更新日:2026年3月5日 (木)
公開日:2024年11月27日 (水)
配偶者の借金を理由に離婚できる?借金の扱いと手続きを解説
サマリー
配偶者に多額の借金や浪費癖があり、離婚を考えているものの、相手が話し合いに応じない場合や、今後の生活への影響に不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。借金を理由とする離婚は、夫婦間の合意があれば進められますが、相手が応じない場合は法的な離婚事由に該当するかが重要な論点となります。また、負債の清算や親権、養育費などの取り扱いについても事前に整理しておくことが大切です。この記事では、配偶者の借金を理由に離婚を進める際の手続きや裁判で認められる要件、財産分与や養育費への影響について解説します。
配偶者の借金を理由とした協議離婚と調停離婚の手続き
配偶者の借金が原因で離婚を検討する場合、まずは夫婦間での話し合いによる解決を目指すのが一般的です。日本の離婚手続きには段階があり、双方の意向や合意の有無に応じて進め方が異なります。
夫婦間の合意による協議離婚
協議離婚は、夫婦間で話し合いを行い、双方が離婚することに合意して離婚届を提出する手続きです。合意が成立していれば、借金の金額や理由などの離婚原因を法的に問われることはありません。
配偶者が借金を認め、離婚の申し出に納得して合意が得られるのであれば、協議離婚によりスムーズに婚姻関係を解消することが可能です。
合意できない場合は調停前置主義により調停へ
一方が借金を理由に離婚を求めても、相手方が拒否したり条件面で折り合いがつかなかったりする場合は、協議離婚を成立させることはできません。しかし、協議がまとまらないからといって直ちに裁判を起こすことはできない仕組みになっています。
日本の法律では「調停前置主義」が採用されており、離婚訴訟を提起する前に、まずは家庭裁判所での調停手続きを経る必要があります。そのため、まずは家庭裁判所に「夫婦関係調整調停(離婚調停)」を申し立てることになります。
離婚調停では、裁判官や調停委員といった中立な立場の第三者が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意に向けた話し合いを進めます。相手と直接対面せずに話し合える運用がなされることも多く、感情的な対立を抑えながら冷静な協議を目指します。
調停委員を介した話し合いの結果、双方が合意に至れば調停が成立し、離婚が認められます。調停離婚においても、双方が納得して合意するのであれば、借金に至った経緯などの理由は法的に問題とされません。
調停不成立から裁判離婚への流れ
調停を重ねても相手方が離婚に応じない場合や、金銭面などの条件で妥協点が見出せない場合は、調停は不成立(不調)となって終了します。
調停が不成立となった後も離婚を希望する場合は、家庭裁判所に離婚訴訟を提起して裁判離婚を目指す流れになります。裁判離婚では、夫婦間の合意ではなく、民法で定められた法的な離婚事由が存在するかどうかが裁判官によって判断されることになります。
相手が合意しない場合に裁判離婚が認められるケース
協議や調停で相手方が離婚に合意しない場合、裁判を起こして離婚を認めてもらう必要があります。しかし、裁判離婚はどのような理由でも認められるわけではなく、民法で定められた事由が存在することが条件となります。
民法で定められている5つの法定離婚事由
現行の民法において、裁判離婚が認められる原因(法定離婚事由)は次の5つに限定されています。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
配偶者の借金を理由として裁判離婚を求める場合には、借金の経緯や生活への影響を総合的に考慮したうえで、上記の「悪意の遺棄」または「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかが主な争点となります。
生活費を入れない場合の「悪意の遺棄」
夫婦には法律上、同居し、互いに協力し扶助し合う義務があります。配偶者が借金の返済に収入のすべてをつぎ込んでしまい、家庭に必要な生活費を渡さない状態が続いている場合は、正当な理由なく扶助義務を怠っているとみなされることがあります。
このように、意図的に生活費を負担せず家庭生活を立ち行かなくさせる行為は「悪意の遺棄」に該当し、相手の同意がなくても離婚が認められる可能性があります。
多額の借金やギャンブルによる「婚姻を継続しがたい重大な事由」
単に借金があるという事実のみでは直ちに離婚が認められないこともありますが、借金の額や使途、発覚後の対応などによっては「婚姻を継続しがたい重大な事由」と判断されるケースがあります。
例えば、結婚前から隠していた多額の借金が発覚した場合や、収入に見合わないギャンブルや過度な浪費を繰り返して家庭崩壊の危機を招いている場合などがこれにあたります。
借金によって夫婦関係の信頼が完全に損なわれ、関係修復が極めて困難である客観的な事情があれば、裁判において離婚請求が認められる余地が生じます。
配偶者に借金がある場合の親権と財産分与の取り扱い
借金の存在と親権者判断への影響
配偶者に借金があるという事実のみをもって、直ちに親権者としての適格性が否定されるわけではありません。親権者の指定においては、これまでの監護実績や子どもとの関係性、監護環境、子どもの意思などを総合的に考慮して判断されます。
