【現場助勢罪をわかりやすく解説】検挙の可能性や弁護士が行う弁護活動について
現場助勢罪は普段あまり耳にする罪ではありません。
しかし、多くの方が、一度や二度、他人の喧嘩等をはやし立てる場面を目撃した経験はお持ちではないでしょうか?
そうした場合に問われ得る罪が現場助勢罪です。
以下では、現場助勢罪がどんな罪なのか詳しく解説してまいります。
目次
現場助勢罪とは
現場助勢罪は、殴る・蹴るなどは行われている現場で野次馬になって、「いいぞ、もっとやれ!」などけしかける・はやし立てるといった際に問われうる罪です。
たとえば、次のようなケースにおけるXに適用されます。
【ケース】
Aが居酒屋でBと口論になった末、AがBを居酒屋の外に呼び出して素手で殴る、蹴るなどの暴行を加えている最中、たまたまその場を通りかかった(AともBとも面識のない)Xがその傍らから、「やれやれ、もっとやれ。」などと言って大声で声援した。BはAによる暴行で加療約1か月間の傷害を負った際に現場助勢罪は適用されます。
刑法206条には、現場助勢罪についてこのように記載されています。
(現場助勢)
前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
引用:刑法第206条
以下、それぞれの成立要件について解説していきたいと思います。
「前二条の犯罪が行われるに当たり」
「前二条の犯罪」とは、刑法204条の傷害罪、刑法205条の傷害致死罪のことを指しています。
上述した【ケース】では、Bが加療約1か月間の傷害を負っていますから、Aには傷害罪が適用されます。
したがって、この場合、「傷害罪が行われるに当たり」ということに該当します。
また、仮に、BがAの暴行により死亡した場合は「傷害致死罪が行われるに当たり」ということになります。
他方で、暴行の結果、傷害や死亡の結果が生じなかった場合は暴行罪(刑法208条)にとどまるため、現場助勢罪は成立しません。
「行われるに当たり」とは、傷害罪、傷害致死罪の実行行為、つまり、暴行が行われている最中、という意味です。
したがって、暴行が始まる前、暴行が終わった後に助勢しても「行われるに当たり」には当たりません。
「現場において勢いを助けた」
「現場において」とは、まさに暴行が行われているその時・場所で、という意味です。
「勢いを助けた」とは、行為者(【ケース】のA)を扇動して、その気勢を高めることです。
いわゆる「野次馬的行為」をいいます。
「やれやれ。」、「もっとやれ。」、「しっかりやれ。」などと言語によるほか、拳固を振り回すように動作による場合も「勢いを助けた」に当たります。
その行為により傷害行為が容易になったかどうかは関係ありません。
「自ら人を傷害しなくても」
「自ら人を傷害しなくても」とは、助勢者(【ケース】のX)が自ら暴行を加えなかったときは、という意味です。
仮に、助勢者も暴行を加えたときは、傷害罪又は傷害致死罪の共犯(共同正犯)又は同時犯となり、現場助勢罪は成立しません。
現場助勢罪が設けられた意義
現場助勢罪が設けられた意義については2つの説があります。
一つは、現場助勢罪は、幇助(ほうじょ)行為(傷害罪、傷害致死罪の成立を容易する行為)には当たらない、単なる助勢行為を独立に処罰するものである、と考える説(独立罪説)です。
この説は、暴行の現場では野次馬的行為が行われやすく、そのことにより暴行の程度がより深刻化し、重症や死亡など重大な結果を招いてしまう可能性が高まることから、こうした事態を防止するため、無責任な野次馬行為について独立して処罰することとする、という考え方に基づくものです。
もう一つは、現場助勢罪は、現場における幇助行為につき、特に軽い刑を規定したものである(傷害罪の幇助犯の罰則は「7年6月以下の懲役又は25万円以下の罰金」)、と考える説(減軽類型説)です。
この説は、暴行の現場で野次馬的心理や群集心理が働くことを考慮して、幇助行為の中でも悪質性、違法性が弱い助勢行為に限って特に軽い刑を科す、という考え方に基づくものです。
この2つの説の違いは、上述した【ケース】で、「XがAの友人でAを一方的に助勢した」という一方応援事例で現れます。
すなわち、一方的に助勢したという場合は幇助行為に当たり得るため、独立罪説によると現場助勢罪ではなく傷害罪の幇助犯が成立する可能性があります。
他方で、減軽類型説は助勢行為も幇助行為の一種と考えるため、同説によると傷害罪の幇助犯ではなく現場助勢罪が成立する可能性があります。
なお、判例(大判昭和2年2月28日)は、刑法206条は、傷害の現場における単なる助勢行為を処罰するもので、特定の正犯を幇助した場合は、傷害幇助として処罰するとし、独立罪説をとっているものと考えられます。
応援が特定の行為者に対するものであるか否かは、現場助勢罪と傷害罪の幇助犯を区別する一つの基準となるといえそうです。
現場助勢罪で検挙される可能性
現場助勢罪で検挙される可能性は低いです。
なぜなら、捜査機関(主に警察)が助勢行為を裏付ける証拠を確保することが難しいからです。
前述のとおり、助勢行為は暴行が行われている最中のものであることが要件です。
したがって、助勢行為を裏付ける証拠として考えられるのは、まず、現場にいた加害者、被害者、(暴行の)目撃者の供述ということになるでしょう。
しかし、加害者、被害者はまさに現場の当事者であるため、逐一、助勢者の言動を見たり聞いたりしているわけではなく、助勢行為を明確に裏付ける供述を得ることが難しいと考えられます。
また、目撃者については、助勢行為というよりかは当事者の暴行の状況の方に着目しているため、上記と同様のことがいえます。
もっとも、検挙される可能性が低いからといって、助勢行為が許されるわけではありません。警察へ110番通報する、周囲に助けを求めるなどして、事態の収拾に努めましょう。
現場助勢罪の弁護活動
現場助勢罪の主な弁護活動は被害者との示談交渉です。
被害者と面識がなく、被害者の連絡先を把握していない場合は、警察に被害者の連絡先を教えて欲しいことを申し出ます。
警察は被害者に連絡先を教えていいのかどうか確認し、被害者からOKが出れば弁護士に教えます。
なお、被害者と面識があり、連絡先を把握している場合でも、直接被害者と接触しようとするのは控えましょう。
多くの場合、示談交渉はうまくいきませんし、交渉次第では罪証隠滅を図ったと疑われて逮捕されてしまう可能性も否定できません。
現場助勢罪は他の罪に比べて刑が軽い罪ですから、示談交渉がうまく進めば早期釈放(逮捕された場合)、不起訴処分などに結び付く可能性が高くなります。
こうした結果を希望される場合は、はやめに弁護士に相談・依頼しましょう。
まとめ
現場助勢罪は、喧嘩等の現場において助勢行為を行った場合に問われ得る犯罪です。
仮にそうした場面に出くわした場合は、助勢する側ではなく制止する側に回りたいものですね。