更新日:2026年3月5日 (木)
公開日:2024年10月16日 (水)
配偶者の病気や障害で離婚できる?判断基準と注意点を解説
サマリー
配偶者の重い病気や障害、それに伴う介護負担などから婚姻生活を続けることが難しくなり、離婚を考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。病気や障害を理由とする離婚は、相手方の合意が得られるかや意思能力の有無によって手続きが異なり、裁判では療養環境への配慮なども考慮されます。この記事では、配偶者の病気や障害を理由とする離婚手続きの流れや裁判での判断基準、意思表示が困難な場合の対応、金銭面の注意点について分かりやすく解説します。
配偶者の病気や障害を理由とする離婚手続きの流れ
配偶者の病気や障害を理由として離婚を検討する場合であっても、基本的な手続きの進行順序は通常の離婚手続きと同様です。
一般的には「協議(話し合い)」「離婚調停」「離婚裁判」という3つの段階を踏んで進められます。

話し合いによる協議離婚の進め方
まずは夫婦間で話し合いを行い、双方が離婚や諸条件に合意したうえで離婚届を提出する協議離婚を目指すのが基本となります。
配偶者に病気や障害がある場合でも、本人が離婚の意味を理解し、自身の意思で合意できる状態であれば協議離婚を成立させることが可能です。
しかし、重度の精神疾患や脳機能の障害などにより意思疎通が困難で正常な判断ができない状況にある場合は、有効な合意が成立しないため、通常の協議離婚を進めることはできません。
協議が困難な場合の離婚調停と調停前置主義
配偶者が離婚に応じない場合や、当事者間での冷静な話し合いが難しい場合には、家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てます。
離婚調停では、裁判官や調停委員で構成される調停委員会が当事者双方から事情や意向を聞き取り、合意による解決を目指して話し合いを仲介します。
日本の法制度では、裁判を行う前にまず調停を経なければならない「調停前置主義」が採られているため、いきなり裁判を起こすことは原則としてできません。
調停不成立時に検討される離婚裁判
調停委員会の仲介を経ても双方が合意に至らず調停が不成立となった場合、次の段階として家庭裁判所へ離婚裁判(訴訟)を提起することを検討します。
裁判では、当事者の合意ではなく、民法で定められた「法定離婚事由」が存在するかどうかを裁判官が証拠や双方の主張に基づいて審理し、判決によって離婚の可否が下されます。
裁判で離婚が認められるケースと判断基準
協議や調停で合意に至らず裁判に移行した場合、裁判所に離婚を認めてもらうためには、民法で定められた「法定離婚事由」が存在する必要があります。
病気や障害に関連する法定離婚事由
民法第770条第1項には、不貞行為や悪意の遺棄などに加えて、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(第4号)」や「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき(第5号)」が規定されています。
配偶者の病気や障害を理由とする離婚請求では、主に第5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるかどうかが検討されるのが一般的です。また、精神疾患の場合には第4号の該当性も検討されますが、回復の見込みがない重度のものであることが求められます。
単なる病気・障害のみでは破綻と認められにくい
夫婦には法律上、互いに協力し扶助し合う義務(同居・協力・扶助義務)があります。そのため、単に配偶者が病気や障害を患っているという事実だけでは、直ちに「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるとは判断されません。
裁判で離婚が認められるためには、病気や障害に伴う様々な事情によって夫婦関係が破綻し、回復の見込みがない状態に至っているかどうかが慎重に判断されます。例えば、以下のような事情が考慮されることがあります。
- 長期間にわたる看病や介護の負担により、他方の配偶者が心身の健康を著しく害したり、過度の精神的苦痛を被ったりしている場合
- 看病や介護の過程で、病気や障害のある配偶者から度重なる暴言や暴力などの不当な扱いを受けている場合
離婚後の療養環境と経済的配慮に関する裁判実務の傾向
裁判実務においては、仮に重度の精神疾患などで法定離婚事由の要件を満たしうる場合であっても、病気を抱える配偶者の離婚後の生活に対する配慮が重視される傾向にあります。
離婚後に相手方が適切な治療や療養を受けられる環境が整っているか、あるいは離婚後も療養費などの経済的な支援がなされる見通しがあるかどうかが確認されます。
相手方の療養環境の確保や経済的な手当てについて具体的な措置が講じられていない場合、裁判所が離婚請求を認めない判断を下すことも少なくありません。
配偶者が意思表示できない場合の手続き(成年後見制度)
意思能力を欠く場合の離婚手続きの制約
配偶者が重度の疾患や障害などにより物事を適切に判断する能力(意思能力)を欠いている状態では、法的に有効な意思表示を行うことができません。そのため、夫婦間での話し合いによる協議離婚を成立させることは法的に難しいとされています。
