児童虐待防止法とは|罰則や児童虐待の定義と虐待の相談先
2016年の日本小児学会の研究報告では、虐待によって死亡した可能性のある子どもの人数は年間350人に上ると試算されました。
児童虐待の認知件数も、年々増加傾向にあります。
2020年4月には、児童虐待防止法と児童福祉法に、体罰禁止が明記されました。
虐待防止の取り組みは年々進化しています。この記事では、児童虐待防止法について次の点を解説します。
- 児童虐待防止法の概要と虐待の定義
- 児童虐待で成立する犯罪
- 児童虐待の特徴と相談先
目次
児童虐待防止法とは
児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)とは、18歳未満の子どもを虐待から守るために2000年に施行された法律です。
児童に対する虐待の防止や、発見した際の保護について規定しています。
ここでは、児童虐待防止法の内容、罰則、児童福祉法との違いについて解説します。
児童虐待防止法の内容
児童虐待防止法では、次の内容を定めています。
- 児童虐待の定義
- 児童に対する虐待の禁止
- 虐待の早期発見
- 虐待発見時の通告義務
- 通告を受けた際の措置
- 保護者に対する出頭要求や立ち入り調査、捜索
- 虐待を行った保護者への指導、面会や親権の制限
- 虐待を受けた児童への支援 など
参考:児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号) – 厚生労働省
児童虐待防止法の罰則
児童虐待防止法では、児童に対する虐待を禁止しています。
(児童に対する虐待の禁止)
第三条何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。
しかし、児童を虐待した場合の罰則については定められていません。
児童虐待に対する罰則は、虐待行為を刑法に照らし合わせて、刑法に定められた罪で処罰されます。
児童福祉法との違い
子どもの虐待を防止する法律には、児童虐待防止法の他に、児童福祉法があります。
児童福祉法とは、18歳未満の児童を守るために、児童の福祉や権利を保障し、国民の責任を定めた法律です。
児童虐待の防止だけでなく、保育士や児童福祉司などの責務や資格要件、児童相談所や養子縁組など、児童の福祉に関して幅広く定められているのが特徴です。
2024年4月には、児童福祉法が改正され、虐待や性犯罪防止、包括的な子育て支援、18~22歳の自立支援の強化が盛り込まれました。
児童虐待防止法における児童虐待の定義
児童虐待防止法が定められた背景には、国連で採択された子どもの権利条約があります。
世界的に子どもの人権に対する意識が高まり、日本も批准したことで、児童虐待への社会的関心が高まりました。
前述のとおり、児童虐待防止法や児童福祉法の改正により、体罰の禁止が明記され、2020年4月から施行されています。
さらに、2022年12月には民法が改正され、子どもに対する懲戒権が削除されました。
(児童の人格の尊重等)
第十四条児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、児童の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。
2児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない。
子どものためのしつけだと主張する人もいますが、体罰は子どもの心身の発達に悪影響を及ぼすことが指摘されています。
ここでは、児童虐待防止法に定められている虐待の定義を解説します。
身体的虐待
児童虐待防止法では、次の行為を身体的虐待として定義しています。
(児童虐待の定義)
第二条この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
具体的には、殴る、蹴る、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより室内に拘束するなどが挙げられます。
しつけと称して、長時間正座させる、お尻を叩く、夕飯を与えないなども体罰に該当します。
性的虐待
児童虐待防止法は、次の行為を性的虐待として定義しています。
二児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
具体的には、子どもに対する性的行為、性的行為を見せる、性器などを触る、触らせる、性的写真を撮影するなどが挙げられます。
このような行為は決して許されません。
ネグレクト
児童虐待防止法では、次の行為をネグレクト(育児放棄)として定義しています。
