【改正法】instagramでの誹謗中傷について、発信者情報開示命令申立の解説

発信者情報開示命令事件に関する裁判手続は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下[プロバイダ責任制限法]といいます。)の改正により、新たに創設された手続(非訟手続)です。

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当事務所でも発信者情報開示命令の申立てを行っていますので、その内のinstagramの投稿について申立てたものを紹介します。

目次

発信者情報開示命令申立ての管轄裁判所

どこの裁判所に申立てたか紹介します。

instagramは、米国法人Meta Platforms, Inc.が提供していますが、日本で外国会社の登記をし、日本における代表者(ビーコンサービス株式会社)もおきましたので、その代表者の住所である東京都千代田区を管轄する東京地方裁判所へ申立てました。翻訳文作成も海外送達もしていません。送付先を相手方本店所在地ではなく日本における代表者の住所にしました。

以下は、裁判所が案内している管轄裁判所の考え方です。

a)原則的な管轄(法人等を相手方とする場合)

1.相手方の主たる事務所又は営業所の所在地を管轄する地方裁判所

2.申立てが相手方の事務所又は営業所における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所の所在地を管轄する地方裁判所

3.1及び2の事務所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所の所在地を管轄する地方裁判所

4.1~3により管轄裁判所が定まらないときは、最高裁判所規則で定める地(東京都千代田区)を管轄する地方裁判所である東京地方裁判所

b)競合管轄

東日本の地方裁判所がa)の原則的な管轄権を有する場合には、当事者の選択により、その地方裁判所のほかに、東京地方裁判所にも申立て可能

c)合意管轄

※管轄について詳細は、プロバイダ責任制限法9条、10条、発信者情報開示請求事件手続規則(以下「規則」という。)1条等参照

引用元:11.発信者情報開示命令申立て

発信者情報開示命令申立書の添付書類

発信者情報開示命令申立の際に、申立書の添付書類として裁判所へ提出したものを紹介します。

添付書類

以下のものを提出しました。

  • 申立書の写し・・・・・・1通
  • 証拠説明書・・・・・・・2通
  • 甲号証写し・・・・・・各2通
  • 資格証明書・・・・・・・2通
  • 手続代理委任状・・・・・1通
  • レターパックライト・・・1通

資格証明書は、外国会社Meta Platforms, Inc.のものと、日本における代表者ビーコンサービス株式会社のものを提出しました。

レターパックライトは、裁判所から「相手方の呼び出しや提供命令送付用で、郵券でもいいのですが重量による送料変動で複雑なためレターパックライトをお願いしている」との連絡を受けて追加で提出しました。

以下は、裁判所が案内している添付書類です。

a)申立書の写し 相手方の数と同数(規則3 条)

b)申立てを理由づける具体的な事実ごとの証拠(非訟事件手続規則(以下「非訟規」という。)37条3項)(写し不要)

c)当該申立てに係る会社の登記事項証明書(非訟規14条、12条、民事訴訟規則15条前段)

d)手続代理人の委任状(非訟規16条1項)

e)管轄上申書(外国法人につきプロバイダ責任制限法10条2項等で管轄を認める場合)

引用元:11.発信者情報開示命令申立て

申立費用

申立て1つにつき1,000円の収入印紙が必要です。今回は発信者情報開示命令申立と一緒に提供命令申立も行いましたので、2,000円の収入印紙を貼付しました。

発信者情報開示命令申立書の記載事項

発信者情報開示命令申立書の記載事項を紹介します。

以下は、裁判所が案内している記載事項です。

a)事件の表示(非訟規1 条1 項3 号)

 事件名は「発信者情報開示命令申立事件」となる。

b)申立年月日(非訟規1 条1 項5 号)

c)裁判所の表示(非訟規1 条1 項6 号)

d)申立人又は代理人(法定代理人及び手続代理人を含む。)の記名押印(非訟規1 条1 項柱書)

e)当事者及び利害関係参加人の氏名又は名称及び住所(非訟法43 条2 項1 号、非訟規1 条1 項1 号)

f)代理人の氏名及び住所(非訟法43 条2 項1 号、非訟規1 条1 項1 号)

g)当事者、利害関係参加人又は代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリ番号を含む。)(非訟規1 条1 項2 号)

h)申立ての趣旨及び原因(非訟法43 条2 項2 号、非訟規37 条1 項)

i)申立てを理由づける事実(非訟規37 条1 項)

j)附属書類の表示(非訟規1 条1 項4 号)

k)(提供命令により氏名等情報の提供を受けたAPに対する申立ての場合)先行する発信者情報開示命令事件の有無及びその事件情報(規則2条)

