ひき逃げで逮捕された場合の刑罰・逮捕前後の対応を解説
ひき逃げで逮捕されると、長期間に及ぶ懲役が科されるおそれがあるだけでなく、運転免許が取り消されます。ひき逃げで逮捕され、受ける刑罰などを軽くするためには、事後の適切な対処が欠かせません。
本コラムでは、以下の点を解説します。
- ひき逃げに適用される罪
- ひき逃げで逮捕されないための対応
- ひき逃げで逮捕された場合にとるべき対応
ひき逃げとは
ひき逃げの概要を説明します。
どのような行為がひき逃げにあたるか
ひき逃げは、自動車やバイクを運転中に人身事故を起こしたにもかかわらず、法律で定められた救護措置などを講じず、事故現場から立ち去ることです。
一般に、ひき逃げは歩行者や自転車に乗っている人をはねてそのまま逃げるイメージが強いですが、自動車同士の人身事故で相手がケガをし、それを放置して立ち去った場合も、ひき逃げに該当します。
ひき逃げは何罪か
人身事故を起こしてひき逃げをすると、以下の罪に問われる可能性があります。
道路交通法違反罪
道交法第72条は、交通事故の際、車両の運転者その他の乗務員は、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない(救護義務)と定めています。
この救護義務に違反した場合で、人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
また、第72条は、交通事故の際、運転者は警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に、当該交通事故が発生した日時および場所などを報告しなければならない(報告義務)とも定めています。
この報告義務に違反したときは、3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されます。
自動車運転処罰法違反罪
上記の道路交通法違反に加え、人身事故を起こし、相手を負傷もしくは死亡させてしまった場合には、以下の罪にも問われる可能性があります。
自動車運転処罰法は、正式には自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律といいます。
相手を怪我させてしまったり、相手が死亡してしまった場合、
同法第5条(過失運転致死傷罪)は、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処すると定めています。
また、飲酒の影響で人身事故を起こしてしまった場合には、同法第2条(危険運転致死傷罪)で、アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為などによって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処すると定められています。
有期懲役の上限は20年で、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪では、法定刑が大きく異なります。
併合罪
刑法第45条は、確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪とすると定めています。
ひき逃げをして道路交通法違反罪と自動車運転処罰法違反罪に問われた場合は、併合罪として扱われます。
併合罪になった場合、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする(刑法第47条)決まりがあります。
ひき逃げで問われた罪が過失運転致死傷罪(長期7年)と道路交通法違反罪(救護義務違反:長期10年)の場合、併合罪の長期は15年(=10×1.5)です。
ひき逃げと当て逃げの違い
人にケガをさせる人身事故を起こしたにもかかわらず、事故現場から立ち去ることをひき逃げと呼ぶのに対し、当て逃げは物損事故を起こしてそのまま立ち去る行為を指します。
当て逃げをすると、道交法の報告義務違反や危険防止措置義務(第72条:道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない)違反に問われる可能性があります。
報告義務違反の罰則は3月以下の懲役または5万円以下の罰金、危険防止措置義務違反の罰則は1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
ひき逃げで逮捕されるきっかけ
ひき逃げは、以下のことがきっかけとなり、逮捕に至るケースが多いです。
被害者・目撃者がナンバーを覚えていた
1つ目は、ひき逃げの被害者・目撃者が車のナンバーを覚えていたケースです。
車両のナンバーがわかれば、警察は登録情報などから被疑者の特定を進められます。
防犯カメラ映像から車両を特定
防犯カメラ映像からひき逃げ車両が特定され、逮捕に至るケースもあります。また、近年はドライブレコーダーが普及しており、目撃者のドライブレコーダーの映像から被疑者の特定につながる場合もあります。
ひき逃げで逮捕されるとどうなる?
ひき逃げで逮捕されると運転免許が取り消されるだけでなく、学校を退学になったり仕事を解雇されたりするおそれがあります。
ひき逃げで逮捕された後の流れ
ひき逃げで逮捕された後の流れを説明します。
検察官送致
警察に逮捕された被疑者は取調べなどを受けた後、検察官に身柄が送致されます。刑事訴訟法の規定で、警察は逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄を検察官に送致しなければなりません。
勾留
被疑者を送致された検察官は、被疑者を勾留するかどうか決めます。
勾留とは、逮捕後の被疑者の身柄拘束を継続する刑事手続きで、勾留が認められると身柄拘束は原則10日間、最長で20日間続きます。
被疑者を勾留するには、検察官が裁判官に勾留を請求する必要があり、裁判官が請求を許可して初めて勾留が成立します。検察官は勾留請求する場合、身柄の送致から24時間以内に手続きをとらなければなりません。
検察官が勾留請求しなかったり、請求が却下されたりすると、身柄は解放されます。
起訴
勾留が認められた後、検察官は勾留期間内に被疑者を起訴するか不起訴にして釈放するか、判断します。起訴された場合は、起訴後勾留の可能性もあり、期間は原則2か月(以後1か月ごとの更新可能)です。
ひき逃げ逮捕で実名報道されるのか?
