更新日:2026年7月14日 (火)

公開日:2026年7月14日 (火)

離婚後のお金の不安を減らす新制度とは?法定養育費制度について弁護士が解説

離婚後のお金の不安を減らす新制度とは?法定養育費制度について弁護士が解説 離婚後のお金の不安を減らす新制度とは?法定養育費制度について弁護士が解説

2024年の民法改正は、日本の家族法にとって大きな節目となりました。

共同親権の導入が注目を集めましたが、これとともに着目すべきものとして、「法定養育費制度」の創設が挙げられます。

これは、離婚後の養育費不払い問題に対する抜本的な対策として新たに定められたもので、父母が離婚時に養育費の取り決めをしていない場合でも、監護している親が法律に基づき一定額を請求できる仕組みとなっています。
2026年5月までに施行される予定とされています。

日本では、養育費の取り決め率は約47%、実際に受給できている割合は約28%にとどまるとされ、長年にわたり未払いが深刻な社会問題となってきました。

その背景には、離婚時の話し合いの不調、調停・審判の負担、債務名義を取得することの煩雑さ、そして差押えの難しさがあります。
法定養育費制度は、こうした構造的な問題に対し、制度的に「最低限のライン」を確保し、子どもの生活を守るための安全網として設計されています。

本コラムでは、このような法定養育費制度の概要やその周辺の問題について解説します。

法定養育費の内容と「2万円」の意味

法定養育費制度の中核となるのが、子ども1人あたり月額2万円という金額です。

法務省が公表した省令案では、この2万円は本来支払うべき「標準額」ではなく、あくまで父母が正式に養育費を取り決めるまでの暫定的・補充的な額であると明確に位置づけられています。

この制度の重要なポイントは、父母の収入や子の年齢などの個別事情にかかわらず、一律に請求できるという点です。

従来の算定表に基づく養育費は、双方の収入や子の人数などを基礎に算出されるため、取り決めがない場合には「ゼロ」の状態が続くことが多くありました。
法定養育費は、この「ゼロの状態」を避けるための最低限の金額としての意味を持っています。

もっとも、2万円という額は、子どもの生活費として十分とは言い難いものです。
そのため、法務省は繰り返し「標準額ではない」と説明しています。

実務上は、法定養育費を確保したうえで、改めて調停や公正証書によって適正額を定めることが望ましいといえます。

先取特権の付与と差押えの容易化

今回の改正のもう一つの大きな柱が、養育費に対する「先取特権」の付与です。

法務省の省令案では、子ども1人あたり月額8万円までを先取特権の対象とする方向が示されています。

先取特権とは、他の債権者に優先して弁済を受けられる強力な権利であり、従来のように判決や調停調書、公正証書といった債務名義を取得しなくても、裁判所に対して差押えの申立てを行うことが可能になります。

この点は、実務において極めて大きな意味を持ちます。

従来、養育費の差押えには多くの時間と費用がかかり、未払いが続いても泣き寝入りせざるを得ないケースが少なくありませんでした。

この制度が導入されたことにより、監護親(子どもを監護する親)は迅速に差押え手続を開始でき、給料のうち、法律で差押えが認められている部分については、その範囲の限度で優先的に養育費を回収することが可能となります。

これにより、相手方に対して実効性の高いプレッシャーを与えることが可能です。

不貞慰謝料と養育費の関係

離婚に伴う法的問題として、不貞慰謝料養育費が同時に議論されることがあります。
両者は、そもそも法的性質も目的も異なるものであり、相互に影響しないのが原則です。

すなわち、不貞慰謝料は、配偶者の不貞行為によって精神的苦痛を受けた側が請求できる損害賠償であり、夫婦間の権利義務に関する問題です。

一方、養育費は子どもの生活保持義務に基づくものであり、子の利益を最優先に考えるべき性質を持ちます。

そのため、相手方が不貞をしたからといって養育費を減額したり、支払いを拒否したりすることは許されません。
また、監護親が不貞をした場合でも、子どもの生活を守るための養育費は当然に必要であり、不貞慰謝料と相殺することも原則として認められません。

もっとも、実務上は、離婚協議の場で慰謝料と養育費を包括的に話し合うことが多く、双方の合意によって金額調整が行われることはあります。
しかし、これはあくまで合意の問題であり、法的には両者は独立した請求権であることを忘れてはならないといえます。

注意しなければならないのは、法定養育費は、不貞を理由に減額したり、慰謝料との関係で金額を調整することはできないということです。
法定養育費は法律で定められた最低限の権利です。

そのため、原則として合意によって任意に減額することは想定されていません。

法定養育費制度がもたらす実務への影響

法定養育費制度の導入は、実務に多くの変化をもたらします。

まず、離婚時に養育費の取り決めがない場合でも、監護親が直ちに一定額を請求できるため、離婚して間もない時期の生活を安定させることができます。

また、先取特権によって差押えが容易にできるようになれば、未払いを抑止することが可能です。

給料差押えについて、差押可能額の範囲内で優先的に回収できることととなるため、相手方にとっては大きな負担となり、任意の支払いを促す効果が期待されます。

さらに、改正民法では、別居親による財産開示手続が簡素化されます。

また、養育費を回収するために必要な相手方の勤務先や給与額の情報を、市町村を通じてまとめて取得できるようにもなります。

これらの制度改正により、監護親が情報不足で差押えを断念するケースも減少すると考えられます。

子の利益を中心に据えた制度運用の重要性

法定養育費制度は、あくまで「最低限の暫定額」を確保するための仕組みであり、最終的な養育費は従来どおり算定表や調停によって個別事情に応じて決めるべきものです。

また、養育費と面会交流は別問題であり、支払いの有無によって面会交流を制限したり、逆に面会交流の状況によって養育費を調整したりすることは適切ではありません。
「養育費や面会交流などの『子の監護について必要な事項』は子の利益を最も優先して考慮しなければならない」という原則は、今後も揺らぐことはありません。

法定養育費制度は、子どもの生活を守るための重要な一歩ですが、制度が整っただけでは十分とはいえません。
離婚時の合意書の作成、公正証書化、調停の活用、さらに離婚協議書や調停調書、証拠等の保管など、従来の基本的な対応を丁寧に行うことが、最終的に養育費を安定して受け取ることにつながります。

おわりに

法定養育費制度は、日本の家族法における大きな改革であり、未払い問題に対する実効性の高い対策として期待されています。
一方で、制度の趣旨を誤解しないこと、そして不貞慰謝料など他の離婚問題と混同しないことが重要です。

子どもの生活を守るという目的を中心に据え、法定養育費制度を適切に活用しつつ、最終的には双方の事情に応じて適正な養育費を定めることが、子の利益を守るために重要なことといえるでしょう。

ネクスパート法律事務所は、法定養育費制度を始め養育費の問題に知見が深い弁護士が在籍しております。
養育費の確保にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

コラム監修者

SHIZU ISHIDA

SHIZU ISHIDA

所属:東京オフィス

広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。

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