警察の取り調べはひどい?自白強要される?注意点と対処法を解説

警察の取り調べと聞くと、暴力や自白強要といった過酷な取り調べを想像する人もいるかもしれません。

実際、2024年には検察官が被疑者に対して人格を否定する発言をしたとして問題視された事案も報告されています。

この記事では、警察の取り調べについて以下の点を解説します。

  • 警察の取り調べとは・取り調べの実態
  • 警察の取り調べを受ける際の注意点
  • 警察の取り調べに不安がある場合の対処法

取り調べに関する知識を持ち、ひどい取り調べに遭った際の対処法を知っておきましょう。

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警察の取り調べとは

取り調べとは、捜査機関が犯罪捜査のために、被疑者から供述を求めることです(刑事訴訟法第198条)。

正式名称は取調べです。ここでは、警察の取り調べの概要を解説します。

取り調べの種類

ひとえに取り調べといっても、取り調べには以下の種類があります。

被疑者に対する取り調べ 任意の取り調べ 警察から出頭を求められ行われる取り調べ
強制の取り調べ 逮捕後に行われる拒否できない取り調べ

一般的に知られている取り調べ

被疑者以外に対する取り調べ(事情聴取) 被疑者以外に対して行われる取り調べ

一般的には事情聴取と呼ばれることが多い

取り調べとよく似た言葉に事情聴取がありますが、どちらも出頭して、事情を聞かれる点は一緒です。

ただし、取り調べと聞くと犯罪者として扱われるようなイメージがあるため、容疑者(被疑者)以外から事情を聞く際は、事情聴取という言葉を使うことが多いようです。

取り調べを行う場所

警察署での取り調べは、取調室で行われます。

各警察署によっても若干異なりますが、4~6畳くらいの部屋に事務所が置かれており、刑事ドラマなどで見る取調室のイメージ通りだと言えます。

取り調べをする際は、奥に被疑者、ドア側に捜査官が座ります。

被疑者が椅子に座ると手錠は外されますが、腰縄はそのままで、手錠もパイプ椅子などに固定されます。

密室での強引な取り調べが問題になったことから、取り調べの際は、ドアを開けておくことになりました。

ドアの前にはパーテンションが置かれるなどし、プライバシーは守られるようになっています。

取り調べの時間や回数

法務省が2011年に公表した取調べに関する国内調査結果報告書によると、逮捕された被疑者に対する警察の取り調べの平均時間は18時間52分でした。

逮捕から身柄拘束される期間は最長で23日間です。

そのうち検察に事件を送致する日や検察官による取り調べ日など、警察が取り調べできない5日間ほどを除けば、平均1日1~2時間程度の取り調べが行われています。

2008年からは、警察捜査における取調べ適正化指針が定められ、以下のような時間制限が示されました。

  • 休憩時間などを除く1日8時間を超えた取り調べは禁止
  • 午後10時から午前5時までの取り調べは禁止

8時間以上の取り調べや時間外の取り調べを行う場合は、警察幹部による事前承認が必要とされています。

取り調べの流れ

警察の取り調べは、以下の流れで進められます。

  1. 警察から被疑者に対して黙秘権の告知
  2. 弁護人選任権の告知
  3. 犯罪事実の説明
  4. 事情聴取
  5. 供述調書の作成
  6. 供述調書への署名・押印

黙秘権とは、取り調べや裁判の際に、話したくないことについて供述を拒否できる権利のことです(憲法第38条第1項)。

供述調書とは、被疑者や参考人が取り調べで供述した内容を、警察や検察が記録した書面のことです(刑事訴訟法第198条3項)。

取り調べでは、黙秘権や供述調書の取り扱いが非常に重要となります。

取り調べで聞かれること

取り調べでは、以下の内容が聞かれることになります。

  • 自分の生い立ちや家族構成、これまでの生活、仕事について
  • 犯罪への関与の有無
  • 犯行時の行動や状況
  • 犯行に至る経緯や背景・事情
  • 被害者との関係
  • 犯行後の行動 など

供述調書を作成する前に、身上調査として簡単な経歴や生い立ちなどが質問されます。

被疑者をリラックスさせたり、口を割らせたりするため、事件と関係のない雑談やプライベートな話がされることもあります。

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警察の取り調べはひどい?自白強要をされる?

