刑事事件の示談金の決め方は?示談金が決まる基準や相場・メリット
刑事事件や交通事故などで重要となるのが示談交渉です。
一般的に、民事事件における示談金は、実際の損害額を基準として決定されます。精神的苦痛に対する慰謝料も含まれることになります。
刑事事件の示談金も、被害額と精神的苦痛に対する慰謝料で構成されますが、犯罪の傾向によっても異なります。
この記事では、主に刑事事件の示談金について、以下の点を解説します。
- 示談の概要・刑事事件で示談するメリット
- 刑事事件の示談金が決まる基準と犯罪別の相場
- 示談金が高すぎて払えない場合はどうする?
目次
示談とは
示談(じだん)とは、トラブルの当事者同士が話し合いを行い、問題を解決することです。
示談が成立しない場合は、被害者が加害者を訴えて、民事裁判で争うことになります。
示談は、被害者が受けた損害を、加害者が示談金を支払い賠償することで、成立します。
民法では、故意や過失により他人の権利や利益を侵害した場合、その損害を賠償する責任が生じます。
示談の成立は、裁判外の和解と言われています。法律上の和解とは、被害者への損害賠償を行うことで法律上の責任がなくなったことを意味します。
たとえ被害者が許してなくても、賠償が行われれば和解、つまり法律上は問題が解決したと判断されます。
民事事件における示談
民法には生活上のトラブルに対する法律が定められていますが、刑事事件とは異なり、違反しても逮捕されることはありません。
しかし、民法上の賠償責任が発生する場合があります。その際に、当事者の話し合いでトラブルを解決するのが示談です。
民事事件の不法行為で示談交渉が行われる例として、以下のようなケースが挙げられます。
- 交通事故で相手の保険会社と示談をする
- 不倫により既婚者の配偶者が不倫相手と示談をする
- 不慮の事故で相手をケガさせたため、示談をして賠償金を支払う など
このような示談を行うことで、被害者は裁判を行わず損害の補填を受け、加害者は民法上の責任を果たすことができます。
一方、示談を行わない場合や示談が成立しない場合は、被害者が民事訴訟を起こすことで損害賠償請求を受ける可能性があります。
刑事事件における示談
刑事事件における示談とは、加害者が犯罪行為によって被害者に損害を与えた場合に、被害者に謝罪をし、示談金を支払って損害の賠償をすることで和解を図ることです。
刑事事件で示談が行われる例には以下のようなものがあります。
- 被害者の者を盗み金銭的な損害を与えた
- 被害者を殴りケガをさせた
- 被害者に痴漢行為をし、精神的な苦痛を与えた など
示談が成立しない場合、刑事処分において有利な事情として扱われることはありません。
さらに、被害者から民事訴訟を起こされるリスクもあります。
民事事件と刑事事件の違いは、刑法などが定める犯罪行為に該当するかどうかです。
刑事事件で示談をするメリット
刑事事件で示談をすることで、加害者には以下のようなメリットがあります
- 被害届や告訴を取り下げてもらえる
- 早期に釈放される
- 不起訴処分になり前科がつかなくて済む
- 裁判の際に処分が軽くなる
被害届や告訴を取り下げてもらえる
被害者と示談をすることで、被害届や刑事告訴を取り下げてもらえる可能性があります。
事件によっては、被害者が被害届や告訴を取り下げることで、それ以上捜査が行われず、結果的に逮捕や刑事裁判(起訴)されずに済むこともあります。
犯罪の中には、被害者の刑事告訴がなければ捜査が開始されない親告罪に分類されるものがあります。
例えば、公開の裁判で被害者のプライバシーが侵害される可能性がある名誉毀損罪などが該当します。
このような犯罪では、刑事告訴が取り下げられると警察も捜査を打ち切り、罪に問われなくなります。
ただし、示談が成立したからといって必ずしも告訴が取り下げられるわけではありません。示談内容に告訴の取り下げを盛り込んで交渉することも可能です。
早期に釈放される可能性がある
犯罪で逮捕された場合、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されると、警察の留置場に身柄を拘束(勾留)されることがあります。
勾留期間は10~20日間に及び、その間に出社や登校はできず、私生活に大きな影響を与えることになります。
