第三者弁済とは?認められないケース・代位弁済との違いをわかりやすく解説
第三者弁済とは、その名の通り、借金(債務)などについて、本人以外の第三者が弁済する行為を指します。第三者弁済は、私たちの日々の生活の中でも行われていたりします。
ここでは、第三者弁済とは何か、身近で行われている第三者弁済の例、民法改定に合わせて覚えておきたいポイント、第三者弁済が認められないケースなどをわかりやすく解説します。
目次
第三者弁済とは
まずは第三者弁済の概要を理解しましょう。
債務者以外の第三者が弁済をすること
第三者弁済とは、債務者以外の人物や法人が、債務者の代わりに債務を弁済する行為を指します。
例えば、自分の借金を家族や勤め先の会社などに返済してもらう行為が該当します。さらに身近な例で言えば、コンビニでジュースを買おうとしたとき、小銭がなく、友人に支払ってもらうのも第三者弁済です。
これは、ジュース代を払う債務を友人に弁済してもらったことになります。
債務の弁済とは
次に、弁済という言葉について説明します。債務とは、特定の人に特定の行為や給付を行う法律上の義務です。債権はその逆で、特定の行為や給付を受ける法律上の権利です。
- 債務を負っている人→債務者
- 債権を持っている人→債権者
債務者が義務を果たすことで、債務債権の関係を完全に清算することを、債務の弁済といいます。似た言葉で、返済がありますが、返済は借金を返すことにフォーカスした言葉で、弁済は、債権を消滅させることにフォーカスした言葉です。債務には、借りたお金を返す以外にも様々な形があります。
第三者弁済のわかりやすい例
債務・債権はお金の貸し借りだけを表す言葉ではありません。第三者弁済をさらに理解できるよう、債務・債権のセットを表で紹介します。
ケース | ||
借金 | 借主 ・お金を返す義務(債務) ・お金を受け取る権利(債権) |
貸主 ・お金を返してもらう権利(債権) ・お金を渡す義務(債務) |
買い物 | 客 ・代金を払う義務(債務) ・商品を受け取る権利(債権) |
お店 ・代金を受け取る権利(債権) ・商品を渡す義務(債務) |
仕事 | 従業員 ・仕事をする義務(債務) ・給料をもらう権利(債権) |
雇用主 ・仕事をさせる権利(債権) ・給料を払う義務(債務) |
その他 | ミュージシャン ・コンサートをする義務(債務) ・報酬をもらう権利(債権) |
イベント会社 ・コンサートをさせる権利(債権) ・報酬を払う義務(債務) |
表を見てわかる通り、債務とは、必ずしもお金を払うことではありません。仕事をすることや、特定の人にしかできない行為をする義務も債務にあたります。
これらの債務を第三者が弁済し、権利や関係を消滅させるのが第三者弁済です。
第三者弁済後の債務はどうなる?
第三者弁済が行われたあと、債務はどうなるかについて説明します。
債務者と債権者の法律関係が消滅する
AさんがB社からお金を借りていたとします。ここでは、Aさんが債務者、Bさんが債権者です。
Aさんが返済できなくなり、代わりにCさんが第三者弁済をしたとします。
すると、B社の債権が消滅するため、AさんとB社の法律関係はなくなります。
弁済による代位が生じる
上記で、AさんとB社の債権債務が消滅すると説明しました。次に、Aさんと、第三者弁済をしたCさんの関係について説明します。
第三者弁済をした人は、返済した分の金額に応じて、もともと債権者が持っていた権利を債務者に対して行使できるようになります、これを「弁済による代位」といいます(民法第499条)。つまり、B社が持っていた債権は、Cさんに移ります。
Cさんがこの権利を行使するためには、条件があります。第三者弁済の場合、以下のどちらかを満たすことで、第三者(Cさん)は、債務者(Aさん)に対して、弁済分を請求することができるようになります。
- 債権者(B社)から債務者(Aさん)に対し「Cさんから返済がありました」と通知をする
- 債務者(Aさん)が、Cさんが代わりに返済をしたことを承諾する
つまり、Cさんが、Aさんの許可なく第三者弁済をしたりすると、場合によっては、肩代わりした分を請求できなくなるおそれがあるのです。
第三者弁済の重要なポイント
2020年4月の民法改正も踏まえて、第三者弁済をするうえで知っておきたい重要なポイントを紹介します。
正当な利益もしくは債務者の同意が必要
第三者弁済をするには、正当な利益を有している者であるか、もしくは債務者の同意が必要です。それは、民法474条に定められています。
(第三者の弁済)
第四百七十四条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
【引用:民法 e-gov】
ここでいう、弁済をするについて正当な利益を有している者とは、弁済しないと法律上の不利益を被る者のことを指します。例えば、物上保証人(債務者の債務の担保として、自身の不動産に担保権を設定した者)などが該当します。
債務者本人が弁済をしないと、物上保証人は自身の不動産を失う可能性があるため、正当な利益を有する者として、債務者の意思に関係なく、第三者弁済をすることができます。
一方、弁済をするについて正当な利益を有していない者が第三者弁済をする場合には、債務者の同意(債務者の意思に反しないこと)が必要です。例えば、家族が第三者弁済をするにしても、債務者本人の意思に反してはいけません。
債務者本人の意思に反した第三者弁済は無効になります。
債務者の同意がなかったことを債権者が知らなければ有効
上記で説明した通り、正当な利益を有しない者による、債務者の意思に反した第三者弁済は認められていません。第三者が許可なく他人の債務を弁済することはできないのです。
しかし、債務者の意思に反した第三者弁済が行われた際、その事実を知らぬまま債権者が給付を受けてしまった場合、その弁済は有効になります。
2020年4月の民法改正以前は、債務者の意思に反した第三者弁済が行われた場合、無効となり、受け取ったお金を返すなどの現状回復をしなければなりませんでした。
