害者側からみた横領事件における示談について解説します。
目次
横領事件における示談とは
横領事件の示談とは、被害者への謝罪の後、横領したお金を返済するなどの約束をし、和解することです。
示談は、被害者と加害者が直接交渉を行うケースもありますが、次のようなリスクがあるため、弁護士に依頼するのが安全です。
- お互いが感情的になりやすい
- 条件や金額がまとまらない
- 被害金額の主張が食い違う
ここでは、以下4点を解説します。
- 示談の流れ
- 示談のタイミング
- 示談の内容
- 示談のための注意事項
示談の流れ
被害者と、加害者の代理人である弁護士との示談は、主に以下のような流れで行います。被害者に代理人が就いている場合は、代理人同士で示談交渉を行います。
被害者と連絡をとる
示談を行うには、弁護士が被害者と連絡を取る必要があります。
加害者が被害者の連絡先を知っている場合は、弁護士に伝え、弁護士が被害者と示談交渉を行います。一方、加害者が被害者について詳細を知らない場合は、警察などの捜査機関が被害者の個人情報を加害者に開示することはありません。
逮捕され事件化されている場合は、以下のような流れで連絡を取ります。
- 加害者の代理人弁護士が警察や検察、裁判所に、示談交渉のために被害者の連絡先を開示して欲しいと申し入れる。
- 警察や検察、裁判所が、被害者に、加害者の代理人弁護士に連絡先を開示しても良いかを確認する。
- 被害者から開示の承諾を得られたら、警察や検察、裁判所から加害者の代理人弁護士に連絡先を開示する。
- 加害者の代理人弁護士が被害者に連絡する。
被害者が弁護士との連絡を承諾しない場合は、残念ながら示談交渉を行えません。その場合は、謝罪文などを警察や検察、裁判所に提出し、反省の意思を表しましょう。
被害者と示談のための条件と金額を話し合う
初めに、弁護士は被害者に示談の意思があるかどうかの確認をします。示談に応じる意向が確認できたら、弁護士が直接会い、まずは加害者の代わりに謝罪をします。そのうえで、示談のための条件や金額等を交渉します。
合意内容に基づいて合意書を作成
被害者と弁護士の交渉で示談の条件や金額等について合意が成立したら、示談書を作成します。のちのトラブルを防ぐために、合意した内容について詳細に記載し、被害者と加害者の代理人である弁護士が署名捺印します。
示談金の支払いなど合意書の内容を履行
示談の内容に示談金の支払いがある場合は、指定された期日までに、支払わなければなりません。
また、示談の中に支払以外の約束事がある場合は、その内容を履行しなければなりません。示談書の内容を履行しなければ、合意が解除される可能性もありますし、検察も示談成立とは認めない可能性があります。示談内容の履行がされて初めて示談成立となります。
刑事事件になっている場合は、示談の内容を検事または裁判所に提出
示談が成立したら、弁護士は警察や検察、裁判所に示談書を提出します。示談の成立を証するために、示談金がある場合は支払証明書の原本なども提出します。担当者はこれを確認することで、処分の決定をします。
示談のタイミング
条件等のすり合わせが必要なので、成立に至るまでには時間がかかります。示談成立には以下のようなメリットがあるので、なるべく早く弁護士に相談しましょう。
- 逮捕前であれば事件化されない
- 逮捕後でも起訴される前であれば、不起訴処分となる可能性が高まる
- 起訴された後でも、執行猶予がつく可能性がある
示談の内容
横領における示談は、被害者に対する謝罪と示談金の支払が主な内容です。示談書に記載する一般的な内容は、以下のような項目がありますが、どの項目を記載するかは事件の内容等によって弁護士と相談しながら決めます。
- 前文
- 謝罪文
- 示談金の額・支払方法・支払期限
- 清算条項
- 宥恕(ゆうじょ)条項
- 守秘義務条項
- 誓約条項
- 日付と甲、乙の署名捺印
前文
初めに、当事者(甲:被害者、乙:加害者)の氏名を記載し、示談が成立したこと、示談書の通数などを記載します。
【記載例】
●●●●(以下「甲」という)と▲▲▲(以下「乙」という)の間で、本日、以下のように示談が成立した。示談成立の証として、本書面2通を作成し、甲乙各1通ずつ保有する。 |
謝罪文
自らが犯した罪について、被害者に対して真摯に謝罪する文言を記入します。
【記載例】
乙は、本件について、甲に真摯に謝意を示し、二度と同じ過ちを犯さないことを固く誓う。 |
示談金の額・支払方法・支払期限
示談金の支払いがある場合は、金額・支払方法・支払期限を記入します。分割の支払いや保証人を設定する場合は、その旨も記載します。
【記載例】
1 乙は、甲に対して、本事件の被害弁償として、金●●万円の支払い義務を負う
2 乙は、前項記載の金●●万円を、甲の指定する口座に振り込む方法により支払う 3 振込期限は、元号●年●月●日とする |
清算条項
示談金の支払いによって、相互に債権債務がないことを記載します。
【記載例】
本件に関して、甲と乙の間で、本示談書に定める他、何らの債権債務がないことを相互に確認する。 |
