慰謝料請求の裁判をして確定判決を得たのにもかかわらず、不倫相手が慰謝料を支払わない場合も、「もう打つ手がない」と諦める必要はありません。
労力をかけて確定判決を得たからこそ、取り得る回収手段があります。
この記事では、不倫相手が裁判で決まった慰謝料を支払わない場合の対処法について、詳しく解説します。
目次
裁判で決まった慰謝料を払わない場合は財産の差押えが可能
裁判で決まった慰謝料を支払わない場合は、不倫相手の財産の差押えが可能です。
確定判決等の債務名義があれば、強制執行の手続きを利用できます。
強制執行とは、債権者の申立てにより、裁判所が債務者の財産を強制的に差押えて換価することで債権(慰謝料)を回収する手続きです。
債務名義とは、裁判所等の公的機関が債権の存在を確認した執行力のある文書で、以下のようなものがあります。
- 確定判決
- 仮執行宣言付判決
- 和解調書
- 調停調書
不倫相手が裁判で決まった慰謝料を支払わない場合、債務名義に基づいて強制執行を申立て、不倫相手の財産を差押えることで、慰謝料を回収できる可能性があります。
確定判決に基づいて差押えができる主な財産と強制執行の方法
確定判決に基づいて差押えができる主な財産は、以下の5つです。
- 給料
- 預貯金
- 不動産
- 自動車
- 家財道具等
強制執行の方法は財産によって異なります。以下で、詳しく解説します。
給料
債権差押命令を申し立てることで、不倫相手が勤務先から受け取る給料を差押えられます。
※不倫相手の勤務先は、ご自身で調査する必要があります。
債権差押命令は、原則として不倫相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
債権差押命令が適法にされていると認められれば、裁判所が差押命令を発して、不倫相手と不倫相手の勤務先に送達します。不倫相手に債権差押命令が送達された日から1週間が経過したら、不倫相手の勤務先に対して直接取立てができます。
差押えられる給料は、原則として、手取り額の4分の1までです。ただし、手取り額が44万円を超える場合は、33万円を超える部分全額を差押えられます(民事執行法第152条)。
債権差押命令の申立てには、以下のものが必要です。
- 債権差押命令申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義の送達証明書
- 不倫相手の勤務先(第三債務者)の登記事項証明書(法人の場合)
- 申立手数料(債権者・債務者各1名で債務名義1通の場合:収入印紙4,000円)
- 郵便切手(裁判所により異なる/東京地裁:債務者・第三債務者1名の場合4,010円)
預貯金
債権差押命令を申し立てることで、不倫相手の預貯金も差押えられます。
※不倫相手の銀行等の口座は、ご自身で調査する必要があります。
預貯金の場合も、原則として不倫相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
債権差押命令が適法にされていると認められれば、裁判所が差押命令を発して、不倫相手と金融機関に対して送達します。差押命令を受け取った金融機関には、差押えられた預貯金を保管する義務が生じます。そのため、債権者の請求金額を上限として、不倫相手の預貯金口座にある預金を差押口(金融機関が管理する別口座)に移します。
不倫相手に債権差押命令が送達された日から1週間が経過したら、金融機関に対して直接取立てができます。支払い方法はそれぞれのケースにより異なりますが、振込手数料を差し引いてあなたが指定する口座に送金してもらうのが一般的です。
債権差押命令の申立てには、以下のものが必要です。
- 債権差押命令申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義の送達証明書
- 金融機関の登記事項証明書
- 申立手数料(債権者・債務者各1名で債務名義1通の場合:収入印紙4,000円)
- 郵便切手(裁判所により異なる/東京地裁:債務者・第三債務者1名の場合4,010円)
不動産
不動産執行を申し立てることで、不倫相手が所有する不動産を差押えられます。
※差押える不動産は、ご自身で調査する必要があります。
不動産執行申立は、原則として不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
