近年、日本の家族法をめぐる議論の中で大きな注目を集めているのが、離婚後の「共同親権」の問題です。
これまで日本では、離婚すると父母のどちらか一方のみが親権者となる「単独親権制度」が採用されてきました。
しかし、離婚後も父母双方が子どもの養育に関わるべきだという考え方の広がりから、共同親権制度の導入が議論され、法改正が行われました。
こうした制度変更に伴い、しばしば話題になるのが「養育費」との関係です。
共同親権になれば養育費はどうなるのか、あるいは支払義務に変化はあるのかといった疑問を持つ方も多いでしょう。
そこで本コラムでは、離婚後の共同親権制度の概要と養育費との関係について解説します。
日本の離婚制度とこれまでの単独親権
日本では長年にわたり、離婚後は父母のどちらか一方のみが親権者となる制度が採用されてきました。
これは民法第819条(改正前)に基づくもので、離婚時には父母の協議または家庭裁判所の判断によって親権者を一人に定める必要がありました。
この制度のもとでは、親権を持たない親は、子どもの問題について法律上の意思決定権を持たないことになります。
たとえば、子どもの進学や医療、居住地の変更といった重要な事項については、親権者のみが最終的な決定権を持つことになります。
もっとも、親権を持たない親であっても、子どもとの面会交流を行ったり、養育費を負担したりする義務は残ります。
しかし実務上は、離婚後に親子関係が希薄になり、養育費の未払いが社会問題となるケースも少なくありませんでした。
こうした状況を背景として、離婚後も父母双方が子どもの養育に関わる仕組みを整える必要性が指摘されてきました。
離婚後共同親権制度の導入
こうした背景を踏まえ、民法改正により、2026年4月から日本でも離婚後の共同親権制度が施行される予定されています。
これまで日本では、離婚すると必ず父母のどちらか一方のみを親権者とする「単独親権制度」が採用されていましたが、改正民法では、離婚後の親権について「父母の一方または双方を親権者と定めることができる」と規定され、共同親権を選択することが可能になりました。
具体的には、父母が協議離婚をする場合には、父母の話し合いによって、離婚後の親権を単独親権とするか共同親権とするかを決めることができるようになります。
父母双方が合意している場合には、離婚後も共同で親権を行使することが可能になります。
一方、父母の協議がまとまらない場合や裁判離婚となった場合には、家庭裁判所が子どもの利益を最優先に考慮して、単独親権とするか共同親権とするかを判断することになります。
この判断にあたっては、父母の協力関係の有無、子どもの生活状況、これまでの養育状況など、さまざまな事情が総合的に考慮されるとされています。
もっとも、共同親権が常に認められるわけではありません。
例えば、家庭内暴力(DV)や虐待がある場合、あるいは父母の対立が著しく、共同で意思決定を行うことが子どもの利益を害するおそれがある場合には、家庭裁判所は単独親権を選択することが想定されています。
改正法でも、子どもの安全や利益を確保することが最も重要な原則として位置づけられています。
また、共同親権となった場合でも、日常的な子育てに関する事項は、子どもと同居している親が単独で判断できるとされています。
他方で、進学、医療、居住地の変更といった子どもの生活に大きな影響を与える重要事項については、父母が共同で意思決定を行うことが基本とされています。
このように、共同親権のもとでは、父母が離婚後も一定の協力関係を保ちながら子どもの養育に関わることが前提となります。
もっとも、父母の意見が一致しない場合には、家庭裁判所が判断を示す仕組みも整備されています。
これにより、共同親権であっても意思決定が行き詰まる事態を防ぐことができます。
このように、改正民法による共同親権制度は、離婚後も父母双方が子どもの養育に関わる可能性を広げる一方で、DVや虐待などのケースでは単独親権を維持するなど、子どもの利益を最優先とする観点から柔軟に判断できる仕組みとなっています。
なお、親権と子どもの「監護」は必ずしも同じものではない点にも注意が必要です。
