更新日:2026年3月4日 (水)

公開日:2022年4月15日 (金)

婚姻費用の支払いは拒否できる?払わないと離婚時に不利になるか解説

婚姻費用の支払いは拒否できる?払わないと離婚時に不利になるか解説 婚姻費用の支払いは拒否できる?払わないと離婚時に不利になるか解説

サマリー

別居中などに婚姻費用の支払いを求められた際、「相手と離れて暮らしているのに支払う必要があるのか」「支払いを拒絶できないのか」と疑問や悩みを抱く方もいるのではないでしょうか。婚姻費用は法律上の扶助義務に基づくため原則として支払いを拒否することは難しいものの、事情の変化などによっては減額や免除が考慮される場合もあります。この記事では、婚姻費用の支払い義務の基本や支払わない場合のリスク、減額が検討されるケースや具体的な手続きの流れについて分かりやすく解説します。

婚姻費用の支払いは原則として拒否できない

婚姻費用は、法律上の夫婦間における生活保持義務に基づいています。まずはその法的な根拠や別居中も支払いが求められる理由、具体的な支払期間について解説します。

婚姻費用の分担義務と法律上の根拠

民法第752条において「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定されています。婚姻費用とは、夫婦やその子どもが通常の共同生活を維持するために必要な衣食住の費用、医療費、子どもの教育費、交際費といった生活費全般のことです。

この夫婦間の扶助義務は、自分の生活を保持するのと同程度の生活を相手方にも保持させるという重い義務(生活保持義務)とされています。そのため、夫婦の資力に応じて生活費を公平に分担しなければなりません。

法律上の婚姻関係が続いている限り扶助義務は消滅しないため、原則として婚姻費用の支払いを拒否することはできません。

別居中であっても支払い義務が継続する理由

夫婦が別居して家計が分かれた状態であっても、法的な婚姻関係が解消されていない以上、互いに扶助する義務は継続します。したがって、離れて暮らしていることを理由に支払いを拒むことは原則として認められません。

分担すべき具体的な金額については、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」などを参考にしながら、双方の収入状況や子どもの人数・年齢などを総合的に考慮して算出されるのが一般的です。

婚姻費用の支払期間(いつからいつまで支払うのか)

婚姻費用の支払義務が発生する時期(始期)と終了する時期(終期)の一般的な基準は以下のとおりです。

区分 一般的な目安・基準
支払いの始期(いつから) 権利者(受け取る側)が支払いを明確に請求した時点(内容証明郵便の送達時や調停申立時など)
支払いの終期(いつまで) 離婚が法的に成立した時点、または別居を解消して同居生活を再開した時点

支払いの始期について、実務上は「婚姻費用の分担を請求した時点」から認められる傾向があります。そのため、別居開始直後から請求を行っていなかった場合、過去にさかのぼって支払いを求めることは難しくなるケースが少なくありません。

また、支払いの終期は離婚成立または別居解消時となります。なお、同居を再開した場合であっても、配偶者が生活費を適切に渡さないようなときには、引き続き婚姻費用の分担を請求される可能性があります。

婚姻費用を支払わない場合に生じうる主なリスク

婚姻費用を支払わない場合に生じうる主なリスク

婚姻費用の支払いを自己の判断で一方的に拒絶したり滞納したりすると、法的な不利益を被る可能性があります。具体的にどのようなリスクが生じうるのかを把握しておくことが重要です。

「悪意の遺棄」とみなされ離婚条件で不利になる可能性

正当な理由がないにもかかわらず婚姻費用を支払わない行為は、民法上の夫婦間の扶助義務に反するとみなされる場合があります。生活費の不払いが悪質であると評価された場合、「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。

悪意の遺棄と判断されると、婚姻関係を破綻させた原因を作った有責配偶者とみなされ、離婚請求や条件交渉において不利な立場に置かれるリスクがあります。また、相手方から慰謝料を請求される要因にもなり得ます。

履行命令に従わない場合の過料のリスク

家庭裁判所の調停や審判などで婚姻費用の分担内容が確定しているにもかかわらず支払いを怠ると、相手方の申立てにより家庭裁判所から履行勧告や履行命令が出されることがあります。

履行勧告は支払いを促す通知であり直接的な罰則はありませんが、さらに強い措置である履行命令に正当な理由なく従わない場合には、10万円以下の過料に処される可能性があります。

強制執行による給料や預貯金等の財産差押え

取り決めを守らずに滞納が続いた場合、相手方が裁判所に強制執行を申し立てる可能性があります。強制執行が認められると、預貯金や不動産といった財産が差し押さえの対象となります。

特に給料が差し押さえられる場合、一般的な金銭債権とは異なり手取り額の2分の1まで差し押さえが認められています。勤務先に裁判所からの通知が届くため、支払いが滞っている事実が会社に知られることにもつながります。

婚姻費用の減額や免除が検討されるケース

婚姻費用は原則として分担義務がありますが、個別の事情や客観的な状況の変化によっては、減額や支払いの免除が考慮されるケースも存在します。

婚姻費用を請求する側(権利者)が有責配偶者である場合

不貞行為など婚姻関係を破綻させる原因を作った側を有責配偶者と呼びます。請求する側が有責配偶者である場合、自ら関係を破綻させながら生活費を請求することは信義誠実の原則や権利の濫用に当たるとみなされ、減額や免除が検討される傾向にあります。

