痴漢の再犯で逮捕されるとどうなる?痴漢再犯の刑罰や再犯防止対策等について解説
痴漢は他の犯罪に比べて再犯率が高いです。痴漢の再犯で逮捕された場合には、起訴されて刑務所に収容されるか心配だと思います。この記事では、痴漢の再犯で逮捕された場合の刑事手続きや、再犯防止対策について解説します。
目次
痴漢の再犯率について
平成27年版犯罪白書で性犯罪者の実態と再犯防止についての特集がされました。少し古いデータではありますが、こちらのデータを参考に解説します。
備考 再犯の定義について
刑法第56条に再犯とはどのようなものか規定されています。
刑法第56条 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
引用:e-GOV法令検索
これによると、刑法上の再犯の要件は以下3つです。
- 懲役に処せられた者
- 刑の執行を終わった日または刑の執行の免除を得た日から5年以内
- 更に罪を犯した
一方、犯罪白書では、再犯とは、刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者とされています。
この記事は、前科(罰金を含む)がある人が再び犯行をしてしまった場合、どう対応するのかを伝える目的で執筆されています。そのため、記事内での再犯の定義を「以前罰金を含む何らかの罪で検挙されたことがあり再び検挙された者」とします。
刑法での再犯の定義(懲役に処せられた者が更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するとき、再犯とする)とは意味が異なる点をご了承ください。
再犯者に対する刑の加重(刑法第57条)
刑法では再犯者に対しては刑を加重できると規定しています。
刑法第57条 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする。
引用:e-GOV法令検索
再犯加重は、最低限は法定刑のままで、最高限は法定刑の2倍以下とすると規定されています。
痴漢行為が刑法の強制わいせつ罪に該当する場合には10年以下の懲役が最高限のため、再犯は20年以下の懲役の範囲内で刑罰が科されます。
刑法第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
引用:e-GOV法令検索
痴漢行為が都道府県迷惑防止条例違反に該当する場合には、東京都の場合6月以下の懲役が最高限と記載されています。再犯は1年以下の懲役の範囲内ですが、常習としておこなった場合は2年以下の懲役の範囲内で刑罰が科されます。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
1 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること(抜粋)
第8条第1項 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
同条第8項 常習として第1項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
性犯罪の再犯者は全再犯者のうち67.4%であり、性犯罪の再犯率は高い
再犯調査対象者のうち再犯者は20.7%と低い割合ですが、全再犯者の中で性犯罪再犯ありの者は67.4%を占めているという結果が出ています。ここから、再犯者の中で性犯罪再犯者が占める割合が高いことがわかります。そして性犯罪者類型別にみる痴漢の再犯率は痴漢以外の性犯罪と比較すると最も高く36.7%です。
痴漢再犯の罰則
痴漢で再犯を犯した場合の罰則について解説します。
痴漢(強制わいせつ罪)再犯の時期による違い
痴漢再犯の罰則は、再犯を行った時期により前の罪との関係で違いがでてきます。以下、解説します。
執行猶予中の痴漢再犯
前の罪において執行猶予が付けられ、執行猶予期間中に更に痴漢行為を犯した場合について解説します。
執行猶予期間中の痴漢に、再び執行猶予がつくこともありますが、その要件は厳しいです。
具体的には以下3つの要件を満たさなければなりません。
- 言い渡される刑が1年以下の懲役・禁錮であること
- 特に酌量すべき情状があること
- 前科について保護観察がつけられ、その期間中に再犯をしたのではないこと
上記要件を満たさない場合には、執行猶予が付かず実刑判決が言い渡されます。一般的に、執行猶予中の再犯の場合には、厳しい判決が予想されます。痴漢についての実刑判決が言い渡されると、前の罪の執行猶予が取り消され、前の刑罰と合わせた期間刑務所に収容されます。
痴漢の再犯でも、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から5年以内の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了すると、刑務所に入ることなく事件が終了します。前の罪に関しては終了していますが、執行猶予期間終了後すぐの再犯の場合には、起訴されて正式裁判になる可能性が高くなります。
再犯で実刑判決が言い渡された場合、前の罪の刑罰(執行猶予期間)は終了しているので、再犯で言い渡された期間だけ刑務所に収容されます。痴漢行為の態様が軽微な場合や、被害者との間で示談が成立した場合等では、再度の執行猶予が付けられる可能性もあります。
執行猶予期間終了から数年~10年後の再犯
前の罪の執行猶予期間が終了してから数年以上経過した後の再犯の場合には、前の罪についてあまり考慮されません。場合によっては痴漢再犯も罰金刑で終了する可能性があります。
実刑判決を受け、その執行を終わった日から5年以内の痴漢の再犯
前の罪で実刑判決を言い渡された場合、刑の執行が終われば前の罪は終了します。再犯で実刑判決を言い渡されると、言い渡された期間だけ再度刑務所に収容されます。痴漢の行為態様が軽微な場合や、被害者との間で示談が成立した場合等では、再犯に執行猶予が付けられる可能性もあります。痴漢の行為態様が酷い場合や被害者の処罰感情が強い場合には、より重い刑罰を言い渡される可能性が高いです。
略式命令後5年以内の再犯
略式命令も前科です。略式命令で科される刑は罰金刑のみで、罰金を納めるとその場で終了となります。略式命令後の再犯の場合も、前の刑終了後の再犯となるため、痴漢の中でも行為態様が軽い場合や被害者との間で示談が成立した場合等では、執行猶予が付けられる可能性もあります。痴漢の行為態様が酷い場合や被害者の処罰感情が強い場合には、実刑判決を言い渡される可能性もあります。
痴漢再犯で在宅事件になる?
ポイント 逮捕されずに在宅事件になるためには、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれが無いと捜査機関が判断できるか否かがポイントです。 |


