救護義務違反(ひき逃げ)とは|接触に気づかない場合や点数は?
人身事故を起こした場合に、負傷者の救護などを怠ると救護義務違反、いわゆるひき逃げとなります。
ひき逃げと聞くと、人をはねてそのまま逃走するようなイメージがあるかもしれません。
しかし、積極的にこうした行為をしなくても、ひき逃げに該当するケースがあるため、注意が必要です。
救護義務違反をした場合は、行政処分だけでなく、刑事処分や民事的な責任を追及される可能性があります。
救護義務違反とは、具体的にどういう行為が該当するのでしょうか。この記事では、救護義務違反について下記の点を解説します。
- 救護義務違反になる行為
- 救護義務違反になった場合に問われる責任
- 被害者に気づかなかった場合や通りすがりの人でも救護義務違反になるのか
目次
救護義務違反とは
救護義務違反とは、人身事故を起こした場合に、負傷者を救助する義務を怠ることです。
道路交通法の第72条は、人身事故があった時運転者は、直ちに車両等の運転を停止して下記を行わなければならないと義務づけています。
- 負傷者の救助
- 道路の危険防止
- 警察官への通報
負傷者の救助を怠ると救護義務違反、警察官への通報を怠ると報告義務違反となり、刑事処分の対象となる可能性があります。
救護義務違反になる行為
人身事故で明らかに被害者を轢いてしまったような場合は、言うまでもなく負傷者の救助に当たらなくてはなりません。
しかし、事故を起こした際、積極的に逃亡を図らなくても、悪意がなくても、ひき逃げに該当するケースがあります。
ここでは、救護義務違反になる可能性のある行為を解説します。
相手がケガをしてなかったので立ち去った
救護義務違反になるのが、相手がケガをしていない、もしくは軽傷だからとそのまま立ち去るケースです。例えば下記のケースが挙げられます。
- 軽く接触をしたが、被害者に大きなケガがなかった、擦り傷程度の軽傷だったので立ち去った
- 被害者が「大丈夫」だと言って立ち去ってしまった
特に被害者が子どもや高齢者の場合、動揺から大丈夫だと返答し、ケガの状態を確認せずに立ち去るケースがあります。
接触のない事故でも、後日重大なケガが発覚したり、被害者が通報したりする可能性があるため、相手が大丈夫だと言っても、病院に連れていくか警察に通報するようにしてください。
相手と接触をしてない
同様に、非接触の事故であっても、停車せずに現場を立ち去る行為はひき逃げに当たる可能性があります。例えば下記のようなケースが挙げられるでしょう。
- お互いに急ブレーキをしたことで接触はしなかったが、相手が転倒した
- 非接触の事故で相手が転倒したが軽傷に見えたので停車せず立ち去った
相手が転倒した原因が自分にあるかどうかわからなくても、立ち去らずに一度停車して、ケガの確認と警察へ通報するようにしてください。
パニックや停車のためにその場を離れた
人身事故を起こした際にパニックとなって現場を離れた場合や、停車のために現場から離れてしまった場合も救護義務違反になります。
人身事故を起こした場合は、まず落ち着いて交通の妨げにならない箇所に車を停車させて、負傷者の救助や警察に通報するようにしましょう。
事故原因が相手にあるので立ち去った
事故原因が相手にあるからと立ち去る行為もひき逃げに該当します。
例えば相手が信号無視をしたり、急に飛び出してきたりして事故になってしまったケースが挙げられるでしょう。
事故原因や過失の割合は別として、負傷者の救助やケガの程度の確認、警察への通報は運転者の義務です。これをせずに立ち去れば、この行為もひき逃げとなります。
必ず停車をしてケガの程度の確認、必要に応じて救急車の手配、警察への通報をしましょう。
相手との接触に気づかなくても救護義務違反になる?