ただし、請求側が子どもを養育している場合は取り扱いが異なります。配偶者自身の生活費部分は減額や免除の対象となり得ますが、子どもの生活を支える養育費相当分については、親の有責行為とは切り離して考慮されるのが一般的です。

算定表などの相場を著しく超える金額が請求されている場合

実務上、婚姻費用の金額は裁判所が公表している「婚姻費用算定表」を参考に、双方の年収や子どもの人数・年齢などを踏まえて算出されることが一般的です。

請求されている金額がこの算定表の基準を大きく上回っている場合や、無理な金額で過去に取り決めてしまった場合には、適正な水準への見直しや減額を主張する余地があります。

病気や失業、就労による収入の増減(事情変更)

別居開始時や過去の合意時点から、双方の経済状況に重大な変化が生じた場合も減額が考慮される事由となります。これを法律上「事情変更」と呼びます。

例えば、支払う側が病気や怪我、予期せぬ失業・倒産によって減収した場合や、受け取る側の就職・増収によって格差が縮小した場合などが挙げられます。

ただし、働ける能力があるにもかかわらず意図的に仕事を辞めたり収入を減らしたりしたと判断される場合は、潜在的な稼働能力があるとみなされ、減額が認められないこともあります。

婚姻費用の減額を求めるための適切な手続き

婚姻費用の支払いを減額したいと考えた場合、勝手に支払いを止めたり金額を減らしたりするのではなく、法的に適切な手順を踏んで減額を求めることが重要です。主な方法としては、当事者間での話し合いと、家庭裁判所を利用した手続きの2通りが挙げられます。

当事者間での直接の協議と合意内容の書面化

まずは相手方に対して現在の収入状況や生活環境の変化を説明し、これまでの金額を支払い続けることが困難である旨を伝えて直接の減額交渉を行います。双方が落ち着いて話し合える状態であれば、早期の解決につながる可能性があります。

話し合いによって相手方の同意が得られた場合は、減額後の支払金額や支払い開始時期などの合意事項を必ず書面に残しておく必要があります。口頭のみの合意では、後日「減額に同意していない」と主張されてトラブルに発展するおそれがあります。

合意書や公正証書などの客観的な書面を作成しておくことで、後々の言った・言わないの争いを防ぐことができます。

婚姻費用分担額変更(減額)調停・審判の申し立て

当事者同士の話し合いがまとまらない場合や、相手方が減額の協議自体に応じない場合は、家庭裁判所に婚姻費用の減額を求める調停(婚姻費用の分担額変更調停)を申し立てることが選択肢となります。

調停手続きでは、裁判官や調停委員が間に入り、双方から提出された収入証明や生活実態に関する資料をもとに話し合いが進められます。相手方と直接顔を合わせずに手続きを進めることができるため、冷静に主張を伝えやすくなります。

  1. 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所へ調停申立書および必要書類を提出する
  2. 指定された期日に出頭し、調停委員会を介して双方の事情や収入状況を説明する
  3. 合意に達した場合は調停成立となり、新たな婚姻費用の額が調停調書に記載される
  4. 合意に至らず調停不成立となった場合は自動的に審判へ移行し、裁判官が分担額を決定する

調停の申立てから成立までには数か月程度、調停が不成立となって審判へ移行した場合には半年以上の期間を要する場合もあります。手続きが長期化することを見据え、計画的に準備を進めることが大切です。

婚姻費用や離婚の条件に関する弁護士への相談

婚姻費用の分担や減額について相手方と意見が合わない場合や、将来的な離婚を見据えた条件整理を行いたい場合は、弁護士への相談を検討するのも一つの方法です。

法的な観点から状況を整理することで、冷静かつ適正な手続きを進めやすくなります。

個別事情を踏まえた適正額と法的な見通しの確認

婚姻費用の算出は裁判所の算定表がひとつの基準となりますが、実務では住居関係費の負担や私立学校の学費、持病による医療費など、家庭ごとの個別事情が考慮される場面もあります。

また、一方が有責配偶者であるケースや自営業・歩合給などで収入の認定が複雑なケースでは、妥当な金額の判断が容易ではありません。離婚問題に注力する弁護士に相談することで、裁判実務の傾向を踏まえた法的な見通しや算定の目安を事前に確認できます。

当事者間での協議が難航している場合の窓口としての活用

別居中や離婚に向けた話し合いでは、感情的な対立から当事者同士での直接交渉が進まなくなることも珍しくありません。連絡を取ること自体が精神的な負担となる場合もあります。

弁護士が代理人として間に入ることで、直接の接触を避けながら法的な根拠に基づいた冷静な話し合いを進めることが期待できます。また、調停や審判へ移行した場合でも、適切な主張や資料提出のサポートを受けられます。

婚姻費用の問題は、離婚に向けた財産分与や慰謝料、親権などの条件とも深く関係しています。目先の支払いだけでなく、全体の解決に向けた道筋を整理するためにも、早期の相談が役立つことがあります。

まとめ

婚姻費用は法律上の生活保持義務に基づいているため、原則として支払いを拒否することはできません。正当な理由なく支払いを怠ると、離婚手続きで不利になったり財産を差し押さえられたりするリスクがあります。

ただし、相手方が有責配偶者である場合や、失業・病気などの事情変更がある場合には、減額や免除が考慮される可能性があります。自己判断で支払いを止めるのではなく、協議や家庭裁判所の手続きを通じて適切に対応を進めることが大切です。

コラム監修者

SHIZU ISHIDA

SHIZU ISHIDA

所属:東京オフィス

広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。

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