痴漢再犯で起訴される?
ポイント 痴漢再犯で起訴されるか不起訴になるかは、痴漢の態様および被疑者の反省の程度、被害者との間の示談成立がポイントです。 |


痴漢再犯で実刑になる?
ポイント 強制わいせつ罪の場合、起訴され実刑を言い渡された者の割合は概ね25%くらいで推移しており、一定数が実刑を言い渡されています。 |


痴漢再犯で執行猶予は得られる?
ポイント 被害者との間で示談が成立すれば、執行猶予が得られる可能性があります。 |


痴漢の場合には被害者の処罰感情が重視される傾向にあります。被害者との間で示談が成立した場合には執行猶予が得られる可能性があります。
痴漢再犯で懲役刑になる?
ポイント 痴漢犯は統計上犯行を繰り返すことが多いため、被告人が今後も再び罪を犯す可能性が高いと判断されると懲役刑を言い渡される可能性があります。 |


痴漢は他の性犯罪に比べて再犯率が高いため、今後も再犯の可能性が高いと見做されると懲役刑を言い渡される可能性があります。
痴漢の再犯を防止するには
ポイント 痴漢の再犯を防止するには環境を整えることと治療が重要です。 |
痴漢は犯罪であり、やってはいけないとわかっているにも関わらず、痴漢行為を繰り返してしまう人がいます。痴漢行為を繰り返す人は刑罰を科されるとわかっていても、痴漢行為が止められません。
そのような人の場合には、処罰を科すだけでは痴漢行為を止められません。痴漢行為を繰り返す人には各人に適した治療をする必要があります。治療方法には以下のようなものがあります。
- 心療内科等の専門医を定期的に受診する
- 各自治体等で実施している性犯罪防止プログラムに参加する
- 同じような問題に悩んでいる人の話を聞き、自分の悩みを話すワークに参加する など
治療によって痴漢行為をしてしまう衝動を抑えられるようになる可能性があります。
性犯罪者を類型別に見ると、痴漢型の犯罪者は以下のような割合です。
- 年齢が40歳以上の者が3%
- 教育程度が大学進学の割合が2%
- 有職者が4%
他の類型と比較するとそれぞれの割合が高い傾向にあることから、痴漢型の人は会社等でのストレス対処法が痴漢行為になっているという精神保健福祉士等の意見があります。
ストレスにより痴漢行為を行っているのであれば、ストレスを軽減する別の方法をみつけることで痴漢行為を抑えることができる可能性があります。専門医の下での治療が痴漢再犯防止策となる可能性があります。
痴漢型は前科のある者の割合が91.1%|早期に治療方針を立てる
痴漢型は他の犯罪と比べ前科のある者の割合が91.1%にのぼり、その中で性犯罪前科のある者の割合は85.0%と高いです。複数回の性犯罪前科のある者の割合も67.5%とそれぞれ最も高いことが犯罪白書に記載されています。痴漢行為を繰り返す前に早期に治療方針を立て、治療に取り組む必要があります。
