サマリー
配偶者から十分な生活費を渡されなかったり、過度な金銭管理や就労制限を受けたりして思い悩んでいませんか。
家庭内における極端な金銭の制限は、単なるやりくりの問題にとどまらず「経済的DV」に該当する場合があります。
夫婦間には相互に助け合う法律上の義務があり、不当な生活費の未払いに対しては法的な請求を検討することも可能です。
この記事では、経済的DVの判断基準となるチェック項目や具体例をはじめ、法的な主張に役立つ証拠、婚姻費用の請求などの対処法や相談窓口について解説します。
経済的DVの概要と正当な家計管理との違い

経済的DV(経済的暴力)の定義と金銭による支配の構造
経済的DV(経済的暴力)とは、配偶者やパートナーが生活費を適切に渡さなかったり、収入や資産を一方的に掌握したりすることによって、相手の生活や自由な行動を制限・支配する行為を指します。
単なる金銭感覚の相違や節約の意見の食い違いにとどまらず、身体的暴力や精神的暴力(モラルハラスメント)と同様に、DV(ドメスティック・バイオレンス)の重大な一類型として位置づけられています。
裁判実務や各種公的機関の相談においても、夫婦関係の破綻などを判断する重要な考慮要素の一つとされています。
金銭的な自由を奪うことで相手から自立の手段や逃げ場を失わせ、家庭内で従属的な立場を強いる点が経済的DVの本質的な特徴です。
合意に基づく家計管理・節約と一方的な金銭支配の違い
将来の生活資金の確保や貯蓄を目的として、夫婦で十分に話し合って出費を抑える取り組みは「合意に基づく節約」であり、正当な家計管理の範囲内といえます。
この場合、双方が管理方針に納得しており、日常生活に必要な範囲での支出の自由度も保たれています。
一方で、相手の同意を得ないまま一方的に厳しい支出制限を課したり、食費や医療費といった最低限の生活維持に必要な金銭すら渡さなかったりする行為は、家計管理の域を超えた「一方的な金銭支配」に該当する可能性が高くなります。
| 区分 | 合意に基づく家計管理・節約 | 経済的DV(一方的な金銭支配) |
|---|---|---|
| 意思決定 | 夫婦で話し合い、双方が納得して家計のルールを決める | 一方が一方的にルールを決め、相手に厳格に強制する |
| 支出の自由 | 合意の範囲内で必要な支出や一定の自由裁量が認められる | 極端な制限や監視があり、最低限の生活費すら不足する |
| 夫婦の関係性 | 対等なパートナーシップに基づく協力関係 | 金銭を手段として上下関係や従属関係を作り出す |
加害側にみられやすい傾向と被害が潜在化しやすい背景・調査データ
経済的DVを行う側には、配偶者を対等な関係とみなさず、自身のコントロール下に置こうとする支配欲がみられる傾向があります。
収入の高さを個人の優位性に結びつけ、「誰のおかげで生活できているのか」といった言動で相手の自尊心を損なわせるケースも少なくありません。
他方で被害を受ける側においては、専業主婦(主夫)であったり、育児や介護のために十分な収入を得にくかったりすると、配偶者への経済的依存度が高まりやすくなります。
外部との交流が少ない状況では自身の置かれた環境を客観視しにくく、「やりくりが下手な自分が悪いのではないか」と思い込み、問題が潜在化する要因となります。
内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査」(令和5年度)によると、配偶者からの何らかの暴力を経験した割合は女性で25.9%、男性で18.4%となっています。
そのうち、生活費を渡さないなどの経済的DVを経験した割合は女性で8.6%、男性で2.8%にのぼります。
男性側も世間体などを理由に申告していない潜在的な被害が存在すると指摘されています。
近年では共働き家庭であっても、「互いに収入があるから対等」という前提のもとで口座の完全掌握や生活費負担の偏りといった支配が生じるなど、外見上は判別しにくい形で問題が長期化する事例も散見されます。
