貸付自粛制度とは?仕組みや使い方、デメリットを紹介
貸付自粛制度は、自ら申請することにより、お金を借りることをできなくする(自粛する)制度です。
この制度を利用することで、新たな借り入れが制限され、経済的な困難を回避する助けとなるでしょう。
ここでは、貸付自粛制度の概要や仕組みをはじめ、具体的な手続きの流れ、制度を利用することでできなくなることや、そのメリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
貸付自粛制度とは
まずは、貸付自粛制度がどんなものなのか、わかりやすく説明します。
借入を自らできないようにする制度
貸付自粛制度は、過剰な借り入れや多重債務に陥るリスクを防ぐための仕組みです。
この制度では、個人が信用情報機関に申し出を行うことで、金融機関や貸金業者が借り入れの申請を受け付けないように情報が登録されます。
もっと簡単にいえば、「私にこれ以上お金を貸さないでください」とお願いする制度といえるでしょう。
登録期間中は、クレジットカードのキャッシング枠やローンの利用も制限されるため、自制が難しい場合に有効な手段です。
貸付自粛制度が導入された背景
貸付自粛制度が導入されたのは、2019年3月29日です。主体となったのは、日本貸金業協会と一般社団法人全国銀行協会です。
ギャンブル依存症や浪費癖が治らず、借金を増やしてしまう人のために導入されました。
この制度は、個人の意思や家族の申請により利用できるため、問題解決のための柔軟な対応策として活用されています。
貸付自粛制度の仕組みと手続きの流れ
次に、貸付自粛制度の仕組みと手続きの流れについて説明します。これを読めば、貸付自粛制度によってどうしてお金が借りられなくなるのかがわかるはずです。
①貸付自粛制度の申請先について
貸付自粛制度の申請先は下記の2つです。いずれかに申し込みを行います。
わからないこと、気になることがある人は、あらかじめ問い合わせをして確認しておくといいでしょう。
②信用情報機関に申し出をする
申請先が決まったら、実際に申請を行いましょう。郵送、来店、オンラインなどの方法で手続きができます。
申請時に必要となる書類の例をあげます。
- 貸付自粛申告書
- 貸付自粛申告確認書
- 本人確認書類の写し
- 返信用切手 など
必要書類を提出した後に、本人確認が行われます。ここで本人だと認められれば自粛制度の登録は完了します。
③信用情報に貸付自粛情報が登録される
申し出が受理されると、信用情報機関のデータベースに貸付自粛情報として登録されます。
信用情報機関は、借金に関する個人情報が記録されている機関です。貸金業者は、借入審査の際、信用情報機関を通じて、申込者の信用情報をチェックします。
信用情報に、本人が自ら借り入れを制限する意思を持っていることが明記されたタイミングで、貸付の制限が始まると考えましょう。
④借入制限が開始する
貸付自粛制度が登録されると、すぐに借入制限が実質的に運用されます。すると、お金の貸し借りに関する様々なアクションを取ることが困難になります。
具体的にどのような行動が制限されるのかは、時効で説明します。
⑤5年経過で自動的に解除
貸付自粛情報は、登録から5年経過すると自動的に削除されます。5年後に自動更新されるわけではないので覚えておきましょう。
5年以内に解除を希望する場合は、本人が申し出を行う必要があります。
貸付自粛制度によってできなくなること
貸付自粛制度を利用すると、信用情報機関に貸付自粛情報が登録されるため、新規の借り入れや一部の金融取引が制限されます。
これにより、多重債務に陥るリスクが減少し、経済的な安定が保たれる一方で、日常生活や将来設計に影響を及ぼす場合もあります。
ここでは、貸付自粛制度によって具体的に制限されるものを紹介します。
貸金業者からの借入
最も大きな制限は、消費者金融や銀行などからの新規の借り入れができなくなることです。
これには、個人向けカードローンやフリーローンといった融資商品も含まれます。
