医師特有の債務整理のリスクとは?
病院や診療所・クリニックを開業したものの、経営が上手くいかず多額の借金を抱える医師の方は少なくありません。
自力での返済が難しい場合は、債務整理で借金を解決できる可能性があります。
この記事では、借金に悩む医師や開業医の方に向けて以下の点を解説します。
- 開業医特有のリスク5つ|病院・診療所の破産の注意点
- 医師におすすめの債務整理方法
- 医師特有のリスクを軽減するために弁護士ができること

・患者の転院先の確保
・従業員の解雇
・医療機器の整理
弁護士にご依頼いただければ、関係者になるべく負担がかからないよう、必要な段取りをしつつ手続きをサポートいたします。
債務整理をお考えの方、踏ん切りがつかない方は一度ご相談ください。
開業医特有のリスク5つ|医師の方が破産する際の注意点
ここでは、開業医の方が破産する際に抱えるリスクについて解説します。
自己破産後の開業は困難|融資を受けられないため
自己破産をすると、その後5~10年間は新規開業が難しくなります。自己破産に限らず、債務整理をすると信用情報機関に事故情報が登録される(ブラックリストに載る)ため、融資を受けられないからです。
患者の転院先確保が必要
自己破産の申立てにあたっては、入院患者の転院先を確保し、転院までの間に必要な治療を継続できる状態を維持して患者を保護しなければなりません。
看護師やスタッフなどの解雇後では転院作業が極めて困難になるため、従業員の解雇や破産申立てのタイミングを計り転院を進める必要があります
従業員の解雇が必要
開業医が自己破産すると、原則として病院・診療所を閉鎖することになるため、従業員の解雇は避けられません。
従業員は解雇に際しては、十分な説明が求められます。破産に至る経緯の説明はもちろん、転職へのサポートなどの配慮も必要です。
ただし、従業員を全員解雇すると、転院までの医療を継続できなくなるため、一定のスタッフを確保することも必要です。具体的には、破産申立後の管財業務の補助者も含め、以下の人員を確保しましょう。
- 転院作業が完了するまで入院患者の治療を担当する医療従事者
- 病院施設の保守管理者
- 診療報酬の計算・給与計算等を担当する事務職員
事業所の原状回復や医療機器の整理が必要
病院・診療所が賃貸物件である場合は、明渡しに伴う原状回復が必要です。実務上は、事業所内に残置された医療機器や医療品の取扱い等との兼ね合いから、破産手続きにおいて破産管財人が賃貸借契約解除・明渡しの要否を判断します。
病院・診療所の場合、医療機器や医薬品の処分も検討しなければなりません。医療品の処分や転売については、実務上、以下の観点を踏まえ納入業者に返品する方式で処理することが望ましいとされています(破産申立後は裁判所の許可が必要)。
- 医療品等の第三者への転売は薬事法の観点から疑義があること
- 医療品類の中には劇薬や向精神薬、それに準ずる薬品があり病院に管理責任がある
- 廃棄のためには医療廃棄物の処理費用が必要となること
- 第三者に一括売却しても卸値の1~2割程度に買い叩かれる可能性がある
医療機器については、ほとんどがリース物件であるため、リース会社の引き揚げによって解決します。
このように、賃貸物件の解約・医療機器や医療品の処分は独断で判断せず、申立代理人や破産管財人・裁判所と協議しながら進める必要があります。
診療録の保管・破産管財人への引継ぎが必要
医師法により診療録(カルテ)は5年間の保管が義務付けられています。自己破産してもこの義務は消滅しません。そのため、自己破産の申立てにあたっては、診療録の保管場所を確保し、破産手続き開始後、確実に破産管財人に引き継がなければなりません。
病院・診療所の閉鎖に伴い、診療録を紛失しないよう十分に注意しましょう。
税金や未払い賃金は免除されない
医療法人等の法人破産手続きでは、税金や社会保険料も全額免除されるのが原則ですが、勤務医や個人事業主たる開業医の自己破産手続きでは、税金や社会保険料が免除されません。
滞納税や滞納社会保険料がある場合は、自己破産後も支払義務が残ります。
債務整理をしても医師免許を失う心配はない
債務整理をしても、医師免許がはく奪されることはありません。債務整理は、医師の欠格事由や医療法人の理事の欠格事由には該当しないからです。
ただし、医療法人の理事に就任している場合で、当該医療法人の約款において債務整理を退任事由とする旨の定めがある場合は、理事を退任しなければならないこともあります。
医師におすすめの債務整理方法
ここでは、医師の方におすすめの債務整理方法を紹介します。
なるべく周りに知られたくないなら任意整理
周囲の人に借金の存在を知られたくない場合は、任意整理を検討しましょう。
任意整理は、依頼を受けた弁護士が債権者と交渉するため、裁判所に出向く必要がありません。官報に掲載されることもないので、周囲の人にバレずに借金問題を解決できる可能性があります。
任意整理は、将来利息のカットや返済期限の猶予等により、毎月の負担軽減を図る手続きです。医師の方は、潜在的な稼働能力が高く、一般の会社員に比べて収入も多いため、多額の借金があっても任意整理で解決できる可能性があります。