犯罪が成立するには、罪を犯している認識が必要です。そのため、人身事故に気づかず立ち去った場合には、救護義務違反は成立しません。
一方で、人身事故を起こしたという認識があり、現場から立ち去れば救護義務違反が成立します。
ただし、運転者が事故に気づかなかったと供述するだけで罪を免れるわけではありません。
本当に人身事故に気づかなかったかどうか、現場や時間帯、人の往来がある場所なのか、事故現場の防犯カメラやドラレコの記録などから客観的に判断されることになります。
また、人身事故に気づいたかどうかは別として、負傷者を死傷させた場合は、過失運転致死傷罪に問われることになります。
救護義務違反になった場合に問われる責任
先述した通り、人を轢いて立ち去ったというようないわゆるひき逃げと呼ばれるケース以外にも、救護義務違反に問われる可能性があります。
救護義務違反に該当する場合は、①刑事上の責任、②行政上の責任、③民事上の責任を問われる可能性があります。
刑事上の責任
救護義務違反が成立した場合は、下記の通り刑事上の責任を負うことになります。
違反の種類 | 内容 | 罰則 |
---|---|---|
救護義務違反(道交法第117条) | 負傷者を救助せずに立ち去った | ①5年以下の懲役または50万円以下の罰金 ②被害者の死傷が運転者の運転によるものであった場合は10年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
報告義務違反(道交法第119条) | 警察に通報や報告をせずに立ち去った | 3か月以下の懲役または5万円以下の罰金 |
また、結果的に人を死傷させれば下記の罪に問われることになります。
罪名 | 内容 | 罰則 |
---|---|---|
過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法第5条) | 注意を怠り事故を起こして人を死傷させた場合 | 7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金 |
危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法第2条) | アルコールや薬物など正常でない状態で事故を起こした場合 | 負傷させた場合:15年以下の懲役 死亡させた場合:1年以上の有期懲役 |
行政上の責任
刑事上の責任の他に行政上の責任を負うことにもなります。救護義務違反の点数は35点です。累積14点までは免許停止ですが、15点以上は免許取り消しになります。
そして、免許取り消しとなった場合は、一定期間免許を取得することができません(欠格期間)。
過去の免許停止の前歴や、これまでの違反の累計によって、欠格期間が異なります。
下記は救護義務違反などの特定違反行為をした場合の欠格期間です。
過去3年以内の免許の停止等処分回数 | ||||
---|---|---|---|---|
欠格期間 | 前歴なし | 1回 | 2回 | 3回以上 |
3年 | 35~39点 | ー | ー | ー |
4年 | 40~44点 | 35~39点 | ー | ー |
5年 | 45~49点 | 40~44点 | 35~39点 | ー |
6年 | 50~54点 | 45~49点 | 40~44点 | 35~39点 |
7年 | 55~59点 | 50~54点 | 45~49点 | 40~44点 |
8年 | 60~64点 | 55~59点 | 50~54点 | 45~49点 |
9年 | 65~69点 | 60~64点 | 55~59点 | 50~54点 |
10年 | 70点以上 | 65点以上 | 60点以上 | 55点以上 |
参考:行政処分基準点数|警視庁
上表の通り、ひき逃げをした場合、過去の違反がなくても最低3年は免許を取得できません。また、事故の点数が加算された場合は、欠格期間が4年以上になることも考えられます。
民事上の責任
そして、被害者が負傷した場合は、民事上の責任も負うことになります。民事上の責任とは、被害者に与えた損害を加害者が賠償する義務です(民法第709条、710条)。
例えば、被害者が受けた下記のような損害を賠償しなければなりません。
- 入通院費用や治療にかかった費用
- 入通院の精神的苦痛に対する慰謝料
- 後遺障害を負った場合の慰謝料
- 仕事を休むことを余儀なくされた場合の補償(休業損害)
- 後遺障害がなければ労働で得られたであろう利益(後遺障害逸失利益)
通常は、自賠責保険のほかに任意保険にも加入しているため、被害者に対する賠償は保険会社から支払われます。
しかし、加害者が自賠責保険にしか加入してない場合や、自賠責保険や任意保険の補償額を超過したような場合は、加害者が賠償しなければなりません。
この通り、救護義務違反をすると、刑事上の責任、行政上の責任、被害者を負傷させると民事上の責任を負うことになるのです。
救護義務違反になってしまった場合は?
