更新日:2026年10月7日 (水)

公開日:2026年9月3日 (木)

借金を原因に離婚できる?法的な離婚事由や返済義務を解説

借金を原因に離婚できる?法的な離婚事由や返済義務を解説 借金を原因に離婚できる?法的な離婚事由や返済義務を解説

サマリー

配偶者の浪費やギャンブルによる借金が発覚し、離婚を検討しながらも、自分にも返済義務が及ぶのではないかと不安を抱える方は少なくありません。

夫婦間の合意があれば借金を理由に離婚することは可能ですが、裁判離婚では婚姻関係の破綻といった要件が求められます。

また、負債の名義や使途によって、返済の責任や財産分与での清算方法は異なります。

この記事では、借金を原因とする離婚が認められる条件や手続きの流れ、配偶者の返済義務や財産分与における扱いについて解説します。

借金は法律上の離婚原因(法定離婚事由)になるのか

借金は法律上の離婚原因(法定離婚事由)になるのか

合意に基づく離婚(協議・調停)における扱い

夫婦間の話し合いによって進める協議離婚や、家庭裁判所での調停手続きを通じて合意を目指す調停離婚では、双方が合意していれば離婚の理由は法的に問われません。

借金の使途が生活費の不足によるものであっても、ギャンブルや過度な浪費といった個人的な事情によるものであっても、双方が納得して離婚届を提出したり調停条項に合意したりすれば離婚は成立します。

裁判離婚における法定離婚事由と借金の位置づけ

一方で、一方が離婚を拒否している状況で訴訟を起こし、裁判離婚を目指す場合には、民法第770条第1項に規定されている「法定離婚事由」のいずれかに該当している必要があります。

民法の条文には「借金」という項目が直接定められているわけではないため、配偶者に借金があるという事実単体だけでは、裁判で直ちに離婚が認められる可能性は高くありません。

裁判で借金を理由に離婚が認められるためには、その借金やそれに付随する行動によって夫婦関係が修復不可能な程度まで破綻していると客観的に判断される必要があります。

手続きの種類 双方の合意 法定離婚事由の要否 借金理由の扱い
協議離婚 必要 不要 双方が納得していれば借金の有無・理由を問わず成立
調停離婚 必要 不要 調停委員会を介した合意があれば成立
裁判離婚(訴訟) 不要(判決による) 必要 借金により婚姻関係が破綻したことの立証が必要

婚姻関係の破綻と認められ得る具体的事情

借金が関係する事案において、民法第770条第1項第4号の「婚姻を継続し難い重大な事由」や第2号の「悪意の遺棄」に該当すると判断されやすい要素としては、借金の額面だけでなく、家計や家族に対する実質的な影響が重視されます。

  • ギャンブルや過度な浪費、風俗通いなどを理由に多額の借入を繰り返し、注意されても改善が見られない
  • 自身の借金返済を優先して家族に長期間生活費を渡さず、経済的に困窮させている(悪意の遺棄に該当し得る行為)
  • 配偶者に無断でその名義を利用して借入れを行ったり、肩代わりや返済を強要したりする
  • 借金の発覚や返済をめぐる話し合いの中で、家庭内暴力(DV)やモラハラ行為が恒常化している
  • 度重なる隠し借金や虚偽の説明により、夫婦間の信頼関係が回復不能なまでに喪失している

裁判所における判断では、単に借金の総額のみを見るのではなく、借金が生じた使途や経緯、生活費の支払状況、注意に対する反省の有無、これまでの夫婦生活の実態などが総合的に考慮される傾向にあります。

借金を理由に離婚を進める際の手続きの流れ

配偶者の借金を理由に離婚を検討する場合、法的な手続きは段階を踏んで進めていくのが一般的です。まずは当事者同士の話し合いから着手し、合意に至らない場合に裁判所の手続きを利用する流れが基本となります。

手続きの段階 進め方 主な特徴と留意点
協議離婚 夫婦間の直接の話し合い 合意があれば成立。後々のトラブルを防ぐため離婚協議書の作成が望ましい
離婚調停 家庭裁判所での仲介手続き 調停前置主義により裁判の前に原則として申立てが必要。第三者を介して合意を目指す
離婚訴訟(裁判) 裁判所による判決手続き 調停不成立時に提起可能。客観的な証拠に基づいて破綻の事実を立証する必要がある

話し合いによる協議離婚と離婚協議書の作成

離婚手続きの第一段階は、夫婦が直接話し合って合意を目指す協議離婚です。協議離婚では双方が条件に納得していれば、借金の原因や使途を問わず離婚届を提出することで成立します。