経済的DVセルフチェック10項目と日常生活における具体例
家庭内における金銭の扱いは外部から把握しにくく、不当な制限を受けていても「自分のやりくりが至らないだけではないか」と思い込んでしまうケースが少なくありません。

自身の置かれている環境が一般的な家計管理の範囲にとどまっているか、それとも一方的な制限にあたるのかを客観的に整理することが大切です。
経済的DVセルフチェック10項目
以下は、経済的な制限に関する相談でよく挙げられる状況を整理したチェックリストです。現在の生活状況と照らし合わせてみてください。
- 生活費を十分に渡してもらえない
- 給与や貯金をすべて相手に管理されている
- 就労やパートで働くことを禁止・妨害されている
- 買い物のレシート提出を細かく強要される
- 自由に使えるお金がほとんどない
- 家計全体の収支や資産状況を教えてもらえない
- 相手が作った借金の返済を押し付けられる
- 自身や共有の貯金を勝手に使われてしまう
- 金銭の管理や使い方について人格否定を受ける
- お金を通じて相手から支配されていると感じる
これらの項目に複数当てはまる場合、正当な家計管理の範囲を超えて経済的DVが生じている可能性があります。
日常生活における経済的DVの具体例
生活費の不払い・極端な制限と使途の監視
配偶者に十分な収入があるにもかかわらず、日用品や食費を賄えないほど少額しか渡さない、あるいは生活費を一切渡さない行為が該当します。
子どもの教育費や医療費といった生活に不可欠な費用であっても支払いを拒否し、「自分の小遣いや独身時代の貯金から出せ」と強要するようなケースもみられます。
また、配偶者名義の口座の通帳やキャッシュカードを取り上げて自由な引き出しを禁じるほか、1円単位でのレシート提出を求め、買い物の内容を過度に詰問する行為も典型例です。
就労の妨害・制限による自立の阻害
「家事や育児がおろそかになる」「誰のおかげで暮らせているのか」などの理由を付けて外で働くことを禁止し、経済的な自立を妨げるケースがあります。
採用面接を妨害したり、勤務先に執拗に連絡を入れて退職に追い込んだりするなど、人為的に経済的依存状態を作り出す行為が行われることもあります。
借金の押し付けや一方的な財産処分
自身の浪費や遊興費で作った借金の返済を相手に肩代わりさせたり、配偶者の名義を無断で利用してローンを組ませたりするトラブルも存在します。
さらに、家族の共有財産である預貯金や子どもの学資保険を無断で解約し、私的に使い込んでしまうなど、家庭の経済基盤を一方的に侵害する行為も深刻な問題となります。
経済的DVを法的に主張するための証拠と収集時の注意点
経済的DVを理由として婚姻費用分担請求や離婚、慰謝料請求などの法的手続きを進める際には、家庭内での金銭支配の実態を客観的に示す証拠が重要となります。
家庭内の金銭管理は密室で行われることが多く、当事者間で主張が食い違う傾向があります。第三者である裁判所や調停委員に対し、客観的な記録をもって実態を説明できる準備が求められます。
立証に役立つ主な証拠の種類
生活費の不足や相手方による一方的な制限を示すためには、日常的な入出金の履歴や夫婦間のやりとりの記録を多角的に残しておくことが有効とされています。
| 証拠の種類 | 具体的な内容・例 | 立証できる事実の例 |
|---|---|---|
| 通帳・家計の記録 | 生活費振込口座の通帳履歴、家計簿、相手の給与明細や源泉徴収票の写真など | 収入に対して生活費が著しく不足している事実、一方的な家計管理の状況 |
| メッセージの履歴 | LINEやメール等での生活費制限の発言、過度な使途監視、就労妨害の文面 | 金銭を手段とした支配的な関係性、継続的な経済的制約の実態 |
| 音声・録音データ | 生活費の不払いを宣言する発言や、「誰のおかげで生活できているのか」等の暴言記録 | 金銭面を通じた精神的圧迫やモラルハラスメントを伴う態度 |
