痴漢で逮捕されると必ず解雇されるのか?

痴漢で逮捕されると必ず解雇されるのでしょうか。本コラムでは、以下の点を解説します。

  • 「痴漢で解雇」が認められるケース
  • 「痴漢で解雇」が不当解雇にあたるケース
  • 痴漢で解雇されないためにすべきこと

「痴漢で解雇」が認められるケース

痴漢で警察に逮捕され解雇を言い渡されたときに、解雇が正当で適法な場合と不当解雇にあたる場合があります。

どのような場合に解雇が正当と認められるのか確認しましょう。

就業規則などで懲戒事由を定めている

会社は従業員を解雇する際、どういう場合に従業員を解雇するのか、あらかじめ解雇の事由を就業規則に定めていなければなりません。

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、就業規則の作成を義務付けています。就業規則の中には、解雇の事由を含む退職に関する事項を記載しなければなりません。

だからといって、解雇事由として痴漢行為で逮捕された場合とまで就業規則に記載する必要はなく、犯罪行為により、著しく会社の名誉または信用を失墜させた場合などと一般的な書き方で足りると考えられています。

まずは、就業規則に解雇の事由がどのように記載されているか、確認しましょう。

私生活で痴漢した場合

労働契約法第16条は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、その権利を濫用したものとして無効とすると規定しています。

会社による解雇が正当なものと認められるには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります。就業規則で犯罪行為を解雇事由にしていれば、いかなる犯罪行為にも適用して従業員を解雇できるわけではありません。

特に、私生活上の犯罪行為に関しては、当該行為が会社の名誉または信用の失墜といった解雇事由に相当する程度のものなのか、厳格に判断されます。つまり、痴漢で逮捕されたからといって、解雇が正当なものと必ず評価されるわけではありません。

それでは、どのような行為をしたときに、解雇に相当するほど企業秩序を乱したとみなされるのでしょうか。痴漢事件の場合、以下の点が考慮されます。

  • 起訴されたか不起訴で済んだか
  • 言い渡された刑罰が罰金のみか懲役刑か
  • 会社名を含め、痴漢事件が報道されたか
  • 被害者との間で示談は成立したか
  • 職務上の地位、勤務態度

痴漢事件で懲戒解雇が有効と認められた事例

鉄道会社に勤務する男性は電車内で痴漢行為に及び、迷惑行為防止条例違反で逮捕、起訴されました。男性はその後の刑事裁判で懲役4月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡され、会社を懲戒解雇されました。

男性は退職金が支給されなかったことを不服として訴えを提起し、判決は懲戒解雇を有効としつつも、退職金については3割の支給が相当と結論付けました。

懲戒解雇を有効と評価したポイントは以下の通りです。

  • 男性は鉄道会社に勤務し、電車内の乗客の迷惑や被害を防止すべき立場にありながら、痴漢行為に及んだ
  • 本痴漢事件の半年前に同種の痴漢事件を起こし、罰金が科されていた。その際、同じような不祥事を起こしたときは、いかなる処分にも従う旨の始末書を提出していた

業務中に痴漢した場合

私生活での痴漢と業務中に痴漢した場合とでは、業務中の痴漢の方が解雇のハードルは低いです。

私生活での痴漢が解雇に相当すると認められるには、犯した罪が比較的重く、会社名が報道されるなど、企業秩序を乱したと評価される必要があります。

これに対し、業務中の痴漢は被害者の同僚に精神的苦痛を与えるもので、社内の秩序を乱したとみなされやすいです。一般に、会社の業務と無関係の私生活上の非違行為に対しては、使用者の懲戒権が及ぶ範囲は制約されます。

公務員が痴漢した場合

民間企業の従業員が痴漢した場合と比べて、公務員の痴漢に対する処分は厳しいです。

国家公務員法第76条は、職員が禁錮以上の刑に処せられるなどした場合、人事院規則で定める場合を除くほか、当然失職すると定めています。これは言い渡された禁錮刑や懲役刑に執行猶予が付いても適用されます。

地方公務員法第28条も同様の規定を設けており、執行猶予が付いても禁錮以上の刑が言い渡されれば職を失います。

痴漢行為に対する刑罰が罰金以下で済めば、解雇されないわけでもありません。

国家公務員法第82条は、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合、懲戒処分として免職、停職、減給または戒告の処分をできると規定しています。地方公務員法第29条も同様のことを定めています。痴漢行為はこれらの条文の非行に該当し、適用されれば免職になる可能性があります。