宥恕(ゆうじょ)条項
宥恕(ゆうじょ)とは、許すという意味です。この条項が記載されている示談書が取り交わされれば、起訴されている場合などに、不起訴処分になる可能性が高まります。
【記載例】
甲は、本件について乙の犯行を宥恕し、乙に関する被害届を速やかに取下げる。 |
守秘義務条項
示談が成立しても、当事者から事件についての情報が広まると、お互いに不利益が生じるおそれがあるため、守秘義務があることを記載します。
【記載例】
甲及び乙は、本件についての一切を、捜査機関に開示するなどの理由のある場合を除き、第三者に口外しないことを相互に約束する。 |
誓約条項
甲乙間で行動等の取り決めがあった場合に、その内容を記載します。以下は接触禁止条項の例です。
【記載例】
乙は、甲に対して、今後一切接触しない。 |
日付と甲、乙の署名捺印
示談書の内容を確認したことを証するために、お互いに署名(記名)・捺印し、署名した日付を記入します。
【記載例】
令和●年●月●日
甲 住所 署名(記名) 押印 乙 住所 署名(記名) 押印 |
示談のための注意事項
示談書を作成するための主な注意事項は以下のとおりです。
- 適正な示談金を支払う
- 示談書の内容を確認する
- 示談交渉に応じてもらえなくても、謝罪の意思を伝える
適正な示談金を支払う
横領は犯罪ですから、被害者への真摯な謝罪と示談金がある場合はその支払いは必須です。ですが、被害者と加害者で横領の金額の認識に相違があるケースがあります。もし、被害者から過剰に請求されている場合は、根拠のない損害賠償の請求にまで応じる必要はありません。
示談書の内容を確認する
示談書に署名捺印をすると、支払など履行義務が生じるので、間違いがないかを確認してから署名捺印するようにしましょう。
示談交渉に応じてもらえなくても、謝罪の意思を伝える
示談交渉に応じて貰えない場合でも、謝罪文などを提出し、反省していることを伝えましょう。何もせずにいると、反省していないのでないかと思われ、検察官や裁判官に不利な情報になるかもしれません。
横領事件における示談金の相場
横領事件の示談では、示談金の支払いをするケースが一般的です。では、その相場はどのくらいなのでしょうか?
ここでは、横領事件における相場について解説します。
- 横領の示談金相場は明確には決まっていない
- 横領の示談金額の決め方
- 横領の示談金を集められない場合はどうする?
横領の示談金相場は明確には決まっていない
示談金の金額に明確な相場はありません。被害金額だけではなく、事件内容や横領の金額、事件当時の状況など複数の状況を考慮して、話し合いによって決めます。
横領の示談金額の決め方
示談金の金額は、双方の合意によって決まるので、被害者と弁護士の間で話し合いをし、金額が決まります。一般的には、横領した額が基本となり、場合によっては横領した額に一定の遅延利息がついたり、迷惑料が加算されたりします。
横領の示談金を集められない場合はどうする?
示談金の支払いは、一括払いが基本ですが、高額な場合はすぐに用意するのが難しい場合があります。その際は、被害者に現時点で頭金として支払える金額を用意し、残りの金額について分割での支払いを認めてもらうよう交渉しましょう。
加害者本人の支払いに不安がある場合は、保証人が必要になるケースもあります。
横領事件で示談が成立しない場合
弁護士に依頼をしたからといって、示談が成立するとは限りません。では示談が成立しない場合は、どのようなことが考えられるでしょうか。
ここでは、横領事件で示談が成立しない場合について解説します。
- 示談が成立しない原因
- 示談が成立しなかった場合はどうなる
示談が成立しない原因
早く示談を成立させたいがあまり、示談交渉を急ぐと、被害者は怒りから示談交渉に応じてくれない場合があります。その場合は、被害者の怒りが収まるのを待つしかありません。
直接当事者同士が交渉をすると、お互い感情的になり被害者の怒りがなかなか収まらない場合があるので、弁護士に依頼し被害者と交渉してもらうのが良いでしょう。
また、加害者に反省が感じられない場合も、示談交渉は難しくなります。自分がした事実を認め、謝罪の意思を伝えましょう。
示談が成立しなかった場合はどうなる
示談が成立せず、被害届が出されると逮捕される可能性があります。さらに、横領金額が高額で、かつ、被害弁償もされていない場合は、初犯でも実刑判決を受ける可能性があります。
逮捕の流れや、逮捕における罰則などについては、こちらの記事をご参照ください。
リンク:横領は逮捕される?判例・相談事例・弁護活動の内容などを解説
まとめ
横領事件で最も大切なのは、反省の意思を被害者へ示すことです。被害者へ直接謝罪を述べられなくても、弁護士に依頼し、謝罪文を渡してもらうこともできます。
横領事件は逮捕される可能性がある犯罪です。逮捕後起訴されると刑事裁判を受けることになります。早めに弁護士に相談し、できれば被害届が出される前に示談交渉することをお勧めします。