ただし、相手が借金の総額や使途を正確に開示しない場合、財産分与や養育費などの取り決めが不十分になる懸念があります。口頭のみの合意では後日トラブルになりやすいため、決定事項を明記した離婚協議書を作成しておくことが重要です。

養育費の支払いや金銭の清算を伴う合意内容は、離婚協議書を公正証書にしておくことで、将来的な不払いに備える実効性を高めやすくなります。

家庭裁判所での離婚調停と調停前置主義

相手が離婚自体に応じない場合や、借金の清算をめぐる話し合いが平行線をたどる場合は、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚調停)を申し立てます。調停では調停委員会が双方の言い分を個別に聞き取り、合意に向けた調整を行います。

当事者同士が直接顔を合わせずに意見を伝えられるため、感情的な対立を避けて冷静に話し合いを進めやすい点が特徴です。日本の法制度では調停前置主義が採られており、原則として調停を経ずにいきなり裁判を起こすことはできません。

調停不成立時の離婚訴訟(裁判)と客観的証拠の重要性

調停を重ねても双方の合意が得られず不成立(不調)となった場合、最終的な手段として家庭裁判所に離婚訴訟を提起します。裁判手続きに移行すると、裁判官が判決によって離婚の可否を決定します。

裁判で離婚を認めてもらうためには、借金が原因で婚姻関係が修復不可能なほど破綻している事実を、客観的な証拠に基づいて主張・立証しなければなりません。

借入残高がわかる利用明細や督促状、クレジットカードの利用履歴、生活費が渡されていなかったことを裏付ける預金通帳の記録などが有力な資料となります。感情的な訴えだけでなく、具体的な資料を揃えて臨むことが求められます。

配偶者の借金に対する返済義務の有無

原則としての夫婦別産制と個人的な借金

民法では「夫婦別産制」が定められており、婚姻中であっても自己の名義で得た財産や負った負債は各自の財産として扱われます。そのため、借入の名義人となっていない配偶者に対して、法律上の返済義務が当然に発生することはありません。

配偶者が個人的な趣味やギャンブル、浪費などを理由に重ねた借金であっても、名義人以外の配偶者が債権者に対して返済を肩代わりする法的な責任は原則として存在しません。

配偶者の個人的な浪費やギャンブルによる借金について、名義人でない配偶者が返済を肩代わりする法的な義務はありません。

例外的に配偶者へ返済責任が生じるケース

原則として返済義務を負わない場合であっても、例外的に法的な責任が及ぶ事態が存在します。代表的な例として挙げられるのが、配偶者が借入契約において「保証人」や「連帯保証人」を引き受けている場合です。

保証契約は債権者と保証人との間で結ばれた個別の契約であるため、婚姻関係の解消や離婚の成立によって効力が自動的に消滅することはありません。そのため、離婚後であっても債権者から請求を受けた際には対応を迫られることになります。

ご自身が保証人や連帯保証人になっている場合、離婚しても債権者に対する返済義務は残り続けます。

もうひとつの例外は、民法第761条に規定されている「日常家事債務」に該当する場合です。日々の食費や水道光熱費の支払い、家族の医療費や子どもの教育費など、共同生活を維持するために生じた債務については、夫婦が連帯して責任を負うものと定められています。

借金の種類・目的 配偶者の返済義務 法的な根拠・留意点
ギャンブル・浪費・個人の趣味 原則なし 夫婦別産制に基づき名義人本人の個別債務として扱われる(保証人を除く)
保証人・連帯保証人となっている借入 あり 債権者との保証契約に基づき、離婚後も返済責任が継続する
食費・光熱費・教育費などの日常家事債務 あり 民法第761条の日常家事債務として夫婦双方が連帯責任を負う

借金がある場合の財産分与と慰謝料請求の扱い

婚姻中に生じた借金がある場合、離婚時の財産分与や慰謝料請求においてその負債をどのように扱うかは重要な論点です。借金の性質や使途によって、清算方法や金銭請求の可否が大きく異なります。

生活関連の借金と私的な借金における財産分与の清算方法

財産分与は夫婦が協力して築いた財産を公平に清算する手続きですが、対象となるのは預貯金などのプラスの財産だけでなく、婚姻生活のために生じた債務も考慮されます。

家族のための住宅ローンや生活費の補填など、婚姻生活を維持する目的で作られた借金は夫婦全体の債務として扱われます。実務上は、夫婦共有のプラスの財産からこれらの負債を差し引き、残ったプラスの財産を原則として2分の1ずつ分け合う清算が行われます。