生活費の不足実態を客観的に示す記録方法
生活費が足りていない事実を示すには、家計簿の継続的な記録が効果的です。食費、日用品費、子どもの教育費や医療費など、生活に不可欠な支出を費目ごとに明確にしておく必要があります。
その際、受け取った生活費の金額と実際の支出額を並べて記載し、赤字分を自身の貯金や親族からの援助で補填した場合は、その出入金が分かる通帳の写しなどを併せて保管しておくことが望ましいといえます。
安全な証拠収集と法的な留意点
証拠の確保を焦るあまり、相手のプライベートな領域に過度に踏み込んでしまうと、思わぬ法的トラブルを招くおそれがあるため注意が必要です。
配偶者のスマートフォンに無断で監視アプリを導入したり、パスワードを不正に解除してデータを取得したりする行為は、不正アクセス禁止法違反やプライバシー権の侵害に問われるリスクがあります。
不当な手段で取得された証拠は、調停や裁判での取り扱いにおいて不利に働く可能性があるだけでなく、相手から損害賠償を求められる要因にもなり得ます。
証拠の収集は、自身の手元にある通帳や自身宛てに送信されたメッセージなど、正当に管理・閲覧できる範囲で行うことが基本です。
生活費を渡さない配偶者への法的責任と請求できる手段
配偶者が正当な理由なく生活費を渡さない行為は、単なる家庭内の不和にとどまらず、法律上の義務に反する行為として民事上の責任を問われる可能性があります。
民法上の扶助義務と婚姻費用分担請求
民法第752条では、夫婦は同居し、互いに協力して扶助しなければならないと定められています。
さらに民法第760条に基づき、夫婦はその資産や収入、その他の事情を考慮して、婚姻生活から生じる費用を分担する義務を負っています。
この婚姻費用の分担義務は、自分の生活を保持するのと同程度の生活を相手にも保持させる「生活保持義務」と解されています。
そのため、十分な収入があるにもかかわらず生活費を渡さない行為は、同義務に違反する可能性が生じます。
生活費が支払われない場合、家庭裁判所に対して婚姻費用分担請求の調停や審判を申し立てることが可能です。
この手続きは別居中だけでなく同居中であっても利用でき、調停等で取り決めがなされた後に支払いが滞った場合には、給与などの差押えによる強制執行を申し立てることも視野に入ります。
生活費の不払いが続く場合は、家庭裁判所での婚姻費用分担請求の手続きを検討することが法的な解決手段の一つとなります。
離婚請求・財産分与・慰謝料の請求
長期にわたる生活費の不払いや極端な金銭支配によって夫婦関係が破綻した場合、裁判上の離婚事由として主張できることがあります。
民法第770条1項4号に規定される「婚姻を継続し難い重大な事由」や、同条同項2号の「悪意の遺棄」に該当すると判断される場合があります。
また、経済的DVによって著しい精神的苦痛を被ったと認められる事案では、不法行為(民法第709条)に基づく慰謝料の請求が認められるケースもあります。
離婚にあたっては、婚姻期間中に夫婦の協力によって築いた財産を清算する財産分与も請求できます。
配偶者が預貯金や有価証券の情報を隠して開示しない場合でも、調停手続きにおける開示勧告や弁護士会照会などを活用して財産状況の調査を進める方法があります。
DV防止法および刑事法令との関係
現行の日本の刑法には「経済的DV」という個別の罪名は存在しません。
そのため、生活費を渡さないという事象のみをもって警察が直ちに介入したり、刑事処罰が科されたりすることは一般的ではありません。
もっとも、病気や要介護状態にある配偶者に必要な食費や医療費を一切与えず放置した場合には保護責任者遺棄罪、生活費を盾にして意に沿わない行為を無理に強要した場合には強要罪といった刑罰法令が問題となり得る余地はあります。
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)においては、経済的制約を伴う精神的な暴力も相談や支援の対象とされています。