三児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
具体的には、子どもの健康や安全への配慮を怠る次のような行為が挙げられます。
- 食事を与えない
- 不衛生にする、お風呂に入れない
- 家に閉じ込める、車に放置する
- 病気でも病院に連れて行かない
- 健康状態を損なうほどの無関心
- 子どもを置き去りにして家に帰らない
- 自宅に出入りする人間が虐待を行っているのも放置する など
ネグレクトは、子どもに対する無関心のケースだけでなく、親が障害を抱えており、適切な養育を理解していないケースもあります。
心理的虐待
児童虐待防止法では、次の行為を心理的虐待として定義しています。
四児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
具体的には、次のような子どもに心理的外傷を与える言動が挙げられます。
- 目の前で家族に対して暴力をふるう(面前DV)
- 言葉による脅し、脅迫によるしつけ
- 無視
- 兄弟間での差別的な扱い
- 子どもが傷つくような暴言を吐く など
例えば、お前なんか生まなきゃよかったなどの言葉を吐く行為は心理的虐待です。
心理的虐待は、体に傷が残ることはありませんが、子どもはずっと覚えています。
大人になった後に、うつ病など精神的疾患が発症する原因となることが指摘されています。
児童虐待で成立する犯罪
児童虐待防止法では、虐待が禁止されていますが、罰則は定められていません。
しかし、子どもを殴るなどの行為をした場合は、刑法などに定められた罪が適用され、刑事罰を受けることになります。
ここでは、児童虐待で成立する犯罪を解説します。
暴行罪・傷害罪
しつけなどと称して、子どもに暴力的な行為を加えたり、ケガをさせたりすると、暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。
暴行罪や傷害罪の罰則は次のとおりです。
暴行罪 | 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留、もしくは科料 |
傷害罪 | 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
傷害致死罪 | 3年以上の有期懲役 |
殺人罪 | 死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役 |
子どもを殴ったり、やけどを負わせたりすれば、傷害罪が成立します。
暴行の結果、子どもを死亡させれば傷害致死罪、殺意が認められれば殺人罪となります。
法務省によると2020年に児童虐待で検挙された人員のうち、暴行や傷害の割合は77%でした。殺人は3.7%です。
参考:令和3年版 犯罪白書 第6章 児童虐待・配偶者間暴力・ストーカー等に係る犯罪 – 法務省

不同意わいせつ・監護者わいせつ
子どもに対して性的な行為を行うと、不同意わいせつ罪や監護者わいせつ罪などが成立します。
スキンシップのつもりでも、子どもが嫌がっていたり、親だからと我慢していたりする可能性があります。
不同意わいせつ罪や監護者わいせつ罪の罰則は次のとおりです。
不同意わいせつ罪 | 6ヶ月から10年の拘禁刑 |
監護者わいせつ罪 | 6ヶ月以上10年以下の拘禁刑 |
不同意性交等罪 | 5年以上の有期拘禁刑 |
監護者性交等罪 | 5年以上の有期拘禁刑 |
いずれも罰金刑は定められておらず、刑務所に収容されることになります。
保護責任者遺棄罪
子どもを保護する責任のある親が、子どもの生存に必要な保護をしなかった場合、保護責任者遺棄罪に問われる可能性があります。
保護責任者遺棄は、食事を与えない、病院に連れて行かない、同居人などによる虐待を放置するなどのネグレクトが該当します。
保護責任者遺棄罪の罰則は次のとおりです。
保護責任者遺棄罪 | 3ヶ月以上5年以下の懲役 |
保護責任者遺棄致死罪 | 3年以上20年以下の懲役 |
保護責任者遺棄罪も、罰金刑が定められていない重い罪です。
脅迫罪・強要罪
子どもを脅したり、義務のないことを行わせたりすると、脅迫罪や強要罪に該当する可能性があります。
例えば、殺すぞなどと脅す行為が挙げられます。
2024年1月には、子どもに長時間正座をさせ、正座を崩すと頭を叩くなどした母親と知人の裁判が行われ、有罪判決が下されています。
脅迫罪や強要罪の罰則は次のとおりです。
脅迫罪 | 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金 |
強要罪 | 3年以下の懲役 |

児童虐待防止法に違反するとどうなる?