一方、配偶者がギャンブルや過度な浪費、趣味などのために個人的に作った借金は個人の債務(特有財産)とみなされます。この場合、共有財産からその負債を差し引くことは認められず、借金を作った名義人本人が単独で返済を担うことになります。

借金の種類・目的 配偶者の返済義務 財産分与での扱い
ギャンブル・浪費・個人の趣味 原則なし(保証人を除く) 個人の債務となり、共有財産から控除しない
食費・光熱費などの日常家事債務 あり(夫婦で連帯責任) 夫婦共有の債務としてプラス財産から控除
住宅ローン・教育ローンなど 保証人・連帯債務者でなければなし 夫婦共有の債務としてプラス財産から控除

なお、夫婦全体の負債額がプラスの財産を上回る債務超過の状態にある場合、財産分与において裁判所がマイナスの財産を相手方に割り振ることは原則として行われません。

借金を理由とする慰謝料請求の可否と認められ得る有責行為

離婚に伴う慰謝料は、配偶者の不法行為によって精神的苦痛を被った損害賠償として請求されるものです。単に借金があることや浪費行為があったという事実のみでは直ちに違法な不法行為とは評価されにくく、借金そのものを理由とした慰謝料請求は認められないケースが一般的です。

ただし、借金の経緯や背景に明確な有責行為が存在する場合は慰謝料請求が認められる余地があります。例えば、不貞行為の交際費や相手への貢ぎ物のために借金を重ねていた場合や、借金をめぐって暴力(DV)やモラハラ行為が及んでいた場合などが挙げられます。

また、自身の借金返済を優先して家庭に生活費を一切渡さず家族を経済的に困窮させていた場合、民法上の悪意の遺棄と評価され、慰謝料請求が認められる可能性があります。

相手が無資力である場合における金銭回収の実務的な留意点

法的に慰謝料や財産分与の請求が認められる余地がある場合でも、実務上は相手からの金銭回収が現実的に可能かという問題が生じます。多額の負債を抱えている配偶者は、既に手元の資産や支払能力を失っている無資力状態であるケースも少なくありません。

相手が無資力の場合、調停条項や判決で金銭の支払いが命じられても、現実的な回収が極めて困難になるリスクがあります。

支払能力がない相手に対して回収の見込みが薄い慰謝料を求め続けると、手続きが長期化して精神的・経済的な負担が増大する要因にもなります。

そのため、相手の経済状況によっては慰謝料の獲得に固執するのではなく、速やかな離婚成立による関係解消や、子どものための将来の養育費確保を優先するなど、現実的な落としどころを見極める視点も大切です。

借金が関係する離婚問題についての弁護士への相談

借金が関係する離婚問題についての弁護士への相談

負債の法的な切り分けと見通しの整理

配偶者の借金が問題となる離婚では、負債の名義や使途に応じて法的な扱いが細かく分かれます。日々の家計を維持するための債務なのか、個人の浪費による債務なのかを法的な観点から明確に区別し、客観的な見通しを立てることが重要です。

相手が借金の開示に応じない場合や借入総額が不明瞭な場合でも、どのような資料を収集・確認すべきかを整理することで、手続きを円滑に進める足がかりとなります。法的な観点から証拠や事実関係を把握することが、冷静な話し合いの基礎となります。

財産分与や養育費の適正な取り決め

借金が存在する状態での財産分与は、夫婦共有のプラスの財産との清算や特有財産の切り分けなど、計算や法的な判断が複雑になりがちです。適切な条件設定を行わないと、本来負う必要のない債務を実質的に負担させられるなどの不利益が生じるおそれがあります。

借金問題を抱える配偶者との離婚では、財産分与や養育費の取り決めを曖昧にせず、将来の不払いを防ぐ対策を講じることが重要です。

相手の資力に不安がある場合であっても、算定基準を踏まえた現実的な金額設定や、公正証書の作成を通じた執行力の確保など、将来的なトラブルを防ぐための準備が求められます。合意内容を明確な書面に残しておくことが重要となります。

各手続きにおける法的な助言の活用

協議や調停、裁判といった各手続きにおいて、借金の経緯や夫婦関係の実態を法的に主張・立証していく作業には慎重な判断が必要です。自身の置かれている状況の法的な位置づけを把握することで、冷静に対処方針を検討できます。

配偶者の借金に関する離婚条件の調整や手続きの流れについて疑問や不安がある場合は、法的な助言を得るために弁護士への相談を検討するとよいでしょう。客観的な状況整理を行うことで、解決に向けた道筋を見出す一助となります。

コラム監修者

SHIZU ISHIDA

SHIZU ISHIDA

所属:東京オフィス

広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。

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