ただし、裁判所が発令する保護命令(接近禁止命令等)の対象となるか否かについては、法文上の厳格な要件に照らして判断されます。
| 法的手段・責任 | 主な根拠法令 | 概要・請求内容 |
|---|---|---|
| 婚姻費用分担請求 | 民法第752条・第760条 | 同居中または別居中の生活費を分担するよう家庭裁判所へ申し立てる |
| 裁判上の離婚請求 | 民法第770条1項4号など | 生活費不払い等による破綻を理由に離婚を求める |
| 慰謝料請求 | 民法第709条 | 悪質な金銭支配や精神的苦痛に対して損害賠償を求める |
| 財産分与請求 | 民法第768条 | 婚姻期間中に形成された共有財産の公平な分配を求める |
| 刑事責任の追及 | 刑法(保護責任者遺棄・強要等) | 生命身体に危険が及ぶ放置や不当な強制がある場合に問題となる |
経済的DVへの対処手順と公的相談窓口・弁護士への相談
経済的DVの状況から抜け出すためには、感情的な対立を避けながら、自身の安全確保と生活基盤の準備を段階的に進めることが重要です。
相手の支配的な態度が強い場合、生活費の増額や支払いを求めたことを契機に関係が悪化したり、威圧的な言動が強まったりする懸念もあります。
万が一の別居や避難を想定し、配偶者に管理されていない自分名義の預金口座を用意したうえで、当面の生活資金を確保しておくことが現実的な備えとなります。
あわせて、生活費の不払いや過度な制限を示す客観的な記録は、相手に見つからない安全な場所へ保管しておく配慮が求められます。
自身の心身の安全を最優先に位置づけ、生活資金の確保と記録の保全を慎重に進めることが大切です。
利用できる公的な相談窓口
家庭内における金銭問題や行動の制限について一人で抱え込まず、公的な相談窓口を利用して現状を整理することも有効な手段です。
全国共通のダイヤルや各自治体の専門窓口では、状況に応じた支援制度の案内や安全確保に関する助言を行っています。
| 窓口名称 | 連絡先・方法 | 主な相談内容・特徴 |
|---|---|---|
| DV相談ナビ | 短縮ダイヤル #8008 | 最寄りの配偶者暴力相談支援センターへ自動転送され、相談や支援の案内を受けることができます。 |
| DV相談プラス | 0120-279-889(SNS・チャット対応あり) | 電話相談のほか、メールやチャットでの相談も受け付けています。 |
| 警察相談専用電話 | 短縮ダイヤル #9110 | 緊急性は高くないものの、身体的暴力の恐れや生活上の危険を感じる場合の相談窓口です。 |
| 配偶者暴力相談支援センター | 各自治体の指定窓口 | カウンセリング、一時保護(シェルター)への案内、自立支援のための情報提供などを行います。 |
当事者間の話し合いが困難な場合における弁護士への相談
経済的DVを行う配偶者は、生活費の支払いを求めても「誰のおかげで生活できているのか」「やりくりが下手なだけだ」などと論点をすり替え、対等な話し合いに応じない傾向が見られます。
力関係に偏りがある状況で無理に直接交渉を続けようとすると、精神的な負担が過度に重くなるおそれがあります。
当事者同士での協議が難しい局面では、弁護士への相談や代理人としての交渉依頼を検討する選択肢があります。
弁護士が代理人として介入することで、相手方と直接接触せずに連絡窓口を一本化でき、法的な基準に則った婚姻費用分担請求や離婚に向けた話し合いを進めやすくなります。
また、相手方が収入や共有財産を正確に開示しない場合でも、調停手続きや弁護士会照会などを活用して財産状況の把握を試みることが可能です。
生活費の未払いや過度な金銭支配に直面している場合は、法的な権利や適切な手続きについて弁護士に助言を求めることも解決への一歩となります。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。