これは債権者側が一方的に不利であるため、民法474条2項に以下の記載が加えられています。
(第三者の弁済)
第四百七十四条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
【引用:民法 e-gov】
結果、債務者の意思に反した第三者弁済が行われたことを、債権者が知らぬまま給付を受けた場合、その弁済は有効となり、返金や原状回復をする必要はなくなりました。
正当な利益の有しない者からの第三者弁済は拒否できる
民法改正前は、債務者の意思に反した無効な第三者弁済が行われた場合、債権者は返金や原状回復などをしなければなりませんでした。にも関わらず、債権者には、正当な利益を有さない者からの第三者弁済を拒否することができなかったのです。
これにも見直しが入り、民法改定後は、正当な利益を有さない者からの第三者弁済は、債権者側で拒否できるようになりました。
これは、債権者本人が関わりたくない者が第三者弁済を名乗り出た際などのトラブル防止にも役立ちます。
第三者弁済が認められないケース
次に、第三者弁済が認められないケースについて紹介します。
本人以外には弁済できない債務のとき
債務の内容的に、本人以外には弁済できない債務の場合、第三者弁済は認められません。
記事の前半で紹介しましたが、とあるミュージシャンがコンサートをするという債務があったとします。これは、基本的に本人以外には履行できないものですので、第三者弁済が認められません。
当事者が第三者弁済を認めなかったとき
当事者が第三者の弁済を禁止、または制限すると決めた場合にも、第三者弁済は認められなくなります。
お金の貸し借りなど、本人以外にも履行可能な債務であったとしても、債務者が「このお金は自分で必ず返すので、第三者弁済は認めない」と意思表示し、債権者もこれを把握していた場合、第三者弁済はできなくなります。
第三者弁済と似ているが区別されるケース
第三者弁済と似ているが区別されるケースについて説明します。
第三者からのお金で自分で弁済する
例えば、第三者弁済するのではなく、第三者からお金を受け取り、それを債務者本人が支払いに充てたとします。
この場合、債権者に対して支払いをしたのは債務者本人となるため、第三者弁済ではありません。
このケースで、第三者から債務者に行われた行為は、法律上、贈与という行為にあたります。
保証人が本人に代わって弁済する
主債務者が返済できなくなったときに、保証人が本人に代わって返済をする行為は、第三者弁済には当たりません。簡単にいうと、保証人は第三者ではないからです。
保証人は、主債務者が返済できなくなったとき、本人に代わって返済する、という債務を負っており、それを履行しているに過ぎないのです。
第三者が自分の債務と勘違いして弁済する
他人の債務を自分の債務と勘違いし、間違って支払った場合も第三者弁済には当たりません。
例えば、他人の請求書が宛先違いで自宅に届き、それを間違って支払ってしまったとします。この場合、第三者弁済とはならないため、支払った本人は、債権者に対して返還を請求できるのが原則です。
第三者弁済と代位弁済の違い
第三者弁済と似た言葉で、代位弁済があります。この2つの言葉の違いを紹介します。
代位弁済とは
例えば、銀行からお金を借りている状況で返済が数ヶ月滞ったとします。すると、その銀行の保証会社から、銀行に対して借金返済を行うことがあります。これが代位弁済です。
代位弁済をすると、借主にとっての債権者は、銀行から、保証会社へと変わります。
第三者弁済との違い
第三者弁済も代位弁済も、債務者本人以外が借金を返済するという点では一致しています。違うのは、主に以下の点です。
- 代位弁済は、保証人など、法的な返済を義務を負っている者による弁済
- 第三者弁済は、法的な返済義務を負っていない者による弁済
ちなみに、本人の代わりに弁済したあと、肩代わり分を本人に請求できる権利(求償権)は、第三者弁済、代位弁済どちらにもあります。
第三者弁済に関するよくある質問
第三者弁済に契約書は必要?
第三者弁済をするうえで、契約書の作成は必須ではありません。ただし、一般的な契約と同じく、契約書を作成しておくことで、後々起こるトラブルを未然に防ぐことができます。
契約書があるとよい理由は以下の3点です。
- 弁済の事実を証明できる
- 当事者に同意があったことを証明できる
- 弁済の条件を明確にできる
債務者と債権者の関係性によっては、契約書が必要ない可能性もあるでしょう。その場合、振り込みの記録が残っていれば十分です。
第三者弁済は家族でも可能?
第三者弁済は家族が行うことも可能です。子名義の借金や奨学金を親が代わりに支払うなどはよくあることでしょう。
家族が第三者弁済をする場合でも、債権者の同意を得ることをおすすめします。その方が、後々のトラブルを防止できるからです。
債務者の意思に反する弁済は有効?
債務者が第三者に弁済されることを望まない場合には、その債務の弁済について、正当な利益を有しない者による弁済は認められません。
ただし、債権者が、債務者の意思に反する弁済であったことを知らずにお金を受け取るなどした場合、有効な弁済となります。
まとめ
第三者弁済とは、誰かが負っている債務を、第三者が代わりに弁済する行為のことを指します。弁済とは、債務を履行し、債権を消滅させる行為のことです。
債務とは、借りたお金を返すだけでなく、買い物の代金を払うこと、仕事をすることなど、様々な形があります。例えば、誰かがアルバイトを休んだ際、その人の代わりに出勤するのも第三者弁済です(出勤して仕事をすることが債務だから)。
借金に関する債務の場合、第三者弁済は、債務者やその家族、保証人にとっての一助となる可能性がありますが、法的な条件や注意点も多く存在します。第三者弁済を検討する際は、事前に状況をしっかり確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
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