しかし、被害者と早期に示談が成立し、被害者が加害者を許している場合や被害が回復されたと判断される場合、検察が事件の終結(不起訴処分)を判断することがあります。
勾留期間が満了する前に身柄が釈放されることも期待できます。
ただし、これは検察の判断によるため、示談が成立したからといって必ず釈放されるとは限りません。
不起訴処分になり前科がつかないことがある
警察が捜査した事件は、最終的に刑事裁判で裁いて罰を科すかどうか、裁判官が判断を下します。
この刑事裁判で訴えるかどうかの起訴の権限を持っているのが検察です。
早期に被害者と示談が成立し、被害者が処分を望んでいない場合や、起訴に値しないと検察が判断した場合は、不起訴処分となり、刑事裁判が回避されます。
不起訴処分になれば、前科がつきません。ただし、被害者と示談が成立しても、以下のようなケースでは起訴されることもあります。
- 重大な犯罪で一層反省をうながすべきだと判断された
- 加害者が反省をしていない、加害者に前科前歴がある
- 社会的な影響が大きい
裁判の際に処分が軽くなる可能性がある
刑事裁判で量刑を決める要素には、犯罪行為の内容や悪質性、犯行の動機、結果の重大性、加害者側の事情、そして被害者の処罰感情が含まれます。
仮に検察が起訴して刑事裁判となっても、示談が成立すれば、被害者の処罰感情が和らいだり、賠償に努めたことが評価されたりして、刑事処分が軽くなる可能性があります。
刑事処分が軽くなることで、懲役刑に執行猶予がついたり、懲役刑が罰金刑に減軽され、刑務所に収容されずに済みます。
このように示談成立にはさまざまなメリットがあります。特に重要なのは、被害者の受けた被害がある程度回復される点です。
加害者が示談を申し入れなければ、被害者は裁判などを通じて賠償を求めなければなりません。
加害者にとっても、自分が被害者に与えた損害の大きさを認識して、反省を深める貴重な機会となります。
刑事事件の示談金が決まる基準
刑事事件の示談金はどのように決まるのでしょうか。示談金は法律で具体的な金額が明確に定められているわけではありません。
受けた損害や被害者の苦痛の度合いを、これまでの同種の事案や経験則で、おおよそこのくらいだろうと判断されますが、個々の事案や被害状況などにより金額は異なります。
犯罪ごとの示談金の相場については後述しますが、ここでは、示談金が決まる基準を解説します。
被害の程度
示談金は、被害の大きさによって異なります。これは示談金に治療費などが含まれるためです。
例えば、傷害罪の場合の示談金の内訳は以下の通りです。
示談金の内訳 | |
治療費 | 被害者が治療を受ける際にかかった治療費、入通院費など |
休業補償 | ケガの程度が重く、入院などで仕事を休まざるを得なかった場合の補償 |
慰謝料 | 被害者が受けた精神的苦痛への賠償 |
これが窃盗や詐欺など財産犯罪の場合は、被害額相当の金額が必要となります。そのため、個々の事案ごとに被害の程度に応じて示談金が決定されます。
被害者の精神的苦痛の度合い
示談金には精神的苦痛に対する慰謝料も含まれるため、被害者の精神的苦痛の度合いによっても金額が異なります。
例えば、被害者がケガをした傷害事件や金銭を騙し取られた詐欺事件では、被害の程度が比較的明確です。
一方で、性犯罪のように被害者の精神的苦痛が目に見えない場合は、示談金が高額になる可能性があります。
相場よりも高額な示談金を支払うことで減軽されると、資産の有無で刑罰が左右されることになるため、金額で差をつけるべきではないとの意見もあります。
しかし、被害者の苦痛は評価しにくいため、実務上は高額な示談金が刑の減軽につながることは否定できません。
被害者の処罰感情
被害者が加害者にどの程度処罰を望んでいるかも示談金に影響します。
犯罪の内容や過去の事例を参考にした相場は存在しますが、示談は被害者との交渉で決定されるため、最終的には被害者が加害者を許してくれるかどうかが重要です。
そのため、被害者に誠意ある謝罪と反省の姿勢を示すことが示談成立のポイントとなります。
ただし、被害者が提示する金額で示談をするかどうかは、以下の個々の事情によっても異なります。
- 起訴までの期限
- 前科による不利益の程度
