万引き窃盗がやめられない|クレプトマニアとは?逮捕されたら弁護士にご相談を!
- 万引き窃盗はやってはいけないことだとわかっている
- 欲しくて盗っているわけでもない
- 買おうと思えば買えるだけのお金も持っている
- 万引きなんてやめたいと思う
- でもどんなに頑張ってもやめられない・・・
そんな悩みを抱えて生きている人がいます。この記事ではそのような悩みを抱えながら生きている方やその家族の手助けになるようにクレプトマニアという病気についてわかりやすく解説します。
クレプトマニアとは
クレプトマニアとは聞き慣れない言葉だと思います。クレプトマニアとは一体何でしょうか?
クレプトマニアとは
クレプトマニアとは、窃盗症や病的窃盗と呼ばれる精神疾患の1つです。通常の窃盗犯の場合には、〇〇が欲しいけれど買うだけのお金が無いから(あるいはお金がもったいないから)盗もうというように、欲しいから、あるいは必要だから盗みます。対象物を手に入れたいために盗みを行います。
クレプトマニアの場合には、対象物を手に入れることが目的ではありません。クレプトマニアの方が逮捕され、動機を確認すると、「別に欲しくもなかった」と回答することが往々にしてあります。
クレプトマニアの原因
クレプトマニアは精神疾患です。精神疾患になった原因はどこにあるのでしょうか?原因としてよく挙げられるものを紹介しながら解説します。
- 家庭環境|親に認めてもらえない等
- 配偶者を亡くした等の精神的不安
クレプトマニアになった原因としてよく挙げられるのがこれらの事情です。
一生懸命頑張ったにもかかわらず親に認めてもらえず満足感を得られなかった人や、子供たちが独立した後すぐに配偶者を亡くし精神的に不安定になってしまった人等が、精神的不安や辛さを紛らわすために窃盗をするようになることがあります。精神的不安や辛さが窃盗をすることによる刺激で一時的にせよやわらぐため、また窃盗をするようになり、常習化してしまうとクレプトマニアになります。
クレプトマニアの特徴
クレプトマニアには2つの特徴があります。以下詳しく見ていきます。
・摂食障害も併合していることが多い
クレプトマニアの方は、盗みを始める前に、過食症などの摂食障害を発症している方が多くいます。
自分の頑張りを親や周囲に認めてもらえず、過食症に陥り、自分の貯金を崩してあるいは借金をしてまで食べ物を買うようになります。食べる自分が嫌で食べてすぐに嘔吐する行為を繰り返します。貯金が底をつき、あるいは借り入れができなくなり、万引きをするようになります。
1回万引きをして成功してしまうとやめられなくなり、万引きして食べ物を手に入れることが普通になってしまい、お金が手元にあっても万引きをするようになります。
圧倒的に女性が多い
アメリカの精神医学会の研究によるとクレプトマニアの男女比は1:3で圧倒的に女性が多いとされます。女性の中では主婦の割合が多いことも報告されています。
クレプトマニアに女性が多い理由の1つは、日常的に買い物をする主婦の割合が多いからと言われています。
主婦の場合、家事や育児を1人で抱え込みストレスや孤独感を感じ、買い物でストレスを発散しながらちょっとした万引き行為をすることで節約もでき、一種の達成感を得られるようになります。万引き行為を繰り返すうち、万引きの依存症に陥ってしまうのが主婦のクレプトマニアの典型的な例とされています。
クレプトマニアの診断基準(5つ)
世界的にクレプトマニアの診断基準として、アメリカ精神医学会による「精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,DSM)」の第5版に、以下5つの診断基準が挙げられています。
- 個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される
- 窃盗に及び直前の緊張の高まり
- 窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感
- その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない
- その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない
クレプトマニアの場合、欲しいものを盗る時や節約したくて盗る時もありますが、主たる目的は窃盗行為直前の緊張の高まりと、窃盗行為をした時のストレス発散、快感、満足、解放感等を味わうことです。そのため、逮捕されても、刑務所で服役しても、出所後すぐに窃盗行為を繰り返します。
クレプトマニアの治療方法