ひき逃げで逮捕されると、実名報道される可能性はあります。
実名報道されるかどうかの基準はありませんが、被害者が死亡しているケースなど、結果の重大性によっては実名報道される可能性が高くなります。

ひき逃げ逮捕で退学・解雇されるのか?
ひき逃げ逮捕で退学・解雇の可能性はあります。
退学については、通っている高校や大学などの規定によりますが、刑が確定すると退学処分が下るおそれはあります。
解雇に関しても、勤めている会社の就業規則に、解雇事由がどのように記載されているかによります。起訴され懲役刑が言い渡されると、執行猶予が付いても解雇される可能性が高いです。
ひき逃げ逮捕で免許はどうなるのか?
ひき逃げで逮捕されると、運転免許は取り消されます。
救護義務違反の行政処分点数は35点で、これだけで免許取り消しの基準に達します。また、取り消し日から3年間、欠格期間として免許を取得できなくなります。
ひき逃げ逮捕で前科がつくのか?
前科とは、裁判で有罪判決を受けた経歴のことです。罰金刑のみ、あるいは執行猶予付きの有罪判決も前科に含まれます。
逮捕されても不起訴で済めば前科はつきませんが、起訴されれば前科がつく可能性は極めて高いです。
ひき逃げで逮捕されないためには
ひき逃げで逮捕されないためには、以下の対応をとることをおすすめします。
自首
1つ目は、犯人が捜査機関に発覚する前の警察への自首です。警察に自首することで、逮捕を回避できる可能性があります。
警察が被疑者を逮捕するのは、逃亡・証拠隠滅を防いで刑事手続きを適正に行うためで、被疑者が逃亡したり証拠を隠滅したりするおそれが低いと判断できれば、逮捕せずに在宅事件として処理する可能性があります。
在宅事件とは、被疑者の身柄を拘束せず、必要な際は被疑者が警察署に出頭して取調べなどを行い、捜査を進める事件のことで、被疑者は取調べなどに応じる以外、普段通りの生活を送れます。
自首すれば必ず在宅事件になるわけではありませんが、逮捕回避の可能性は上がります。弁護士に依頼すれば、弁護士が自首に同行することも可能です。
被害者との示談交渉
被害者との示談交渉も逮捕を回避する上で重要です。
被害者との間で示談が成立し、被害者が加害者に対する処罰を求めていなければ、警察が被疑者を逮捕する可能性は下がります。
弁護士は逮捕前でも被疑者に代わり、被害者と示談交渉できます。
ひき逃げで逮捕された場合の対応
ひき逃げで逮捕された場合は、すぐに弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。
弁護士に刑事弁護を依頼
弁護士に刑事弁護を依頼すると、以下のことが期待できます。
早期釈放
1点目は早期釈放です。弁護士はまず、被疑者の早期釈放を目指します。
早期釈放を実現するためには、逮捕後に勾留されないことが重要です。弁護士は勾留を防ぐために、検察官に勾留請求しないよう働きかけたり、裁判官に勾留請求を却下するよう求めたりします。
勾留されないためには、逃亡・証拠隠滅のおそれは低いとみなされることが必要で、釈放後の被疑者を監督する身元引受人を準備するなどの対策を弁護士が行います。

不起訴の獲得
不起訴の獲得も重要な弁護活動の目標の1つです。
検察官は被疑者の起訴・不起訴の判断に際し、被害者の処罰感情を考慮します。被害者との間で示談が成立していると、不起訴の可能性は上がります。
被害者との示談交渉
被疑者逮捕後に刑事弁護を依頼された弁護士は、被疑者に代わり被害者と示談交渉します。示談によって、被害者に被害届を取り下げてもらったり、加害者を許す意思を示してもらったりすることを目指します。
まとめ
人身事故を起こし、救護措置などをとらずにその場から立ち去る行為はひき逃げにあたり、後に警察に逮捕される可能性があります。
ひき逃げで逮捕を回避したり不起訴を獲得したりするには、弁護士による刑事弁護が欠かせません。ひき逃げで刑事弁護が必要な方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。