覚醒剤取締法違反での逮捕|罰則・傾向・対応方法を解説

覚醒剤取締法違反で逮捕されると、どのような刑事処分を受けるのでしょうか。本コラムでは、主に以下の点について解説します。
- 覚醒剤取締法の概要
- 覚醒剤事件で逮捕されるきっかけ
- 覚醒剤事件の刑事処分の傾向
- 覚醒剤事件における刑事弁護の必要性
今後の対応にご活用ください。
目次
覚醒剤取締法の概要
最初に、覚醒剤取締法の概要を確認します。
覚醒剤に該当する薬物とは
覚醒剤取締法第2条第1項第1号は、覚醒剤を以下のように定義しています。
- フエニルアミノプロパン
- フエニルメチルアミノプロパン
- および各その塩類
フエニルアミノプロパンは通称アンフェタミン、フエニルメチルアミノプロパンはメタンフェタミンと呼ばれ、いずれも自然界には存在しない化学的に合成された物質です。
日本国内で流通しているのは、ほとんどがメタンフェタミンとされており、通常はメタンフェタミン塩酸塩の状態で密売、乱用されています。メタンフェタミンそのものは水に溶けにくい物質ですが、塩酸塩にすることで水に溶けやすくなります。
覚醒剤の使用方法としては、水に溶かして注射するのが一般的です。アンフェタミンとメタンフェタミンの塩類まで覚醒剤に含まれるのは、覚醒剤にこのような性質があるからです。
メタンフェタミン塩酸塩は戦前から戦後にかけて、ヒロポンという商品名で一般の医薬品として販売されており、当時は社会情勢の混乱と相まって覚醒剤の乱用が蔓延しました。
昭和26年に覚醒剤取締法が制定されたのには、こうした時代背景がありました。
覚醒剤取締法が禁止する行為と罰則
覚醒剤取締法は覚醒剤の用途を医療と学術研究に限り、取り扱える者を限定しています(覚醒剤取締法第3条第1項参照)。資格のない者による取り扱いは禁止されており、違反行為をした場合は罰せられます(同法第41条以下)。
使用、所持、譲渡・譲受など
覚醒剤取締法第41条の2は、覚醒剤をみだりに所持し、譲り渡し、または譲り受けた者は10年以下の懲役に処すると定めています。
また、覚醒剤取締法第41条の3第1項第1号は、同法第19条(使用の禁止)の規定に違反した者は10年以下の懲役に処すると定めており、覚醒剤の使用、所持、譲渡・譲受の法定刑は10年以下の懲役です。
さらに、同法第41条の2第2項は営利目的の使用、所持、譲渡・譲受に対しては、1年以上の有期懲役に処し、または情状により1年以上の有期懲役および500万円以下の罰金に処すると規定しており、営利目的の場合は法定刑が重くなります。
有期懲役については、刑法第12条が1月以上20年以下とすると定めており、あわせて考えると営利目的の覚醒剤の使用、所持、譲渡・譲受に対する法定刑は1年以上20年以下の懲役です。
輸入・輸出、製造
覚醒剤取締法第41条は、覚醒剤をみだりに本邦もしくは外国に輸入し、本邦もしくは外国から輸出し、または製造した者は1年以上の有期懲役に処すると定めています。
覚醒剤の輸入・輸出、製造に対する法定刑は1年以上20年以下の懲役です。
また、営利目的の輸入・輸出、製造に対しては、無期もしくは3年以上の懲役に処し、または情状により無期もしくは3年以上の懲役および1000万円以下の罰金に処すると規定しており、営利目的の場合は法定刑が重くなります。
覚醒剤の使用、所持、譲渡・譲受、輸入・輸出、製造のいずれも、未遂であっても罰せられます。
覚醒剤事件の時効
犯罪行為が終わってから一定の期間が経過し、犯人を起訴ないし処罰できなくなることを公訴時効といいます。
覚醒剤の使用、所持、譲渡・譲受の公訴時効は7年で、営利目的の場合は10年です。
覚醒剤の輸入・輸出、製造の公訴時効は10年で、営利目的の場合は15年です。
覚醒剤事件で逮捕されるきっかけ
令和3年版警察白書によると、令和2年における覚醒剤事犯の総検挙件数は1万2124件で、態様別にみると所持が3689件、使用が7400件でした。所持と使用を合わせると1万1089件で、全体の9割超を占めていました。覚醒剤事件のほとんどは所持か使用で検挙されており、逮捕のきっかけの多くが職務質問か家宅捜索と考えられています。
職務質問
職務質問は、警察官職務執行法第2条第1項で定められた警察官の権限です。以下のような者に対しては停止させて質問できると規定しています。
- 異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、何らかの罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者
- 既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて、知っていると認められる者
一方、同法第2条第3項は刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、またはその意に反して警察署、派出所もしくは駐在所に連行され、もしくは答弁を強要されることはないと定めており、職務質問は任意で行われます。
任意といえども、職務質問を拒否すれば警察官が簡単に引き下がるわけではありません。立ち去ろうとする者に対する一定の引き止め行為は認められています。