また、東京都は懲戒処分の指針で、公共の乗物等において痴漢行為をした職員は免職または停職とすると定めており、痴漢に厳しく対処する方針を示しています。

「痴漢で解雇」が不当解雇にあたるケース

痴漢行為に対する処分としての解雇が不当と判断されるケースもあります。どういう場合に痴漢で解雇が不当とみなされるのか確認します。

解雇手続きに不備がある

会社がとった解雇手続きに不備があると、当該解雇が無効になる可能性があります。

会社は従業員を解雇する場合、一定の手続きをとらなければなりません。例えば、労働基準法第20条は、使用者は労働者を解雇する場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならないと定めています。また、解雇対象の従業員に弁明の機会を与えることも重要です。

こうした解雇手続きをとらなかった場合、解雇は無効と判断される可能性があります。

もっとも、労基法20条の解雇予告に関しては、解雇予告日が30日前に満たない場合、不足日数分の賃金を従業員に支払えば、違法にはなりません。また、同条は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においてはこの限りでないとも定めており、予告なしの解雇が認められるケースもあります。

犯罪の悪質性と処分内容が相当性を欠く

また、犯した罪の内容やその影響が、解雇に見合わないと判断されれば、相当性を欠くとして解雇が無効になる可能性があります。

例えば、従業員が私生活で痴漢し逮捕されたものの、被害者との間で早期に示談が成立して不起訴で済み、報道もされなかった場合、解雇に相当するほど企業秩序を乱したとは評価されない可能性があります。

「痴漢で解雇」が無効と判断されたケース

鉄道会社に勤務する男性は電車内で痴漢し、迷惑防止条例違反で逮捕、罰金20万円の略式命令を受けました。

会社は痴漢行為の撲滅に取り組む中、男性の行為は会社の社会的信用を失墜させ、名誉を著しく損なったなどとして、男性に諭旨解雇処分を下しました。男性が解雇の無効を求めて訴えを提起したところ、裁判所は会社の諭旨解雇処分は相当性を欠いており無効と結論付けました。判決のポイントは以下の通りです。

  • 男性の痴漢行為に対する刑罰は罰金20万円の略式命令にとどまっており、悪質性の比較的低い行為である
  • 痴漢行為の撲滅に取り組む鉄道会社であったものの、事件がマスコミに報道されたことはなく、企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は大きなものではなかった
  • 示談を成立させようとしたが、不調に終わった
  • 解雇の決定に際し、会社は痴漢行為で起訴されたかどうかだけを基準とし、男性に弁明の機会を与えなかった

 

「痴漢で解雇」で退職金は支給されるか

痴漢で解雇されても、退職金が支給される可能性はあります。

「痴漢で解雇」が有効と認められた上述のケースでは、退職金が支給されなかったことを男性が不服とし、退職金の支給を求めて訴えを提起しました。

判決は、解雇そのものは有効と認めたものの、退職金については全額ではなく3割の支給が相当と結論付けました。その理由は以下の通りです。

  • 退職金全額を不支給とするには、当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為が必要
  • 職務外の非違行為が、強度な背信性を有するとまではいえない場合でも、常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえない
  • 当該不信行為の具体的内容と、被解雇者の勤続の功など個別的事情に応じ、退職金の一定割合を支給すべき

痴漢で解雇されないためにすべきこと

痴漢事件を起こした際に、解雇されないためにすべきことを説明します。

職場に知られるのを防ぐ

解雇されるのを防ぐ上で重要なことは、職場に知られないことです。職場に知られないためには、以下の対応をとる必要があります。

まず、痴漢行為をしたものの逮捕されていない場合は、逮捕されないことが重要です。警察が被疑者を特定し、裁判所が逮捕の理由と必要性があることを認めれば、後日逮捕される可能性があります。

逮捕の理由とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由を意味し、警察は裁判所に逮捕状を請求する際、防犯カメラ映像などをあわせて提出して相当な理由があることを示します。

逮捕の必要性については、被疑者に逃亡・証拠隠滅のおそれがあるかどうかで判断されます。被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められても、逃亡・証拠隠滅のおそれがないと判断されれば、逮捕状は発付されません。

こうした点を考慮すれば、警察に自首することを検討すべきです。

警察に自首し、任意の取調べに応じることを誓約して身元引受人を用意していれば、逃亡・証拠隠滅のおそれは低いとみなされ、逮捕されずに済む可能性があります。身元引受人とは、被疑者が逃亡・証拠隠滅しないよう監督する人のことで、親族が身元引受人になるケースが多いです。

また、警察に逮捕されないためには、被害者と示談交渉を進めることも重要です。被害者との間で示談が成立し、被害者が加害者を許す意思を示していれば、逮捕の可能性を下げられます。

