更新日:2023年5月12日 (金)

公開日:2023年5月12日 (金)

特商法改正|契約書面の電子化の解説

特商法改正|契約書面の電子化の解説 特商法改正|契約書面の電子化の解説

サマリー

令和5年6月施行の改正特定商取引法により、訪問販売や特定継続的役務提供などにおいて、契約書面等の電磁的交付が可能となりました。ペーパーレス化や業務効率化につながる一方で、導入には消費者の承諾取得や技術的基準への適合など、厳格な要件が求められます。手続きに不備があると、書面交付義務違反などの法的リスクにつながるおそれもあります。この記事では、電子化の対象となる取引や書面の種類、電磁的交付の具体的な要件と実務上の注意点について解説します。

令和5年6月施行の改正特定商取引法における「書面電子化」の概要

書面交付義務の見直しと電磁的記録による交付の導入

特定商取引法(特商法)では、取引の公正性を保ち購入者等の利益を保護するため、事業者が契約の申込みを受けた際や契約締結時に一定の法定書面を交付することが義務付けられてきました。従前の制度では紙媒体による交付が厳格に求められていましたが、デジタル技術の進展や社会的なペーパーレス化の要請を背景として制度の見直しが行われました。

こうした背景から、令和5年6月1日に施行された改正特定商取引法において、従来の紙による書面交付に代えて、電磁的方法により書面に記載すべき事項を提供できる規定が新設されました。これにより、事業者は電磁的記録を活用した交付手続きを選択できるようになっています。

業務の効率化や契約締結手続きの円滑化が図られる一方で、消費者保護の観点から厳格な手続き要件が課されている点が特徴です。

電磁的交付が新設された背景と対象類型の位置づけ

特商法が対象とする取引類型のうち、通信販売を除く類型(訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引、訪問購入)において、概要書面や申込書面、契約書面の電磁的提供が認められることとなりました。

通信販売については、従前よりウェブサイト上での表示事項等の規制を中心とした独自の枠組みが設けられているため、今回の書面交付規定の見直しは通信販売以外の6類型を対象としています。各取引類型において、従来紙で手渡していた重要書面の代替手段として電子データでの提供が位置づけられました。

事業者が一方的に電磁的方法での交付を行うことは認められておらず、法令で定められた事前の承諾手続きを経ることが義務付けられています。

電子化の対象となる取引類型と交付書面の種類

改正特定商取引法において電磁的記録による交付が認められたのは、特定商取引法が規制する取引類型のうち、通信販売を除く6つの類型です。これらの取引では、取引の性質上生じやすい消費者トラブルを防止するため、法令で定められた書面の交付が厳格に義務付けられています。

電磁的交付の対象となる6つの取引類型

対象となる取引類型の一つ目は、事業者が消費者の自宅や営業所以外の場所で契約を行う「訪問販売」です。営業所等に呼び出すアポイントメントセールスや、路上で声をかけるキャッチセールスもこれに含まれます。

二つ目は、事業者が電話で勧誘を行い申込みを受ける「電話勧誘販売」です。電話を切った後に消費者が郵便等で申込みを行う形態も該当します。

三つ目は個人を販売員として勧誘し組織を拡大していく「連鎖販売取引」、四つ目はエステティックサロンや語学教室のように一定期間・一定金額を超えてサービスを提供する「特定継続的役務提供」です。

五つ目は仕事の提供を名目に商品等を購入させる「業務提供誘引販売取引」、六つ目は事業者が消費者の自宅等に赴いて物品を買い取る「訪問購入」です。

取引類型 主な取引内容の例
訪問販売 自宅等への訪問、キャッチセールス、アポイントメントセールス
電話勧誘販売 電話による勧誘およびその後の申込み受付
連鎖販売取引 いわゆるマルチ商法、販売員組織の連鎖的拡大取引
特定継続的役務提供 エステ、語学教室、家庭教師、結婚相手紹介サービス等
業務提供誘引販売取引 いわゆる内職商法、業務提供を条件とする商品販売
訪問購入 消費者の自宅等を訪問して行う物品の買い取り

電子化が認められる3種類の交付書面

電磁的交付の対象となる法定書面は「概要書面」「申込書面」「契約書面」の3種類であり、取引類型ごとにどの書面をどのタイミングで交付すべきかが異なります。

「概要書面」は、勧誘に先立って取引条件や契約内容の大枠を説明するための書面です。連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引において交付が義務付けられています。

「申込書面」は、申込みを受けた際にその申込み内容を記載して交付する書面です。訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入において申込みを受けた事業者に交付義務が生じますが、申込みと同時に契約を締結した場合には交付を省略できます。

「契約書面」は、契約締結後にその確定した契約内容を明らかにする書面です。通信販売を除く上記6つの取引類型すべてにおいて、契約締結時の交付が義務付けられています。

自社が扱う取引類型と、どの段階でどの書面の交付義務が発生しているかを正確に把握した上で、電子化の導入範囲を検討することが重要です。

電磁的方法による提供の要件と具体的な提供方法

特商法における契約書面等の電磁的交付では、どのような方法を用いて提供するか、また法令が定める技術的な基準を満たしているかが厳格に問われます。

電磁的方法による提供の具体例

施行規則において認められている電磁的方法には、主に事業者の電子計算機から消費者の電子計算機へ電子メール等を用いて送信し、端末内のファイルに記録させる方法があります。

