破産管財人の否認権とは何か?わかりやすく解説 - 債務整理は弁護士に相談【ネクスパート法律事務所】

破産管財人の否認権とは何か?わかりやすく解説

自然人が破産手続開始の申立てをすると、裁判所は同時廃止か管財事件のどちらの手続きで破産を行うか決定します。管財事件で破産手続きを行うことになれば、裁判所は破産者の財産を公正・中立な立場で管理する破産管財人を選任します。

破産管財人は、破産者の債務額(借金)の確定や資産の管理をするなど、重要な業務に携わる関係上、否認権を持ちます。

この記事では、破産管財人の否認権について、その目的効果について紹介します。

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否認権とは何か

ここでは、破産管財人の否認権について解説します。

破産管財人の否認権とは、破産手続開始前になされた債権者全体に対する責任財産を絶対的に減少させる行為債権者平等に反する行為効力を否定して、失われた財産を破産財団に取り戻すために破産管財人に与えられた権利です。

破産管財人が行使できる否認権は?

破産管財人が行使できる否認権の対象となるのは、詐害行為偏頗行為です。それぞれを分けて説明します。

詐害行為の否認

詐害行為とは、破産者の有する財産を第三者に無償で贈与したり、適正価格よりも安く売却したりするなど、破産者の財産自体を減少させる行為です。

一般的な詐害行為の否認

破産法160条1項1号では、破産者の行為の時期を問わず、破産者が破産債権者を害すると分かっていながらした行為を、広く詐害行為否認の対象としています。

債権者を害する行為としては、例えば所有している不動産を二束三文で知人に売る行為などが該当します。破産者が不動産を知人に売ることが債権者を害する行為になると知っていたこと、そして不動産を譲られた知人もそのことを知っていた場合は、否認の対象となります。

同項2号では、支払の停止または破産手続申立後にした債権者を害する行為を禁止しています。支払の停止とは、約定通りに債務を弁済できないことを外部に対して表明する債務者の行為です。例えば、自己破産を依頼した弁護士から債権者に対して受任通知を送る行為がこれにあたります。

支払の停止や破産手続開始の申立後に、第三者へ財産を安価で売却するなどすると、破産管財人の否認権行使の対象となり得ます。ただし、次のいずれかに該当する場合は、否認の対象となりません。

  • 利益を受けた人が破産債権者を害することを知らなかった場合
  • 支払の停止後であっても、破産手続開始の申立日から1年以上前になされた行為

対価的均衡を欠く債務消滅行為の否認

対価的均衡を欠く債務消滅行為とは、代物弁済により債務に比して過大な財産を給付する行為です。

例えば、50万円の借金の返済に代えて100万円の価値がある宝石を渡すことなどが該当します。

破産法160条2項は、破産者が債務消滅行為を行い、破産債権者が受領した給付の価額が消滅した債務の額より過大である場合には、その過大な部分のみ否認権の対象となると規定しています。

この行為が、破産手続開始の申立日から1年以上前になされた場合は、否認の対象とならないことがあります。

無償行為の否認

破産法160条3項は、支払の停止等(支払の停止または破産手続開始申立)があった後またはその前6か月以内に、無償行為またはこれと同視すべき有償行為があったときは、否認の対象となると規定しています。無償行為とは、財産の贈与債権免除債権放棄使用貸借契約等です。
無償行為と同視すべき有償行為としては、著しく廉価で財産を処分する行為や、破産者が事業者である場合に会社のために債務を個人保証することなどです。

支払停止後に行われた無償行為またはこれと同視すべき有償行為については、それが破産手続開始申立日から1年以上前になされた行為でも否認の対象となる場合があります。

相当な対価を得てした財産の処分行為の否認

破産法161条は、破産者が自己の財産を適正価格で財産を処分(例えば300万円の車を300万円で売る等)したときも、一定の要件を満たす場合には否認できると規定しています。