親権は子どもの重要事項について法的な決定権を持つ地位を指しますが、監護とは、実際に子どもと生活を共にし、日常の世話や教育を行う役割を意味します。
離婚後に共同親権が選択された場合でも、子どもが主としてどちらの親と生活するのかという「監護者」を定める必要があり、その親が日常的な養育を担うことになります。
共同親権と養育費の基本的な関係
共同親権が導入されると、「親権が共同なのだから養育費は不要になるのではないか」と誤解されることがあります。
しかし、結論から言えば、共同親権であっても養育費の支払義務は基本的に変わりません。
養育費とは、子どもが生活し成長していくために必要な費用を父母が分担するものです。
これは親権の有無とは直接関係なく、親である以上当然に負担すべき義務と考えられています。
したがって、離婚後に子どもが主として一方の親と生活している場合には、もう一方の親が養育費を支払うという基本構造は、共同親権になっても変わらないのです。
実務上も、養育費の金額は父母双方の収入や子どもの年齢などを基準として算定されます。現在は家庭裁判所の「養育費算定表」が広く用いられており、共同親権であるか単独親権であるかによって算定方法が変わるわけではありません。
共同養育と養育費の実務上の課題
もっとも、共同親権が広がることで、養育費の実務に新たな課題が生じる可能性もあります。
その一つが、子どもの生活拠点が複数になるケースです。
例えば、父母双方の家を行き来する形で生活する「共同養育」の場合、どちらがどの程度の費用を負担するのかという問題が生じます。
子どもが双方の家庭で一定期間ずつ生活するようなケースでは、単純に一方が養育費を支払うという形にならないことも考えられます。
また、共同親権のもとでは、教育費や医療費などの重要な支出について父母が協議して決める場面も増えることが予想されます。
これまで以上に父母間のコミュニケーションが必要となるため、離婚後の協力関係が重要になります。
もっとも、父母の対立が強い場合には、この協議自体が紛争の原因になる可能性もあります。
そのため、離婚時の段階で、養育費の金額だけでなく、教育費や医療費の負担方法などについてもできる限り具体的に取り変えておくことが望ましいといえるでしょう。
子どもの利益を中心に考えることの重要性
離婚後の親権制度や養育費の問題を考える際に最も重要なのは、「子どもの利益」を中心に考えることです。
親同士の感情的な対立がある場合でも、子どもにとって何が最も良い環境なのかという視点を忘れてはなりません。
共同親権は、離婚後も父母双方が子どもの成長に関わることを可能にする制度ですが、それが常に子どもにとって最善であるとは限りません。
家庭の事情や父母の関係性によっては、単独親権の方が子どもにとって安定した環境となる場合もあります。
養育費についても同様です。養育費は単なる金銭の問題ではなく、子どもの生活や教育を支える重要な仕組みです。離婚後も子どもが安心して成長できるよう、父母双方が責任を持って負担することが求められます。
まとめ
離婚後の共同親権制度は、日本の家族法において大きな転換点となる制度改革といえます。
これまでの単独親権制度とは異なり、離婚後も父母双方が子どもの養育に関わる可能性が広がることになります。
もっとも、共同親権になったからといって養育費の支払義務がなくなるわけではありません。
子どもの生活を支えるための費用は、引き続き父母が分担して負担する必要があります。
今後は、共同養育の広がりに伴い、養育費や教育費の負担方法についてもより柔軟な取り決めが求められる場面が増えると考えられます。
離婚時には、将来のトラブルを防ぐためにも、養育費だけでなく子どもの生活や教育に関する取り決めをできるだけ具体的に定めておくことが重要です。
離婚という大きな出来事の中でも、子どもにとって安定した生活環境を確保することが何より大切です。
ネクスパート法律事務所は、共同親権制度について深い知見を有しており、また養育費の問題についても実績が豊富です。
離婚後の親権や養育費の問題についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。