警察の取り調べは実際に、暴力的であったり、自白を強要されたりするなどひどい・きついと言われるようなものなのでしょうか?

ここでは、警察の取り調べはきついのかどうかについて、取り調べの実態や問題となった事例を解説します。

警察がよく行う取り調べのやり方

警察の取り調べと聞くと、暴力や自白強要をしてくるのではないかと不安な人も多いでしょう。

しかし、近年の警察ではこのような取り調べは行われていないと考えられます。

このような違法な取り調べは、供述が証拠として採用されなくなるためです。

さらに、警察官が職務中に暴行や凌辱、加虐行為を行った場合には、特別公務員暴行陵虐罪が適用され、7年以下の懲役または禁錮刑に処されます(刑法第195条)。

しかし、威圧的な態度でプレッシャーを与える取り調べや、弁護士への信頼を揺るがすような発言が行われることはあるようです。

ほかにも、黙秘を続ける被疑者に対し雑談を交え、油断を誘って自供させる手法も見られます。

警察や検察の取り調べが問題となった割合

警察では暴力や自白強要などは行いませんが、ゼロとは言えません。

前述の取調べに関する国内調査結果報告書によると、2009年に判決が言い渡された7万4,982件のうち、任意で自白したか、自白を強要されたかで争いになった事案は218件(0.29%)でした。

内容は以下の通りです。

被告人の主張 件数
利益誘導を用いた取り調べ 55件
過度の誘導による取り調べ 53件
暴行・脅迫による取り調べ 52件
被疑者の体調に配慮しない取り調べ 34件
長時間の取り調べ 23件
偽計を用いた取り調べ 23件
正当な弁護権の侵害 7件
その他 85件

その他には、裁判には調書を提出しないと嘘をつかれた、正確に通訳がおこなわれなかったなどがあります。

実際に取り調べが問題になった事例

日本弁護士連合会でも、取り調べが問題となった事例を公表しています。

事例①(2021年) 精神疾患のある被疑者に対して逮捕前に午前3時から午後11時まで取り調べを行う

被疑者に対して、高圧的な取り調べを行った

弁護士から検察庁に苦情を申し入れたことで、検察官から警察官に対して指導が行われた

事例②(2021年) 警察官が被疑者に対して以下のような発言をした

お前がやったんだろ、早く言えよ

とぼけるな、ふざけるななどの暴言

弁護士の検事に対する苦情を申し入れで担当者が変更された

事例③(2021年) 被疑者に対して、嘘の供述によって処罰されると思い込ませて供述を強要し、被疑者が供述していない内容を勝手にまとめた供述調書を作成した

弁護士が警察署の署長や担当検察官に苦情を申し入れ、取り調べが行われずに不起訴になった

事例④(2022年) 警察官が黙秘する被疑者に対して以下のような発言をした

この態度なら徹底的にやる

マスコミに出たら大変、仕事も家族も

家族や子どもが周囲の人にお父さんはヤクザと言われる など

弁護士が警察署長や検察官、公安委員会に対して苦情を申し入れたことで、取り調べは実施されず釈放された

参考:取調べの問題事例 – 日本弁護士連合会

警察の取り調べが違法となるケース

以下の行為は、警察捜査における取調べ適正化指針によって禁止されています。

  1. 1日8時間以上の取り調べ、午後10時から午前5時の間の取り調べ
  2. 被疑者の身体への接触、暴行、被疑者の尊厳を著しく害するような言動
  3. 被疑者に対して殊更不安を覚えさせ、または困惑させるような言動
  4. 被疑者に対して便宜を供与し、または供与することを申し出る、約束すること など