すなわち、破産者が財産を隠す目的で売却してお金に変えるなどした場合、相手方がそうした破産者の財産隠匿の意思を知っていた場合には、適正価格での処分行為も否認の対象となります。

偏頗行為の否認

偏頗(へんぱ)行為とは、破産者が支払不能(支払停止があったときは支払不能が推定される)または破産手続開始申立後、特定の債権者だけに担保を供与したり弁済したりする行為です。例えば、親しい友人や仕事上お世話になった人への義理から弁済することが該当します。

支払不能または破産手続開始申立後になされた偏頗行為について、弁済を受けた側も破産者が支払不能または破産手続開始申立後だと知っていれば、否認の対象となります。

偏頗行為のうち、破産者に返済の義務がないものや期限前に返済したもので、支払不能になる前30日以内に行われた行為は、破産債権者が他の破産債権者を害する事実を知らなかった場合を除き、否認の対象となります。
破産債権者を害する事実を知らなかったことについては、受益者側で証明しなくてはいけません。

その他特殊な否認の類型

その他、特殊な否認の類型については下記のものが挙げられます。

権利変動の対抗要件具備行為の否認

否認の対象となる権利変動の対抗要件具備行為とは、支払停止後もしくは破産手続開始申立後において、権利変動があった日から15日を経過した後に所有権移転登記などをする行為です。

例えば、不動産や自動車等の売買等を行っていながら登記や登録をせず、破産者が支払不能になった後(かつ、売買等の契約の効果が生じた日から15日を経過した後)に、登記・登録をするケースなどです。

否認の対象となる対抗要件具備行為としては、登記・登録(仮登記・仮登録を含む)のみならず、動産の占有移転、債権譲渡の確定日付がある通知等がこれにあたると解されています。

破産者の行為だけでなく、破産者の行為と同視すべきものも含まれます。
例えば、破産者の債権譲渡に対する債務者の承諾は否認の対象になりませんが、その承諾が破産者と通謀してなされたものであれば、破産者の行為と同視すべきものとして否認の対象になることがあります。

ただし、仮登記・仮登録以外の仮登記または仮登録があった後に、これらに基づいて本登記または本登録をした場合は、否認の対象となりません。

執行行為の否認

詐害行為や偏頗行為は、債権者が債務名義に基づいて行った執行行為(差し押さえなど)により実現された場合でも、否認の対象となることがあります。

執行行為が、これまでに述べた各否認類型の要件に該当する場合には、他の債権者が弁済を受けられなくなることに違いがないからです。

強制執行の手続きを経て債権回収をした際に、債務者が支払不能になっていることを債権者が知っていたら、破産管財人によって一連の行為が否認されることがあります。

ただし、破産手続きでは担保権は別除権として保護されているため、担保権の実行については否認権の対象にはならないと解されています。

転得者に対する否認

破産管財人は一定の場合、否認権を行使することにより、逸出した財産を取り戻せますが、債務者から財産を受け取った人がさらに別の人(転得者)に当該財産を移転してしまうと、受益者との間で否認権を行使しても、転得者から財産を取り戻せません。

そこで、否認権の実効性を確保するために、転得者に対する否認権が認められています。

転得者に対する否認権行使が認められるのは、次の場合です。

  • 転得者が転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていたとき
  • 転得者が破産者の親族・同居人、破産者が法人である場合の取締役等である場合
  • 転得者が無償行為またはこれと同視すべき有償行為によって転得した者であるとき

ただし、②について転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知らなかったときは、否認の対象となりません。

例えば、破産者が詐害の意思を持って、第三者(受益者)に物を譲り、さらに受益者が別の人(転得者)に同じ物を譲ったとします。この場合、受益者、転得者の両者がこの行為により破産者の債権者に影響を及ぼすと知っていたら、破産管財人によって否認権が行使されることがあります。

実務上、破産管財人が否認権の行使可能性を検討することが多い行為とは?