クレプトマニアの方は、自分の犯罪行為を周りに話せず自分でなんとかしようと頑張りがちです。その結果孤立し、症状がますます悪化するという状況に陥ることが少なくありません。
クレプトマニアは盗みたい衝動を自分でコントロールできない精神疾患であるため、自分自身の努力だけで窃盗行為をやめることは困難です。周りの協力を仰ぐことから始めましょう。
専門医での診断
窃盗行為を繰り返してしまう人に対しては専門医による診断が必要です。窃盗行為がやめられず困っている方は是非1度専門医に診てもらいましょう。
専門の治療機関への通院
専門医による診断結果から、自分がクレプトマニアという精神疾患にり患していることがわかれば、治療機関への通院を続けることで治る可能性がでてきます。
クレプトマニアは依存症であるため、クレプトマニアからの回復率はかなり低いとされます。治療しながらも再犯を犯してしまい、治療から脱落してしまう方が8割程度いるとされます。
クレプトマニアの場合、うつ病や過食症等他の病気も持っている方が多いです。クレプトマニアを治すためには同時に他の病気も治療する必要があります。
クレプトマニア(万引き常習)で逮捕された場合の流れ
クレプトマニアは精神疾患であるといっても、万引き行為が犯罪であることに変わりはありません。万引きで逮捕された場合の流れを解説します。
逮捕
万引き行為の場合、店内を巡回中の警備員に見つかって現行犯逮捕されることが多いです。店舗で現行犯逮捕されると警察が呼ばれ、そのまま警察署に連れて行かれて取り調べを受けます。
逮捕後48時間以内に検察官に事件が送致されます。検察官は事件を受け取ってから24時間以内に被疑者を勾留するか釈放するか決定します。
被疑者を勾留すべきと判断した場合には、検察官は裁判所に勾留請求をします。裁判官は勾留請求に理由があると判断した場合には勾留決定をだします。
勾留決定がだされると、原則10日間、延長されると更に10日間、合計で最大20日間勾留が続きます。
クレプトマニアの方の場合には、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれは比較的低いため、在宅事件になる可能性があります。
在宅事件になった場合には早期に専門医を受診し、診断を受け、治療を開始しましょう。
なお、在宅事件になった場合に何もしないでいるといつの間にか検察官の捜査が終了し、起訴される可能性があります。在宅事件になった場合には早期に弁護士に相談することをお勧めします。
起訴あるいは不起訴
勾留期間満期前に検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするか決定します。クレプトマニアの場合には、過去に何度も逮捕されている場合、あるいは服役後の再犯である場合等では起訴される可能性があります。
裁判
起訴されると公開の法廷で刑事裁判が開かれます。日本の刑事裁判の場合には起訴されると99.9%が有罪になります。
執行猶予が付かずに実刑判決が言い渡されると、そのまま刑務所に収監されます。
服役
実刑判決が言い渡されると刑務所に収監され、刑期満了まで出所できません。服役中は規則正しい生活を送り、刑務作業をします。
クレプトマニアの場合、無罪あるいは減軽されるか?
万引き窃盗の原因がクレプトマニアだった場合、無罪となったり刑を減軽してもらえたりするのでしょうか?
責任能力の有無
刑罰を科すためには、犯行時責任能力があることが必要です。万引き窃盗をした時に、被告人に責任能力があったか否かが問題となりますが、クレプトマニアであるということにより責任能力が否定されることはまずありません。
クレプトマニアの方は、万引き窃盗が悪いことであることはわかっている場合がほとんどで、つまり責任能力はあります。
クレプトマニアを理由とする無罪判決の可能性は低い
責任能力があるにも関わらず、繰り返し万引き窃盗をしているためクレプトマニアを理由に無罪になる可能性は低いです。
刑の減軽を獲得するためにすべきこと
クレプトマニアのため万引き窃盗がやめられない場合、今後も万引き窃盗を繰り返す可能性が高いです。
刑の減軽を獲得するためになにをすべきか解説します。
治療
クレプトマニアは精神疾患です。適切な治療を続けなければ治りません。まずは専門医による診断を受け、治療方針を立ててもらい治療に専念します。
更生の努力
治療をしながら、今後は万引き窃盗をしないための努力も必要です。自分から治療を受け続ける努力、自助グループのミーティング等に出席しクレプトマニアを克服するための努力をします。
家族の協力を得る
クレプトマニアになる要因の1つに、周囲の無理解があります。クレプトマニアの人の努力を認めずプレッシャーをかける親や周囲の人の存在が原因である場合、原因が自分にあると気が付いた人がクレプトマニアの人に寄り添うことで治療が進むケースもあります。