③の言動には、弁護士との信頼関係を壊すような発言や、黙秘をしていると不利になるなど被疑者を騙すなどの発言も該当すると考えられます。

かつての刑事ドラマで見られたような、かつ丼を食べさせて自白をうながす行為も、利益供与などに該当します。

実際には、被疑者に食べ物やタバコを与えることは禁じられています。

さらに、逮捕された犯罪事実以外の余罪の取り調べも原則禁止されています。違法行為があった場合は、すぐに弁護士に相談してください。

警察の取り調べを受ける際の注意点

取り調べの際、供述内容によっては不利になる可能性もあるため、注意が必要です。

ここでは、警察の取り調べを受ける際の注意点を解説します。

任意の取り調べを拒否し続けると逮捕のリスクがある

逮捕が行われていない場合、警察から出頭を求められることがあります。

このような任意の取り調べには強制力がないため、出頭拒否や取り調べ中の退出も可能です(刑事訴訟法第198条1項)。

しかし、正当な理由なく出頭拒否や途中退出をすれば、かえって警察から疑われる可能性があります(刑事訴訟法第199条)。

任意の取り調べを拒否することで、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、逮捕されることも考えられます。

出頭拒否や退出は可能ですが、逮捕のリスクもあるため、安易に拒否せず、不安がある場合は弁護士に相談しておくことが重要です。

黙秘権は適切に使用する

取り調べでは、黙秘権の行使が認められています。しかし、黙秘権は適切に使用しないと、かえって不利になる場合もあります。

例えば、罪に身に覚えがない場合や、供述以外に証拠がない場合には黙秘権を行使した方がよいこともあります。

半端な供述をすると、事実と異なる供述調書が作成されるおそれがあるためです。

一方で、犯罪に関与している場合には、黙秘権を行使することで、反省していないと判断される可能性があります。

逮捕や勾留されやすくなったり、裁判で重い処分を下されたりすることがあります。

ただし、これらはあくまでも一例です。黙秘権行使のタイミングなど、個々の事案によって異なるため、弁護士に相談するようにしてください。

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供述調書の誤りは訂正を求める

供述調書は、被疑者の供述を記録する書面のことで、裁判でも有効な証拠となります。

作成された供述調書には、被疑者の署名と押印(逮捕されている場合は拇印)をすることで、効力が生じます。

内容を確認せずに署名・押印をすると、被疑者がその内容を認めたことになります。

一度署名してしまうと、後から内容を覆すのは困難です。少しでも誤りがあれば、訂正を求めること、納得できなければ署名を拒否することが重要です。

警察官の中には、供述調書を訂正できることを教えなかったり、署名や押印をしないと不利になると発言したりする場合もあるようです。

しかし、実際の供述と異なる内容に署名・押印をすれば、それこそ裁判で不利になるおそれがあります。

供述調書に署名・押印をするか迷った場合も、今は署名できないと断り、すぐに弁護士に相談してください。

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警察の取り調べに不安がある場合の対処法

取り調べは通常、取調室で警察と被疑者のみで行われます。不安がある場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