家族との同居
痴漢型の人の居住状況を見ると、配偶者あるいは配偶者以外の親族と同居している率が他の性犯罪者と比べて低く、39.6%が単身で居住しています。家族や親族との同居が痴漢防止対策の1つになります。
交友関係、対人関係を見直す
痴漢行為が会社でのストレスが原因で行われる場合には、交友関係や対人関係を見直しましょう。なるべくストレスの無い対人関係を築くことが痴漢防止に効果がある可能性があります。
痴漢再犯の刑事弁護の方針とサポート内容
ポイント 再犯防止に向けた治療に取り組んでもらいながら、不起訴を目指す弁護活動をします。 |
痴漢再犯では、今後二度と痴漢行為をしないための取り組みが重要です。
再犯防止のための取り組みが重要
在宅事件の場合には痴漢の再犯防止のため、被疑者には治療のため専門医のもとに通院し、再犯防止プログラムに参加していただきます。再犯防止のためにどのような活動を行っているかを弁護士が書面にし、捜査機関に提出します。
被害者と示談交渉をする
被害者が示談交渉に応じてくれる場合には、示談交渉をします。痴漢の被害に遭った方は今後再び加害者に遭わないことを望まれます。可能な限り加害者の通勤経路を変更することや、加害者が単身で住んでいる場合には、家族や兄弟との同居も検討します。その結果を被害者にお伝えし、被害者が納得し示談に応じてもらえるように様々な解決策を考えます。
不起訴を目指す
被害者との間で示談が成立し、示談書に宥恕文言を挿入できれば不起訴になる可能性が高くなりますが、痴漢の場合には被害者が示談に応じてくれない場合も多くあります。被害者が示談に応じてくれなかった場合には被害者との間の示談交渉の経緯を書面にして捜査機関に提出し、供託や贖罪寄付をします。また、できるかぎりの再犯防止対策に取り組み、再犯防止のための取り組みの状況を捜査機関に報告し、不起訴の獲得を目指します。
執行猶予や刑の減軽を目指す
日本の刑事裁判では起訴されてしまうと99.9%が有罪になります。しかし執行猶予付き判決がでれば刑務所に行かなくて済みます。有罪になっても執行猶予期間中も通常の日常生活を送れます。
執行猶予を付けてもらうためには条件があります。再犯の場合には執行猶予が付く条件が厳しくなります。執行猶予が付かない判決を言い渡される可能性が高い場合には刑の減軽を目指します。
執行猶予を獲得するための条件等は以下の記事をご参照ください。
まとめ
痴漢は再犯率が高いため、不起訴の獲得には少なくとも再犯防止策を立て、今後二度と罪を起こさないことが求められます。
弁護士は加害者本人の治療への取り組みを支援しながら、不起訴を目指して示談交渉等の弁護活動をおこないます。痴漢の再犯で逮捕された場合には早期に弁護士に相談しましょう。