通常、貸金業者は信用情報機関のデータを審査で参照するため、貸付自粛情報が登録されている場合は審査を通過できません。
これは、過剰な借り入れを防ぐための制度の根幹部分といえるでしょう。
分割払いやローン
借入ができないのはもちろんのこと、商品購入時の分割払い契約やローンも制限されます。
たとえば、車や高額家電の購入時に分割払いを希望しても、貸付自粛情報が登録されていることで審査に通らない可能性が高いです。
また、住宅ローンなど長期的な資金計画を伴う融資も同様に利用できなくなります。この制限は、借金の拡大を抑える一方で、計画的な資金運用を求められる要因ともなります。
クレジットカードの新規発行
貸付自粛期間中に新たなクレジットカードを申し込むと、審査で拒否されるケースが一般的です。
特にキャッシング枠の利用が伴うカードは厳しく審査されるため、発行は難しくなります。
ただし、既存のクレジットカードのショッピング枠については引き続き利用可能です。
既存のキャッシング枠の増額
現在保有しているクレジットカードやローンのキャッシング枠を増額することも制限されます。
貸付自粛制度が適用されている間、信用情報機関には「借り入れを制限したい」という意思が登録されているため、増額の申請は基本的に受理されません。
誰かの借金の保証人
貸付自粛制度の登録者は、他人の借金の保証人になることもできません。
保証人は借り入れの責任を一部負う立場であるため、金融機関は審査時に保証人の信用情報も確認します。
貸付自粛情報が登録されている場合、保証人としての適格性を欠くと判断されるため、承認されません。
引っ越しの入居審査
貸付自粛情報が間接的に影響を与える場面として、賃貸物件の入居審査が挙げられます。
賃貸物件を借りる際、家賃保証会社を利用する場合がありますが、家賃保証会社は借り主の信用情報を審査に利用します。
その際、貸付自粛情報が登録されていると、返済能力に疑問を持たれ、審査に通らない可能性があります。
ただし、すべての賃貸契約においてこの制限が適用されるわけではありません。保証会社によっては、申込者の信用情報をチェックしないこともあるからです。
貸付自粛制度を利用するメリット
貸付自粛制度は、借金問題を未然に防ぐだけでなく、経済的な安定を図るための重要な手段です。
この制度を活用することで得られるメリットは多岐にわたり、金銭的なトラブルに悩む方や家族の借金を懸念する方にとって大きな助けとなります。以下に、具体的なメリットを詳しく解説します。
過剰な借入を防げる
貸付自粛制度を利用することで、消費者金融や銀行からの新規借り入れが制限されるため、過剰な借入を防ぐことができます。
特に、自制が難しくなりやすい衝動的な借金や、高金利の商品への依存を回避する効果が期待できます。
これにより、多重債務に陥るリスクを大幅に低減し、計画的な金銭管理が可能となります。
家族や周囲への迷惑を軽減できる
本人だけでなく、家族が多重債務の連鎖に巻き込まれるリスクも軽減されます。
借金が原因で家族間のトラブルが発生するケースは少なくありませんが、貸付自粛制度を利用することで借金そのものを制限し、家族や周囲への迷惑を最小限に抑えることができます。
また、制度を利用している事実を家族に知らせることで、問題を共有しやすくなり、サポートを得られる可能性も高まります。
信用情報への影響が少ない
貸付自粛制度を利用しても、いわゆるブラックリストに登録されるわけではありません。
このため、任意整理や自己破産といった債務整理を選択する場合と比較して、信用情報へのネガティブな影響は軽微です。
制度を解除した後も、比較的スムーズに通常の金融取引が再開できる点は、大きなメリットといえます。
金銭管理への意識が高まる
貸付自粛制度を利用することで、借金に頼らない生活を送る意識が高まります。
借り入れができない環境に身を置くことで、現状の収支を見直し、節約や貯蓄を意識した金銭管理の習慣を身につける契機となります。