裁判所は、その申立てが適法であれば競売手続を開始し(開始決定)、差押えの登記を法務局に嘱託します。裁判所は、評価人の評価等に基づいて売却基準価額を定めます。この売却基準価額からその2割りを差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額で入札ができます。
入札の結果、買受人が現れた場合、裁判所が買受人の資格チェックを行い売却許可決定を出します。その後、買受人が買受代金を納付した時点で所有権が移転します。不動産の引き渡しが完了したら、裁判所から売却代金が配当されます。
なお、配当は法律上優先する債権の順番に従って配当されるため、原則として、抵当権を有している債権者が優先されます。
不動産執行申立には、以下のものが必要です。
- 不動産強制競売申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義の送達証明書
- 申立手数料(債務名義1通につき収入印紙4,000円)
- 郵便切手(裁判所により異なる/東京地裁:原則110円)
- 不動産の全部事項証明書
- 不倫相手(所有者)の住民票または戸籍附票
- 評価証明書・公課証明書
- 不動産の図面
- 登録免許税(請求債権額の1000分の4)
- 民事執行予納金(裁判所により異なる/東京地裁:請求債権が2000万円未満であれば80万円)
自動車
自動車執行を申し立てることで、不倫相手が所有する自動車を差押えられます。
※差押える自動車は、ご自身で調査する必要があります。
自動車執行申立は、原則として自動車登録事項証明書に記載された使用の本拠の位置を管轄する地方裁判所に申し立てます。
債権者の自動車執行の申立てを受けた裁判所が競売開始を決定すると、自動車を差押えたことが登録されます。
開始決定されたら、執行官に対して自動車引渡執行の申立てをする必要があります。自動車引渡執行の申立てを受けた執行官が車を差押えて、売却します。売却代金は、裁判所から配当されます。
自動車執行申立には、以下のものが必要です。
- 自動車強制競売申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義の送達証明書
- 申立手数料(債務名義1通につき収入印紙4,000円)
- 郵便切手(裁判所により異なる/東京地裁:原則110円)
- 自動車登録事項証明書
- 不倫相手(所有者)の住民票または戸籍附票
- 民事執行予納金(裁判所により異なる/東京地裁:自動車1台につき10万円)
なお、軽自動車や自動車登録ファイルに登録のない自動車は、動産執行の対象となります。
家財道具等
動産執行を申し立てることで、不倫相手の家財道具等を差押えられます。
動産執行申立は、原則として動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
執行官と執行日時を調整して決定し、執行日時に執行官が債務者の自宅や事務所等で差押え可能な財産を差押え、売却します。
売却代金は、裁判所から配当されます。
なお、以下のようなものは差押えられません。
- 生活に欠くことができない衣服・寝具・家具・台所用品・畳・建具1か月の生活に必要な食料・燃料
- 66万円以下の現金
- 教育施設における学習に必要な書類・器具
- 実印その他重要な印鑑
- 仏像や位牌
- 義手・義足その他の身体の補足に必要な物
動産執行申立には、以下のものが必要です。
- 動産執行申立書
- 執行力のある債務名義の正本
- 債務名義の送達証明書
- 予納金(債権者1名、執行場所1箇所につき30,000〜40,000円程度)
なお、別途、作業員の日当や遺留品運搬費用等がかかるケースがあります。
裁判で決まった慰謝料を払わない場合に相手の財産を調べる方法
裁判で決まった慰謝料を払わない場合に不倫相手の財産を調べる主な方法として、以下の3つが挙げられます。
- 財産開示手続を利用する
- 第三者からの情報取得手続を利用する
- 弁護士に債権回収を依頼する
以下で、詳しく紹介します。
財産開示手続を利用する
財産開示手続きを利用する方法があります。
財産開示手続きとは、金銭債権について債務名義を有する債権者が、債権を回収できるように、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続きです。