債務総額が5,000万円以下なら個人再生
住宅ローンを除いた債務総額が5,000万円以下であれば、個人再生も検討可能です。
個人再生は、裁判所を利用する公的手続きで、再生計画案が認められれば、借金を概ね5分の1に減額できる債務整理方法です。自己破産のように財産を処分されることがないため、住宅ローンの返済を継続することで、自宅を残したまま他の借金を減額できます。
勤務医であれば給与所得者等再生が検討可能
勤務医として医療機関にお勤めの医師の方は、安定した収入を継続的に得られる見込みあるため、給与所得者等再生の利用を検討できます。
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つの手続きがあります。給与所得者等再生では、裁判所による再生計画の認可決定に際して、債権者の意見が反映されません。そのため、反対する債権者がいても、裁判所の許可さえ得られれば、借金を大幅に減額できます。
自宅兼診療所の場合は、使用割合によって住宅ローン条項を使えないことがある
開業を機に一戸建てを購入し、自宅兼診療所の形態で開業した場合は、個人再生において住宅資金特別条項(通称:住宅ローン条項)を利用できないことがあります。
住宅資金特別条項の適用を受けるためには、自宅兼診療所の床面積の2分の1以上が居住用に供している必要があるからです。建物全体の床面積の2分の1以上を病院・診療所として利用している場合は、後述の別除権協定が結べない限り、自宅を失う可能性があります。
病院・診療所の建築ローンがある場合は別除権協定が必要
病院・診療所の開設にあたって、建築ローンを組みローンの支払いが残っている場合は、債権者との間で別除権協定を締結することで、病院・診療所を残せる可能性があります。
別除権協定とは、ローン会社との間でローンを約束通りに払う代わりに物件を引き上げないようにしてもらう協定です。
別除権協定を結ぶためには、当該債権者のみならず、裁判所にも必要性が認められなければなりません。他の債権者に再生計画案が否決されないためには、事前に同意を得るなどの根回しも必要です。
病院・診療所が事業の継続や再建のために不可欠な場合は、個人再生の利用を検討するにあたり、弁護士のサポートが必須となります。
医師特有のリスクを軽減するには弁護士にご相談を
債務整理における医師特有のリスクを軽減するためには、返済が厳しくなった時点で、なるべく早く弁護士へ相談することをおすすめします。
ここでは、債務整理を弁護士に相談するメリットを紹介します。
再建可能性の有無を判断してもらえる
一定の医業収入があり経営自体は黒字であるにもかかわらず、月々の返済額が大きすぎて資金繰りに窮している場合などでは、法的整理手続きをとらずとも解決できる場合があります。M&Aや任意整理、不動産の売却などの再生方法を検討できるケースもあります。
債務整理を検討する開業医の方の中には、看護師などの医療従事者の人材流出で医療ニーズに対応できなくなった結果、医業収入が落ち込むケースも少なくありません。このような場合も、事業モデルを転換することで解決できる場合もあります。
弁護士に依頼すれば、客観的・多面的な視点から事業継続の可否や再建可能性の有無を判断できます。
最適な債務整理方法を検討できる
最適な債務整理の方法は、個々の事情や置かれた状況によって異なります。
弁護士に相談すれば、現状を改善するために最適な方法を選択できます。
廃業後の段取りを整理できる
開業医の方が、自己破産等により病院・診療所を閉鎖したり譲渡・売却したりした場合は、廃業や譲渡等に伴う届出が必要です。
必要な手続きの具体例は、以下のとおりです。
名称 | 提出先 | 提出期限 |
保険医療機関廃止届または休止届 | 厚生局 | 遅滞なく |
生活保護法指定医療機関廃止届 | 福祉事務所 | 遅滞なく |
退会届 | 医師会 | 遅滞なく |
個人事業廃止届 | 税務署 | 遅滞なく |
個人事業廃止届
|
都道府県税事務所
|
遅滞なく |
資格喪失届 | 医師国民健康保険組合
|
遅滞なく |
運用事業所全喪届 | 年金事務所
|
5日以内 |
被保険者資格喪失届
|
年金事務所
|
5日以内 |
診療所廃止届 | 保健所
|
10日以内 |
エックス線廃止届 | 保健所
|
10日以内 |
麻薬施用者業務廃止届 | 都道府県
|
15日以内 |
確定保険料申告書 | 労働基準監督署
|
50日以内 |
弁護士に依頼すれば、債務整理後に必要な手続きについてもアドバイスやサポートを得られるため、手続き後の段取りを整理しやすくなります。
まとめ
債務整理により医師免許を失うことはありません。
自力返済が難しい場合は、早期に債務整理することで事業継続や再建の可能性が広がります。
ネクスパート法律事務所では、勤務医・開業医の方の債務整理も積極的に取り扱っています。
借金問題にお困りの医師の方は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。
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