法務省によると、2022年のひき逃げの発生件数は6980件で、検挙率は69.3%でした。
約7割は加害者の特定に至っています。また、道路交通法違反の起訴率は50.3%と半数は起訴されています。
ここでは、救護義務違反をした場合どうなるのか解説します。
警察から事情を聞かれる
ひき逃げをした場合、被害者や目撃者の通報により事件が発覚することが考えられます。
通報があった場合は、防犯カメラや被害者の車両のドラレコなどの記録、目撃証言などから捜査が行われ、警察から事情を聞かれることになるでしょう。
また、被害者が死亡していたり、重傷を負っていたりする場合は、事故に気付いた上で逃亡していると判断され、逮捕される確率が高まります。
同様に、警察からの呼び出しに応じない場合も、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、逮捕される可能性があるでしょう。
逮捕された後も、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されれば、裁判所の許可のもと、10~20日間留置場に身柄拘束されることもあります(勾留)。
場合によっては刑事処分を受ける
先述した通り、道路交通法違反の起訴率は50.3%です。起訴された場合は、公開の刑事裁判で裁かれるか、簡易的な手続きで罰金刑が科されることになります。
起訴の種類 | 内容 | 割合 |
---|---|---|
公判請求 | 公開の刑事裁判で裁かれる 無罪か有罪か、刑罰がどの程度なのか決定される |
約6.6% |
略式命令請求 | 簡易的な書面のみの審理で行われる手続き 被告人が同意すれば罰金刑に処される |
約93.4% |
道交法違反の場合は、略式命令請求で罰金刑になるケースが圧倒的に多いです。
ただし、危険運転致死傷罪に問われた場合は、懲役刑しか定めがないため、公開の裁判で裁かれることになります。
身に覚えがあるなら警察に自首をする
事故を起こしたとわかっていたのに現場から立ち去ってしまったのであれば、警察に自首することをおすすめします。
自首をすると逮捕されるのではと不安に感じる人もいるかもしれませんが、自ら名乗り出ることで、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断され、身柄拘束を受けずに済む可能性があります。
他にも自首には下記のようなメリットがあります。
- 逮捕されたり、勾留されたりせずに済む
- 自首は減軽理由になるため処分が軽くなる可能性がある
ひき逃げの検挙率は約70%ほどあり、被害者が重傷だったり、死亡したりした場合は、警察が突然自宅にやってきて逮捕されることも考えられます。
自首をすることで、家族の目の前で逮捕されたり、勾留により会社に発覚したりする事態を防ぐことができます。
早急に弁護士に相談するべき
ひき逃げで不安な人や、自首を検討している人は弁護士に相談しましょう。
特に、ひき逃げをしてしまったと不安な人や後悔をしている人は、自首をすることで精神的な不安からも解放されます。
自首を考えている人は、弁護士に相談して、取り調べへのアドバイスを受けたり、自首に同行したりしてもらいましょう。
通りすがりの人が通報せず立ち去っても救護義務違反?