債務者を財産開示期日に裁判所に出頭させて、財産状況を陳述させることで財産に関する情報を取得します。
財産開示手続きは、不倫相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
財産開示手続きを利用すれば、裁判所が不倫相手に対して財産目録の提出を要求するため、どのような財産があるか把握できる可能性があります。
第三者からの情報取得手続を利用する
第三者からの情報取得手続きを利用する方法もあります。
第三者からの情報取得手続きとは、金銭債権について債務名義または一般先取特権を有する債権者が、債権を回収できるように、債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらう手続きです。
第三者からの情報取得手続きで入手できる情報は、以下の4つです。
- 不動産に関する情報
- 給料(勤務先)に関する情報
- 預貯金(預貯金口座)に関する情報
- 上場株式・国債等に関する情報
第三者からの情報取得手続きは、不倫相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
第三者からの情報取得手続きを利用すれば、たとえ財産を隠されても、不倫相手の財産の情報を入手できる可能性があります。
※なお、不動産に関する手続は、先に財産開示手続が実施されている必要があります。給与債権に関する手続は、請求債権の種類が限られており、かつ、先に財産開示手続が実施されていることが必要です。
弁護士に強制執行の手続きを依頼する
弁護士に強制執行の手続きを依頼する方法もあります。
弁護士に債権回収を依頼すれば、弁護士会照会を利用して、不倫相手の財産を調査できます。
弁護士会照会とは、弁護士が受任している事件について所属する弁護士会を通じて官公庁や企業等に照会し、必要な事項の報告を求める制度です。弁護士会照会を利用して照会した場合、原則として、回答する義務があります。
弁護士に債権回収を依頼すれば、以下のような調査をしてもらえるでしょう。
- 不倫相手の預貯金口座がないか金融機関に照会する
- 不倫相手が保有している株式等がないか証券会社に照会する
- 不倫相手が加入している生命保険がないか保険会社に照会する
なお、弁護士会照会は、あくまで弁護士が受任した事件に関して依頼人のために必要な照会を申し出られるもので、調査のみの依頼はできません。
弁護士に依頼すれば、強制執行に先立ち、弁護士会照会を利用した調査に加え、財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きを利用すべきかどうかも適切に判断してもらえるため、不倫相手の財産を特定できる可能性が高まるでしょう。
差押えや財産調査には費用がかかる!費用倒れしないか検討を
差押えや財産調査には費用がかかるため、費用倒れしないか検討する必要があります。
労力をかけて差押えや財産調査をしても、以下のような理由で費用倒れになるケースも少なくありません。
- 財産調査をしたが、差押えできる財産がなかった
- 自動車や動産を差押えたが、価値が低くて執行費用すら回収できなかった
差押えや財産調査には費用が必要になるため、費用倒れにならない金額を回収できるかどうか、事前に検討しましょう。
裁判で決まった慰謝料はいつまで請求できる?
確定判決の権利を行使できるのは、判決が確定してから10年です。
判決が確定してから10年が経過すると、時効により権利が消滅するためです(民法第169条)。
裁判をして得た慰謝料を請求する権利は、10年経てば行使できなくなります。
不倫相手が裁判で決まった慰謝料を支払わない場合は、なるべく早く行動することを心がけましょう。
まとめ
裁判で決まった慰謝料を支払わない場合は、不倫相手の財産を差押えられます。不倫相手の給料や預貯金等の財産を差押えることで、慰謝料を回収できるかもしれません。
ただし、差押えや財産調査には費用がかかるため、費用倒れしないか、事前に検討しましょう。
「不倫相手の財産を差押えたいが自分で対応する自信がない」「不倫相手の財産を徹底的に調べてから差押えたい」などとお考えなら、弁護士への依頼も検討しましょう。
財産調査〜取立完了までの手続きを一任できるため、スムーズに慰謝料を回収できる可能性が高まります。
ネクスパート法律事務所は、初回相談30分無料です。ぜひお気軽にご相談ください。