クレプトマニアの人が買い物に行く時には必ず付き添って万引きをしないように見守ってもらうことも必要です。買い物に行ったけれど、万引き欲求を抑えることができ、何も盗らずに無事に帰宅できたことは、クレプトマニアの方にとって自信につながります。
クレプトマニアの解決事例2つ
ネクスパート法律事務所に依頼された方で、クレプトマニアの方の解決事例についてお伝えします。
依頼者はお金を持っているにもかかわらず、万引きを繰り返してしまっていました。万引きが店員に見つかり、警察に引き渡されました。
弁護士が頻繁に接見に行き、万引きを繰り返していた依頼者に対し、万引きが店舗に与える影響や家族に与える迷惑等について丁寧に説明しました。
依頼者は当初病院通院を拒否していましたが、弁護士の説明により自分の状況を理解し、通院することを誓約しました。店舗側からは示談に応じないと言われ示談ができず、起訴されました。
被告人が反省し、今後は通院治療すること等を報告書にして裁判所に提出、被告人の反省の態度が認められ執行猶予を獲得できました。
依頼者は依頼の2カ月前に万引きで逮捕され、在宅事件になっていました。
依頼者自ら被害店舗に謝罪に行き、被害弁償をしました。被害店舗の責任者からは、被害届を取り下げておくと言われたようですが、被害届の取下げが無いまま捜査がすすみ、検察官による取り調べも終了しました。
依頼者は制限職種に就いていたため、不起訴を獲得する必要がありました。このままでは起訴されてしまうと焦りを感じ、ネクスパート法律事務所に依頼に来られました。
面談により、依頼者には同様の前科が多数あること、お金に困ってはいないことが判明し、クレプトマニアの可能性が高いことがわかりました。
依頼後直ちに弁護人選任届を提出し、捜査状況を確認、すぐには起訴しないことがわかりました。
依頼者が今後同様の罪を犯さないためには通院治療の必要があります。依頼者には専門医を紹介し、通院してもらい、今後の治療計画などを立ててもらいました。
依頼者が積極的に通院治療に励んだこともあり、不起訴を獲得できました。
クレプトマニアで弁護士ができること
クレプトマニアによる万引き窃盗の場合に弁護士ができることについて解説します。
被害者と示談交渉する
クレプトマニアによる万引き窃盗の場合、被害者は店舗であることが多いです。会社によっては、万引き犯とは示談をしないというルールを作っているところもあり、示談交渉に全く応じてくれない店舗もあります。
示談に応じてくれる場合には、加害者からの謝罪を伝え、被害金額の弁償および示談金の支払いをします。被害店舗からは、今後加害者の店舗利用を禁止する旨伝えられる場合が多いです。近所にその店舗しか無い場合には、その店舗を利用する場合には必ず家族が同伴することという条件付きで店舗の利用を許可してくれる場合もあります。
示談に応じてもらえない場合には、謝罪し被害弁償だけでもします。
クレプトマニアの診断を受けさせる
クレプトマニアによる万引き窃盗の場合は、通常の窃盗とは違い、治療に専念させることが最も重要である旨を捜査機関や家族等の周囲の人にも理解してもらう必要があります。
クレプトマニアの場合には、刑罰だけでは再犯の防止が困難です。刑罰を加えることが適切ではないという説もあります。クレプトマニアの疑いがある場合には、専門医による診断を受け、治療する必要があります。
クレプトマニアの治療の取り組みを示す
専門医による診断の結果、クレプトマニアと診断された場合には、治療をしなければなりません。クレプトマニアは精神疾患の1つであり、治療をしなければ治らない病気です。
近年クレプトマニアに関する研究が進み、クレプトマニアを専門に治療するクリニック等や患者同士のグループミーティングをする場が増えてきました。
再犯防止のためクレプトマニアになった原因を探り、悩みや辛い体験等を打ち明けあうことによって治療への足がかりができます。
専門医のもとへ定期的に通院すること、患者同士のグループミーティングに参加することで治療に取り組んでいることを捜査機関や裁判所に示します。
刑の減軽を目指す
起訴されてしまった場合、クレプトマニアが原因の万引き窃盗は刑罰では解決できないこと、治療が最も有効な手段であることから、一刻も早く治療に取り掛かるべきと主張します。そして執行猶予の獲得や刑の減軽を目指します。
まとめ
万引き窃盗を繰り返してしまうクレプトマニアについて解説しました。クレプトマニアは、患者が自分で治せません。専門医による診断を受け、継続して適切な治療を受け続けることが必要です。周囲の理解や協力も不可欠です。
万引き窃盗を繰り返して逮捕されてしまった方は、早期に弁護士にご相談ください。