運転者には、負傷者の救助や警察への通報義務があるため、これを怠り現場から立ち去ると、救護義務違反となります。
一方で、通りすがりの通行人が事故を目撃しても、警察に通報する義務はありません。
また、被害者を救助しなかったとしても、損害賠償の責任を負うこともありません。被害者の救助や警察への通報は、事故の当事者が負う義務だからです。
ただし、事故を目撃したのに、救急車や警察への通報をしなかったことで、被害者が亡くなったのを知った場合、大きく後悔するかもしれません。
事故の通報は匿名でも可能ですので、そういった現場に居合わせてしまった場合は、警察に通報するようにしましょう。
救護義務違反とならないためにすべきこと
もし人身事故を起こしてしまった場合は、必ず①負傷者の救護、②道路の危険防止、③警察への通報をするようにしましょう。
ここでは、事故の当事者はもちろん、目撃した人にもできることを解説します。
負傷者の救護
人身事故が起きた場合、まずは車を停車させ、負傷者の救護に当たりましょう。救護の流れは下記の通りです。
- 負傷者の肩を軽くたたいて声をかけ、意識を確認する
- 周囲の人に協力を求める
- 119番通報で救急車を呼ぶ
- 負傷者の状況を見て移動や応急処置を行う
意識がない場合や、頭部が損傷している場合は、下手に動かさずに、発煙筒などで安全確保をしましょう。
また、出血している場合は止血を行います。心肺停止の場合は、心臓マッサージやAEDを使用して蘇生を行います。
参考:交通事故発生! あなたは応急手当できますか?|JAFMate
事故防止のため現場の安全確保
事故が起こった場合は、事故現場を保存しておくのが望ましいですが、車両を放置していると二次被害が生じるおそれがあります。
事故が発生するおそれがある場合は、負傷者の救助を行った後すぐに事故車両を安全な場所に移動させます。
また車両を移動させる前に、事故現場の動画や写真の撮影や、車両があった場所に印をつけるなどしておくとよいでしょう。
車通りの多い現場では、発煙筒や三角停止版を使用して、後続車に事故を知らせることも大切です。
警察への通報
負傷者の救助と現場の安全確保ができたら、警察に通報しましょう。
相手の身元や連絡先の確認
警察などが到着するまでに、相手の身元や連絡先を確認しておきます。
事故直後は気が動転していることもあるため、口頭でやり取りをせず、必ず記録を残すようにしましょう。
例えば、相手の許可のもと免許証や車検証などを撮影しておくのがおすすめです。
また、目撃者についても、連絡先の交換だけでなく、裁判などに協力してもらう可能性があることも伝えておきましょう。
証拠保全
警察が到着するまでの間に証拠保全を行いましょう。
- 現場周辺の写真を撮影しておく
- 目撃者と連絡先を交換しておく
事故の際に、雨などで現場の状況が変わりやすい場合は、事故現場の視界状況や天候、ブレーキ痕なども動画や写真で記録しておきます。
同様に、一定期間が過ぎるとデータが上書きされてしまうドラレコについても、データを保存しておきましょう。
警察の捜査に協力する
警察が到着すると、そのまま実況見分が行われることがあります。警察の捜査に協力して、事故時の状況を伝えましょう。
負傷者がいる場合には、実況見分が別の日になることもあります。
救護義務違反でよくある質問
ここでは、救護義務違反でよくある質問に回答します。
ひき逃げと当て逃げはどう違う?
ひき逃げと当て逃げは、それぞれ下記の文脈で使われることが多いです。
ひき逃げ | 人身事故や被害者が負傷して、加害者が逃走したような交通事故で使用される |
---|---|
当て逃げ | 物損事故で加害者が逃走した場合に使用される |
救護義務違反で点数はどのくらい加算される?
救護義務違反をした場合は、35点が加算されます。違反は15点以上になると免許の取り消しとなります。
なお、免許の違反点数は、点数が引かれると表現しますが、減点方式ではなく加点方式です。
まとめ
運転をしていても、被害者と接触してないから、あるいは、大丈夫という相手の言葉を鵜吞みにして現場から立ち去るなどすれば、法律上は救護義務違反となり、いわゆるひき逃げとなるおそれがあります。
後から被害者が痛みを訴える可能性もありますし、刑事上の責任だけでなく、行政上の責任として最低3年間運転ができなくなることも考えられるでしょう。
日常的に運転をしていれば、いつ何時事故を起こしてしまうかわかりません。
仮に非接触の事故であっても、被害者がいて人身事故となる状況である場合は、必ず警察に通報するようにしましょう。