のぞきで問われうる罪とは?逮捕のきっかけや逮捕後の流れを解説
この記事は、2023年7月13日までに発生したのぞき・盗撮行為に適用される法律について説明した記事です。
2023年6月23日に公布され、2023年7月13日に施行された改正刑法で新設された撮影罪については、以下の記事をご参照ください。
のぞきは単なるいたずら行為でなく、犯罪行為として処罰の対象になります。
のぞきを罰する法律や、課せられる刑罰はどのようなものがあるのでしょうか。
のぞき行為が発覚すると、警察に逮捕されるおそれがありますが、どのようなケースで逮捕されるのでしょうか。
この記事では、のぞきを罰する法律や逮捕の可能性について以下のとおり解説します。
- のぞきで問われうる罪
- のぞきに関連する罪
- のぞきで逮捕されるきっかけ
- のぞきで逮捕された事例
- のぞきで逮捕された後の流れ
- のぞき逮捕後の弁護活動内容
のぞき行為で逮捕される不安がある方やすでに逮捕されてしまった方は、ぜひご参考になさってください。
のぞきで問われうる罪とは?
ここでは、のぞき行為により成立しうる次の2つの犯罪について解説します。
- 迷惑行為等防止条例違反
- 軽犯罪法違反
それぞれの法令に規定されている罪の成立要件や罰則を確認しましょう。
迷惑行為等防止条例違反
都道府県等の各地方自治体は、人に迷惑をかける行為について刑罰を科する迷惑行為等防止条例を制定しています。各自治体の条例でのぞき行為に関する規定を設けている場合は、迷惑行為等防止条例違反となり、のぞき行為が犯罪となります。
例えば、東京都の場合、迷惑行為等防止条例(正式名称:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)において、次のとおり定めています。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止) 第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。 ⑴ (略) ⑵ 次に掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所 ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。) ⑶ 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。 |
東京都迷惑行為等防止条例はのぞきを直接規定していませんが、のぞきは卑わいな行為に該当するとして処理されています。
次の場所で、人の身体(姿態)または下着をのぞき見る行為を規制しています。
- 公共の場所
- 公共の乗物
罰則
東京都迷惑行為等防止条例におけるのぞきの罰則は、以下のとおりです。
- 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
- 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(常習の場合)
なお、のぞきではなく盗撮(同条例第5条1項⑵号違反)の場合は、以下のとおり別途罰則が定められています。
- 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(カメラを差し向けただけの場合)
- 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(撮影した場合)
- 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(常習の場合)
罰則は各地方自治体によって異なりますが、おおむね同程度の刑罰が規定されています。
時効
迷惑防止条例違反の公訴時効は、犯罪行為終了時から3年です。公訴時効とは、検察官が訴追できなくなる期間のことです。
つまり、迷惑行為等防止条例違反にあたる行為を行ってから3年経過した場合は、公訴時効の停止事由がない限り、起訴されなくなります。
軽犯罪法違反
軽犯罪法では1条の1号から34号まで、日常生活における軽微な秩序違反行為に関する規定を設けています。のぞきは、次の窃視の罪(軽犯罪法1条23号)にあたります。
第一条(軽犯罪)
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。 二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者 |
つまり、人が通常は衣服を着けないでいるような場所をひそかにのぞき見る行為が、処罰の対象となります。
ひそかにのぞき見るとは、被害者に知られないで、物陰や隙間などからこっそり見るという意味です。肉眼で見ることはもちろん、カメラなどのレンズを通して見る・録画することも含まれます。
罰則
軽犯罪法違反の罰則は、拘留(1日以上30日間未満)又は科料(1,000円以上10,000円未満)です。
時効
軽犯罪法違反の公訴時効は、犯罪行為終了時から1年です。公訴時効とは、検察官が訴追できなくなる期間のことです。
つまり、軽犯罪法違反にあたる行為を行ってから1年経過した場合は、公訴時効の停止事由がない限り、起訴されなくなります。
のぞきに関連する罪
ここでは、のぞきに関連する罪について解説します。
のぞき行為を直接的に罰するものではなくても、のぞきに伴う行為によって以下の罪が成立する可能性があります。
- 住居侵入罪・建造物侵入罪
- 児童ポルノ禁止法違反
ひとつずつ説明します。
住居侵入罪・建造物侵入罪
のぞき目的で他人の住居や敷地内に勝手に立ち入ったり、お店や旅館のトイレでのぞき見したりした場合は、住居侵入罪や建造物侵入罪(刑法130条)が成立する可能性があります。
罰則
住居侵入罪及び建造物侵入罪の罰則は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
時効
住居侵入罪及び建造物侵入罪の公訴時効は、犯罪行為終了時から3年です。公訴時効とは、検察官が訴追できなくなる期間のことです。
つまり、他人の住居又は敷地・建造物から出た時点から3年経過した場合は、公訴時効の停止事由がない限り、起訴されなくなります。
児童ポルノ禁止法違反
のぞき行為に並行して盗撮していた場合で、次のいずれにも該当する場合は、盗撮した写真や動画等のデータは児童ポルノにあたります。