ここでは、実務上破産管財人が否認権の行使を検討することが多い行為について解説します。

破産者が支払不能な状態にあること(支払停止)を明らかにした後、意図的に破産者が行った財産に関する行為に対して、破産管財人が否認権の行使を検討することが多いです。

主な事例は下記のとおりです。

  • 弁護士による受任通知後の給料の差し押さえ
  • 実質的危機時期(支払停止時期)以降の給与天引きの方法による勤務先からの借り入れに対する返済
  • 実質的危機時期以降にされた親族、知人、取引先等の一部の債権者に対する偏頗弁済
  • 実質的危機時期以降にされた親族等に対する贈与等の無償行為(不当な割合の遺産分割、元配偶者に対する不当な財産分与など)
  • 実質的危機時期以降にされた無償または不当な対価による事業譲渡
  • 実質的危機時期以降にされた不動産の所有権移転登記または(根)抵当権設定登記
  • 実質的危機時期以降にされた売掛先等に対する債権譲渡通知

否認権を行使する目的・効果や行使する方法は?

ここでは、否認権を行使する目的と効果、そして行使する方法について解説します。

否認権を行使する目的

破産管財人は、裁判所の監督のもと、公平・中立の立場で破産手続きを進めることが使命です。

その中で、特定の債権者が優遇されるなど不公正なことがあってはいけません。公正さを保ち適切に債権者たちにお金が配当されるよう、詐害行為や偏頗行為の効力を否定して破産財団を回復させることを目的として、破産管財人は否認権を行使します。

否認権を行使することの効果

破産管財人が否認権を行使すると、破産者の行為それと同視できる第三者の行為なかったことになります。

例えば、特定の債権者に100万円を返した行為に対して否認権が行使されれば、この行為の効果は否定され、100万円が破産財団に復帰するため、相手方はこれを返還しなければなりません。

否認権を行使する方法

破産管財人が否定権を行使する方法は、下記の3つが挙げられます。

相手方との交渉

否認の対象となる行為が認めたられた場合、破産管財人は、まずは相手方と交渉をして早期和解的解決を目指します。具体的には、破産者から財産を受け取った人などに対して、郵便で通知をするなどして、相手方と直接交渉をします。

否認の請求

否認の請求とは、破産裁判所(破産事件の係属している地方裁判所)で否認権行使の可否や行使できる範囲等を決定する手続です。訴訟手続きによらないので、迅速にできるメリットがありますが、この請求の決定に関して相手が異議の訴えを提起できます。

否認の訴え

否認の訴えは、破産管財人が原告となって訴訟を提起することです。裁判と同じ手続きになるので、時間と手間がかかります。

否認権に時効はあるのか?

破産管財人が否認権を行使できる期間には限りがあり、破産手続開始の日から2年を経過すると行使ができません。否認権の対象となる行為の時から10年を経過した場合も、行使ができません。

これらの期間は消滅時効期間ではなく、除斥期間と解されています。そのため、時効の中断もありません。定められた期間が経過すると否認権は行使できなくなり、破産手続終了により否認権も消滅します。

まとめ

破産手続開始の申立てをして、裁判所が管財事件として手続きを進めると決定した場合や会社・法人が破産した場合、破産者が破産手続開始時に有していた財産は、すべて破産管財人が管理・処分します。

破産手続開始時には、破産者名義になっていなくても、実質的には破産者の財産といえるような財産が存在することもあります。例えば、破産者が破産手続前に特定の債権者だけに弁済していた場合や、親族や知人に財産を贈与していた場合などです。

このような財産移転を許してしまうと、債権者の利益や債権者間の公平を害することとなるため、破産者の行為やそれと同視すべき第三者の行為を是正するために、破産管財人に否認権という権限が与えられています。

破産管財人は裁判所によって、破産法に詳しい弁護士が選任されます。破産者が自分で選任できないので、不安に思う人もいるかもしれませんが、この記事で破産管財人の否認権について少しでも理解いただけたら幸いです。

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