ただし、借金の返済に追われて家庭に生活費を入れなかったり、ギャンブルなどへの浪費を繰り返したりしている場合は事情が異なります。子どもの健全な成長に必要な養育環境を維持できないと判断され、親権の判断において不利に働く要素となり得ます。
財産分与における負債の清算ルール
財産分与は、婚姻中に夫婦が協力して築いた実質的な共有財産を分配する制度です。分配の対象には預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、夫婦の共同生活を維持するために生じた負債(マイナスの財産)も含まれます。
具体的には、日々の生活費を補填するための借り入れや住宅ローン、自家用車のローン、子どもの教育資金のためのローンなどが該当します。これらの負債はプラスの共有財産の総額から控除して清算するのが一般的です。
負債の総額がプラスの財産を上回る場合は、財産分与によって金銭を受け取ることが難しくなる場合があるため注意が必要です。
財産分与の対象とならない個人的な借金
夫婦の共同生活とは関係のない目的で生じた負債については、財産分与の対象には含まれません。配偶者が個人の趣味やギャンブル、遊興のために独断で作った借金や、婚姻前から存在していた借金などがこれに該当します。
このような個人的な負債は名義人固有のもの(特有財産に準じる負債)として扱われるため、離婚後も借入名義人が単独で全額の返済義務を負い続けることになります。
借金がある配偶者に対する養育費と慰謝料の請求
配偶者が借金を抱えている場合であっても、子どもの養育費を請求する権利が失われるわけではありません。養育費の金額は、子どもの人数や年齢、双方の収入状況を基礎として算定されるため、相手方の借金は支払義務を免れる正当な理由にはならないとされています。
相手方が自己破産の手続きをとった場合でも、養育費の支払義務は法律上免除されません。
養育費は子どもの生活を維持するための重要な権利であるため、破産法上の非免責債権と定められており、破産後であっても支払いを請求し続けることが可能です。ただし、相手方の経済状態が極度に逼迫している場合、現実的な回収が難しくなる場面も想定されます。
養育費の不払いに対する強制執行の仕組み
相手方が取り決めた養育費を支払わない場合、法的効力のある文書があれば強制執行の手続きをとることが可能です。具体的には、離婚調停の調停調書、裁判の判決書、または執行認諾文言付きの公正証書を作成しているケースが該当します。
強制執行では、相手方の預貯金や給与を差し押さえる手続きが行われます。通常の金銭債権における給与の差押え限度額は手取り額の4分の1までですが、養育費の請求においては手取り額の最大2分の1まで差し押さえることが認められています。
借金を理由とする慰謝料請求の判断基準
離婚の際に相手方へ慰謝料を請求する場合、協議や調停で双方が合意すれば受領することは可能です。しかし、相手方が支払いを拒否して裁判等で争う場合、単に借金があるという事実だけでは慰謝料の請求が認められない傾向にあります。
借金自体によって直接的に配偶者の権利や利益が侵害されたと評価できない場合は、法的な請求根拠を欠くためです。慰謝料が認められるためには、借金の返済を優先して生活費を全く渡さなかったなど、具体的な不法行為や精神的苦痛を生じさせる実害が必要となります。
生活費の不払いや借金の規模などに応じ、慰謝料が認められる場合の目安は50万円から300万円程度と幅があります。ただし、慰謝料請求権は養育費とは異なり、相手方が自己破産を申し立てて免責が許可された場合、支払いを受けられなくなる可能性がある点に注意が必要です。
配偶者の借金と離婚に関する弁護士への相談
借金問題を伴う離婚協議・調停の進め方
配偶者に借金がある場合、当事者同士の話し合いでは感情的な対立が生じやすく、冷静な協議が進まないケースが少なくありません。相手が離婚や条件の話し合いに応じない場合には、調停や訴訟といった法的な手続きを見据えて段階的に進める必要があります。
離婚に向けた手続きの流れや、各段階で主張すべきポイント、必要となる資料の収集方法について、法的な見地から助言を得ることは手続きを円滑に進める上で有益といえます。
負債の性質の見極めと金銭請求の見通しの整理
配偶者が抱える負債が生活費の補填などの共同生活によるものか、ギャンブル等の個人的な浪費によるものかによって、財産分与での扱いは大きく分かれます。負債の使途や名義関係を正確に整理し、法的に適切に見極めることが重要です。
さらに、相手方に多額の負債や返済の遅れがある場合、養育費や慰謝料の支払いを取り決めても実際の回収が困難になる懸念が生じます。金銭請求が法的に認められる余地や、将来的な自己破産の影響などを踏まえた見通しを事前に確認することが大切です。
負債の性質を正確に見極め、将来的な回収可能性も考慮したうえで離婚条件を整理することが重要になります。
離婚後の生活設計を見据えた条件整理
離婚後の生活を安定させるためには、離婚の成否だけでなく、親権の帰属、財産分与、養育費の支払い確保など、多岐にわたる条件を漏れなく取り決めなければなりません。合意内容は公正証書の作成などを通じて明確に残すことが望まれます。
配偶者の借金を理由とする離婚問題では、婚姻関係の破綻の程度や負債の法的な位置づけなど、検討すべき論点が複雑に絡み合います。自身の権利を守り適切な解決を目指すためにも、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。