サマリー
医療用医薬品をダイエット目的で推奨するSNS投稿が批判を集め、オンライン処方サービスには東京都から販売中止の警告が出されました。薬機法は承認外の効能を強調する広告を規制しており、その対象は販売業者に限られず、広告に関与した者に及びます。景表法上の課徴金の主な対象は表示内容の決定に関与した事業者ですが、インフルエンサーを起用する事業者は発信内容の全責任を負う前提で、投稿前の監修体制を整える必要があります。
医療用医薬品をダイエット目的の製品としてSNSで推奨し、批判を浴びる事案が発生しています。インフルエンサーやアンバサダーを起用したプロモーションは認知拡大の手法として広く用いられる一方、医薬品が絡む発信には薬機法や景品表示法、医療法などの厳格な法規制が及びます。不適切な発信が行われた場合、関与した事業者や発信者はどのような法的責任を問われるリスクがあるのでしょうか。SNS発信における法的な境界線を整理します。
インフルエンサーによる医薬品発信事案の概要
厚生労働省が承認した2型糖尿病の治療薬「マンジャロ」(一般名:チルゼパチド)は、体重減少を伴う作用がインターネット上で拡散され、本来の医療目的とは異なる層へと利用が広がりました。本件では、ある発信者がオンライン処方サービスのアンバサダーに就任し、「打ちな?私は5キロ痩せた」という趣旨の投稿をしたことが発端です。
この投稿に対して多くの批判が集まり、発信者は謝罪動画の公開とともにアンバサダー就任を辞退する事態となりました。東京都薬務課は、該当するオンライン処方サービスに対して販売中止の警告を行っています。これとは別に、他府県において医薬品を無許可で販売・保管していた者が書類送検されるなど、マンジャロをめぐる取締りや指導が強化されています。発信者はアンバサダーを辞退し報酬も受け取っていないと説明していますが、今回の事案は、専門知識が乏しい者が、医薬品または医療サービスの広告に関わることのリスクを示す事例となりました。
薬機法が禁じる承認外の医薬品広告と該当性判断
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)は医薬品の販売行為だけでなく、広告に関しても制限を設けています。同法66条では虚偽・誇大広告を禁止しており、同法68条では承認前の医薬品等の広告を禁じています。マンジャロは糖尿病治療薬として国内で承認されていますが、痩身やダイエットを目的とした効能・効果は承認されていません。そのため、ダイエット目的での利用を促す発信は、承認外の効能を強調する広告として規制対象となる可能性があります。
表示が薬機法上の広告に該当するかどうかは、一般に次の3つの要件を満たすかで判断されます。
- 顧客を誘引する意図(顧客誘引性)が明確であること
- 特定の医薬品等の商品名が明らかであること(特定性)
- 不特定多数の人が認知できる状態にあること(一般認知性)
表現を交えて体重減少効果を語る投稿は、特定のオンライン処方サービスや医薬品への利用を促す狙いがあると判断されやすく、広告とみなされる余地が十分にあります。薬機法の広告規制は販売業者だけでなく、広告に関与したすべての人が対象となるため、インフルエンサー自身も規制の対象となることがあります。違反があったと認められた場合は行政指導や措置命令、課徴金等の行政罰や刑事罰が予定されています。
景品表示法における優良誤認と責任主体
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)5条1号は、商品の品質や効果について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認させる優良誤認表示を禁止しています。投稿において、医薬品による体重減少効果を断定的に表現し、個人差や副作用、医療上の注意事項を適切に提示していなかった場合、消費者に誤った印象を与える不当表示として消費者庁などから問題視されることがあります。
ただし、景表法における規制や課徴金納付命令の主な対象は、表示内容の決定に関与した事業者となります。インフルエンサーなどの発信者個人にどこまで責任が及ぶかは、投稿内容の作成にどの程度主体的に関わっていたか、または事業者と一体とみなせるかによって結論が分かれます。実務上は、発信者個人が表示の当事者として直接処分を受けるというより、事業者側の不当表示に巻き込まれる形で問題化するケースが多いと考えられます。なお、景表法に基づく課徴金は、原則として対象商品の売上額の3%(過去10年以内に違反歴がある場合は4.5%)とされています。
また、投稿を信じて購入した人が健康被害などを理由に損害賠償を求める民事上の不法行為責任(民法709条)も論点としては存在します。しかし、民事上の賠償を現実に行うためには、その発信を信じて購入したこと、それによって損害が生じたこと、そして投稿と損害との間に因果関係があることを、被害を訴える側が客観的に証明しなければなりません。医薬品の使用に伴う損害は、正規ルートを経由しない自己判断での利用に起因する要因も混在するため、その因果関係の証明には負担が伴うのが実情です。
医療法および医療広告ガイドラインによる規制
医薬品の広告が、医師・医療機関による処方等に基づくものである場合、薬機法の規制だけではなく、医療法・医療広告ガイドラインに関する規制も遵守する必要があります。医療法・医療広告ガイドラインの具体的な規制については、本稿では触れず、別記事に委ねますが、特に、オンライン処方サービスは、薬機法、医療法、景表法といった法律の横断的な理解の下、訴求を行うことが不可欠でしょう。
インフルエンサー起用における実務上の留意点
企業や医療機関がSNSを用いたプロモーションを計画、またはインフルエンサーをアンバサダーとして起用する際には、発信内容の全責任が最終的に事業者に帰属することを想定しなければなりません。専門知識を持たない、あるいは知識に乏しい外部の発信者が、個人の感想として特定の表現を投稿した場合でも、それが自社サービスへの誘引を目的としたものであれば、事業者が指導を受ける不利益を被ることになります。
コンプライアンス違反による炎上や法律違反を防ぐために、事業者は発信前にリーガルチェックの体制を整備することが求められます。特に承認外の効能・効果を連想させる表現は、薬機法上のリスクが高まる領域です。発信者との契約において、投稿前に必ず企業側の監修を通すことや、法令遵守に関する明確なガイドラインを共有しておくことが、実務上の不利益を回避するための有効なアプローチとなります。
まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ
インフルエンサーを起用した医療用医薬品に関する発信は、表現のあり方によって薬機法や景表法上の規制に抵触するリスクを内包しています。広告の主語が医療行為そのものの説明から離れ、特定の薬剤の取得を強く誘引する形になった時点で、事業者および関与した発信者の双方が法的な責任を問われる可能性が生じます。
SNSやインターネット上でのプロモーションにおいては、表現の表面的な文言だけでなく、サービス設計や関与の度合いを含めた全体的な実態が審査の対象となります。予期せぬコンプライアンス違反を防ぎ、健全な広告運用を維持するためには、事前の適切なリスク評価が欠かせません。
ネクスパート法律事務所では、薬機法・医療法・景表法に基づく広告表現のリーガルチェックや、インフルエンサーを起用する際のアンバサダー契約書の作成・審査、企業の広告コンプライアンス体制の構築支援を承っております。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。