また、事業者のサーバー等のファイルに記録された書面事項をウェブサイト等を通じて消費者の閲覧に供し、消費者の端末ファイルにダウンロードして記録させる方法や、電磁的記録媒体を交付する方法なども含まれます。

消費者の事前承諾と分かりやすい説明

特商法に基づく書面交付は原則として紙媒体で行うことが前提とされており、電磁的方法による提供を行うためには、あらかじめ消費者の承諾を得ることが法律上義務付けられています。事業者が消費者の意向を確認せず、無断で電子化することは認められません。

承諾を取得する際は、提供に用いる電磁的方法の種類や具体的な内容を提示し、消費者が十分に理解できるよう分かりやすく説明する必要があります。機器の操作に不慣れな消費者に対して無理に電子交付を承諾させることは避けなければなりません。

電磁的方法による提供を行う際は、消費者の事前承諾の取得と、提供方法に関する分かりやすい事前説明が義務付けられています。

省令が定める技術的適合基準

電磁的方法により書面事項を提供するにあたっては、施行規則で定められた技術的な適合基準を満たす必要があります。まず、消費者が端末に保存されたファイルを出力し、紙の書面として印刷・作成できる状態であることが求められます。

次に、ファイルに記録された契約内容等の事項について、改変が行われていないかどうかを確認できる措置が講じられている必要があります。また、ウェブサイトでの閲覧・ダウンロード方式を採用する場合は、ファイルに記録した旨を消費者に通知する措置も必要です。

さらに、提供されるデータは消費者が明瞭に読むことができるよう適切に表示されなければなりません。背景色と同化するような文字色や、極端に小さく視認が困難な文字サイズでの表示は避け、明瞭性を確保した設計が求められます。

実務における留意点と法的リスク

承諾手続きの不備による書面交付義務違反リスク

電磁的方法による契約書面等の提供は、消費者の有効な事前承諾を得ていることを前提として認められる仕組みです。事業者が一方的に電子ファイルのみを送信した場合や、承諾の取得方法に不備がある場合には、法律上の書面交付がなされたとはみなされない可能性があります。

適切な承諾手続きを経ずに電磁的交付を行った場合、書面交付義務違反として行政処分や罰則の対象となる法的リスクが存在します。

そのため、実務においては消費者が電子交付の仕組みや内容を十分に理解した上で同意した履歴を、確実に確認・保存できるシステム運用が求められます。

クーリング・オフ起算点と端末ファイルへの記録

特定商取引法におけるクーリング・オフ期間の起算点についても、電子化の導入に伴う実務上の注意点が存在します。電磁的方法による提供では、消費者が使用するパソコンやスマートフォン等の端末に備えられたファイルへ情報が記録された時点で到達とみなされます。

したがって、送信エラーが生じていたり、消費者が端末へファイルを正常に保存・記録できていなかったりする間は、法的な書面到達とは認められません。その結果、クーリング・オフ期間のカウントが開始されず、契約解除の権利が存続し続ける点に留意が必要です。

視認性の確保と明瞭な表示方法の徹底

電磁的記録において提供する契約内容等は、消費者が明瞭に読むことができる状態で表示しなければなりません。画面上での視認性が損なわれている場合、法令が求める基準を満たしていないと判断されるおそれがあります。

例えば、背景色と文字色が同化して判読しづらい配色(赤地に赤字など)や、極端に小さな文字サイズでの表示は避ける必要があります。利用者が使用する端末の画面サイズや表示設定を考慮し、重要事項が明確に確認できるレイアウト設計を徹底することが重要です。

特商法をはじめとする表示・契約関連法令の確認と弁護士への相談

改正特商法に基づく契約書面等の電磁的交付を導入するにあたっては、単に送信ツールや電子契約サービスを導入するだけでなく、承諾の取得から交付完了に至る一連の運用プロセス全体が法令に適合しているかを慎重に検証することが重要です。

システムの仕様や案内画面の設計が法令の定める技術的基準を満たしていなければ、意図せず書面交付義務違反と判断されるリスクが生じかねません。

業務フローの策定段階から、利用規約の文言や承諾取得画面の文面、ファイル保存の案内方法などを総合的に確認しておくことが求められます。

関連法令を踏まえた総合的な表示・契約プロセスの確認

事業者が取り扱う商品やサービスの内容によっては、特定商取引法だけでなく、景品表示法をはじめとする表示関連法令や、業種ごとに定められた各種規制法令への配慮も不可欠です。

契約締結時に交付する電磁的書面の記載事項はもちろん、ウェブサイト上の広告表示や申込み画面における説明文などに不備があると、表示規制違反や消費者トラブルにつながるおそれがあります。

取引に関連する表示や書面の記載事項について、関連する諸法令に抵触していないかを横断的・多角的に確認する体制を整えておくことが望まれます。

規約整備や手続き設計における弁護士への相談

電磁的交付に関する運用設計や利用規約の改定、広告表示の適法性判断には、関係法令の詳細な解釈と実務に即した検討が必要とされます。

自社の取引フローが法改正の要件を満たしているか判断に迷う場合や、表示内容の法令適合性に不安がある場合には、弁護士に相談してリーガルチェックを受けることが有効な手段の一つです。

法令に則した適切な手続きと表示体制をあらかじめ整えておくことで、トラブルを未然に防ぎ、円滑な事業運営を進めることにつながります。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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