配偶者との意思疎通が困難な状況では、そのまま調停を申し立てたり裁判を起こしたりすることも手続き上容易ではありません。法的な判断ができない配偶者の権利を保護しつつ手続きを進めるための仕組みが必要となります。
配偶者に正常な判断能力がない状態のまま無理に離婚手続きを進めると、後に手続きが無効と判断される可能性もあります。
成年後見開始の申立てと成年後見人を通じた対応
配偶者が意思表示を行えない場合には、家庭裁判所に対して成年後見開始の申立てを行い、成年後見人を選任してもらう手続きを検討することになります。家庭裁判所の審判を経て成年後見人が選任されることで、本人に代わって法的な手続きを進める窓口が整います。
成年後見人が選任された後は、本人ではなく成年後見人を通じて離婚の協議を進めていくことになります。成年後見人は本人の利益や権利を保護する役割を担っているため、離婚の可否や財産分与などの条件について、本人の今後の生活や療養環境に配慮した慎重な検討が行われます。
協議での合意に至らない場合や裁判所での手続きが必要となる場合にも、成年後見人を相手方として調停や裁判を進める形となります。手続きの各段階において、本人の生活保障や療養計画の具体性が重視される傾向にあります。
離婚に伴う金銭問題の注意点(養育費・財産分与・慰謝料)
配偶者が病気や障害を抱えている場合の離婚では、養育費や財産分与、慰謝料などの金銭に関する取り決めについて、一般的な離婚とは異なる配慮や検討が必要となる場面があります。
養育費の請求と収入状況に応じた判断
未成熟子がいる場合、相手方に病気や障害があること自体を理由として直ちに養育費の支払義務が免除されるわけではありません。養育費は、親の資力や実際の収入状況、稼働能力に基づいて算定されます。
そのため、相手方に就労収入や相応の収入がある場合には養育費を請求することが可能です。一方で、症状により就労が困難で収入が著しく低い場合や無収入の状態にあるときは、請求が認められなかったり金額が低く抑えられたりすることがあります。
財産分与の原則と療養・介護への配慮
婚姻期間中に夫婦の協力によって築いた財産は、名義にかかわらず財産分与の対象となるのが原則です。病気や障害があることを理由に財産分与の手続きそのものが否定されることはありません。
ただし、病気や障害のある配偶者が離婚後に治療や療養、介護サービスを受けるための資金を必要としている場合、裁判実務等において双方の資力や生活状況に応じた財産分与の調整が考慮されることがあります。
慰謝料請求の可否と立証
離婚に伴う慰謝料は、不貞やDVなどの違法な有責行為によって被った精神的苦痛に対して請求されるものです。病気や障害を患ったこと自体に配偶者の故意や過失はないため、発病や障害そのものを理由とする慰謝料請求は原則として認められません。
病気そのものを理由とした慰謝料請求は原則として認められませんが、暴言や暴力といった不法行為が存在する場合には請求が認められる余地があります。
看病や介護の過程で相手方から一方的な暴言や暴力を受けていたようなケースでは、不法行為責任を問える可能性があります。その際は、日記やメモ、医療機関の診断書・カルテなどの客観的な証拠を確保しておくことが重要です。
配偶者の病気や障害による離婚における弁護士への相談
複雑な法的手続きと個別状況の整理
配偶者の病気や障害を理由とする離婚手続きは、通常の離婚問題と比べて法的な検討事項が多岐にわたります。配偶者の判断能力に応じた成年後見制度の利用や、裁判における婚姻関係破綻の立証など、考慮すべき点は少なくありません。
また、離婚後における配偶者の療養環境や生活保障、財産分与における公平な調整など、実務上の配慮も求められます。適切な手順を踏まない場合、当事者間の話し合いが難航したり手続きが停滞したりする可能性もあります。
個別の事情に即した法的論点を整理し、適切な見通しを持って進めることが重要です。
法律相談を通じた見通しと選択肢の確認
弁護士に相談することで、配偶者の病状や介護の実態、これまでの経緯を踏まえ、法的離婚事由への該当性や手続きの選択肢を把握できます。協議・調停・裁判のどの手段を採るべきか、客観的な視点から検討することが可能です。
さらに、成年後見人の選任申立てが必要かどうかの判断や、養育費・財産分与といった金銭問題の整理についても助言を得られます。当事者同士での話し合いが精神的な負担となる場合には、代理人を立てて交渉を進める方法も検討できます。
配偶者の病気や障害に伴う離婚は、感情面や生活環境の調整も含めて慎重な対応が求められます。手続きの進め方や今後の生活設計に不安がある場合には、法律相談を利用して具体的な選択肢を確認してみるとよいでしょう。
まとめ
配偶者の病気や障害を理由とする離婚は、本人の判断能力の有無や離婚後の療養環境への配慮など、通常の離婚手続きとは異なる法的な配慮や検討事項が伴います。
協議離婚が難しい場合や意思能力に不安がある場合は、成年後見制度の利用や調停・裁判手続きなど、適切な法的手順を踏んで進める必要があります。また、養育費や財産分与などの金銭面についても、双方の状況に応じた慎重な判断が求められます。
手続きの進め方や条件の整理に迷った際は、法律の専門家である弁護士に相談し、状況に応じた適切な解決策を検討していくことが大切です。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。