仮執行宣言とは?目的や流れをわかりやすく解説
仮執行宣言は、借金を滞納したりしている債務者が受ける法的手続きの一つです。
借金や賃貸物件の明け渡しを巡るトラブルでは、債権者が迅速に権利を行使する手段として利用されることが多いです。
裁判の判決を待たずして強制執行される恐れがあるので、現在、仮執行宣言付支払督促を受けている人は注意しましょう。
この記事では、仮執行宣言の基本的な定義やその目的、仮執行宣言を受けるまでの流れなどを紹介します。
目次
仮執行宣言とは
仮執行宣言とは、債務者が債権者に対して負っている義務を早急に履行させるために、裁判所が発行する法的文書です。
この宣言があることで、債権者は債務者に対する請求権を迅速に実行することが可能となります。
具体的には、借金や給料などの支払いが遅れている場合、それを法的に回収するには、通常は裁判での判決を待たなくてはいけません。それを待たずして、仮で強制執行ができるのが仮執行です。
イメージしやすいように、債権者、債務者、裁判所の3社での会話形式で説明をします。
・債権者「債務者さん、私が貸したお金を返してください。」
・債務者「裁判で判決が確定したら支払います。」
・裁判所「債権者さんの仮執行を認めます。つまり、一度強制執行という形で債務者さんの財産を差し押さえます。差し押さえた財産がどうなるかは、正式に裁判で決めます。」
このように、仮執行宣言があることによって、判決を待たずに強制執行が可能になるのです。
一般的に、金銭の支払い、賃貸物件の明け渡し、労働者の賃金支払いなど、債権者が早急な権利行使を必要とする場面で利用されます。
仮執行宣言は、債務者が異議を申し立てた場合でも、速やかに権利を行使できるため、債務者は差し押さえ(強制執行)に遭う可能性が高くなります。
仮執行宣言の目的
仮執行宣言は、主に債権者の権利を迅速に保護するために設けられた法的手続きです。この宣言の目的は多岐にわたり、特に以下の3つの点が重要です。
借金の支払いを遅延させないため
債権者がお金を貸したとして、債務者がそれを滞納するのは避けたい自体です。借りたお金が返って来なければ、債権者も損害を受けるからです。
通常、貸したお金を法的に回収するためには、債権者側が裁判を起こし、勝訴する必要があります。
仮に勝訴したとしても、控訴・上告をされると、判決が確定するのが遅くなり、債権者はお金を回収できません。
ここで、仮執行宣言を用いることで、債権者は判決を待たずに強制執行が可能になります。
これにより、債務者が支払いを怠るリスクを減少させることができ、債権者にとっては安定したキャッシュフローを維持する手段となります。
債権者の被害を食い止めるため
債務者の返済や支払いが遅くなると、債権者は様々な意味で被害を受けます。
- 債権者は債務を回収できないことで、自己の財産をすり減らすことになる
- 時間が経つことで債務者の財産が減り、お金を回収するのが難しくなる
- 時間が経つことで債務者が財産を隠したり売却したりする可能性が高まる
仮執行宣言によって、速やかなお金の回収が可能になるため、債権者の被害をより少なくすることができます。
消費者や労働者の権利を保護するため
仮執行宣言は、債権者だけでなく、消費者や労働者の権利保護にも寄与します。
たとえば、賃金の支払いを求める場合、仮執行宣言を使用することで、労働者は迅速に報酬を得ることができます。
消費者が不当な請求を受けた場合でも、仮執行宣言により速やかに法的手段を取ることができ、権利が侵害されることを防げます。
これにより、債務者が無駄な負担を負うことなく、法的に正当な手続きで権利を主張することが可能になります。
仮執行宣言が使われる場面の例
仮執行宣言は、債権者が債務者に対して、金銭の支払いを求める場面で使われるのが一般的です。
ここでは、仮執行宣言が使われる場面の具体的な例を紹介します。
金銭の支払いを求めるとき
仮執行宣言は、貸金返済の滞納や未払いの請求において頻繁に用いられます。
たとえば、金融機関や個人からの借金が返済されない場合、債権者は支払督促を通じて返済を求めますが、債務者が猶予期間内に異議を申し立てなければ仮執行宣言を付けて請求が確定します。
仮執行宣言があると、異議申し立てが行われた場合でも一時的に返済を強制できるため、債権者は早い段階で債務回収を始められます。
賃貸物件の明け渡しを求めるとき
賃貸契約の解除後、借主が物件を明け渡さない場合も、仮執行宣言が利用されます。
裁判所の判断を待つ間に、借主が明け渡しを先延ばしすることは、貸主にとって深刻な損失を招きます。
仮執行宣言を付けることで、強制的に物件の明け渡しを進められるようになります。これにより、貸主は迅速に新たな借主を探すことができ、経済的な損失を最小限に抑えられます。
賃金の支払いを求めるとき