- 被写体が18歳未満
- 衣服の全部または一部を着けない姿態
- 性欲を興奮・刺激するもの
児童ポルノについては、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)によって厳しい罰則が規定されています。
罰則
児童ポルノ禁止法違反の罰則は以下のとおりです。
- 児童ポルノを所持していた場合:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 盗撮によって児童ポルノを製造した場合: 3年以下の懲役または300万円以下の罰金
- 児童ポルノの不特定多数へ提供した場合:5年以下の懲役又は500万円以下の罰金
時効
児童ポルノ禁止法違反の公訴時効は、その行為の態様によって以下のとおり異なります。
- 児童ポルノの所持:3年
- 盗撮による児童ポルノの製造:3年
- 児童ポルノの公然陳列(不特定多数への提供):5年
のぞきで逮捕されるきっかけ
ここでは、のぞきで逮捕されるきっかけについて解説します。
のぞきで逮捕されるケースには主に次の2パターンがあります。
- 被害者や目撃者の通報により駆け付けた警察官に現行犯逮捕されるケース
- 被害届が出され、警察の捜査により後日逮捕されるケース
ひとつずつ説明します。
被害者や目撃者の通報により駆け付けた警察官に現行犯逮捕されるケース
のぞかれた被害者本人や目撃者が通報し、駆けつけた警察官に犯人が逮捕される場合です。
現行犯逮捕は、一般の人でも認められるため、警察官が到着する前に、被害者本人や目撃者に取り押さえられ、警察官に身柄が引き渡されるケースもあります。
防犯カメラの映像や被害届によって警察の捜査し後日逮捕につながるケース
防犯カメラから犯行が発覚する
ホテルやマンション等に防犯カメラが設置されていることもあります。防犯カメラに残った映像から犯行が発覚し、施設の管理者等が被害届を出して、警察の捜査により後日逮捕されるケースがあります。
被害届や目撃者の供述により犯人が特定される
被害者に気づかれてしまい逃走した場合でも、被害届や目撃者の供述、監視カメラの映像により後日逮捕に至る可能性があります。交通系ICカードの利用履歴から犯人が特定されることもあります。
のぞきで逮捕された事例
ここでは、最近のニュースや報道で取り上げられた、のぞきで逮捕された事例を紹介します。
友人宅の浴室の脱衣所にスマートフォンを設置し友人の交際相手を盗撮した事例
友人男性宅で浴室を借りた男(当時24歳)が、女性の入浴前に浴室の脱衣所にスマートフォンを設置し、友人男性の交際相手を動画で撮影した疑いで逮捕されました。
スマートフォンを回収しようとした際に、不審に思った友人らに問い詰められ犯行を認めました。犯行の翌日、迷惑行為防止条例違反(のぞき見、撮影行為)で逮捕されました。
男性宅で浴室借りた小学校講師、友人の交際女性が入る前にスマホ設置…脱衣所で盗撮(yomiuri.co.jp)
女子トイレから出てきたところを通行人見られ通報により逮捕された事例
のぞき目的で女子用の公衆トイレに侵入し、出てきたところを通行人の男子に見られた男(当時27歳)は、通行人から何をしていたかと問われ、のぞき目的で入ったことを認めました。通行人の通報により、駆け付けた警察官に建造物侵入の疑いで逮捕されました。
女子トイレから出てきた男「のぞき目的」認める (kobe-np.co.jp)
のぞきで逮捕された後の流れ
のぞき行為が発覚し、逮捕された後はどうなるのでしょうか。
ここでは、のぞきで逮捕された後の流れを解説します。
警察の取り調べ
逮捕されると、警察署内の留置場や法務省所管の留置施設に身柄を留置され、引き続き警察による捜査がおこなわれます。
通常は、留置場から取調室に連れていかれて警察官の取り調べを受けます。
検察官の取り調べ
警察は、逮捕後48時間以内に、事件を検察官に送致(送検)するかどうか判断します。
事件が送致されると、検察官による取り調べが行われ、24時間以内に勾留請求するかどうかの判断がなされます。
勾留
検察官が勾留請求すると、裁判官による勾留質問が行われます。
裁判官が勾留決定を出すと10日間勾留されますが、捜査が完了しない場合はさらに最大10日間勾留が延長されることがあります。
起訴・不起訴処分
検察官が、事件を起訴すべきか不起訴処分とするかを判断します。
刑事裁判
検察官が起訴した場合には、刑事裁判が開かれます。
逮捕後の流れの詳細は、下図および下記関連記事をご参照ください。
のぞき逮捕後の弁護活動内容
ここでは、のぞきで逮捕された場合の弁護活動について解説します。
早期釈放のための活動
逮捕後72時間以内は、家族でもご本人と面会できません。弁護士であれば逮捕後すぐにご本人と面会し、取り調べ時のアドバイスを伝えられます。これにより、ご本人の本意でない供述調書を取られるリスクを低くできます。
検察官が勾留請求するかどうかを判断する際に、ご家族を身元引受人として、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがないことを主張し、勾留請求しないよう働きかけます。
不起訴処分獲得のための活動
被害者に対する謝罪と示談成立のための交渉を行います。被害者との間で示談が成立すれば、不起訴処分を得られる可能性が高くなります。
具体的には、逮捕されたご本人の自筆の謝罪文を通して、被害者に謝罪を申し入れ、示談金を提示して示談交渉を進めます。なお、のぞきの示談金の相場は10万円~30万円程度です。
執行猶予獲得のための活動
起訴されて刑事裁判になった場合、裁判官が執行猶予を付けるかどうかは、犯罪の内容や前科前歴の有無のほか、被害弁償や再犯可能性等のさまざまな事情を考慮して決められます。
弁護士は、執行猶予付き判決を得るために、被害者との示談のほか、再び罪を犯さないような対策を構築するサポートをします。裁判では、ご本人の反省状況や再犯の可能性がないこと示し、有利な事情を裁判官にアピールします。
まとめ
のぞきの態様によっては、3~5年程度の懲役を科される可能性があります。
被害者との間で示談を成立できれば、刑事事件化の防止、早期釈放、不起訴の可能性をより高めることができるでしょう。
示談交渉がうまくいかなかった場合でも、具体的な再犯防止策を講じる等、不起訴の獲得に向けた代替手段も考えられますので、弁護士に相談することをおすすめします。