サマリー
健康食品の販売事業者が、無償提供した商品についてSNS投稿を依頼し、その投稿画像を自社サイトに転載した行為が、ステルスマーケティング告示に該当するとして措置命令を受けました。問題とされたのは元の投稿ではなく転載であり、転載先で依頼に基づく投稿である旨を明示していなかった点です。事案の内容と、モニター施策を行う事業者が点検すべき項目を整理します。
健康食品やサプリメントの販売では、SNSでの投稿を活用した販売促進が広く行われています。無償でサンプルを配って感想を投稿してもらい、その投稿を自社サイトに載せる、という手法自体は珍しくありません。しかし、この一連の流れの中に「広告であることを隠す」要素が入り込むと、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)上のステルスマーケティング規制に触れます。
令和8年6月、消費者庁は健康食品を販売する事業者に対し、この規制に基づく措置命令を行いました。健康食品・サプリメント分野でも、同種の措置命令は今回が初めてではありません。
本記事では、措置命令の内容を確認しながら、SNSを使った販売促進で見落とされやすい点を整理します。
チェックリスト:SNS投稿を活用した販売促進における確認項目
以下の項目は、モニターや第三者へのSNS投稿依頼をともなう販売促進を行う事業者が、自社の運用を見直す際の目安となります。
- 商品を無償提供して投稿を依頼する際、投稿が事業者からの依頼によるものであることを明示するよう求めているか
- 第三者の投稿を自社サイトや自社ECモールのページに転載する際、依頼に基づく投稿である旨を転載先でも明示しているか
- 投稿依頼の記録(依頼内容、無償提供の事実、投稿内容の指定範囲など)を社内に保存しているか
- モニター募集サイトやアフィリエイトサイトなど、自社以外の媒体経由で行われる投稿についても同様の管理が及んでいるか
景品表示法5条3号は、「前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」を禁止しています。この規定に基づき指定されたのが、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)、いわゆるステルスマーケティング告示(以下「ステマ告示」といいます。)です。第三者による投稿であっても、事業者がその内容の決定に関与していると認められ、かつ広告であることが一般消費者に判別しにくい場合は、ステマ告示の対象になります。
SNSを活用した販売促進全般における景品表示法・薬機法上の留意点については、薬機法・景表法違反を回避する3つのポイント(インフルエンサーマーケティング)もあわせてご参照ください。
措置命令の概要
対象となったのは、健康食品を扱う事業者A社が販売するサプリメント2商品(商品①・商品②)です。消費者庁が公表した措置命令の内容によると、事実関係はおおむね次のとおりです。A社は両商品の販売促進のために募集を行い、応募した第三者に商品を無償提供したうえで、SNSへの投稿を依頼しました。そして、この投稿の画像部分を抜粋し、自社ウェブサイトや自社の運営するECモールのページ等に、「SNSでも大人気!」といった文言とともに掲載していました。
消費者庁は、この転載表示について、A社が投稿内容の決定に関与しているため「事業者の表示」に該当する一方、当該投稿がA社からの依頼に基づくものであることは明瞭にされておらず、表示内容全体からは事業者の表示であることが判別しにくいと判断しました。その結果、ステマ告示に該当する不当表示として、景品表示法7条1項に基づく措置命令(一般消費者への周知徹底、再発防止措置の実施と役員・従業員への周知、同様の表示の禁止)が下されています。
特に誤りやすい項目の解説
「転載」の時点で新たに広告表示になるという点
今回のケースで注意したいのは、問題とされたのがSNS上の元の投稿そのものではなく、その画像を抜粋して自社サイトに載せた行為だという点です。第三者による投稿を自社の広告媒体に転載する行為は、それ自体が新たに「事業者の表示」を作り出す行為にあたります。元の投稿にどのような表示があったかにかかわらず、転載先において依頼に基づく投稿であることが分かるようにしておかなければ、ステマ告示の対象になり得ます。
転載先サイトにおける表示の「文言」の留意