児童虐待防止法に違反して虐待を行うと、次のような措置が行われます。
- 出頭要請や立ち入り調査が行われる
- 子どもが保護される
- 子どもとの接触を制限される
- 親権が停止される
- 保護者に対する指導が行われる
- 逮捕される
出頭要請や立ち入り調査が行われる
虐待の通告があった場合、児童相談所は厚生労働省の指針にしたがい、通告受理後48時間以内に直接子どもの様子を確認するなど、安全確認を実施します。
保護者に児童と一緒に出頭するよう求めたり、立ち入り調査を行ったりして、虐待の調査を行います。
出頭要請や調査に応じない場合は、裁判所の許可を得た上で、開錠等行い調査することも可能です。
必要があると認められた場合は、警察と連携した調査が行われます。
子どもが一時保護される
子どもが虐待を受けているなどの事実があり、必要性があれば、児童相談所所長や都道府県知事の判断で子どもを一時保護することができます(児童福祉法第33条)。
子どもが一時保護されるケース | すでに重大な結果が生じている場合
虐待が繰り返される場合 虐待のおそれがあり、虐待防止として児童を保護する必要がある場合 |
一時保護される場所 | 児童相談所に併設されている一時保護所、児童養護施設、里親など |
一時保護される期間 | 原則として2ヶ月を超えないが親権者の同意や家庭裁判所の承認を得て、一時保護が継続することもある |
一時保護を行う際は、子どもや保護者の意向を確認して行われるのが原則です。
ただし、法律上は、一時保護に子どもや保護者の同意は必要とされていません。
保護の必要性が高いと判断されれば、同意なしに一時保護が行われることもあります。
厚生労働省の一時保護に至る流れによると、一時保護の期間は1ヶ月から2ヶ月未満が最多です。半年から1年未満に及ぶケースもあります。
児童相談所は、一時保護の期間中に、子どもを家に帰して在宅で援助するか、施設で保護するかを決定します。
子どもとの接触を制限される
児童相談所などは、一時保護されている子どもと保護者の接触を制限することができます(児童虐待防止法第12条)。
必要に応じて、面会や手紙、電話、メールのやり取り、さらには接近禁止が命じられることもあります。
接近禁止が命じられると、子どもとの接触だけでなく、子どもの学校などに行き、つきまとい、見守るなどの行為も禁止されます。
接近禁止は6ヶ月を超えない期間を定めていますが、聴聞手続きのうえで再度更新されることもあります。
保護者が接近禁止命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(児童虐待防止法第18条)。
親権が停止される
虐待や病院に連れて行かないなどの医療ネグレクトなどがあり、親が親権の行使が困難または不適当であることにより、子どもの利益を害すると判断された場合、親権が停止される可能性があります(民法第834条の2)。
家庭裁判所に親権停止の申し立てを行うことで、審判により決定されます。
申立権があるのは、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人または検察官、児童相談所所長です。
親権が停止された場合は、もう片方の親、両親の親権が停止された場合は、未成年後見が開始されます。
親権が停止されると、一緒に暮らして子どもの面倒を見る身上監護権や、子どもの財産を管理する財産管理権も、2年間停止されます。
この2年間の間に、保護者は親権停止の原因消滅に努めれば、親権停止審判の取り消しを求めることができます。
保護者に対する指導が行われる
一時保護された場合も、在宅の場合も、保護者に対して指導や援助が行われます。
保護者への指導、援助は、専門家による虐待の理解や、カウンセリング、生活改善策や子どもとの接し方、療育方法などの指導が行われます。
指導を受けて問題が改善すれば、指導や援助は終了しますが、改善が見られない場合は、こうした指導や援助が継続されます。
参考:児童虐待を行った保護者に対する援助ガイドライン – 厚生労働省
逮捕される
児童虐待は、場合によっては警察に逮捕されることもあります。
ただし、すべての事案で逮捕が行われるわけではありません。
例えば、通報により駆け付けた警察官が虐待を目撃したような場合は、現行犯逮捕が行われます。
児童のケガの程度や被害によっては、後日逮捕される可能性があります。
しかし、実際に虐待があったかどうか、犯罪が立証できない場合は、逮捕することができません。