このような意識改革は、経済的な安定だけでなく、長期的なライフプランの改善にもつながります。
貸付自粛制度のデメリット
貸付自粛制度は、借り入れを制限して多重債務を防ぐための有効な仕組みですが、一方でいくつかのデメリットも存在しますので、紹介します。
3か月経てば本人の意思で解除できてしまう
貸付自粛制度は、原則として本人の意思に基づいて運用されるため、登録後3か月が経過すれば自ら解除の申請をすることが可能です。
これは、本人の自己決定権を尊重する仕組みですが、一方で借金の誘惑に負けやすい人にとっては効果が限定的になる可能性があります。
経済的な課題を根本的に解決するには、制度利用だけでなく本人の意識改革も必要です。
家族が借金をやめさせるのは難しい
貸付自粛制度は、本人または法定代理人による申請が必要です。
そのため、借金癖のある家族が自ら制度を利用しようとしない場合、家族だけで借金を止めさせるのは困難です。
特に成人した家族が制度を拒否する場合、法定代理人として申請することもできないため、制度を利用した借金防止が実現しにくくなります。
違法な業者から借り入れるリスクがある
貸付自粛制度は、信用情報機関に登録された金融機関や貸金業者を対象とした仕組みです。
そのため、制度を利用しても闇金業者などの違法な貸金業者から借り入れる可能性を完全に排除することはできません。
一般の貸金業者から借りられなくなったからという理由で、闇金などの違法な業者からお金を借りてしまうようであれば意味がありませんので、本人も周囲の人も十分に注意しましょう。
貸付自粛制度が利用できるのは?
本人
貸付自粛制度は、基本的に本人の意思に基づいて申し込む制度です。
借金をこれ以上増やしたくない、または借金癖を自覚している場合に、自ら申し出ることで信用情報機関に貸付自粛情報を登録できます。
この仕組みにより、本人が借り入れを制限する環境を作り、無理のない金銭管理が可能になります。
ただし、本人が制度を認識していない、もしくは利用に踏み切らない場合は効果を発揮しません。そのため、制度の存在を知り、自発的に利用を決断することが重要です。
法定代理人
貸付自粛制度は、基本的に本人もしくは法定代理人による手続きのみ認められています。法定代理人とは、例えば親権者や後見人、未成年後見人などがあてはまります。
例外として、配偶者や親など、二親等以内に親族であれば、以下の条件を満たしている場合に申請可能です。
- 対象者本人が所在不明であること
- 所在不明である理由が借金問題である可能性があること
- 貸付自粛が、対象者本人の生命や財産を守るために必要であること
- 本人に貸し付け自粛の同意を得るのが困難なこと
貸付自粛制度に関するよくある質問
貸付自粛制度はブラックリストに載る?
いいえ、貸付自粛制度を利用しても信用情報に、延滞や事故情報として記録されるわけではありません。
そのため、いわゆるブラックリスト入りの影響を受けることはありません。ただし、貸付自粛情報が登録される間は、新規借入やローン契約ができなくなります。
貸付自粛制度でクレジットカードはどうなる?
新規のクレジットカード発行やキャッシング枠の増額が制限されます。
また、既存のカードでもキャッシング機能は停止される可能性があります。ただし、ショッピング機能は通常利用可能な場合が多いです。
これらの情報を事前に確認し、制度の活用を計画することが重要です。
まとめ
貸付自粛制度とは、自らの意思で借入を制限し、経済的なトラブルを未然に防ぐための仕組みです。
この制度を利用することで、消費者金融やクレジットカード会社からの借入が制限され、多重債務に陥るリスクを軽減できます。
また、本人だけでなく法定代理人が申請できるため、未成年者や判断能力が不十分な方にも対応可能です。
一方で、本人の意思で解除が可能である点や違法業者のリスクといった課題もあります。
貸付自粛制度は、借金に頼らない生活を実現するための第一歩として、多くの人にとって有益な選択肢といえるでしょう。