さらに、職務質問で所持品検査を行うことも、強制力の行使と認められない範囲では許容されます。この所持品検査で覚醒剤が見つかれば、覚醒剤所持の現行犯で逮捕される可能性が高いです。
覚醒剤を所持していなくても、注射器などが見つかれば警察官は尿の採取を求めてくるでしょう。任意であれば採取を拒めますが、拒否すると裁判所から令状を取得し、強制採尿される可能性があります。
尿検査で覚醒剤の陽性反応が出れば、覚醒剤の使用で逮捕されます。
家宅捜索
職務質問に加えて、覚醒剤事件で逮捕につながるきっかけとして多いのが、家宅捜索です。家宅捜索は俗にガサ入れ、ガサと呼ばれることもあり、任意の職務質問と違って家宅捜索は拒否できません。
捜査機関が家宅捜索を行うには、裁判所が発行する捜索差押許可状が必要で、令状には被疑者・被告人の氏名に加えて、差し押さえるべき物や捜索すべき場所などが記載されます。
家宅捜索で覚醒剤が見つかれば、覚醒剤所持の現行犯で逮捕されます。また、尿検査で覚醒剤の陽性反応が出れば、使用罪でも立件されるでしょう。
覚醒剤事件逮捕後の傾向
覚醒剤事件で逮捕されると、高い確率で起訴されます。再犯の場合は実刑判決が出やすくなります。令和2年版犯罪白書で覚醒剤事件の刑事処分の傾向を確認しましょう。
高い起訴率
令和2年版犯罪白書によると、令和元年における覚醒剤事件の起訴率は75.7%でした。令和元年の刑法犯の起訴率は38.2%、道路交通法違反を除く特別法犯の起訴率は49.3%で、覚醒剤事件の起訴率の高さがうかがえます。
初犯の場合
覚醒剤事件は、初犯であっても起訴される可能性が高く、刑事裁判においては執行猶予付判決を得られるかが焦点です。
白書によると、覚醒剤事件で起訴された被告人のうち、約4割が執行猶予付判決を受けています。初犯であれば執行猶予になる可能性は十分あります。
再犯の場合
一方、覚醒剤事件の再犯で刑事裁判を受ける場合、執行猶予が付く可能性は低くなります。
白書によると、令和元年に覚醒剤事件で検挙された成人のうち、過去に覚醒剤取締法違反で検挙されたことがある者の割合は66.9%でした。覚醒剤事件の半数以上を再犯者が起こしており、再犯の被告人が実刑を免れるのは難しいです。
覚醒剤事件で逮捕された後の流れ
覚醒剤事件で逮捕された後は、以下のような流れで刑事手続きが進みます。
- 逮捕から48時間以内に検察官に身柄送致
- 送致から24時間以内に検察官は裁判所に勾留を請求
- 勾留請求が認められると、原則10日間、最長で20日間、身柄を拘束される(却下されれば釈放)
- 勾留の期間内に検察官が被疑者を起訴(不起訴の場合は釈放)
- 起訴後勾留が認められると、原則2か月間、身体拘束が続く(以後、1か月ごとの更新可能)
- 刑事裁判
覚醒剤事件での刑事弁護の必要性
最後に、覚醒剤事件における刑事弁護の必要性を説明します。
接見
刑事事件で逮捕されると、勾留の可否が決まるまでの72時間は、弁護士以外は被疑者に面会できません。勾留が認められた後でも、検察官が請求し裁判官が許可すれば、接見禁止処分が付されます。接見禁止の間は、弁護士以外は原則被疑者に面会できません。
覚醒剤事件は、証拠隠滅や関係者の口裏合わせを防ぐ目的から、接見禁止が付されるケースが比較的多いです。
弁護士は逮捕からの72時間だけでなく、接見禁止期間でも被疑者に面会でき、取調べに臨む上でのアドバイスなどが可能です。
保釈請求
起訴率が高い覚醒剤事件においては、一刻も早く身体拘束から解放されるため、保釈請求も重要な手続きです。保釈は一定の保釈金を納める代わりに、起訴後の被告人の身体拘束を解いてもらう制度です。
刑事裁判を適正に行うためには、被告人の逃亡や証拠隠滅を防ぎ、裁判の期日通りに被告人を出廷させなければなりません。起訴後勾留が認められるのは、裁判所が被告人に逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとみなしているからです。
保釈金は被告人に逃亡や証拠隠滅をさせず、期日通りに裁判に出廷させる保証として納付され、保釈時の約束を破れば没収されます。一方、被告人が約束を守り刑事裁判が問題なく終われば、判決の内容にかかわらず保釈金は返還されます。
保釈の手続きとしては保釈請求書の提出が必要で、保釈後の被告人を監督する身元引受人を立てることも重要です。弁護士はこうした保釈の手続きも行えます。
刑の減軽・執行猶予
覚醒剤事件は再犯率が高く、執行猶予付判決を得るためには、刑事裁判でいかに薬物依存から抜け出し更生していくかを示す必要があります。
弁護士事務所は薬物依存症の治療を行っている医療機関や薬物依存からの回復を支援している団体を紹介でき、更生に向けたサポートが可能です。
こうした活動によって、刑が減軽されたり執行猶予が付いたりする可能性を高められます。
まとめ
覚醒剤事件は起訴率が高く、刑事弁護の方針としては、早期の保釈や執行猶予付判決を求めていきます。再犯率が高いため、刑事裁判では薬物依存から抜け出し更生していく道筋を示すことが重要で、弁護士によるサポートを受けるのが得策です。覚醒剤事件でお悩みのことがあれば、ネクスパート法律事務所にご相談ください。