ここでは、警察の取り調べに不安がある場合の対処法を解説します。

すぐに弁護士に相談する

取り調べ時に、違法な行為が行われた場合は、速やかに弁護士に相談してください。

現時点では、法律上取り調べ時の弁護士の立ち会いが明記されておらず、立ち会いの可否は

捜査機関の判断に委ねられています。

しかし、弁護士に依頼することで、準立ち会いという形で、取り調べを中断して待機している弁護士と打ち合わせを行えます

取り調べで被疑者の心的な負担が大きいと判断すれば、弁護士から取り調べの中断を求めることも可能です。

さらに、違法な取り調べに対して、弁護士から警察署署長や担当検察官に苦情を申し入れれば、指導や担当警察官が交代されることもあります。

取り調べの状況を記録しておく

2019年から、裁判員裁判対象事件や検察官が独自で捜査する事件で、逮捕された被疑者の取り調べは、録画が義務付けられるようになりました。

ただし、録画が義務付けられる対象事件は全体の3%にとどまり、多くの事件では、取調室での状況を外部が確認する術がありません。

そのため、取り調べの際には、弁護士から差し入れられた被疑者ノートに、取り調べの内容や警察官の言動を記録しておきましょう。

警察官の言動を記録しておくことで、違法な取り調べに対して、弁護士が抗議する際や、裁判で供述の任意性や信用性を争う際に役立ちます。

参考:取調べの可視化(取調べの可視化本部) – 日本弁護士連合会

取り調べ立ち会い制度を利用してもらう

前述の通り、刑事訴訟法には、弁護士の取り調べの立ち会いについて明記されておらず、立ち会いは法的に義務化されていません。

しかし、弁護士が申し入れることで、捜査機関が立ち会いを認めることもあります。

日本弁護士連合会では、2024年4月より、取り調べに立ち会う支援制度を実施しています。

これは、国選弁護人が立ち会いを行った際に、弁護士報酬を支給する制度で、積極的に立ち会いを行いやすくする狙いがあります。

取り調べでの弁護士の立ち会いを求めることも、不安を解消する選択肢の一つです。

警察の取り調べでよくある質問

警察から取り調べを受けたら逮捕される?

警察の出頭要請に応じると、そのまま取り調べが行われることがあります。しかし、取り調べを受けたからといって、必ず逮捕されるわけではありません。

逮捕が行われるのは、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合です。そのため、正当な理由なく出頭要請を拒否し続けると、逮捕される可能性があります。

不安がある場合は、まず弁護士に相談することをおすすめします。

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取り調べで嘘をついたらどうなる?

取り調べで嘘をついただけでは、犯罪に該当することは通常ありません。

しかし、一度嘘をついてしまうと、その後に事実を述べても、供述が矛盾していると指摘され、裁判の際に信用できないと判断されるおそれがあります。

取り調べで嘘をついてしまった場合は、今後どのように対処すべきなのか、弁護士に相談しましょう。

取り調べで余罪について話すべき?

前述の通り、取り調べで問われている罪以外の余罪の取り調べは、原則禁止されているため、応じる義務はありません。

共犯者の供述や証拠がない限り、余罪が発覚する可能性は低く、安易に自白すると捜査が行われることもあります。

一方、すでに証拠が押さえられて余罪が明らかになっている場合、黙秘すると不利に働くことも考えられます。

余罪について供述すべきかは、証拠の有無や犯罪の傾向によっても異なります。その場で回答せず、まずは弁護士の判断を仰ぐことが重要です。

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取り調べの可視化は行われている?

冤罪事件が話題となった2008年頃から、取り調べの可視化に関する議論が活発化しました。

結果、2019年から裁判員裁判対象事件など一部の事件で、取り調べの録画が義務付けられるようになりました。

しかし、取り調べ時の弁護士の立ち会いは未だに義務化されていません。

なお、任意の取り調べでは、取り調べを自分で録音することは法律上禁止されていません。

ただし、取り調べ前に所持品検査が行われ、捜査上の秘密などの理由で録音を拒否される可能性が高いです。

まとめ

違法な取り調べで得られた証拠は、裁判で証拠として採用されないため、違法な取り調べを受けるケースは以前よりも減っていると考えられます。

しかし、取り調べ時の可視化は、一部の対象事件で実地されているに過ぎません。多くの事件では、未だに取調室での取り調べ状況を知ることが難しい状況です。

そのため、警察から出頭要請を受けた場合や、逮捕されてしまった場合は、すぐに弁護士に相談することが大切です。

2024年9月、死刑が確定していた袴田さんの再審請求が認められ、事件から58年が経過してやっと無罪が確定されました。

このような冤罪を二度と起こさないためにも、適切な取り調べとそれを可視化する制度が重要です。

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