【弁護士解説】飲食店の臭気に関するトラブルについて

飲食店では、お客様にサービスを提供するに際し、自店で調理を行う店舗がほとんどでしょう。

調理に際して、匂いや、場合によっては煙が出るお店も多いと思います。臭気や排煙については、周辺住民の健康被害も問題になり得ることから、法律による規制が定められており、また、民事上も近隣の他店舗や住民とのトラブルに発展しやすい事項と言えるでしょう。

本稿では、臭気に関する法律について、事例を踏まえて解説し、近隣との関係を良好に保つための対策を記載していきます。

目次

臭気に関する法律の概説

飲食店営業に伴う臭気について定めた法律としては、悪臭防止法があげられます。同法1条によれば、工場その他の事業場における事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行い、その他悪臭防止対策を推進することにより、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的としています。

飲食店も「事業場」に該当するため、悪臭防止法の適用を受けることは言うまでもありません。

同法が規制の対象としているのは、次の特定悪臭物質及び臭気指数についてです。

  1. 特定悪臭物質
  2. 臭気指数

①特定悪臭物質とは、不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質であって政令で指定するもの。(現在22物質が指定されている。)

②臭気指数とは、人間の嗅覚によってにおいの程度を数値化したもの。

環境省ホームページより抜粋

規制基準値は各地方公共団体で異なりますが規制に違反した場合には罰則もあります。

まず、近隣からの報告や相談等を端緒に、当該店舗の所在する市町村の長が必要があると判断した場合には、市町村長は当該事業場に立入検査をしたり、報告をさせたりすることができます。これに対して、報告を怠り、または虚偽の報告をした場合や、検査を拒む等した場合には、30万円以下の罰金を課せられる可能性があります。

また、規制基準を超えた悪臭原因物質が排出されており、住民の生活環境が害されているときは、飲食店経営者に対し、是正勧告・是正命令をすることができるとされており、命令に従わない場合には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すと定められています。

更には、悪臭防止法や各地方公共団体が定める基準以下の排出量であったとしても、近隣住民から民事責任を問われる可能性もあり、実際に裁判になった事例も少なくありません。

事例紹介(神戸地判平成13年10月19日)

事案の概要

神戸市内の焼き鳥店の近隣住民が焼き鳥店の経営者に対して損害賠償請求と臭気の排出差し止めを求めて提訴した事案です。

裁判所の判断及び判断のポイント

裁判所は、焼き鳥店の排出する臭気は受忍限度を超えるものとして、焼き鳥店経営者に対して差し止め及び損害賠償の支払いを命じました。

判断のポイントは、①鑑定の結果、臭気濃度が当時の神戸市内の指針の規制基準を超えており、基準値の3倍近くの臭気が認められたこと及び現場が住宅地であり、②繁華街に比べて住民が受忍すべき限度が低いと考えられることの2点であると考えられます。

民事裁判で臭気による損害賠償が認められるには、排出される臭気が社会通念上受忍すべき限度を超えるかどうかという点で判断されます。悪臭防止法及び地方公共団体が定める規制基準と受忍限度を超えるかどうかの判断は必ずしも一致するものではありませんが、上記の判断のポイント①を見ても、基準を順守しているかどうかという点は重要な判断要素になると考えられます。

(※本判決は公訴され、2審の大阪高判で請求棄却とされています。)

トラブルへの対策

トラブルが生じないようにするためには、第一に悪臭防止法及び同法に基づき地方公共団体が定める規制基準を遵守し、普段から遵守している証跡を残しておくことが重要です。

上記のとおり、規制基準と民事上の受忍限度は必ずしも一致するわけではないので、基準を守っていたとしても訴訟に発展する可能性はゼロにはなりません。しかし、普段から規制基準を遵守しているという証跡は、万一訴訟になってしまった場合にも自社を守るための有利な証拠になるでしょう。

加えて、定期的に近隣の他店舗や住民にヒアリング等を行い、臭気排出に関する改善策を講じるなどして潜在的な紛争の芽を摘んでおくことも重要です。

どのような改善策が考えられるか、という点については個別具体的な判断になると思いますが、類似の営業形態の店舗の改善策に倣うということは有用です。環境省が公開している「飲食業の方のための『臭気対策マニュアル』」において、種々の飲食店が実際に行っている対策がまとめられており、参考になります。

飲食業の方のための『臭気対策マニュアル』(2023年12月現在)

終わりに

ネクスパート法律事務所では、飲食店に関するトラブルや、クレームが発生した場合のご相談を広くお受けしております。遵守すべき法令の確認が必要な場合や、法令に即した対策をしているにもかかわらずトラブルが生じてしまった場合には、是非弊所までお気軽にお問い合わせください。

目次