今回は、措置命令書においても「SNSでも大人気!」との表示内容が抜粋されていますが、この点が処分に影響を及ぼした可能性があります。すなわち、企業の自社ウェブサイト上における「SNSでも大人気!」との表示は、企業が当該表示には関与しておらず、あたかも第三者的な評価をしているかのような内容となります。そのため、当該表示を見た消費者は、実際には企業が表示内容の決定に関与しているにもかかわらず「企業が当該SNSには関与していない」と思わせることになり、ステルスマーケティング規制の趣旨に反する表示内容と言えるでしょう。よって、自社ウェブサイトに転載する際には、「依頼に基づく投稿である」旨に加えて、その表示の「文言」にも留意する必要があるといえます。
なお、「SNSでも大人気!」といった表示は、実際には当該商品に対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させる場合は、優良誤認(景品表示法5条1号)の問題ともなるため、注意が必要です。詳しくは、以下のガイドラインをご参照ください。
消費者庁:インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項
「抜粋」による表示の希薄化
投稿の一部、特に画像部分だけを抜粋して転載する手法は、SNS運用の実務としてよく見られます。しかし、抜粋する過程で、依頼に基づく投稿である旨の記載やハッシュタグなど、広告であることを示す要素が失われてしまうことがあります。抜粋・転載を行う担当者が、デザインや見た目のみを基準に画像を選んでいると、この点は見落とされやすくなります。
繰り返し発生している問題という位置づけ
ステマ告示は令和5年10月1日に施行されており、健康食品・サプリメント分野でも、同様の構図による措置命令が既に複数回行われています。いずれもモニター等への無償提供と投稿依頼、投稿の自社サイトへの転載という構図が共通しており、同じ構図の違反が繰り返し認定されている以上、モニター施策を実施している事業者にとっては、自社の運用を点検する契機とすべき事例です。景品表示法に基づく措置命令の実例については、ファブリーズ防カビ剤に景品表示法違反の措置命令の記事もご参照ください。
問題が見つかった場合の対応
措置命令を受けた場合、事業者は違反事実の周知徹底、再発防止策の実施とその役員・従業員への周知、同様の表示の再発防止を求められます。周知徹底の方法は消費者庁長官の事前承認が必要とされており、対応には一定の時間と手続を要します。また、措置命令の内容は消費者庁のウェブサイト等で公表されるため、命令の有無にかかわらず、社名や商品名が公になることによる信用面への影響も避けられません。
こうした事態を防ぐには、投稿依頼を行う際の社内フローに、依頼に基づく投稿である旨の明示を必須項目として組み込み、転載時にもその表示が保持されているかを確認する体制を整えることが有効です。モニター募集サイトやアフィリエイトサイトなど、自社が直接運用していない媒体を経由する場合も、委託先まで含めた管理が及んでいるかを点検しておく必要があります。
まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ
SNS投稿を活用した販売促進は、健康食品・サプリメントに限らず広く行われている手法ですが、投稿依頼の事実を転載先で明示しなければ、ステマ告示に該当するおそれがあります。今回の事案は、無償提供・投稿依頼・自社サイトへの転載という、実務上よくある一連の流れの中でどこに問題が生じたのかを確認するうえで参考になる事例です。自社のSNS運用フローについて確認しておきたい場合は、お気軽にご相談ください。
ネクスパート法律事務所では、景品表示法の法律問題に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。
コラム監修者
Yuki Ishibashi
所属:東京オフィス
これまで個人・法人問わず幅広い分野の相談、訴訟等に取り組む。 また、任期付き国家公務員として消費者庁に出向した際は、デジタルプラットフォームに関する法律の立案、事件調査班の班長として景品表示法の執行、審査請求の審理員や国側の指定代理人などに従事。 「法律の立案(ルールメイキング)」から「執行」、そして「訴訟対応」という一気通貫した実務経験を踏まえた戦略的なリーガルアドバイスを心掛けている。