引用元:11.発信者情報開示命令申立て

発信者情報開示命令申立の注意点とポイント

発信者情報開示命令申立及び提供命令申立後に裁判所から指摘があった事項も踏まえて、注意点とポイントを紹介します。

提供命令よりも開示命令を先行して進められる

提供命令が発令されたとしても、コンテンツプロバイダ(サイト)からアクセスプロバイダ(いわゆるプロバイダ)へのIPアドレスへの提供体制が整っていない等の理由で、コンテンツプロバイダからの提供に時間がかかる可能性もあるので、提供命令よりも開示命令を先行して進めて、開示されたIPアドレス等から申立人の方でもWhois検索できる形で進めることもできるようです。

ログ保存期間の問題もありますので、開示命令を先行して進める方が現状では無難かと思われます。

アカウント表記として対象アカウントのプロフィールページURLを記載する

発信者情報目録の記載において、対象アカウントを単に[アカウント]と記載するのではなく、[アカウント(https://www.instagram.com/〇〇〇〇)]と記載します。

投稿記事目録では対象投稿のURLを記載しますが、こちらの対象アカウントを表記する際は対象アカウントのプロフィールページURLを記載します。

電子メールアドレスの開示には時間がかかる可能性がある

Meta Platforms, Inc.が保有する電子メールアドレスの開示については、同社側が社内運用として、ユーザーへの意見聴取手続をとることがあります。

そのため、同手続きのために、

  • Meta Platforms, Inc.での電子メールアドレスの有無の確認に1週間
  • 電子メールアドレスがあった場合、ユーザーの意見聴取に2週間
  • 意見があったら主張書面準備で1週間

を目安に合計1か月ほどの時間かかる可能性があります。

(なお、電話番号の開示については上記手続をとる運用はなされていません。)

ログ保存期間との兼ね合いもありますから、IPアドレスを先に開示してほしいのであれば、今回の申立てでは電子メールアドレスの開示はやめ、必要なら別途申立てることも検討した方がいいでしょう。

ただ、相手方がIPアドレスの開示にも時間がかかり、電子メールアドレスの開示と同じタイミングになるのであれば、電子メールアドレスの開示をやめるメリットもなくなるので、進捗状況を期日で相手方に確認しながら検討するのもいいかもしれません。

[相手方の保有する~]と記載する方が範囲を広げられる

発信者情報目録の侵害関連通信に関する情報について、

[アカウントについて、相手方の保有する〇〇以降のログインに使用されたIPアドレスであって別紙投稿記事目録記載の各投稿日時に最も時間的に近接するもの・・・]

と記載する方法が考えられます。

この[相手方の保有する]という文言がない場合、当該投稿に客観的に最も時間的に近いログイン情報が残っていなければ、客観的に2番目に時間的に近いログイン情報が残っていたとしても、[最も]近接する情報でない以上、何も情報をとれないことになってしまいます。

[相手方の保有する]という文言を入れることで、客観的に何番目に時間的に近接していようが、相手方の保有する情報の中で1番時間的に近接するものを開示対象情報とすることができます。

[ただし、当該情報が入手可能であるものに限る]との記載は、相手方に有利な文言

発信者情報目録の侵害関連通信に関する情報の但書きとして、末尾に

[ただし、当該情報が入手可能であるものに限る。]

と記載する方法が考えられます。

しかし、この記載は、相手方が確認しても情報が存在しなかった場合に相手方を免責する意味を持つものになります。

そのため、申立人としては、この文言は入れない方が有利となります。

[直前のもの]ではなく[最も時間的に近接するもの]と記載する

発信者情報目録の侵害関連通信に関する情報の開示を求めるIPアドレスの記載で[投稿日時の直前のもの]と記載すると、もし投稿前の情報が全て消えていた場合には何も開示されません。

[投稿日時に最も時間的に近接するもの]にすることで投稿後の情報も含まれるようになり、範囲を広げられます。

もっとも、上記文言についてはMeta Platforms, Inc.側が争ってくることが考えられます。当事務所経験事案でも、[最も時間的に近接するもの]との記載で申立書を提出したところ、Meta Platforms, Inc.側は[各投稿日時以前であって、最も近接するもの]との記載に訂正してほしいという主張をしました。

ログ保存期間の関係で投稿前の情報が依然残っていると考えられるかどうかによって、[最も時間的に近接するもの]という文言のまま維持して応戦するか、[直前のもの]又は[各投稿日時以前であって、最も近接するもの]との文言に変更するかの判断を下すことになります。

まとめ

まだ、発信者情報開示命令申立の有用性はコンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの対応如何によるところもありそうですが、活用していければと思います。

ネット上の悪質な投稿に悩まれ、投稿者を特定したいと考えている方は、ぜひ弁護士法人ネクスパート法律事務所にご相談ください。

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