労働者が賃金の支払いを受けられない場合にも仮執行宣言が活用されます。
企業が経営難に陥り給与を滞納するケースや、不当解雇後に未払い賃金の請求を行う場合などが該当します。
賃金未払いは労働者の生活に直結するため、迅速な救済が必要です。
仮執行宣言があれば、企業が異議を申し立てたとしても、労働者は一時的に賃金を受け取ることができ、生活への影響を最小限に抑えられます。
消費者を保護したいとき
仮執行宣言は、消費者トラブルの際にも役立ちます。たとえば、不当な契約解除による返金請求や、悪質な業者との契約で支払った代金の返還を求める場合です。
消費者が損害を被ったまま時間が経つと、業者が資金を移動させたり、事業をたたんでしまうリスクがあるため、早急な対応が必要になります。
仮執行宣言を用いることで、業者が異議を申し立てても一時的に返金を強制でき、消費者の権利を迅速に守れます。
支払督促と仮執行宣言付支払督促の違い
支払督促と仮執行宣言付支払督促は、どちらも債務者に対して金銭の支払いを求める法的手続きですが、重要な違いは強制力と異議が出た場合の対応にあります。
支払督促
支払督促は、債権者が裁判所を通じて簡易かつ迅速に未払いの金銭を請求できる制度です。
この手続きでは、訴訟のように証拠や書面を詳しく提出する必要がなく、手続きも短期間で完了します。
しかし、支払督促だけでは強制執行の効力はなく、債務者が支払いを拒否した場合は、それ以上の強制力を伴いません。
仮執行宣言付支払督促
仮執行宣言付支払督促は、支払督促の手続きに仮執行の効力を付与したものです。
これにより、異議申し立てがあっても債権者は強制執行の手続きに移行でき、債務者の財産や給与を差し押さえることが可能になります。
この仮執行の効力によって、債務者が支払いを先延ばしすることを防ぐ狙いがあります。
異議申し立てへの対応の違い
通常の支払督促の場合、債務者が異議を申し立てると、自動的に通常訴訟に移行します。
一方、仮執行宣言付支払督促では、異議があったとしても一時的に強制執行が進められるため、債権者は迅速な回収が可能です。
それぞれの手続きを進める条件の違い
支払督促と仮執行宣言付支払督促の違いを表に簡単にまとめました。
手続きの条件 | 異議申し立てをされたら | |
支払督促 | ・特になし | ・裁判に移行する ・裁判の判決が確定しないと強制執行ができない |
仮執行宣言付支払督促 | ・通常の支払督促をしてから2週間の間に異議申し立てがなかった | ・裁判に移行する ・裁判の前に一時的に強制執行ができる |
両者で大きく異なる点は、強制執行を速やかに実行できるかです。
裁判所から仮執行宣言をされた場合、債権者は手続きを踏むことでいつでも強制執行ができるようになります。
手続きから2週間以内に異議申し立てをされたら裁判に移行するのはどちらの支払督促でも同じですが、仮執行宣言がついていれば、一度強制執行をして財産を回収できます。
その後の裁判で債権者が敗訴した場合、一度強制執行で差し押さえた財産は、債務者に返還しなければなりません。
支払督促から仮執行宣言までの流れ
次に、支払督促から仮執行宣言付支払督促に至るまでの流れを紹介します。現在支払督促を受けている債務者の人は、流れを理解したうえで早急に対応しましょう。
①通常の支払督促の申立て
支払督促は、債権者が管轄の簡易裁判所に申し立てることから始まります。
この手続きは、裁判とは異なり訴訟を通じた証拠提出などを省略でき、書面のみで簡便に金銭の支払いを請求できる点が特徴です。
申立てには、未払い金の内容や金額を明記し、所定の手数料(印紙代)や郵便代を納付する必要があります。
②支払督促が債務者に送達される
裁判所が支払督促を発行し、これが債務者に郵送で送達されます。
通常、支払督促は「特別送達」という形式で送られ、受領印や署名を求められるため、受け取りを拒否することはできません。
③2週間の猶予期間
支払督促が債務者に届いた日から2週間以内は、猶予期間として異議申し立てが可能です。
この期間内に債務者が異議を申し立てた場合、支払督促の効力は停止し、通常訴訟に移行します。
異議を申し立てる理由は特に限定されておらず、金額への不服や支払い義務の有無など幅広い主張が可能です。
もしこの2週間以内に異議が出されなければ、債権者はさらに強制力のある仮執行宣言付支払督促の申立てに進むことができます。
④仮執行宣言付支払督促の送達
2週間が経過し、債務者から異議がなかった場合、債権者は裁判所に仮執行宣言を付ける手続きを申請します。
この仮執行宣言によって、債権者は判決を待たずに強制執行(差し押さえなど)を実施できる状態になります。
仮執行宣言付支払督促は再度債務者に送達され、ここからさらに2週間の異議申し立て期間が与えられます。