- 示談の成否とは関係なく起訴は免れない事案かどうかなど
加害者の社会的地位や経済状況
加害者の社会的地位や経済状況も示談金に影響します。
例えば、痴漢行為で経営者と大学生が同じ示談金を支払った場合でも、加害者の経済力によって負担が同等となるように決定される可能性があります。
仕事上の地位を利用して行った犯罪では、示談金が高額になる傾向があります。
例えば、会社員が高校生に対して痴漢行為をするのと、高校教師が立場を利用して生徒に痴漢行為をするのとでは、後者の方が悪質だと判断され、より重い責任を問われる可能性があります。
犯罪別刑事事件の示談金の相場
ここでは、犯罪別の示談金の相場について解説します。
暴行罪や傷害罪などの暴力犯罪の示談金
暴行罪や傷害罪などの暴力犯罪における示談金の相場は以下の通りです。
示談金の相場 | 高額になるケース | |
暴行罪 | 10~30万円 | 計画的
複数人で暴行を加えた 長年暴行が繰り返されている 凶器を用いて暴行を加えた など |
傷害罪 | 10~100万円 | 被害者のケガの程度が重い
被害者に後遺症が残った 凶器を用いて被害者に暴行を加えた 複数人で暴行を加えた など |
傷害罪の場合は、被害者のケガの程度によって、示談金の相場は以下のように異なります。
- 全治1週間の軽いケガの場合には10~30万円
- 全治2~3週間程度のケガの場合には30~150万円
- 全治1か月程の重傷を負った場合には50万円~100万円
重症の場合には100万円を超えることもあります。
痴漢や盗撮など性犯罪の示談金
性犯罪の示談金の相場は以下の通りです。
痴漢 | 20~100万円 |
盗撮 | 10~50万円 |
児童ポルノ | 30~50万円 |
淫行(青少年保護育成条例違反) | 10~30万円
不同意の場合は100~200万円 |
児童買春 | 30~50万円 |
不同意わいせつ | 30~200万円 |
不同意性交等 | 100~200万円 |
痴漢の場合、示談金には幅があります。
軽微な犯行で迷惑防止条例違反に該当する場合は20~40万円程度が相場とされています。
一方、不同意わいせつに該当するような悪質な犯行では、示談金の相場は50~100万円程度になることもあります。
性犯罪の示談金が高額になる要因としては、以下が挙げられます。
- 行為の悪質性
- 被害者の精神的苦痛の程度(PTSDや日常生活への影響など)
- 行為の回数や期間
- 被害者の年齢
- 加害者が複数人いる、被害者が複数人いる など

窃盗罪や詐欺罪などの財産犯罪の示談金
窃盗罪、詐欺罪、横領罪、恐喝罪、強盗罪など、財産事件の示談金の相場は、被害額によって異なります。
基本的には、被害額+数十万円程度の慰謝料におさまることが多いです。
事案によって異なるため、具体的な金額を示しにくいですが、おおよそ以下の通りです。
窃盗罪 | 被害額+20~30万円 |
詐欺罪 | 被害額+20万円 |
横領罪 | 被害額+20万円 |
恐喝罪 | 被害額+20万円 |
強盗罪 | 被害額+50万円 |
被害額が大きければ、それに比例して示談金も高額となります。
示談交渉を自分で行うデメリット
加害者の中には、自分で示談交渉をしようと考える人もいますが、おすすめしません。
加害者が自分で示談交渉を行うと以下のようなデメリットがあります。
- 示談金を過剰請求される可能性がある
- 被害者と接触できない
- 被害者から示談交渉を拒否される可能性がある
- 被害者との示談で別のトラブルになる可能性がある
- 刑事処分までに示談が成立できない
示談金には相場があるものの、個々の事案によって金額は大きく異なります。
知識がない状態で交渉を行うと、被害者から過剰な示談金を請求されるトラブルに発展する可能性があります。
特に示談交渉においては、加害者は弱い立場にあります。被害者が納得する示談金を支払わなければ、刑事処分を受けるおそれがあるためです。
示談交渉の場で、加害者の弱みに付け込み、高額な示談金を請求する行為は、脅迫罪や恐喝罪に該当する可能性があります。
このようなトラブルに発展すると当事者間での解決は一層難しくなるため、弁護士を通じて示談交渉を行うべきです。
示談金が高すぎて払えない場合はどうする?