さらに、すべての虐待に対して警察が介入すると、虐待で悩む保護者が、逮捕のリスクがあると考え、相談するハードルが高まる可能性もあります。
そのため、警察は児童相談所と連携を取りつつ、個々の事案に応じて慎重に対応します。
虐待が疑われる子ども・親の特徴
児童虐待防止法では、虐待が疑われる子どもを発見した際に、国民に通告義務があると定めています(児童虐待防止法第6条)。
通告者は、虐待の事実が確認できていなくても通告でき、責任を問われることもありません。
匿名通告も可能ですので、虐待が疑われる場合や子どもの様子がおかしい場合は、児童相談所などに通告してください。
ここでは、虐待が疑われる子どもや親の特徴を紹介します。
虐待が疑われる子どもの特徴
虐待が疑われる子どもには以下のような特徴が見られます。
- 不自然なアザややけどの痕がある
- 体や衣服がいつも汚れている
- 季節に合わない服装をしている
- 病気ではないのに極端に痩せている
- 表情が乏しい
- 落ち着きがなく乱暴、情緒不安定
- 夜遅くまで一人でいることが多い
- 家に帰りたがらない
- 繰り返し嘘をつく
- 態度がおどおどしている
- 親や大人の顔色をうかがう
- 他人との身体接触を異常に怖がる
- 基本的な生活習慣が身についていない
- 子どもの泣き叫ぶ声が頻繁に聞こえる など
虐待が疑われる親の特徴
虐待が疑われる親の主な特徴は次のとおりです。
- 子どもを置いて外出している
- 人前で子どもを厳しくる・叩く、それをしつけと主張している
- 子どもへの態度が否定的・無関心、扱いが乱暴
- 兄弟に対して差別的
- 子どものケガに対する説明が曖昧でコロコロ変わる
- 近隣と交流を避け、孤立している
- 保育士や教師・他の親との接触を避ける
- 生活環境が不衛生
- 夫婦関係や経済状態が悪い、夫婦間で暴力がある
- ひどく疲れている、精神状態が不安定
- 子どもを病院に連れて行かない など
親の中には、虐待をしたくてしているわけでなく、感情がコントロールできない、接し方がわからない、しつけだと思い込んでいるケースもあります。
子どもの虐待に関する相談先
もし虐待を目撃したり、虐待が疑われるケースがあったら、次の相談先に相談しましょう。
児童相談所・虐待対応ダイヤル
虐待対応ダイヤルは、児童相談所に繋がる相談窓口です。番号は189です。189にかけることで、すぐに児童相談所に繋がります。
虐待だけでなく、育児に悩んでいる人も相談可能です。子どもの身に危険が迫る場合は、迷わず110番通報してください。
親子のためのLINE相談
親子のためのLINE相談は、子ども家庭庁が行っている相談窓口です。子育てや親子関係に悩んだ際に、18歳未満とその保護者が相談できます。
親子のためのLINE相談は、LINEの公式アカウントを追加することで相談可能です。
相談内容の秘密は守られますし、本名を明かさずLINE名で相談できます。
虐待の相談から、これは虐待や体罰になるのかといった疑問まで気軽に相談しましょう。
子ども虐待ホットライン
子ども虐待ホットラインは、認定NPO法人が行っている相談窓口です。
18歳未満の子どもと、子育ての悩みがある親などが対象です。本名を明かさず相談でき、専門知識のある相談員が対応します。
- 電話:06-6646-0080
- 受付:月曜から金曜(土日祝日・年末年始・8/13~8/15以外)
- 受付時間:午前11時~午後4時
参考:子どもの虐待ホットラインとは – 認定NPO法人 児童虐待防止協会
各自治体の役所・児童家庭相談窓口
各自治体の役所でも、児童虐待に関する相談を受けています。例えば、子ども家庭相談室や、子ども家庭相談課などです。
インターネットで○○(地域名)虐待相談などで検索すると、窓口を見つけることができます。
まとめ
児童虐待防止法は、虐待の定義を明確にし、早期発見、国や地方公共団体の責務、国民の通告義務などを定めた法律です。
子どもは次世代を担う国の宝であるため、国民が見守ることが大切です。
かつて子育ては親だけでなく、祖父母や地域も参加して行うものでした。
核家族化以降、個々の家庭内で育児をすることが増え、親の負担は大きなものとなっています。
虐待をしてしまっている親の中には、自分で虐待をやめたいと思いつつもやめられないという人もいます。
そのため、子どもはもちろん、その親を助けるためにも、虐待を見つけた際には通告することが大切です。
子どもへの虐待がやめられない、これは虐待に当たるのだろうかと悩んでいる人は、一人で抱えずに相談しましょう。