弁護士は自首に同行したり被害者との示談交渉を進めることができるので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。

弁護士に相談

痴漢で逮捕された場合は、すぐに弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。弁護士は早期釈放や不起訴の獲得に向けて被疑者をサポートします。

早期釈放

痴漢で逮捕され、解雇されるのを防ぐためには、早期の釈放を実現することが重要です。逮捕後の身柄拘束期間が長くなれば、会社に知られるリスクも高くなります。

身柄拘束期間を長引かせないためには、逮捕後に勾留されないことが肝要です。勾留は逮捕後の被疑者の身柄拘束を継続する刑事手続きで、検察官が裁判官に請求します。勾留が認められると身柄拘束は原則10日間、延長が認められると最長で20日間続きます。

弁護士は被疑者が勾留されないよう、以下の働きかけをします。

  • 検察官に勾留請求しないよう意見書を提出する
  • 裁判官に勾留請求を却下するよう、意見書を提出する
  • 勾留が認められた場合、勾留決定の取り消しを求める準抗告を行う

こうした活動を通じて早期釈放を実現するには、被疑者に逃亡・証拠隠滅のおそれがないと認められる必要があります。釈放後の被疑者を監督する身元引受人を用意するなど、対策が必要です。

関連記事
釈放(しゃくほう)とは、身柄拘束から解放されることです。 釈放されるタイミングを大まかにわけると、次の3つになります。 逮捕後勾留前 勾留後起訴前 起訴後 この記事では、釈放の基礎知識をお伝えした上で、釈放を得るために弁...

被害者との示談交渉

早期釈放のための弁護活動とあわせて、弁護士は被害者との示談交渉を進めます。

検察官は被疑者の起訴・不起訴に際し、被害者の処罰感情を考慮します。処罰感情が強ければ起訴に傾きやすく、処罰感情が弱まっていれば不起訴になりやすいです。

示談によって、すでに提出された被害届や告訴状を被害者が取り下げ、被疑者と被害者が和解できれば、被害者の処罰感情は和らいでいると判断でき、不起訴を得やすくなります。

関連記事
刑事事件では犯罪の被害者との示談が重要であると言われています。この記事では「示談」とは具体的にどのようなものか、何故示談することが重要とされるのか、どのように示談をすればよいのか等、示談にまつわる様々なことを解説します。...

不起訴の獲得

痴漢事件で不起訴を獲得できれば、解雇されるリスクは下がります。不起訴の獲得が解雇の回避を保証するわけではありませんが、解雇の回避には有利です。

実際、上述の痴漢で解雇が無効と判断されたケースでは、会社は解雇の決定に際し、起訴されたかどうかを基準にしていました。

起訴・不起訴は解雇されるか否かを左右する重要な要素です。

関連記事
前科や実刑を避けるには、不起訴(処分)を獲得する必要があります。 不起訴を獲得するためには以下の2点が大切です。 被害者と示談する(犯罪事実を認める場合) 弁護士から適切なアドバイスを受ける(犯罪事実を認めない場合) こ...

痴漢で解雇された場合に弁護士ができること

弁護士は痴漢の刑事弁護だけでなく、会社に解雇の撤回を求めるなど、民事弁護も可能です。

会社は従業員が痴漢で逮捕されたことだけをもって、従業員を解雇できるわけではありません。解雇が正当なものと認められるには、適正な解雇手続きに従い、解雇が、犯した行為の内容やそれによって生じた影響などに照らして、相当である必要があります。

解雇処分に納得できないときは、弁護士に相談するとよいでしょう。弁護士はとられた手続きや処分の相当性を確認し、解雇処分が不当なものと判断すれば、解雇の撤回を求めて訴えを提起できます。

まとめ

痴漢で逮捕されたからといって、必ず解雇されるわけではありません。解雇されないためには職場に知られるのを防ぐとともに、早期の釈放や不起訴の獲得を実現することが重要です。そのためには、弁護士に刑事弁護を依頼し、サポートを得るのが得策でしょう。

また、弁護士は、会社に解雇の撤回を求めるなど、民事弁護も可能です。

痴漢で捕まり解雇を言い渡され、弁護士のサポートが必要な方はネクスパート法律事務所にご相談ください。

最短即日対応/夜間土日祝日対応/不起訴・釈放に向け迅速に弁護します 逮捕されたらすぐご連絡ください!

0120-949-231
受付時間24時間365日/メールでの相談予約はこちら
pagetop
0120-949-231
無料相談予約はこちら
支店一覧/アクセス