もし被害者から提示された示談金が高額で支払いが難しい場合、どうすればよいのでしょうか。
ここでは、示談金が高額すぎて支払えない場合の対処法を解説します。
弁護士に相談する
示談交渉は基本的に弁護士を通じて行うべきです。
しかし、もし被害者と面識があり、直接交渉して高額な示談金を提示された場合は、すぐに弁護士に相談しましょう。
弁護士が間に入ることで、以下の対応が可能です。
- 適切な示談金の交渉
- 被害者が応じない場合に検察官を通じた説得
- 刑事処分で有利になる形で示談を整える
- 示談書や嘆願書を作成して減軽を求める
弁護士がサポートすることで、示談交渉がスムーズに進む可能性が高まります。
分割払いを交渉する
示談金は基本的に一括払いですが、支払いが難しい場合は分割払いを交渉することもあります。
被害者が了承すれば分割払いで示談が成立することもありますが、基本的に被害者に拒否されることが多いです。
刑事処分においても、分割払いでは被害者の損害回復が十分に行われたと判断されにくく、一括払いと比べれば示談成立の効果は限定的です。
これは、処分が決定した後に継続して示談金が支払われないなどのリスクがあるためです。
被害者としても、分割払いが終わるまで加害者と関係が続くことを嫌がる場合が多いです。
どうしても分割払いを交渉する場合は、以下の内容を提案することで成立の可能性が高まります。
- 頭金を多めに設定する
- 分割回数を少なくする
- 担保や連帯保証人を設定する
- 支払いを怠った場合に備えて違約金を設定する など
このような条件を設けることで支払いの見込みが高まり、示談成立や刑事処分への良い影響となることもあります。
供託をする
示談金が高額で支払いが難しい場合や、被害者が示談に応じない場合には、法務局に示談金を供託する方法があります(民法第494条)。
供託とは、相手がお金を受け取らない場合に、法務局にお金を預けることで示談金を支払ったと扱われる制度です。供託金は被害者がいつでも受け取れます。
示談交渉がまとまらず、被害者が示談金の受け取りを拒む場合、供託を利用することが解決策となります。
さらに、弁護士に依頼すれば、示談交渉の経緯や示談に努めたことを検察に説明してもらえます。
裁判においても、被害回復の努力が量刑判断の材料となることがあります。
示談の成否は刑事処分に大きく影響しますが、不当な示談金の請求には応じる必要はありません。
贖罪寄付をする
供託と同様に贖罪寄付を行う方法もあります。贖罪寄付とは、罪を反省し償うために行う寄付のことで、日弁連や各地の弁護士会が設けている制度です。
贖罪寄付を行うと、弁護士会が証明書を発行し、これを情状証拠として検察に提出することで、反省の意思を示すことができます。
基本的には、被害者への賠償が優先されます。
しかし、示談が成立しない場合や被害者が存在しない犯罪においては、贖罪寄付が有効な手段となることがあります。
まとめ
示談金の決め方は、各犯罪の種類や被害の程度、被害者の精神的苦痛、処罰感情、加害者の社会的地位や経済状況、犯罪行為の内容や悪質性など、さまざまな事情によって決定されます。
示談金にはおおよその相場がありますが、あくまでも目安であり、個々の事案に応じて異なります。
示談金の決まり方や示談交渉には、法的知識や経験、時間制限や交渉のタイミングなどが求められます。
特に示談は、まず被害者にできる限り謝罪を尽くして、被害者の感情に配慮して進めなければなりません。
少しでも被害者に謝罪を伝え、示談成立の確率を高めたいのであれば、弁護士に依頼することを強くおすすめします。