ここで異議申し立てをすると通常の裁判に移行しますが、仮執行宣言が出た時点で、債務者は強制執行を避けることができません。
仮執行宣言付支払督促が届いたときの対処法
仮執行宣言付支払督促が届いた場合、債務者は速やかに対応しなければ、給与や預金などの財産が差し押さえられるリスクがあります。
この支払督促は通常の支払督促と異なり、判決を待たずに強制執行が可能となるため、適切な対処が重要です。以下の3つの選択肢が考えられます。
速やかに借金を返済する
もっとも迅速な解決策は、督促に記載された金額を支払うことです。支払期限を過ぎても、早めに全額を返済すれば、仮執行による強制執行を回避できます。
また、返済が完了した場合は、債権者に返済証明書などを発行してもらうと安心です。これにより、債務が清算されたことを明確にできます。
2週間以内に異議申し立てをする
支払督促を受け取った後、2週間以内であれば異議申し立てが可能です。異議を申し立てると、手続きは自動的に通常訴訟へ移行します。
異議申し立ては理由の詳細を記載する必要はなく、「請求に納得できない」などの簡潔な内容でも受理されます。
ただし、仮執行宣言が付いている場合は異議を出しても一時的な強制執行が進む可能性があるため、慎重な対応が求められます。
異議申し立てをするのは自由ですが、裁判で勝てる見込みがないのであれば、問題を先送りにしているだけであり、あまり意味がないでしょう。むしろ、債権者側の弁護士費用の一部を負担させられるなどのリスクがあります。
債務整理をする
返済が困難な場合は、債務整理を検討することも選択肢の一つです。弁護士や司法書士に相談し、任意整理、個人再生、自己破産などの法的手続きで解決を図ります。
債務整理の手続きが開始されると、強制執行が停止される場合があるため、差し押さえを防ぐ効果が期待できます。
特に自己破産の場合、最終的に債務が免除される可能性もあります。
強制執行で差し押さえられる財産の例
仮執行宣言付支払督促で強制執行になったとき、債務者は、自分が所有している財産を差し押さえられることになります。
ここでは、強制執行とは何なのか、どのような財産が差し押さえられるのかを紹介します。
動産執行
動産執行では、自分が所有している財産の中で一定の価値があるものが差し押さえられます。
- 現金
- 自動車
- 生活必需品ではない家具や家電
- 骨董品、貴金属など
現金以外のものは、売却してお金に換えたうえで、債権者に配当されます。冷蔵庫や電子レンジ、布団など、生活に最低限必要なものは差し押さえの対象外です。
債権執行
債権執行では、債務者が持つ債権を差し押さえます。債権とは、わかりやすくいえばお金を受け取る権利のことです。
- 口座に入っているお金
- 毎月の給料
- 売掛金
- 家賃収入 など
債権執行の場合、債務者本人からお金を回収することはありません。例えば給料を差し押さえる場合、債務者の勤務先から、直接債権者にお金が支払われるようになります。
不動産執行
不動産執行では、債務者が所有している土地や家などの不動産を差し押さえます。不動産を一括で差し押さえられてしまうため、債務者は大きな損害を受けることになります。
例えば債権執行のように、毎月少しづつ差し押さえるということができないので、債務者は注意をしましょう。
仮執行宣言でよくある質問
仮執行宣言から強制執行までの期間は?
仮執行宣言付支払督促が送達されてから、2週間以内に異議申し立てがなければ、支払督促が確定し、強制執行が可能になります。
異議が出されなかった場合、最短で3~4週間程度で差し押さえなどの手続きが始まる可能性があります。
仮執行宣言付支払督促を無視したら?
無視をすると、給与や預金、不動産などの財産が差し押さえられるリスクがあります。異議申し立てをせず放置した場合、強制執行が開始されてしまうため、迅速に対応することが重要です。
仮執行宣言が付いた場合の異議申し立ては意味がある?
異議申し立てをすることで、支払督促の手続きは停止され、通常の裁判に移行します。
ただし、仮執行宣言が付いているため、異議申し立ての間でも債権者は強制執行を進めることができます。
そのため、異議の提出と並行して弁護士などに相談し、差し押さえ防止の対策を講じることが重要です。
まとめ
仮執行宣言とは、判決を待たずに債権者が強制執行を進められる手続きです。支払督促に仮執行宣言が付くと、債務者の財産が差し押さえられるリスクが高まります。
差し押さえの対象になるのは、給料や口座の預金、車、不動産などが多いです。
通常、異議申し立てをすれば裁判に移行し強制執行が止まりますが、仮執行宣言付きの場合、異議中でも一時的に差し押さえが進む可能性があるため、早急な対応が求められます。
督促が届いたら、支払い・異議申し立て・債務整理のいずれかを速やかに選択し、状況に応じて弁護士など専門家に相談することが大切です。